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周回遅れのトップランナー 田上允克 [前編]

時流に媚びない、のではなく媚びられないひとがいる。業界に身を置かない、のではなく置いてもらえないひとがいる。現代美術ではなく、かといって日展のような伝統(?)美術でもない。自分だけの絵を、自分だけで描きつづけて数十年・・・

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周回遅れのトップランナー:仲村寿幸

2008年春、渋谷のポスターハリス・ギャラリーという小さな画廊から来た展覧会案内には驚かされた。展覧会のタイトルは『擬似的ダリの風景』。仲村寿幸というアーティスト名にはまったく聞き覚えがなく、時代感覚を超越したような、ばりばりのシュールな絵にも興味がわいたし、「初個展―苦節30年、積年の思念が遂に成就」というサブタイトルにも惹かれたが、それよりもなによりも、葉書に刷られた「作品管理者求む、全作品寄贈します!」という一行に度肝を抜かれたのだった。

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ワタノハスマイルが気づかせてくれたもの

大震災で壊滅的な被害にあった宮城県石巻市の小学校で、山積みにされたガレキをつかって、子供たちがこんなにおもしろい作品をつくっていて、それがもう日本中を巡回していることを、僕はうかつにもまったく知らなかった。 その小学校の名前を取って「ワタノハスマイル」と呼ばれるプロジェクトは、今週25日からイタリアに渡って展覧会を開催する。僕にとってはヴェニス・ビエンナーレとかより、はるかに興味深いその展覧会のために、石巻の子供たちを連れて渡航する準備で忙しい主催者の犬飼ともさんから、お話を聞くことができた。

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周回遅れのトップランナー 川上四郎

冬の陽が明るい畳敷きの一室で、目の前にずらりと絵画作品と写真プリントを並べて、ニコニコしている小柄な老人。絵も写真もずっとアマチュアでやってきた彼の作品を、名前を知るひとはいないだろう。でもいま、こうやって畳に座ってお茶を飲みながら見せてもらってる絵にも、写真にもオリジナルとしか言いようのない感覚があふれていて、画用紙やプリントをめくる手が止められない。だれも知らない場所で、だれも知らないひとが紡ぎ出す、だれも見たことのない世界・・・。

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妄想芸術劇場:ぴんから体操展に寄せて

僕らが考えるプロフェッショナルなアーティストとは180度異なる創作の世界に生きる表現者が、それもメディアの最底辺にこれだけ存在していること。それをいままでほとんどだれも認識せず、もちろん現代美術界からも、アウトサイダー・アート業界からも完全に無視され、投稿写真マニアからさえ「自分たちより変態なやつら」と蔑視されながら、いまも生きつづけ、描きつづけていること。妄想芸術劇場とは、そうした暗夜の孤独な長距離走者を追いかける試みである。そして、そんな報われることのない長距離走の、もっとも伝説的なランナーをひとり挙げるとすれば、「ぴんから体操」であることに異議を唱える愛読者はいないだろう。

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おとなしい顔の魔界都市:広島県福山市アウトサイダー・アート紀行

「占」「占」「占」「占」「ピタリ当たる」「神界」「大天国」「的あたーれ」・・・独特の丸文字と原色の描き文字看板で、初めて見るひとをギョッとさせ、見慣れたひとの目を伏せさせずにはおかない、あまりにインパクト充分な木造モルタル家屋が、サウナとパチンコ屋のあいだに挟まって、きょうも精一杯の自己主張を繰り広げている。ここが福山きっての裏名物『占い天界』(正式名称・新マサキ占術鑑定所)だ。

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大竹伸朗展@富山県立美術館

昨年11月に東京国立近代美術館でスタートした大竹伸朗展が、今年5~7月の松山市・愛媛県美術館を経て、8月5日から富山市・富山県美術館で始まった。3カ所を巡回する今回の展覧会の、これが大団円の地となる。 ゴールデンウィークに始まった松山展に続いて、夏休みと重なるタイミングで展覧会が開かれる富山県美術館は、2017年に開館した新しい美術館。「富山県美術館 アート&デザイン(TAD)」という名称のとおり、アートとデザインの領域をまたぐ活動を展開する珍しい美術館だ。

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ドクメンタ・リポート:裸の王様たちの国 1

今週、来週の2回にわたって、そのドクメンタの「理想と現実」、「コンセプトとリアリティ」を、僕なりに考えながらリポートさせていただく。その1回目は、56の国・地域から約190人/組が参加したなかで、唯一の日本人アーティストとなった大竹伸朗の作品『モンシェリ:スクラップ小屋としての自画像』を、作家本人の言葉を交えながらたっぷりご紹介しよう。

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ドクメンタ・リポート:裸の王様たちの国 2

先週に続いてお送りする「ドクメンタ13」リポート。今週は広大な会場を歩き回りながら(これから訪れるひとには自転車レンタルを強くおすすめしておく)、なにを見て、なにを考えたのかをなぞってみようと思う。

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日本でいちばん展覧会を見る男

日本でいちばん展覧会に行ってるひとって、だれだろう。僕はこのひとだと思う――山口“Gucci”佳宏、通称「グッチ」さん。でも、彼は美術評論家でもなければ学芸員でも画商でも、美術運送業者でもない。グッチさんはレゲエ・ミュージックに長く関わってきた、生粋の音楽業界人なのだ。グッチさんが行った展覧会を数えると、ここ5年間でこういう数字になる・・2007年 539、2008年 724、2009年 1106、2010年 585、2011年 677

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軽金属の娼婦たち

いっとき、日本でだれよりもよく知られたイラストレーターで、いまはほとんど雑誌でも広告でも作品を見ることのなくなってしまったひと、それが空山基(そらやま・はじめ)である。「ソラヤマ」の名前を知らない世代でも、あのメタリックなアンドロイド美女のイメージは、どこかでいちどは見たことがあるだろう。空山さんはいま、商業イラストレーションではなく、オリジナルのドローイングを国内・海外のギャラリーで展示販売する、画家としての活動に集中している。

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黄昏どきの路上幻視者(ROADSIDE SENDAIから)

(前略)ここ数年、ようやく日本ならではのグラフィティの進化形が出てきたように思える(僕が不勉強だっただけかもしれないが)。たとえば北の国・札幌からザ・ブルーハーブが、まったく新しい日本語のラップを突きつけたように、ほかのどこにもないようなストリート・アートのかたちを提示する作家のひとり。それが仙台のSYUNOVEN=朱乃べんだ。道端の廃屋や、小屋の壁に描かれたSYUNOVENの絵を見て、「グラフィティ!」と思うひとは、もしかしたら少ないかもしれない。それほど彼の描く形象はユニークで、アメリカン・グラフィティとはかけ離れたテイストで、描かれた場の持つ雰囲気と呼応した土着のパワーを湛えている。

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アートと地獄とメイドとクソゲー:福岡辺境不思議旅

「妄想のパラダイス」とサブタイトルがついた不思議博物館を、ひと言であらわすのは難しい。「館長」と呼ばれる造形作家・角孝政(すみ・たかまさ)さんの立体作品とコレクションを集めたミュージアムであり、同時に「不思議子ちゃん」と名づけられた女の子たちが迎えてくれる、メイドカフェでもある。「日本一有名なクソゲー」を、特製巨大コントローラーで遊べる場所でもある。とりあえずは、公式ウェブサイトに記された館長本人による説明と、全貌図解をご覧いただきたい。

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金いろのエキゾチカ――芸術と芸能のミッシングリンク

「まあ、金粉ショーがやりたくて、混浴ゴールデンナイトを企画したぐらいですから!」と笑う佐東さんは、京都を拠点とする暗黒舞踏グループの雄・白虎社に創立時から解散まで在籍したコア・メンバー。同じ白虎社仲間の水野立子さんとともに、今回のショーの構成や、ダンサーの演技指導を手がけた。「いまではほかに見れる場所もないし、僕と水野で20年ぶりぐらいに、思い出そうと思って踊ってみたら、完璧に全部、からだが覚えてたんですよね!」という佐東さん。公的機関の助成金や企業のメセナ活動がほとんど存在していなかった1970~80年代には、白虎社のような舞踏カンパニーにとって、公演費用やカンパニーの維持経費のために、金粉やセミヌードのショーを仕立てて、日本各地の温泉場やクラブ、キャバレーを「営業」して回るのが、ごくふつうのことだったのだ。

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グラフィティがかき乱す台北のランドスケープ

昨年10月3日号で、仙台在住のグラフィティ・アーティスト「SYUNOVEN=朱乃べん」を紹介した。彼の作品はアメリカ発のグラフィティという表現が、ようやく日本独自の進化を遂げつつあることの優れた一例だった。この正月に台北で出会ったグラフィティ・アーティスト「CANDY BIRD」の活動もまた、台湾の風土にあわせて独自の進化を遂げつつある、新たなエネルギーをいきなり突きつけられるようで、すごく興味深い。中国本土(台湾ふうに言えば大陸)でも台湾でも、現代美術の世界では基本的にコンセプチュアルな作家、作品が大多数で、キャンディ・バードのようなストリート・レベルのアーティストが、いまどれくらい増えてきているのか、僕はまだ調査不足でわからない。でも、なにかが起こっている感触は、確実にある。それはこれから長い時間をかけて探っていくことになるだろうが、まずはそのイントロダクションとして、キャンディ・バードの作品世界をご覧いただきたい。

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焼きつけられた記憶――大竹伸朗『焼憶』展

焼きものの町・常滑が生み出したもっとも有名な製品は土管(陶製土管)で、一時は全国の上下水道のかなりの部分に常滑製の土管が使用されていたという。セントレア開業に伴って周辺地域は大規模な再開発が進んだが、常滑の中心部は陶業華やかなりしころの面影、街並みがかなり昔のままに残っていて、最近は日帰りお出かけスポットとして若い層にも人気を博しているようだ。常滑の陶業を代表する企業がLIXIL(元INAX)。そのLIXILが常滑市内に開いている「INAXライブミュージアム」で、今週土曜日から6月9日まで、大竹伸朗による『焼憶(やきおく)』展が開催される。今週はいち早くその展示紹介と、常滑の町めぐりをお送りしたい。まずは大竹伸朗本人による、本メルマガのための書き下ろしテキストをお読みいただきたい――。

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ノリに巻かれた寿司宇宙

「デコ弁」が流行っているらしい。僕がもし小学生で、母親が忙しくて白飯にハンバーグ乗せただけ、みたいな弁当しか作ってくれなかったら、恥ずかしくてみんなの前でフタ開けられないくらいに・・・いまのお母さんは大変だ。雑誌やネットで見るデコ弁は、たしかにものすごく凝った出来で、芸術的とさえ言えるものもある。下手したら「これもクール・ジャパン」とか文科省が売り物にしちゃいそうな。パンにピーナツバター塗るか、ハム挟んだサンドイッチをジップロックに入れただけ、みたいなランチで親も子も満足してる外国人にとっては、はるか想像の彼方にある東洋の新たな神秘、それがデコ弁なのだろう。

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六畳間のスクラップ宇宙

数か月にいちど、岐阜県内の消印を押した分厚い封筒がうちに届く。中にはいつも近況を書いた短い手紙と、写真の束が入っている。サービスサイズのプリントに写っているのは、風景でも人物でもない。数十枚のスクラップブックのページを複写したものだ。山腰くんがこんな手紙を送ってくれるようになってから、もう何年たつだろう。岐阜市に住むこの青年はアルバイトの毎日を送りながら、ひっそりと、膨大な量のスクラップブックを作り続けて倦むことがない。どこにも発表することのないまま。ずっと前から見てみたかった彼の生活空間とスクラップ制作の現場を、ようやく見せてもらうことができた。そして招き入れられた小さな空間と、しまい込まれたスクラップブックのボリュームは、僕の想像をはるかに超える密度の、いわば切り抜かれた女体のブラックホールだった。

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シャム双生児の夢

ヒトの頭をした犬がいる。水頭症の子供がいる。シャム双生児がいる・・・鵜飼容子の描く画面、立体の造形は、現代美術画廊のホワイトキューブ空間に、どこかの時代からいきなりワープしてきた見世物小屋のようだ。場末の奇形博物館のようだ。そしてそれらは確かに不気味だけれど、同時にどこか神々しくもある。かつてさまざまな文明で、奇形や不具の人間が「神に愛でられた存在」であったように。鵜飼容子は1966(昭和41)年生まれ、46歳の画家だ。生まれ育った鎌倉の地で、週の半分は通いの仕事で生活を支えながら、静かに絵を描いて暮らしている。

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ワタノハスマイルふたたび

去年の3月21日に配信した『ワタノハスマイル』を、覚えていらっしゃるだろうか。まだ読んでいないかたは、ぜひサイトのバックナンバー・ページからご一読いただきたい。3月11日の東日本大震災で壊滅的な打撃を受け、避難所となった宮城県石巻市の渡波小学校で、子どもたちが瓦礫から拾い上げたゴミでつくりあげた、それは魔法のようなアートが誕生した瞬間だった。「ワタノハスマイル」のオーガナイザーとなった、山形県出身の絵本作家・犬飼ともさんは、思いがけず全国からイタリアまでを回ることになった展覧会に際して、こんなふうに書いていた――。

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祈りの言葉が絵になるとき

メールマガジンで楽しいのは、小さな記事がときには思わぬ発見に結びついて、それをすぐにまた掲載できるところだ。担当編集者との打ち合わせとか、会議とか、そういうのをぜんぶすっ飛ばして。今年の2月6日号で、小さな展覧会の告知記事を掲載した。『アートリンク:奈良県障害者芸術祭』というそれは、障害者とアーティストが手を組んで作品をつくる、ユニークな試みだった。その参加作家である黒瀬正剛さんからある日、薄いパンフレットが届いた。黒瀬さんが企画を手伝った、地元のアマチュア・アーティストの展覧会カタログだそうで、表紙には穏やかな表情の仏画と、「伊東龍宗 Tatsumune Ito」という作家名だけが記されている。

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死刑囚の表現・展

すでにツイッターやFacebookでご存知の方もいらっしゃるだろうが(そして美術メディアは例によって完全無視だが)、今月20日から6月までの2ヶ月間、広島県福山市の鞆の津ミュージアムで、『極限芸術 ― 死刑囚の表現 ―』と題された展覧会が開催される。鞆の津ミュージアムは、去年僕も展覧会やトークで参加させてもらった、アウトサイダー・アートを専門に扱う新しいミュージアム。そしてこの展覧会は、個人的に今年いちばん重要な美術展になるはずだ。タイトルどおり、この展覧会はいま日本国内に130余名いる死刑確定者や、すでに刑を執行された受刑者による絵画展だ。ロードサイダーズ・ウィークリーでは去年の10月17日配信号で同じ広島県内、広島市郊外のカフェ・テアトロ・アビエルトで開催された『死刑囚の絵展』をリポート、予想以上に大きな反響をいただいた。そのとき展示された作品は40数点だったが、今回鞆の津ミュージアムに展示される作品は総数300点以上になるという。同種の展覧会でも最大規模であることは間違いない。

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ガラクタ山の魔法使い

隅田川に近い浅草橋の裏のビル。階段を上がった先の奥の部屋。展覧会なのに、カメラのISO感度を6400ぐらいに上げないと撮れなそうな暗い部屋の中で、もじゃもじゃの髪ともじゃもじゃのヒゲの男が、机にかがみこんで作業に没頭していた。ここ、展覧会場ですよね・・・。「マンタム」という不思議な名前を持つ彼は、古物商=古道具屋でありながら、自分のもとに集まってくるガラクタを素材に、なんともユニークな立体作品をつくりあげるアーティストでもある。そしてシュールで、魔術的でもある彼のオブジェが詰まった展示空間に足を踏み入れること、それはまるでヤン・シュヴァンクマイエルかブラザース・クェイのアニメの中にワープしてしまうような、不思議な体験でもある。

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少女の深海――高松和樹のハイブリッド・ペインティング

探査船の強いライトに照らされて、闇の中で白く浮かび上がる生命体のように、濃紺の深海にたゆたう少女たち。高松和樹がたった2色で描き出す緻密な仮想現実は、見たこともない世界と、ひどく親しげな既知感を同時に抱え込んで、見るもののこころをざわつかせる。どこか懐かしい未来の風景のように。通常のキャンバスではなく、運動会のテントなどに使われるターポリンという防水加工された白布をベースに、3DCGで制作されたイメージを野外用顔料でプリントし、その上からアクリル絵具で筆描きを重ねていくという、デジタルとアナログのハイブリッドのような特殊な技法で生み出される画面。それは少女や物体など描かれたモチーフと、画面に目を近づけてみるとベロアのようにザラリとして見えるマチエールのニュアンスが呼応することで、平面でありながら深い奥行きに、僕らを誘い込んでいく。

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瀬戸の花婿――女木島・高松・丸亀「大竹伸朗祭」

いよいよ夏会期が20日からスタートした瀬戸内国際芸術祭2013。夏休みに向けて全島制覇に意欲を燃やしつつ、フェリーの時刻表とにらめっこでスケジュールを熟慮している方も多いのではないか。本メルマガではすでに芸術祭の春会期に合わせて女木島の『女根』を6月12日号でリポートした。その記事末でも触れ、すでに多くのアート・メディアで取り上げられているように、先週からは女木島の『女根』に加え、芸術祭夏会期とタイミングをあわせて高松市美術館では『憶速 OKUSOKU / VELOCITY OF MEMORY』、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館では『ニューニュー NEWNEW』と、3つの展覧会が同時オープン、常設展示である直島の『直島銭湯 I♥湯』と『家プロジェクト・はいしゃ』をあわせれば、ほとんど「瀬戸内・夏の大竹祭り」状態となっている。

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ひとりきりの極楽浄土

鞆の津ミュージアムが今月17日から、またもやいっぷう変わったグループ展『ようこそ鞆へ! 遊ぼうよパラダイス』という、タイトルだけではまったく内容のわからない展覧会を開催する。狭い意味でのアウトサイダー・アートを踏み越える意欲的な企画が続く鞆の津ミュージアム。特定の美術館ばかり優遇しているようで恐縮だが、どんな公立美術館よりも「攻めてる」んだからしょうがない。今週はこの展覧会のコンテンツを、オープンに先駆けてたっぷりご紹介しよう。

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モンマルトルのアウトサイダー

パリでいちばん高い丘。その頂上にサクレクール寺院がそびえるモンマルトル。ピカソやモジリアーニが住んだ安アパート洗濯船、ルノワール、ユトリロ、ロートレック・・・そうそうたるアーティストたちが青春を過ごしたモンマルトルは、パリ有数の観光地であるとともに、そのふもとにあたるマルシェ・サンピエール地区はパリ随一の生地問屋街。ファッション関係者にはとりわけよく知られる、まあパリの日暮里というか・・・。 カラフルな生地が店先からあふれ出す商店街の奥にあるのが、ミュゼ・アル・サンピエール。パリきってのアウトサイダー・アート専門美術館だ。

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百年の孤独――101歳の現役アマチュア画家・江上茂雄の画業

その名前も知らなければ、作品も知らない。でも、たまたま見た一枚の作品写真が妙に気になって、頭の隅にこびりついて、そのもやもやがだんだん大きくなって、どうしようもなくなる――そういう出会いが、ときどきある。だれかがネットに上げた江上茂雄さんの絵が、僕にとって久しぶりのそんなもやもやだった。江上茂雄さんは熊本県荒尾市に住む、なんと101歳の現役画家、それもアマチュア画家だ。荒尾に隣接する大牟田市と、田川市で小さな展覧会が開かれていて、さらに10月からは福岡県立美術館で、アマチュア画家には異例の大規模な個展が開かれるという。

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ヴェネツィア・アート・クラビング:ビエンナーレ報告 1

ヴェネツィアはとてもむずかしい街だ、とりわけカメラマンにとっては。だれが、どこを、どう撮っても美しく、同じになってしまう。飲み込まれてしまうのは簡単で、飲み込むのはとてつもなく困難だ。20代からいままでイタリアには数え切れないほど行ってきたが、ヴェネツィアだけは敬して遠ざける、みたいなところがあって、この11月に会期終了直前のビエンナーレを訪れたのが、実は人生初のヴェネツィア体験だった。現代美術は好きだけれど、どんどん難解になっていくハイ・アートの世界観と、大物キュレイターとギャラリストのパワーゲームみたいな巨大イベントには興味が持てなくて、これまでヴェネツイア・ビエンナーレを筆頭とする有名な国際的美術展には、ほとんど食指が動かないままだった。

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ヴェネツィア・アート・クラビング:ビエンナーレ報告 2

先週に続いてお送りするヴェネツィア・ビエンナーレ報告・後編。ビエンナーレ史上最年少ディレクターとなったマッシミリアーノ・ジオーニによる企画展示『The Encyclopedic Palace = 百科事典としての宮殿』の、ふたつの会場のうち、先週はジャルディーニの作品群をピックアップして紹介した。今週はもうひとつのメイン会場となった、元国立造船所アルセナーレでの展示から、本展の特徴であるアウトサイダー・アーティストたちの作品を中心にお見せする。ちなみに13世紀に建造されたアルセナーレは、長さ300メートルという巨大な縦長の建造物である。

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神の9つの眼――ジョン・ラフマンの『The Nine Eyes of Google Street View』

今年もいろいろな写真集を紹介してきた。影響をうけるのがイヤだから、現役の写真家の本はなるべく買いたくないけれど、写真家でも編集者でもある身としては、どうしても手にとってしまう本もある。その中で、実は今年いちばんショックを受けた写真集を、今年最後のメルマガで紹介したい。発売は2011年なので、もうご存じの方もいらっしゃるだろうが、ジョン・ラフマン(Jon Rafman)というカナダのアーティストによる『The Nine Eyes of Google Street View』だ(Jean Boîte Éditions, 2011)。

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仮装の告白

まさかこんなのは日本で出ないだろうと、海外旅行先で買い求めた分厚い本が、ある日突然、翻訳されて書店の店頭に並んでびっくり、ということが最近増えてきた。制作経費のかさむ作品集を出版するにあたって、何カ国かの出版社と前もって出版契約を結ぶケースが増えてきたせいかと思うが、つい先ごろ青幻舎から日本語版が出た『ワイルドマン(Wilder Mann)』も、「まさかこんな本が!」と驚かされた一冊。シャルル・フレジェ(Charles Freger)という若手フランス人写真家の作品集で、原本はドイツ語版、英語版とも2012年に発表されている。

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琵琶湖のほとりのアウトサイダー・アート・フェス

京都駅から東海道本線新快速でわずか35分、琵琶湖東岸に面した滋賀県近江八幡(おうみはちまん)。国の伝建地区(伝統的建造物群保存地区)に指定された美しい街並みで知られる、県内屈指の観光地だ。メンタームを生んだ近江兄弟社の創立者であり、日本における近代西洋建築の立役者のひとりでもある、ウィリアム・メレル・ヴォーリズがこよなく愛した土地としても有名。そして近江八幡はまた、アウトサイダー・アートのファンにとっては京都よりはるかに重要な地でもある。

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世界に取り憑くこと――宇川直宏と根本敬の憑依芸術

今年1月から3月頭にかけて、ふたつの展覧会が開かれた。そのふたつは場所の空気も、観客のテイストも微妙に異なるものだけれど、僕にとってはかなり共時感覚を持って眺めることができたので、ここにまとめて報告したい。そのふたつとは『宇川直宏 2 NECROMANCYS』(@白金・山本現代)と、『根本敬 レコードジャケット展』(@両国・RRR)である。DOMMUNEと因果鉄道、その両者を結ぶものは「憑依」だった・・・。

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ヤンキーの教え

去年『極限芸術~死刑囚の表現』展で話題を呼んだ、広島県福山市の鞆の津ミュージアム。もともとアウトサイダー・アート専門の小さな美術館として開館したが、アウトサイダー・アート=障害者の芸術、というステレオタイプの思い込みを嘲笑うように、美術館という枠のギリギリを綱渡りする挑戦的な企画を連発。小規模ながら、いま日本でもっとも攻撃的な美術館のひとつだ。今週土曜日(4月26日)から鞆の津ミュージアムでは『ヤンキー人類学』というタイトルの、一大ヤンキー絵巻が展開される。「日本人はヤンキーとファンシーでできている」と言われるように、すでに絶滅危惧種だとされながら、エクザイルや氣志團を見てもわかるように、我らがこころのうちに根深く取りつく「ヤンキー的なるもの」。それをさまざまな角度から掘り起こそうという、挑発精神に満ちた企画だ――。

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ロッキン・ジェリービーンの下腹部直撃画

(前略)ディスコじゃなくてクラブ。小箱じゃなくて大箱。それもダンス・ミュージックじゃなくてロック。でもライブハウスじゃなくて、居心地よく爆音を楽しめる店! という場所がほしくて、MILKには「ロッククラブ」という肩書をつけたが、店名の「みるく」はもちろん精液のことだったし、ロゴもコンドームを想起させる、要するにロック・ミュージックの持つセクシーさを強調したい気持ちを、たっぷり込めたつもりだった。そのMILKで一時期、こちらの気分にずっぽりハマるグラフィックをつくっていてくれたのが、ロッキン・ジェリービーンである。

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濾過された記憶――ヨコハマトリエンナーレ2014と大竹伸朗

『ヨコハマトリエンナーレ2014』がいよいよ8月1日からスタートする。「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」と題された今回の「横トリ」は、アーティスティック・ディレクターに森村泰昌を迎え、65組の作家が参加するという。すでに週末の予定に組み込んでいるひともいらっしゃるだろう。横トリの第1回で、僕は鳥羽秘宝館の一部を再現展示したのだったが、あれが2001年だから、すでに13年前・・・。今回は今年5月21日配信号の記事『移動祝祭車』で紹介した、やなぎみわによる台湾製ステージ・トレーラーなど、本メルマガ好み(笑)の作品がいろいろ見れそうで楽しみだが、まずは直前レビューとして、参加作家のひとりである大竹伸朗の新作『網膜屋/記憶濾過小屋(Retinamnesia Filtration shed)』を紹介しよう。

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超老花壇

去年春の『極限芸術~死刑囚の表現~』展、今年春の『ヤンキー人類学』でもおなじみ、広島県福山市の鞆の津ミュージアム。そもそも地元福山で、知的障害者のための施設を運営する団体が2012年に開いたアウトサイダー・アート・ミュージアムだが、最近ではこのミュージアム自体が美術業界のアウトサイダー・アート化している気が・・・。というわけで他の美術メディアはいざしらず、本メルマガでは何度も取り上げている鞆の津ミュージアムで、今週土曜日(16日)から始まる、またもエクストリームな展覧会が『花咲くジイさん~我が道を行く超経験者たち~』。読んで字のごとく(笑)、己の信ずるままに孤独な創作活動を続けてきた老人たちを集めた、いわばアウトサイダー・アート界のお達者クラブ・ミーティングだ。最年少(!)の蛭子能収(67歳)から、最年長のダダカン(94歳)まで、12人の有名・無名作家たちが選ばれ、それぞれ辿り着いた極点を僕らに見せてくれる。

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鎮魂の光束――池田亮司『SPECTRA LONDON』

開戦百周年となる今年はヨーロッパ各地で無数のイベントが開かれている。イギリスでは開戦時の外務大臣だったエドワード・グレイ子爵の有名な言葉――「灯火がいま、ヨーロッパのあらゆる場所で消えようとしている。我らの生あるうちに、その灯火をふたたび見ることはかなわないであろう」――をもとに、イギリス全土で8月4日の夜10時から11時までの1時間、家やオフィスや店の明かりをひとつだけ残してすべて消そうという『LIGHTS OUT』なるプロジェクトがあり、それにあわせて4人のアーティストがロンドンでインスタレーションを展開。そのなかでもっとも話題を集めたのが、池田亮司による『SPECTRA』だった。

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異形の王国――開封! 安田興行社大見世物展

絶滅危惧というよりも、もはや臨終の瞬間を迎えつつある、しかもこれまでほとんど語られることのなかった昭和のストリート・カルチャー、それが見世物芸だ。そしてきのう(8月26日)からわずか12日間だけ、かつて祭りの場に輝いた見世物小屋の、息苦しくも妖しく美しい世界のカケラが銀座の地下空間に甦っている。ヴァニラ画廊でスタートしたばかりの『開封! 安田興行社大見世物展』である。「最後の見世物芸人」と言われる安田里美を追い続け、唯一の評伝である『見世物稼業――安田里美一代記』(新宿書房刊、2000年)の著者でもある鵜飼正樹さんによって、この展覧会は監修され、僕も少しだけお手伝いさせてもらった。

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コンセプトの海の彼方に――大竹伸朗と歩いたヨコハマトリエンナーレ

「ヨコハマトリエンナーレ2014」が8月1日から開催中だ(11月3日まで)。本メルマガではオープン直前の7月23日配信号で、大竹伸朗の新作を中心に紹介した。すでに会場でご覧になったかたもいらっしゃるだろう。(中略)トリエンナーレ開始直後、レコーダー片手に大竹くんとふたりで会場を回ったウォーキングツアー・リポートを今週はお伝えしてみたい。当然ながら客観的なガイドではないし、僕らが思うベストなんとか、ですらない。ぶらぶらと歩き回りながら目に留まった作品、こころに引っかかった作家についての雑談の記録にすぎない。はなはだ不完全なガイドではあるけれど、僕らふたりと一緒に会場を歩いているような気分になってもらえたら、そして展覧会に行きたくなってムズムズしてくれたら、それだけでうれしい。

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ハッシュタグが広げるアートスケープ——#BCTIONの廃ビル・アート・プロジェクト

2012年10月3日号『黄昏どきの路上幻視者』で紹介して以来、折にふれて連絡を取り合っている仙台のグラフィティ・アーティストSYUNOVENから、久しぶりにメールが来た——「先週東京に行ってて、麹町のビルの中に絵を描いてたんですよ」。ふーん、いいじゃない・・・って、ええーっ! 麹町って、僕が住んでるとこなんですけど。で、詳しく場所を聞いたら、家から歩いて2、3分のとこなんですけど。(中略)BCTION(ビクション)と名づけられたそのプロジェクトは、取り壊しを待つ9階建てのオフィスビル全館を使って、およそ80組のアーティストが自由にペインティングやインスタレーションを展開する、期間限定のアート・イベントだ。各フロア約116坪というたっぷりしたスペースに、さまざまなアートワークが展開し、観客はエレベーターや階段でフロアからフロアへと自由に歩き回り、作品を鑑賞できる。

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AKITA HEART MOTHER——東北おかんアート・オデッセイ

告知でもお知らせしてきたように、ただいま「大館・北秋田芸術祭2014」の一環として、鷹巣駅前の空家を使っておかんアート写真&作品展を開催中だ(11月3日まで)。しかし最寄りの大館能代空港は、ANA便が毎日2本のみの競争ゼロ・高値安定。しかも大館〜北秋田間の数カ所に散らばる展示は鉄道、バスなどの公共機関が限られているため、レンタカー以外で短時間で周回するのがかなり困難。というわけでアクセスに難ありで諦めかけているかたも多いと思われるので、今週は誌上展覧会を街歩きスナップとともにお届けしたい。

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電気画帖13 ロンドン・コーリング・アゲイン(画・文:大竹伸朗 写真:大竹伸朗/大竹彩子)

先月の告知でお伝えしてきたように、いまロンドンのパラソル・ユニットで大竹伸朗個展『Shinro Ohtake』が開催中だ(12月12日まで)。今週のロードサイダーズ・ウィークリーでは作家本人に連載中の「電気画帖」特別版として、写真と絵と文章によるロンドン滞在記を制作してもらった。このあとの展覧会リポートとあわせてお読みいただけたら幸いである。

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ヘタウマの現在形

パリについでフランス第2の座をリヨンと争う重要な都市であり、地中海で最大の貿易港でもあるマルセイユ。告知でお伝えしてきたように、そのマルセイユと、同じ南仏のセットの2会場で『MANGARO』『HETA-UMA』と名づけられた、日本のサブカルチャーをまとめる、というよりもリミックスする重要な展覧会が開催中だ。フランスに日本の漫画好きが多いことはよく知られているが、この展覧会の舞台にパリではなく、かつて日本人にとって「初めてのヨーロッパ」だったマルセイユが選ばれたことも、出展作家のひとりである根本敬の言う「因果」のひとめぐりだろうか。

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生きて痛んで微笑みがえし——小松葉月のパーソナル・アート・ワールド

今年2月26日号で紹介した、川崎市岡本太郎美術館が主催する岡本太郎現代芸術賞。よくある現代美術コンペとは一味違う、コンセプトよりもエモーショナルな感性が評価された作家が多く選ばれていたが、そのなかに特別賞を受賞した小松葉月さんの『果たし状』という大作があった。一見、学校の教室のようなインスタレーション。壁には習字やお絵かきの作品が貼り込まれ、大きな黒板、それに中央に据えられた巨大な台座(玉座?)には、学校用の勉強机と椅子が据えられて、そのありとあらゆる表面に小さなニコニコマークがびっしり描き込まれている。そして机にはセーラー服に防空頭巾をかぶった作家本人が座り、開館時間のあいだじゅうずっと、机上に広げたノートや教科書に、これもびっしり、本人が「ニコちゃん」と呼ぶ、ニコニコマークを描きつづけていた。

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小山田二郎という奇跡

先月なかばの日曜日、府中で取材があった僕は撮影を終えて、京王線府中駅にいた。ふと駅構内のポスターを見ると、府中市美術館で「生誕100年 小山田二郎」展開催中とあるではないか! 同行編集者にむにゃむにゃ言い訳して急いでバスに乗って、無事に展覧会を鑑賞することができた。危ない・・・こうやってどれだけ、知らないうちに重要な展覧会を見逃しているのだろう。本メルマガを始めて間もなく、2012年2月8日配信号で、府中市美術館で開催していた『石子順造的世界』展について書いたのだが、そのときに同時開催されていた小山田二郎展にも少しだけ触れたことがあった。1914年に中国安東県(現遼寧省丹東市)で生まれた小山田二郎は、去年が生誕100年にあたっていて、この展覧会も去年11月8日にスタート。

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カウガール・ラプソディ

明治・大正期の洋風建築、それに漫画ファンには石ノ森章太郎と大友克洋の出身地としても知られる登米の旧市街から、北上川沿いに走ったはずれにある集落が津山町。人口3000人ほどの小さな町だ。クルマで数分も走れば通りすぎてしまう町の、静かな住宅の離れに建つアトリエで、山形牧子さんが待っていてくれた。山形さんのことを教えてくれたのは仙台の友人だった――「河北新報(仙台の地元紙)に、すごく不思議な絵が載ってました、牛と女のひとが宴会してるんです!」 津山町で主婦として暮らしながら、牛と女の絵ばかり描いている、彼女は奇妙なアマチュア・ペインターなのだった。

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灰色の壁の少女

日本においてもグラフィティはれっきとした犯罪だ。軽犯罪法1条33号にある「工作物等汚わい罪」がそれで、「みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者」に対して、拘束または科料の支払いが規定されている。また、地方自治体が独自の落書き禁止条例をもうけている場合も多い。だから、これまでこのメルマガで何人かのグラフィティ・アーティストを取り上げてきたが、本名や顔写真を出せないこともあった。今回紹介する福岡のKYNE(キネ)もそうした厳しい環境の中で、アクティブであり続けようとしている若いアーティストだ。

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頭上ビックバン!――帽子おじさん宮間英次郎 80歳記念大展覧会

本メルマガ読者にはもう説明の必要がない「帽子おじさん」宮間英次郎。その波乱に満ちた生涯は、宮間さんの発見者ともいうべき畸人研究学会の海老名ベテルギウス則雄さんの筆により、昨年9月に3回にわたって集中連載した。1934年生まれ、つまり去年80歳を迎えてますます元気いっぱいな宮間さんの、満を持した個展が今月21日から恵比寿NADiffで開催される。展覧会にあわせて畸人研究学会は久々の自主制作新刊『畸人研究30号 特集:宮間英次郎さん傘寿記念』を刊行。これは去年メルマガで連載した内容を、さらにボリュームアップした決定版になるはずだ。展覧会を畸人研究学会と一緒に構成させてもらう僕にとっても、去年5月の『独居老人スタイル展』に続いての、NADiffお達者くらぶ展シリーズ(笑)。クールなアートブックショップには申し訳ないが、老いてますます盛んな現役アウトサイダー・アーティストのほとばしるエネルギーを、過密な展示空間で体感していただけたら幸いである。

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光彩のスクラッチ――Liquidbiupilのアナログ・ライティング・アート

1960年代から70年代に最盛期を迎えた「リキッド・ライティング」を甦らせている若いライティング・アーティストがいると聞いて、耳を疑ったのが数年前のこと。ただ、そのころはライティングどころか、暗すぎて写真も撮れないようなヒップホップのライブにばかり行っていたので、なかなか巡りあうことができず、ようやく一昨年アシッド・マザーズ・テンプルのライブ会場で会えたのが、「Liquidbiupil」(リキッドビウピル)というライティングのチームだった。「Liquid」を裏返してつなげたという風変わりな名前を持つLiquidbiupilは佐藤朗と清水美雪、ふたりのライティング・アーティストによるユニットである。往年そのままに複数台のオーバーヘッドプロジェクターを駆使し、あたかも光と色をスクラッチするように、ライブハウスにサイケデリックな光の空間をつくりあげるスタイルは、アシッド・マザーズ・テンプルのようなバンドからノイズ、さらに演劇の舞台にまで起用され、注目を集めている。

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猫塊の衝撃

新宿から京王線で約30分、稲城は多摩ニュータウンの東端に位置する、静かなベッドタウンだ。改札口で僕を待っていてくれたのが、先日の「ヴァニラ画廊大賞 2014」で大賞を獲得したアーティスト・横倉裕司さんだった。いかにもニュータウンらしい駅前を抜けて鶴川街道を渡ると、景色は突然、のどかな田舎ふうになってくる。代々続いているらしい農家や、放し飼いのニワトリが地面を突ついてる果樹園のあいだを抜けて歩いた先に、空き地に適当に建てられたような、家屋とも倉庫とも言いがたい平屋の建物が数軒かたまっている。そのひとつが、横倉さんが友人とシェアしているアトリエだった。

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墓前報告――〈無名芸術家之墓〉(文:青木淳悟)

新宿2丁目のお座敷があるへんてこなバーで、僕と彼の仲間たちは数冊のファイルを前に興奮していた。収められた数十枚の作品は、どれも一見素朴派と言えそうな画風でありながら、よく見ると女性のお尻がやけに強調されたり、グラビアの写真が切り抜いてコラージュされていたり。どこへ向かおうとしているのかよくわからないままに、激しい熱量を帯びた画面なのだった。ファイルを持ってきてくれたのは青木淳悟さん。2003年に『四十日と四十夜のメルヘン』で新潮新人賞を獲得したのを皮切りに、2012年には『わたしのいない高校』で三島由紀夫賞を受賞した注目の若手小説家。現在も『新潮』に連作『学校の近くの家』を連載中である。実はこの絵の作者は亡くなった青木さんのお父さんで、それも亡くなってから初めて、こんな絵をこんなにたくさん描いていたと家族も知ったというのだった。

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銀河の中に仮名の歓喜  ――福田尚代の美術と回文

ヘンリー・ダーガーの部屋を撮影した写真を集めたマニアックな資料集『HENRY DARGER’S ROOM』や、青森のボロ布を集めた『BORO』を僕と一緒に出版した小出由紀子さんは、東京神田に残る典雅な戦前建築・丸石ビル内に「YUKIKO KOIDE PRESENTS」という、他に日本でほとんど例のないアウトサイダー・アート/アール・ブリュットに特化したギャラリーを運営している。その画廊から去年の冬、『福田尚代作品集 2001-2013』という小さな作品集が出版されて、出版記念展も開かれた。美術界ではすでに高い評価を得ながら、これが最初の単独作品集という、もっともっと知られるべきアーティストであり、同時に奇跡的な回文作家でもあるという、多面的な制作活動に長く静かに従事してきた福田尚代さん。今週は埼玉県内のご自宅を訪問してうかがったお話に加えて、公式サイトに掲載されている興味深い年譜や、ツイッター上でのメッセージなどもミックスしながら、彼女の制作の軌跡を辿ってみたい。

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雪より出でよ蓮の花――金谷真のロータス・ペインティング

メールマガジンを始めてからFacebookでこまめに投稿を書いたり、いろんなひとの投稿を読むようになって(なにしろ個人アカウントの友達が5000人の上限に達してるくらいなので)、そうするとFacebookはTwitterとちがって実名だから、「ネット上での思わぬ再会」というようなことが、わりとよく起きたりする。いまから2ヶ月くらい前、「秋田で絵の展覧会やります」というお知らせ投稿に、ふと目が止まった。そこには大きなキャンバスに蓮の絵を描いている画家の写真が添えられていて、彼は蓮の絵だけをずーっと描いているらしいのだが、どうも「金谷真」という名前に見覚えがある。なんだか気になってプロフィールをチェックしたら、「1977年、雑誌POPEYE創刊と同時に専属イラストレーターになる」という一行があって・・・ええ~っ、それは僕がPOPEYE編集部にいたころ、いつも顔を合わせていたイラストレーターの金谷さんなのだった。

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プラスチックの壺中天

すでにご存知のかたも、コンプリートしたくて何千円も散財したかたもいらっしゃるだろう、大竹伸朗のガチャガチャ=「ガチャ景」が先月発売され、直島銭湯や各地のアートブックショップに販売機が設置されている。全6種類、各500円。計3000円でコンプリートできればラッキーだが、なかなかそうはいかなかったりして、ずっとむかしのゲームセンターで味わったような「悔しいから取れるまでぶっこむ」感を、ひさびさに思い出させてくれる。6種類それぞれの「作品」には解説がつけられているのだが、今回は僕がそれを書かせてもらった。あらためてじっくり、ひとつずつの作品についての思い出を聞いて、それを文章に起こしてある。

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夜をかける少女

函館湾に面して、函館市の西隣にある北斗市。来年3月にはここに北海道新幹線の新函館北斗駅が開業予定(当面、北海道側のターミナル駅)・・・という情報が信じられないほど、眠るように静かな住宅地と田畑が交じり合うランドスケープが広がっている。観光地としてはトラピスト修道院があり、三橋美智也や『フランシーヌの場合』の新谷のり子の出身地でもあるのだが。2006年の町村合併で北斗市になる前は上磯町(かみいそちょう)と呼ばれていた、函館から20キロほどのベッドタウン。いかにも漁村らしい風情を残した海辺の集落の、浜からほんの数メートルという家屋の前に、強い浜風に飛ばされそうな風情で、高誠二(たか・せいじ)さんが待っていてくれた。

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春画展、東京の前に福岡で!

来る9月19日から東京・目白台の永青文庫で開かれる展覧会『世界が、先におどろいた。春画 Shunga』のニュースを、すでに耳にしたひとも少なくないだろう。ふりかえれば2013年10月から翌1月までロンドン大英博物館で開催された『Shunga sex and pleasure in Japanese art』が、約9万人の来場者を集める大ヒットとなりながら、肝心の日本への巡回(というか里帰り)がかなわず、恥ずかしい思いをしていた多くの美術ファンにとって、永青文庫での展覧会開催はうれしいニュース。大英博物館の展覧会の巡回ではなく、おもに国内のコレクションによる永青文庫独自の展覧会になるようだが、すでに記者会見も開かれ、「日本初の春画展」として話題を集めている。しかし永青文庫の展覧会の1ヶ月以上前に、実は日本で初めて公立美術館で多数の春画が系統だって展示される、画期的な展覧会が開催されることは、あまり話題になっていない。それが福岡市美術館で8月8日から開かれる『肉筆浮世絵の世界 ―美人画、風俗画、そして春画―』である。

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精液と糞尿のスペース・オデッセイ  ――三条友美「少女裁判」によせて

「百日紅」はふつう「さるすべり」と読むが、この店は「ひゃくじつこう」。見かけも、ドアを開けても一見ふつうの喫茶店だが、展示のラインナップは耽美、フェティッシュ、グロテスク、そしてエロチカに特化した、きわめてビザールかつ「喫茶店らしくない」メニューだ。今年4月末から5月にかけては伝説のエロ劇画家ダーティ・松本の個展が開催され、上品なインテリアと着物姿のママさんと、ハーブティーの香りと(この店はハーブティーが売り!)、股縄バレリーナのようなどエロ展示作品とのミスマッチに絶句させられた。そのカフェ百日紅で8月20日から2週間だけ開催されるのが、ダーティ・松本展以上にどエロでグロテスクで、ミスマッチ感にあふれること確実なハードコア・エクジビション『三条友美 処女個展 少女裁判』である。劇画家・三条友美のことを、どう説明したらいいだろう。知っているひとはずっと静かに愛読してきたろうし、知らないひとは一生知らないままで終わるはずの、まさしく孤高の漫画家にして、エログロ官能劇画のダークスター。すでにキャリア40年近くにおよぶ大御所でありながら、本名も年齢も顔写真も非公開、インタビューすらめったにないというミステリアスな存在。

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詩にいたる病  ――安彦講平と平川病院の作家たち

薄暗い民家の奥座敷に、浮かび上がるように展示された数枚の絵。それは白地の大きな画面に、Tシャツやズボンなどの洋服が黒い縁取りを伴う白ヌキの平面として浮かび上がる図柄なのだったが、一見エアブラシかパソコンの切り抜き処理のように思えるその画面は、よく見ればすべて鉛筆で洋服の周囲を塗りこめた「切り抜きふう手描き絵画」だった。杉本たまえさんという、その作家に出会ったのは今年3月、近江八幡NO-MAが主催した大規模な展覧会『アール・ブリュット☆アート☆日本』の会場だった。たくさんの出品作家のうちでも、彼女のことが強くこころにひっかかって、東京に帰ってから調べてみると、2009年に第1回展を開催以来、1~2年に一度開かれる『心のアート展』という展覧会に何度も出品していて、ちょうど今年も6月17日から5日間、池袋の東京芸術劇場で開かれることがわかった。

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アウトサイダー・キュレーター日記 05 稲村米治(文:櫛野展正 写真:都築響一)

都心から60キロの場所にある群馬県の東の端・群馬県邑楽郡板倉町。東武日光線「板倉東洋大前駅」付近は開発が進んでいたニュータウンの面影が残り、街のほとんどは広大な農地がいまも広がっている。遠くに見える浅間山を横目にのどかな田園風景を車で走ること10分、とある民家の床の間に飾られていたのは、高さ80cmほどのガラスケースに入った武者人形だった。目を凝らして見ると、驚くべきことに、カブトムシやクワガタムシやコガネムシなど同じ種類のたくさんの昆虫の死骸が左右対称にピンで付けられている。

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モンマルトルのベガーズ・バンケット――『HEY! ACT III』誌上展・後編

先週に続いて、9月18日からパリのアウトサイダー・アート専門美術館アル・サンピエールで『HEY! Modern Art & Pop Culture / ACT III』と題された興味深い展覧会のリポート後編をお送りする。パリで発のアウトサイダー/ロウブロウ・アート専門誌『HEY!』がキュレーションするグループ展。2011年の第1回、2013年の第2回展に続く、本展が第3回。もとは市場だったという大きな建築の2フロアに、60名以上の作家によるビザールでエネルギッシュな作品が展示されている。今週は2階フロアに展示されている作家のうちから、個人的に気になった作品を紹介してみる。展覧会は3月まで続くので、機会があればぜひ会場に足を運んでいただきたい。先週書いたように、アートを金持ちのおもちゃではなく、ほんとうに生あるものにしたいと願う人間たちが、いまこんな最前線にいるのだということを体感していただきたいから。

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機械仕掛けの見世物小屋――ジルベール・ペールのアトリエから

先週まで2週にわたって、パリのアル・サンピエールで開催中の展覧会『HEY! ACT III』についてお伝えしてきた(『モンマルトルのベガーズ・バンケット 前・後編』)。60名以上によるビザールでエネルギッシュな作品が展示されている中で、ひときわ奇妙なユーモアを漂わせ、動きのある作品を出展していた数少ない作家がジルベール・ペール。1947年生まれ、みずからを「エレクトロメカノマニアック=電気機械マニア」と呼ぶ、風変わりなフランス人アーティストである。現代美術でもあるけれど、機械による演劇でもあり、スペクタクル=見世物でもある彼の作品に、これまで日本ではほとんど接するチャンスがなかった。今週はパリ郊外のアトリエを訪ね、インタビューを交えながら過去20年以上にわたる作品群を紹介してみたい。

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単眼少女たちのいるところ

この夏のもっとも暑かったころ、ろくに冷房の効かない幕張メッセのワンフェス会場に充満する甘酸っぱいオタク臭に意識を失いかけながら、まるで知らないアニメのフィギュアが何百と並ぶ展示に辟易としはじめたころ、ひとつのブース前で動けなくなった。だれもいないテーブルの上に、美少女の被り物が置いてあるのだが、それは巨大な一つ目の美少女なのだ。そこだけひんやりとした空気が流れるようでもある、一つ目小僧ならぬ一つ目小娘に見とれていると、ブースの主の仲間らしき男子が、「いまいないんですけど、こんなのもあります」と薄手の写真集を見せてくれた。『chimode』というタイトルのそれを購入して帰ったものの、表紙からしてあまりのインパクトに「だれがこんなのつくってるんだろう!」と会ってみたい気が抑えられなくなって、連絡をとってみた。作者の小沢団子(おざわ・だんご)さんは、被り物の一つ目がそのまま二つ目になったような、可愛らしい女の子だった。

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明るさも暗さも底なしの国で――BEAUTÉ CONGO展@パリ・カルティエ財団

先週、ふたつの展覧会を観に、パリに行ってきた。今週、来週とその紹介をしたいのだが、今週はまずカルティエ財団で開催中の『BEAUTÉ CONGO 1926-2015 CONGO KITOKO』にお連れする。アフリカというと、どうしてもプリミティブ・アートに偏った紹介になりがちだが、本展はタイトルどおりコンゴの近代美術を体系的に展示する、画期的な展覧会である。ちなみにタイトルにある「KITOKO」とはコンゴの言葉(リンガラ語)で「美しい」「きれい」などを広くあらわす表現。「かわいい」や「おいしい」にも使えるそうなので、覚えておくといつか役に立つかも。

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花咲く娼婦たちのかげに――オルセー美術館『華麗と悲惨:売春のイメージ』展

先月2回にわたって紹介したアウトサイダー/ロウブロウ・アートの展覧会『HEY!』に、見世物小屋絵看板コレクションで参加した折り、ちょうどオープニングがあるというので楽しみにしていたのが、オルセー美術館の『Splendeurs et misères, Images de la prostitution 1850-1910』という展覧会だった。ご承知のとおりオルセー美術館はセーヌ河畔近くの、もともと駅舎兼ホテルだった巨大な建物を改造した、19世紀美術に特化した美術館。正確には二月革命の1848年から第一次大戦勃発の1914年までの期間を扱い、それ以前はルーブル、以降はポンピドゥ・センターという区分になっている。特に印象派のコレクションが有名で、パリ有数の観光名所として日本からの観光客にもおなじみ。本メルマガではちょうど1年前の2014年11月19日配信号で『サド展』を紹介したが、それに続く意欲的というか、挑戦的な企画展が今回の『Splendeurs et misères』だ。

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フランス式グラフィティの教え

この原稿を書いている最中にパリの同時多発テロ第一報が、つけっぱなしのテレビから流れてきた。土曜日早朝、CNNのライブ・ニュースで、しばらく画面に釘付けになるしかなかったが、そのあと日本の地上波を見てみて、あまりの軽い扱いように、ふたたびのけぞった。現場に突っ込んでいく取材力がないのと(土曜日で支局員はお休み?笑)、掘り下げていけば当然ながら、集団的自衛権が抱え込む危険に言及しなくてはならないからだろうけれど。こんなタイミングで、パリの街のガイドのような記事を書くのはどうかとも思ったが、こんなときだからこそ書くべきかとも思い、そのまま進めることにした。日本ではいまだ「落書き」扱いのグラフィティだが、それがきわめて先鋭的なメッセージを発信するメディアとなり得ることを、記事から読み取っていただけたらうれしい。文中でも触れるが、いまごろパリの街角では、テロの犠牲者たちに捧げるグラフィティが、爆発的なスピードで生まれているはず。都市の生命力とは、そういうエネルギーのことを言うのだろう。高層ビルの数とか、巨大店舗の売上高とかではなくて。

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八潮秘宝館、開張!

告知でお知らせしたように11月13~15日の3日間、稀代のラブドール・コレクターであり、ご本人によれば「写真家兼模造人体愛好家」である兵頭喜貴(ひょうどう・よしたか)が、「自宅秘宝館」として『八潮秘宝館』を一般公開。全国から50人以上のマニアが拝観に訪れたという。兵頭さんが初めて本メルマガに登場してくれたのは2012年3月21日配信号。『人形愛に溺れて』と題したその記事は、葛飾区内の古びたアパートの一室に構築された、驚異の変態人形空間訪問記だった。

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修羅の果ての島で――焼き絵師・元心作品展

ハンダゴテのような電熱ペンを使って、板を焦がすことで絵柄を描いていくウッドバーニングというクラフトがある。古くから世界中で親しまれてきた技法だが、その電熱ペンを使って木片ではなく皮革に絵を描く「焼き絵作家」が、元心(げんしん)である。すでに本メールマガジン購読者にはおなじみのカフェバー浅草・鈴楼で、その作品展『LEATHER ART GENSHIN』が昨年末から開催中だ。ヌメ革独特の肌に描かれるのは浮世絵の美人や役者絵、相撲取りといった伝統的図柄から、虎、犬、猫、昆虫など、身の回りの生き物たちまでさまざま。中には春画を題材にしたものもある。作品の多くは色紙大くらいだが、2メートルを超える一枚革に観音や仙人を焼き描いた大作にも挑戦している。

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焼き芋とストリート・アート

とてつもないデコトラならぬデコ・セダンが真冬の、東京の夜をクルーズしている。トヨタの誇る社長車センチュリーの屋根にド派手なデコレーションを光らせ、後部に伸びた竹ヤリから白煙をモクモク吹き出しながら・・・。秋葉原で、原宿で、代官山で、その勇姿を見て呆然としたひとも、思わず駆け寄ったひともいるだろう。デコ・セダンの名は「金時」、大阪のアーティスト・ユニット「yotta(ヨタ)」が仕掛ける「アートとしての焼き芋屋活動」である。すでに多くのメディアにも取り上げられているyottaは、木崎公隆と山脇弘道によるユニット。2010年に移動焼き芋屋・金時をスタートさせて以来、今年も3月末の焼き芋シーズン終了まで、東京の街なかで夜ごと焼き芋を売り歩いている。

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皮膚という衣装のために――八島良子の映像をめぐって

先週、東京六本木の国立新美術館では「文化庁メディア芸術祭」受賞作品展が開催されていた(2月3~14日)。1997年の設立以来、今年が19回目になるメディア芸術祭は、その名のとおり文化庁が主催する「アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル」(公式サイトより)。国内最大級のアート・デザイン系コンペであることは間違いない。しかし今年の芸術祭アート部門で、審査委員会推薦作品に選ばれながら、展示されなかった作品があった。八島良子の映像インスタレーション『Limitations』である。

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月夜の浜の少女時代

本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊で、今週月曜日から『沈黙する聖少女。宮トオル遺作展』が開催中である。「宮トオル」という名前を聞いて、「ああ、あの作家ね」とうなづく美術ファンが、どれくらいいるだろうか。僕も不勉強で、初めて聞く名前だった。イラストレーターから画家に転身し、亡くなるまでずっとひとりの、というか同じ顔の少女を宮トオルは描きつづけた。徳之島という南の島に生まれ育った彼の画面には、奄美大島でだれにも評価されない絵を描きつづけた田中一村の光と闇が見える気もするし、飽くことなく描いた少女の表情には、斎藤真一が描いた瞽女の静謐さが滲み出ているようにも見える。そして宮トオルの絵はだれにも似ていないし、どんなトレンドにも流派にも属していない。そういう、ひとりだけの絵を描いて彼は生き、死に、忘れられた。

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破壊せよ、と動画は叫ぶ――冠木佐和子のアニメーション・サイケデリア

昨年はアウトサイダー映像作家・伊勢田勝行監督のアニメに打ちのめされたが、またひとり、僕らがふつうに思う「アニメ」のイメージを激しく逸脱する、オリジナリティのかたまりのような作品を生み出す作家に出会うことができた。冠木佐和子(かぶき・さわこ)――1990年生まれ、まだ25歳の若手映像作家である。冠木さんがどんなひとなのか紹介する前に、とにかくまずはこの一本を見てほしい。『肛門的重苦 Ketsujiru Juke』、2013年に多摩美術大学の卒業制作として発表された、2分56秒の作品だ。

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『針工場』――豊島に大竹伸朗の新作を訪ねて

今年は瀬戸内国際芸術祭の開催年だ。2010年、2013年に続く3回目。4月17日までの春会期にいち早く訪れたかたもいらっしゃるだろう。直島、小豆島と並んで多くの作品が集まる豊島(てしま)には大竹伸朗の新作『針工場』が完成。直島の『直島銭湯I♥湯』『はいしゃ/舌上夢/ポッコン覗』女木島『女根/めこん』に次ぐ4つめのプロジェクトとなった。

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死刑台のギャラリー――極限芸術2~死刑囚は描く~

広島県福山市の「鞆の津ミュージアム」を、これまで本メルマガでは何回も紹介してきた。全国各地に続々と誕生しつつあるアウトサイダー・アート/アールブリュット関連展示施設のうちで、ほとんど唯一「障害者」という枠組みをあえて逸脱しようとする姿勢が際立つ、本来的なアウトサイダー精神に深く共感したからだった。ヤンキーにスピリチュアル系、ただ単に「我が道を行く」変人表現者まで――福祉施設を母体に持ちながら、それはどんな公立美術館も手をつけない、ひりつくリアリティに満ちた企画で、だからこそ全国から熱心な来館者たちを集めていたのだが、そのキュレーションの中心にいたのが櫛野展正だった。本メルマガでも「アウトサイダー・キュレーター日記」を連載している櫛野くんが、昨年末で鞆の津ミュージアムを離れ、同じ福山市内に開いたのが「クシノテラス」。その第1回目の本格的な展示として、『極限芸術2~死刑囚は描く~』が先月末から開催中だ(8月29日まで)。

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太陽と大地と人形の国――ネック・チャンドのロックガーデン訪問記

コルビジェのキャピトル・コンプレックスに隣接する広大な彫刻庭園が「ネック・チャンドのロックガーデン」である。ル・コルビュジエではなくて、実はこのロックガーデンが見たくて、僕はここまで来たのだった。アウトサイダーアート/アールブリュット・ファンにとって、生涯でいちどは訪れなくてはならない場所が、2カ所ある。そのひとつはフランス・オートリーヴの「郵便配達夫シュヴァルのパレ・イデアル(理想宮)」、そしてもうひとつがネック・チャンドのロックガーデンだ。

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神は局部に宿る!

日本を訪れる外国人観光客は、氾濫する性的イメージにいきなり圧倒される。通りにはみ出す風俗看板に、路傍でチラシを配るメイド少女に、DVD屋のすだれの奥に、コンビニの成人コーナーにあふれ匂い立つセックス。そしてハイウェイ沿いに建つラブホテルの群。この息づまる性臭に、暴走する妄想に、アートを、建築を、デザインを語る人々はつねに顔を背けてきた。超高級外資系ホテルや貸切離れの高級旅館は存在すら知らなくても、地元のラブホテルを知らないひとはいないだろうに。現代美術館の「ビデオアート」には一生縁がなくても、AVを一本も観たことのない日本人はいないだろうに。そして発情する日本のストリートは、「わけがわからないけど気になってしょうがないもの」だらけなのに。

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美青年の園で(文:ドキドキクラブ)

東京都心部から30分ほど、私鉄沿線の静かな郊外駅に、織部佳積さんが待ってくれていた。織部さんを僕に引き合わせてくれたのは、本メルマガ2014年11月26日号『瞬間芸の彼方に』で紹介したドキドキクラブくんだった。取材以来、仲良くしてもらっているので「くん」づけで呼ばせてもらうが、ドキドキくんはもうずいぶん前に、アート系のイベントで織部さんと知り合い、ひそかにその制作活動に注目してきたのだという。「こんな絵を描いてるひとなんですよ」と、携帯で見せてくれた作品の不思議さに心惹かれて、きょうは織部さんが住むアパートまで連れてきてもらったのだった。

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ストリート・オブ・クエイ

東京都心部から約1時間、逗子駅に降り立つとすでにバス乗り場に並ぶ長い列ができている。ふだんは静かなビーチタウンが、この時期になると週末平日を問わず大混雑。「濡れた水着のままで乗車しないでください」「カバー無しでモリはは持ち込まないように」などと注意書きが貼られた超満員のバスに揺られ、ようやくほとんどの乗客が降りたあと、美術館前のバス停で下車。海の家の楽しげな音が風に乗って聞こえる神奈川県立近代美術館・葉山では『クエイ兄弟――ファントム・ミュージアム』が開催中だ(10月10日まで)。ここに来るのは一日がかりになってしまうのだが、これほど重要な展覧会を本メルマガ読者には見逃してもらいたくなくて、夏休みが明けて葉山の混雑がなくなるのを待てず、いち早くご紹介することにした。

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京都マネキン慕情

京都近美で企画展と平行して、常設展エリアである「コレクション・ギャラリー」で今週日曜まで開催中なのが「キュレトリアル・スタディズ11:七彩に集った作家たち」。このままだとあまり知られないまま終わってしまいそう。でも個人的にはとても興味深い企画だったので、遅ればせながら紹介させていただく。「七彩」とは京都に本社を置くマネキンの会社である。創業者が彫刻家の向井良吉(洋画家の向井潤吉は兄)ということもあって、かなり芸術的な気風にあふれた会社であり、多くのアーティストが集まってマネキン制作に協力したり、顧客への贈呈品を手がけたりしていた。この小さな展覧会はそんな、いかにも京都らしい七彩という会社の歩みとアーティストたちの関わりを見せるとともに、美術館のあちこちに七彩のマネキンを配置して、知らずにやってきた観覧者を驚かせるという変化球的な楽しみを併せ持った、ユニークな企画だ。

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パリのビート・ジェネレーション

ジャック・ケルアックの『路上』が発表されたのは1957年だから、今年が60周年になる。訳者の青山南さん(※新訳『オン・ザ・ロード』訳者)によれば、ビート・ジェネレーションとは「だまされてふんだくられて精神的肉体的に消耗している世代」と訳されるそうだが、公式にビート・ジェネレーションが生まれたのは1944年、アレン・ギンズバーグとウィリアム・バロウズとジャック・ケルアックがニューヨークのコロンビア大学で知り合ったときとされている。そして2016年のいま、パリのポンピドゥ・センターでは『ビート・ジェネレーション ニューヨーク、サンフランシスコ、パリ』展が開催中だ(10月3日まで)。どうしても行きたかったけれど時間がやりくりできず、かわりに本メルマガに寄稿してくれているパリ在住の飛幡祐規さんに見てきてもらった。

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レペゼン小倉のストリート・アーティスト、BABU

今月末の会期終了まで10日あまりとなった福岡天神アルティアムでの『僕的九州遺産』展。1990年代に『珍日本紀行』で日本中を巡っていた時代から、つい最近までの九州ネタをぎゅうぎゅうに詰め込んである中でもっとも新しい、というか最近の出会いだったのが、会場奥に設けた奇妙なスケートボード作品群。暴走族単車に畳、果ては琴まで(!)、なんにでもホイールをつけてスケートボードにしてしまう、恐るべき改造マニアによる作品だが、そのアーティストが「BABU(バブ)」。小倉を拠点に活動するストリート・アーティストであり、スケートボーダーであり、彫師でもある。そしてそのアトリエは偶然にも、見世物小屋絵看板の伝説的な絵師だった志村静峯の「大衆芸術社」があったのと同じ、小倉の中島本町にある。

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軽金属の妖精たち

最初に見たときはCGかと思った。それも初歩的な。緑の木々や、夜景に浮かぶメタリックなかたまり。球形や円錐やカプセルを組み合わせてつくられた、アニメのロボットのような、生き物のような。それがCGではなくて金属による立体作品だと知ってまず驚き、それがまだほとんど知られていない若い女性作家によるものだと知って、さらに驚いた。服部美樹は1983年生まれ、33歳のアーティストである。「作品はほとんど自宅にあります」というので、さっそくお邪魔した東京都心に近い、こんな場所にこんな家屋が!と目を疑う一軒家が、服部さんのアトリエ兼住居だった。聞けば築70年というから、終戦直後に建てられたそのままで、ビルの谷間に生き延びてきたことになる。

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版画壁――シンガポールの大竹伸朗展

東南アジア最重要都市のひとつでありながら、東南アジア・フリークにはもっとも人気のないデスティネーション、それがシンガポールだ。マーライオンやナイトサファリ、みたいな定番観光地とショッピング。ひたすら清潔な街並みと欧米並みの物価・・・アジアの混沌に浸りたい旅人にとっては物足りないイメージしかないのだろうが、シンガポールは21世紀に入って「アートによる観光立国」を目指し、新たな美術館建設やビエンナーレの開催など、矢継ぎ早に大胆なプロジェクトを実現させている。「カネはあるけど文化はない」というイメージも今は昔。ソウルと並んで、アジアのアート・ハブを目指す競争の先頭を競っているのが、現在のシンガポールでもある。10月27日からは5回目となるシンガポール・ビエンナーレが始まったばかりだが(来年2月26日まで)、それに先行して9月末から11月5日までシンガポールSTPIで開催中なのが大竹伸朗展『Paper ― Sight』。会期末ぎりぎりになってしまい申し訳ないが、今週は作家自身による制作日記も含めて、このユニークな展覧会の模様をお伝えする。

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手芸のアナザーサイド 1 山さきあさ彦の「山ぐるみ」

「手芸」という言葉に引かれるひとと、惹かれるひとと、ロードサイダーズ界隈にはどちらが多いだろうか。おかんアート系はともかくとして、「手編みのセータ-」みたいな普通の手芸をこのメルマガで取り上げようと思うことはなかったが、アウトサイダー・アーティストには布や糸や毛糸を素材に、すごくおもしろい作品をつくるひとがたくさんいる。そしてこのところやけに気になるのが、アウトサイダーとは言わないまでも、図面を見ながら編んでいくような手芸とはまったく別次元の、セルフトート=自分でてきとうに縫ったり編んだりしている、ようするに紙やキャンバスと絵の具の代わりに、布や毛糸を使って生み出された「柔らかい立体」としての手芸作品。今週と来週の2回にわたって、ふたりの作家による手芸のそんなアナザーサイドを紹介してみたい。

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手芸のアナザーサイド 2 ミクラフレシアと「ニット・オア・ダイ」

先週の「山ぐるみ」に続いてお送りする、セルフトート手芸の最前線。図面を見ながら編んでいくような手芸とはまったく別次元の、自分でてきとうに縫ったり編んだり、ようするに紙やキャンバスと絵の具の代わりに、布や毛糸を使って生み出された「柔らかい立体」としての手芸作品のつくり手たち。今週は東京在住のアーティスト「ミクラフレシア」をご紹介する。世界最大の花にして毒々しい臭いを放つラフレシアと、ご自身の名前である「ミカ」を組み合わせたというミクラフレシア。怪獣、妖怪、巨大蛸、蛾、異形の人間・・・ふつうの手芸のかわいさとはかけ離れた物体でありながら、だれもがまず「かわいい!」と口走ってしまうにちがいない、キュートとグロテスクとシュールが鍋で煮詰められたような、なんとも不思議な立体作品を生み続けている手芸作家だ。

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ホームレス排除アートをめぐって

すでにFacebookページを読んでくれたかたもいらっしゃるでしょうが、ずっと前にブログで書いた「ホームレス排除アート」の記事が、すごい数のリーチになってます。もともとはツイッターからですが、リツイート数を見たテレビ局から、たぶん「ホームレス 排除 アート」とかで検索して探し当てたのでしょう、「写真使わせてほしい」との連絡があり、それで2009年のブログ記事をメルマガ事務局のほうでFacebookページにアップしたのが経緯。ホームレス排除アートについてはもともと、『ART iT』という美術誌の連載で2004年に書いたもの。それが2009年になって『現代美術場外乱闘』という単行本に収められたので、「そういえばあれからどうなったのかな?」という確認もしたくて排除アートがあった場所を再訪、ブログに書いたのでした。

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ピエール・ユイグの映像が異界へと僕らを・・・

2012年からスタートしたこのメールマガジンも、来週号で6年目に突入。年を追うごとに肥大化しているのはご存じのとおりだが、毎週というペースでこれだけ長々と書いていても、紹介しきれないイベントがたくさんある。いま表参道のエスパス・ルイ・ヴィトン東京で開催されているピエール・ユイグ展も今年6月から前期が始まり、9月末からは後期になっているのに、2017年1月9日に閉幕する直前での紹介になってしまった。すでにご覧になったかたもいらっしゃると思うが、こんなタイミングでの掲載をお許しいただきたい。ピエール・ユイグ(Pierre Huyghe)は1962年パリ生まれの現代美術家。映像とインスタレーションをおもな活動領域として、1990年代末から頭角をあらわし、2001年にはすでにフランス代表としてヴェネツィア・ビエンナーレに出展、審査員特別賞を受賞している、ベテラン・アーティストである。

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ファンタジーの戦争と、現実の戦争のはざまで――生頼範義展に寄せて

年末のばたばたをやりくりして慌ただしく宮崎を訪れたのは、アートセンターで開催中の『生頼範義展III THE LAST ODYSSEY』を、どうしても観ておきたかったから。生頼範義(おおらい・のりよし)は書籍カバーや挿絵、映画ポスターなどの分野で活躍したイラストレーター。1935年兵庫県明石市に生まれ、2015年に宮崎で亡くなったばかりである。享年79歳だった。『宮本武蔵』をはじめとする吉川英治の多くの著作や、平井和正の『ウルフガイシリーズ』『幻魔大戦』、小松左京の『日本沈没』、創元SF文庫の『レンズマン・シリーズ』などの小説類がある。ジョージ・ルーカスから依頼を受けた『スターウォーズ 帝国の逆襲』の国際版ポスターや、1984年の復活以来の『ゴジラ』シリーズなど、多くの映画ポスターもある。

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エレクトロメカノマニアック――パリのジルベール・ペール展

もうこのメルマガではおなじみの、パリのアウトサイダー・アート専門美術館アレサンピエールで、ジルベール・ペール展が開催中だ。2015年10月21日配信号で、この不思議なアーティストのアトリエ訪問記『機械仕掛けの見世物小屋』を掲載したが、今回は満を持しての大規模個展。サブタイトルを「L'ÉLECTROMÉCANOMANIAQUE」=エレクトロ+メカ+マニアックと題したこの展覧会は、アレサンピエールの広い2フロアをまるごと使った、ペールの集大成ともいえるコレクション。当初は去年9月から今年2月までの予定だったが、好評につき4月23日まで延長が決まっている。トレンディな現代美術でもなければ、ノスタルジックな古典美術でもない。機械仕掛けの楽しさと、見世物小屋のブラックユーモアが渾然一体となって、しかし総体として「アート」としか表現しようのない、素晴らしくチャーミングな体験空間になっている。

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聖アドルフの脳内宇宙展

最近は閉幕間際の展覧会紹介が多くて申し訳ないが、今週末(2月26日)まで『アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国』展が兵庫県立美術館で開催中だ。ただし、本展はこのあと名古屋市美術館、東京駅ステーションギャラリーと巡回するので、神戸展に間に合わないかたはぜひ、名古屋か東京でご覧いただきたい。名古屋展では僕もトークさせていただく予定になっている。アール・ブリュット/アウトサイダー・アートの先駆的存在として、アドルフ・ヴェルフリはもっとも有名な作家のひとり。本メルマガでも2015年3月4日配信号で、滋賀県近江八幡での展覧会を紹介したが、それほど重要な作家であるにもかかわらず、今回の展覧会がヴェルフリの大規模な個展としては、日本で初めてとなる。

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ここにも板極道あり――藤宮史の木版漫画

いま、漫画家のデジタル化はどれくらい進んでいるのだろう。紙にペンで描くひとと、タブレットを使うひとはどれくらいの割合なのだろうか。激変する漫画の作画環境のなかで、というか外側で、なんと木版画で漫画を描き続ける作家がいる。藤宮史(ふじみや・ふひと)、52歳。昨年秋に2冊目の商業出版による作品集『木版漫画集 或る押入れ頭男の話』を発表。その原画(つまり版画)を抜粋して展示する展覧会が、いま中野区新井薬師前のギャラリー「35分」で開催中だ。まずコンテを描き、それをトレーシングペーパーに写し、それを版木に写して彫り、摺り、できあがった版画にテキストを貼り込んでようやく版下が完成、印刷に入るという、まるで時代に逆行する「コストパフォーマンスの悪い」(本人談)やりかたで、もう10年間も漫画をつくってきた藤宮さんとは、いったいどんなひとなのだろう。今年で22年目という阿佐ヶ谷のはずれのアパート(六畳と台所、風呂無し)に訪ね、お話をうかがうことができた。

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小松家の大移動展

2014年12月17日号で、小松葉月という風変わりなアーティストを紹介した(『生きて痛んで微笑みがえし――小松葉月のパーソナル・アート・ワールド』)。1991年生まれの小松さんは当時、多摩美術大学の学生だったが、あれから大学院に進み、ちょうど院を卒業する時期を迎えている。そんなタイミングで「展覧会を開くので、見に来てください」とお誘いを受けた。どこの画廊か美術館かと思ったら、場所は「自宅」。3月12日から16日までの5日間だけ。それも招待客のみで、何人招いたのか聞いてみたら、「ぜんぶで4人」! 『小松家 大移動展』と題された、その風変わりな展覧会を拝見に、実家でもある湘南の瀟洒なお宅を再訪した。

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チンコマン襲来!――石川次郎フランス巡回展

それがアートでも音楽でも文学でもいいのだけれど、メールマガジンで取り上げる創作者の多くは、世間にあまり認知されていないひとびとだ。そこには「こんな才能が埋もれていた!」という発見のうれしさもあるけれど、「こんな才能がどうして埋もれたままなのか!」という憤りのほうが大きい場合もたくさんある。漫画というジャンルでずいぶん前から気になっていて、世間にもっと認知されない理由が理解できない才能の持主が、石川次郎だ。僕が石川次郎と書くと、編集者としての師匠であり『トゥナイト2』の次郎さんでもあるほうを思われる方が多いだろうが、今回の石川次郎は1967年生まれ、今年50歳になる同姓同名の漫画家。2014年フランスのマルセイユ/セットで開催された『マンガロ』『ヘタウマ』展(2014年11月12日号参照)で、ようやく知り合うことができた。

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妄想版・夜の昭和史

描くもの、書くもののイメージと、本人の見かけがかけ離れているというのはよくあること。僕もそう言われることが多いが、2016年に『女たちの夜』というZINEのような作品集を、作者である吉岡里奈そのひとから手渡されて、「え、これ描いたんですか?」と、かなりとまどったのを覚えている。目の前に広げられたお色気熟女(とオヤジ)がプンプン振りまく昭和の匂いと、目の前にいる華奢な女の子の見かけが、どうしてもうまく合わさらなかったからだ。2015年に初作品集である『女たちの夜』を、2016年には「日本一展覧会を観る男」として本メルマガでもおなじみの山口“グッチ”佳宏プロデュースによる小作品集シリーズ「ミッドナイト・ライブラリー」で『eat it』を発表した吉岡里奈が、この5月23日から『女體名所案内』という、これまた昭和の夜の匂いにまみれた絵画展を開催する。

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かずおさんのこと

名古屋駅から近鉄に乗って約1時間、三重県の津駅に降り立つと、改札口でふたりが待っていてくれた。不思議な女性の絵ばかり描いているひと、と聞いて会ってみたくなった「かずお」さんと、彼を紹介してくれた画家の倉岡雅(くらおか・まさし)さんだった。とりあえず駅前の喫茶店に入って、テーブルいっぱいに画用紙を広げながら、かずおさんが次々に見せてくれる絵・・・それらは激しい色遣いで描かれた女性たちが、激しい色彩の背景に浮かんで、サイケデリックなトリップ感を放射しながら、同時に一種病的な圧迫感も漂わせる。それが目の前で微笑みながらコーヒーを啜っている無口な本人の印象となかなかフィットしなくて、僕にかずおさんのことをもっと知りたくさせるのだった。

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心のアート展・印象記

2009年の第1回以来、8年で6回目となる今回の展覧会は、東京都内の精神科病院で構成される一般社団法人東京精神科病院協会(東精協)に加盟する29施設462作品の応募から選ばれた243点が展示された。芸術劇場のギャラリーはアートに特化した展示室ではないのだが、広い空間を埋めた多量の作品群は圧倒的なエネルギーに満ちて、観終わるころにはかなりの疲労感を覚えるほどだった。回を重ねるごとに病院やスタッフ、また会場を訪れる作家たちが刺激しあってなのか、過去3回ほどの展覧会を観ている僕の目にも参加作品全体のレベルアップが顕著で、それは「アート」と「アウトサイダー・アート」の区別をますます無意味に感じさせる体験でもあった。短い開催期間で、観に行けなかったかたたちのために、今週は『第6回 心のアート展』から印象に残った作家と作品を紹介させていただく。

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銅版画家・小林ドンゲ

会期終了間近の紹介になってしまい恐縮だが、佐倉市立美術館でいま『収蔵作品展 小林ドンゲ――初期版画を中心として』が開催中だ(7月17日まで)。千葉の佐倉にはDIC川村記念美術館や国立歴史民俗博物館もあるので、休日の展覧会巡りで訪れるひともいるだろう。小林ドンゲという不思議な響きの名前を持つ銅版画家は、そんなによく知られているわけではないと思うけれど、古くからのファンも、若い世代の支持者もいて、2004年には同じ千葉県の菱川師宣記念館で大規模個展が、また2015年には銀座ヴァニラ画廊でも展覧会が開かれている。堀口大學の詩集の装丁なども手がけたので、文学からドンゲの仕事を知ったファンもいるかもしれない。

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嫌われしものの美

それは縦横70センチほどの絵だった。銅色で覆われた画面の中央に、なんの鳥だろう、崩れかけた死骸がある。その周囲をびっしり取り巻く点々は、目を近づけてみれば無数の蛆虫なのだった。言葉で説明するとグロテスクに聞こえるが、その光景に気持ち悪さは微塵もなく、むしろ命のかけらが鳥から蛆虫へと受け渡されようとする瞬間の、ある種の神々しさがそこには漂っているようだった。蛆虫、アリ、ムカデ、ユスリカ・・・そういう「嫌われもの」を好んで画題に取り上げ、緻密な日本画で表現する作家、それが萩原和奈可(はぎわら・わなか)である。萩原さんを知ったのは、本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊が主催する公募展の審査で、『HEROES』と題された鳥の死骸と蛆虫の作品に出会ったときだった。第5回を迎えた2017年度の「公募・ヴァニラ大賞」で、僕は萩原さんの作品を「都築響一賞」に選び、他の作品も見たくなって彼女が両親と暮らす茨城県龍ケ崎市の家にお邪魔させてもらうことにした。

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札幌国際芸術祭フリンジ・ツアー

いつのまにか夏といえば芸術祭の季節になってしまった。今年も横浜トリエンナーレをはじめ、大小さまざまのアートフェスがスタート。すでに夏休みの予定に組み入れているかたも多いだろう。先週号の告知でお伝えしたように、札幌国際芸術祭2017も8月6日から始まっている。いまは亡き北海道秘宝館の写真と動画展示という小さな企画で僕も参加、先週の開幕直前に設営がてら会場のいくつかを回ってみたので、気になった展示のいくつかをご紹介してみたい。第1回の2014年から3年ぶりとなる今年の第2回・札幌国際芸術祭。前回はゲストディレクターに坂本龍一を迎え、なにかと派手なイメージだったが、今回のゲストディレクターは大友良英。

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鉄彫家・藤井健仁のメタルマシン・ミュージック

何年かにいちど「日展」に足を運ぶたびに、いちばん興味をそそられるのが彫刻部門だ。広い展示室がまるで、公園から集められてきた男女像が詰め込まれた倉庫というか、彫刻の森状態になっていて、その大半はブロンズ像なのだが、あるときそれがブロンズではなく「ブロンズ加工」されたFRP(強化プラスチック)なのだと気づいて啞然とした。ブロンズは制作が大変だが、FRPの表面にブロンズ加工すれば簡単だし、扱いも楽ということらしい。FRPの生地のままにしておいたら、ずっとかっこいいのにと思ったが、彫刻業界では素材による上下関係があるようで、ブロンズや大理石といった高価な素材が立派で、コンクリートやプラスチックなど、僕らの日常になじみ深い素材は一段劣る扱いを受けてきた気がする。鉄もまた、日常ありふれたマテリアルでありながら、彫刻業界ではマイナーな素材だ。その鉄を使って、これもかつてはメインだったが、現代美術のなかではもはやマイナーな彫像や人形をつくり続けている鉄彫作家が藤井健仁(ふじい・たけひと)だ。

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短距離走者の孤独――岸本清子展に寄せて

かつては名古屋経済の重鎮たちの邸宅が並び、シロガネーゼならぬシラカベーゼ(どちらも死語)の発祥地でもある名古屋屈指の高級住宅街・橦木町。「文化のみち」と名付けられた風情ある一画にある小さな画廊Shumoku Galleryで、『岸本清子展』が開催されている(9月30日まで)。岸本清子(きしもと・さやこ)は1939年名古屋市生まれ。多摩美大在学中から「ネオ・ダダイズム・オルガナイザー」グループ唯一の女性作家としてスキャンダラスな活動を繰り広げ、40代からは名古屋に拠点を移して、闘病生活を送りながら激しい創作活動を続けたが、1988年に49歳の短い生涯を閉じている。

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百島のクロスロード

瀬戸内海、百島(ももしま)。観光地として人気の尾道に7つある有人島のひとつ。尾道港からフェリーで45分、高速船なら30分足らずで着いてしまう、周囲12キロの小さな島だ。終戦後のピーク時には3000人近くいた島民人口は、いま450人ほど。信号機もコンビニもない。飲食店もスナックも、ホテルも民宿もない。放棄された空き家の数は100を超えるという。そんな島の、閉校した中学校校舎を利用したアートセンターが『アートベース百島』だ。犬島アートプロジェクトなど、瀬戸内エリアでの活動が近年きわだつ現代美術作家・柳幸典(やなぎ・ゆきのり)を中心に生まれたアートベース百島は、2012年オープン。開館記念展のあと2014年には企画展『CROSSROAD 1』が、そしていま開館5周年を記念して『CROSSROAD 2』が開催中(12月3日まで)。

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シュリグリー的「バカの壁」

思い返してみると、子どものころにいちばん惹かれたのはイギリス/アイルランド文学のユーモア感覚だったかもしれない。『ドリトル先生』や『アリス』はもちろん、『ガリバー旅行記』からジェローム・K・ジェロームの『ボートの三人男』まで読み耽っているうちに、たしか中学の終わりくらいにテレビで『モンティ・パイソン』が始まり・・・皮肉と笑いが絶妙にブレンドされた、あのブリティッシュ/アイリッシュ・ユーモアとしか表現しようのない感覚に、深く影響されていったのだった。バーナード・ショーがイサドラ・ダンカンだかサラ・ベルナールだかの「あなたの頭脳と私の肉体を持った子どもが産まれたら、どんなに素晴らしいでしょう」という口説きに、「私の肉体とあなたの頭脳を持った子どもが産まれたら大変ですよ」と返したという有名な逸話を読んで、こんな切り返しができるオトナになりたいと憧れるような、ヒネた少年時代だった(ちなみにドリトル先生シリーズはアメリカで発表された作品だが、作者のヒュー・ロフティングはイギリス人)。水戸芸術館で開催中のデイヴィッド・シュリグリー『ルーズ・ユア・マインド——ようこそダークなせかいへ』展を観て、久しぶりに濃厚なブリティッシュ・ユーモアを堪能することができた。「ルーズ・ユア・マインド」とは、「正気を失え!」みたいな感じだろうか。

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佐賀町エキジビット・スペースのこと

「佐賀町エキジビット・スペース」と聞いて懐かしく思うひとは、いま50~60代の現代美術ファンだろうか。茅場町や水天宮から東に向かい、隅田川にかかる永代橋を越えた先、運河に面した一角はかつて米倉庫が並んでいたという。その一角、「食糧ビル」(旧・東京回米問屋市場)と呼ばれた建物にあったのが佐賀町エキジビット・スペース。1927(昭和2)年というから関東大震災の4年後に建てられた、いかにも昭和モダンらしい歴史的建造物だった。エキジビット・スペースはその3階、以前は会議室やパーティ会場として使われていた場所を使い、1983年にオープン。2000年の閉館までおよそ17年間にわたって、東京屈指のオルタナティブ・スペース(美術館でも商業ギャラリーでもないという意味で)として機能してきた。ここを中心に現代美術関係の施設が増えていく動きも一瞬あったけれど、いつのまにか立ち消え。食糧ビルはすでに取り壊されて高級マンションになっていて、この一帯に残っていた昭和の下町感覚もすっかり消し去られている。 高崎の群馬県立近代美術館では「佐賀町エキジビット・スペース 1983-2000現代美術の定点観測」を開催中だ。

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不自由で自由な表現展――BABU復活個展@ギャラリーSOAP

先週号でお知らせしたように、北九州小倉のギャラリーSOAPで、BABU個展「障害+ART 50-0」が始まっている。会期中に記事をあげたくて、急いで観に行ってきた。「障害+ART」と題されているけれど、本メルマガでも何回か取り上げたBABUはアウトサイダー・アートやアール・ブリュット系の作家ではない。昨年(2018年)5月、まだ30代の若さで脳梗塞に倒れ、脳の3分の1を失うという危険な状態におかれながら驚異的な回復力で復活、リハビリに励みながら制作してきた1年あまりの新作を集めた、復帰後初個展なのだ。

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工房集の作家たち3 長谷川昌彦

前回の大倉史子に続いて、埼玉県川口市の工房集につどう作家たちから、今週は長谷川昌彦(はせがわ・まさひこ)を紹介する。10月16日に配信した第1回記事で、工房集は埼玉県内に施設や事業あわせて22ヶ所を運営する社会福祉法人みぬま福祉会の一部であることをお話しした。今週紹介する長谷川昌彦は工房集と一体運営されている「川口太陽の家」に所属する作家である。障害者の「働く権利」を模索する過程で、単純作業から表現活動へと幅を広げてきた川口太陽の家では、いまステンドグラスづくりが盛んで、明るい作業室には各種作業機器が揃っている。平面作品や立体のオブジェ、照明器具の笠にガラスコインアクセサリーまで、仲間(施設利用者)たちが生み出す作品はさまざま。そんなカラフルな環境で、ひとりだけ鈍い銀色のかたまりに取り組んでいる青年がいた。

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工房集の作家たち4 齋藤裕一

埼玉県川口市の工房集につどう作家たちを紹介する連続企画、今週は工房に所属するうちでもっともよく知られ、展覧会やアートフェアでの発表も多い作家のひとりである齋藤裕一(さいとう・ゆういち)を紹介する。齋藤さんは1983年生まれ。重度の知的障害を持ち、工房集には2002年の開所と同時に通うようになった。たとえば家の鍵を閉め忘れたか、ガスを消したかとかが気になって何度も確認してしまう、そうした無意味な行動を止められないことを強迫性障害と呼ぶ。

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工房集の作家たち5 杉浦篤

埼玉県川口市の工房集につどう作家たちを紹介する連続企画、今週は工房に所属しながら、ふつうの「作家」とは少し異なるスタンスで作品を発表する杉浦篤(すぎうら・あつし)を紹介する。埼玉県川口市の工房集には、入口に小さなギャラリーがあって、所属作家の作品がいつも飾られている。最初に訪れたとき、もっとも興味を惹かれたのが、というより見たとたんに動揺させられたのが、杉浦さんの作品だった。これがなんだか、見てとれるだろうか。それはもともとサービス版かもう少し小さいくらいの写真プリントの、表面がすり切れ、角がちぎれ欠けて、丸みを帯びた、イメージの破片なのだった。

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工房集の作家たち6 横山涼

埼玉県川口市の工房集につどう作家たちを紹介する連続企画、6回目となる今週は横山涼(よこやま・りょう)を紹介する。陽射しが明るい窓際の席で、白いワイシャツのボタンを首元まできちんと留めた青年が、一心に木片を削っていた。うっすら生やした髭が、かえって若さを引き立たせている彼の名は横山涼。1988年生まれ、2008年からグループ内の「浦和太陽の家」に通い始め、2012年からはそれまで暮らしていた実家を離れ、ホームに入所して制作を続けている。横山さんには知的障害があるそうだが、質問にもきちんと答えてくれるし、穏やかな口調に接していると、ここが障害者施設であることを一瞬忘れそうになる。「でも、来た当初はぜんぜん違ってて、大変だったんです」と案内してくれたスタッフのかたが教えてくれた。

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工房集の作家たち8 金子慎也

この連載の11月6日号で紹介した「ハンダの延べ棒」をつくる長谷川昌彦さんの制作風景を覗かせてもらいに、工房集のすぐそばにある通所施設・川口太陽の家を訪ねたときのこと。施設の中を案内してもらっているときに、棚の上に白いカタマリがずらっと並んでいるのが目に入った。ウズラの卵ほどのそのカタマリは、ふうっと息を吹きかけるだけで転がってしまいそうに儚げでありつつ、よく見るとひとつずつ微妙に形態が異なっていて、ものすごく小さな大理石彫刻みたいでもある。こんなに不思議にデリケートな造形をだれが?と尋ねたら、部屋の窓際で職員のおねえさんに抱きかかえられている金子慎也さんがその作者なのだった。

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工房集の作家たち9 関口忠司

これまで工房集にかかわる作家たちの作品として、絵画、コラージュ、立体といろいろなジャンルを紹介してきたが、今週は書を自分の表現に選んだ関口忠司(せきぐち・ただし)にお会いいただく。関口忠司は1963年生まれ、工房集が属する社会福祉法人みぬま福祉会の施設のひとつ、埼玉県蓮田市にある「蓮田太陽の里 大地」で生活する作家である。すぐそばには埼玉緑のトラストに指定された湿地・黒浜沼があり、豊かな自然に囲まれた施設に、関口さんは個室を得て18年暮らしている。その前には開所第1期生として白岡市の太陽の里に10年間いたので、みぬま福祉会ともうすぐ30年間のお付き合いということになる。

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工房集の作家たち・特別編:knock art 10

昨年10月から先週まで9回にわたってお送りしてきた「工房集の作家たち」シリーズ。今回はその特別編として、工房の作家たちも多数参加し、12月4日から8日まで埼玉県立近代美術館で開催際された第10回埼玉県障害者アート企画展「knock art 10 ―芸術は無差別級―」の誌上レビューをご覧いただきたい。なお「工房集の作家たち」シリーズは1月にまた取材を重ねて、セカンドシーズンをお送りする予定。かなりヘヴィ級が登場しそうなので、お楽しみに! 「knock art 10」は埼玉県内の障害者関連施設に入所/通院しながら制作を続けている作家たちが、一同に会する大規模グループ展。一昨年は「うふっ♡こんなのみつけちゃった♪」、昨年は「ソニックブームうふっ」と毎年微妙なタイトルがつけられているのだが、今年は10周年ということと、「多彩な表現にノックアウトされたながら出展作家が選考」されたので、「パワー溢れる無差別級のノックアート」になったのだそう。

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FINDING TSUKIJI ― 築地を教わる

先週に続いて送る築地魚市場の記録、今週はイギリスのアーティスト/デザイナーであるジェイク・ティルソンによる野心的なプロジェクト『FINDING TSUKIJI』をご紹介する。先週の台湾人写真家・沈昭良のストイックなドキュメンタリーとはまったく別種の、きわめてポップなTSUKIJIをお楽しみいただきたい。ジェイク・ティルソンと知り合ったのはもう30年ほども前のこと。当時刊行を始めた全102巻の現代美術作品集「アート・ランダム」の第34巻として、コラージュや立体を集めた作品集をつくらせてもったのだった(ArT RANDOM vol.34 Jake Tilson、京都書院刊)。

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犯罪とアートのあいだに――ニューヨーク・グラフィティの時代

20歳だった自分のことを「それが人生でいちばん美しいときだなんて、だれにも言わせない」と書いたのはポール・ニザンだったが、1978年に22歳だった僕は生まれて初めてニューヨークに行って、その醜さと美しさに飲み込まれ茫然自失だった。いまから40年前のニューヨークは、いまのニューヨークとは別の場所だった。街はものすごく汚くて、サウスブロンクスまで行かなくても、いまやトレンディなイーストヴィレッジだって廃墟だらけだったし、街角では浮浪者みたいな男や女がドラム缶に木ぎれをぶち込んだ焚火で暖を取っていたし、地下鉄のホームに立って線路を走るネズミを見ていると「後ろから線路に突き落とすのが流行ってるから、あんまりホームの端に近づくな」と真顔で注意されたながら、轟音と共にホームに突っ込んでくる、全面グラフィティに覆われた地下鉄車両の姿に見とれて動けなくなったりしていた。映画の『タクシードライバー』が1976年、『サタデーナイトフィーバー』が77年、愛すべきB級『ウォーリアーズ』が79年、そして『ワイルドスタイル』が83年。そういうニューヨークが、そこにあった。

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エロ本とスニーカー

「おもしろいエロ本あります」と言われて届いたのは、ものすごく手作り感あふれる、しかしハードカバーの小さな本が数冊。A4を4つ折りにした、パスポートと同じくらいのサイズで、表紙には『青少年教育マガジン わかば』とある。して中味は、と急いでページをめくると18禁の写真とかはどこにも見当たらず、脈絡のない無意味なスナップが続き、しかしよく見てみるとそこはかとなくウフフな感じのエッチな気分が漂うという・・・・・・ひねくれたエロ本とつくりながら、同時に手がけている「手づくりスニーカー」を集めた展示即売会が、再開したばかりの渋谷PARCO内の「Meets by NADiff」で始まっている(6月1日から)。

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バンコク・ドリーミング――ひとりだけの地図の先に (写真:塚原悠也)

東京に降り立った外国人が最初に驚くこと、それは「グラフィティがない!」都市風景だ。羽田のモノレールからは運河沿いにちょこっと見えるが、まあほぼ皆無。世界中でこれほどゼロ・グラビティならぬゼロ・グラフィティな大都市って、僕はほかに上海など中国本土ぐらいしか知らない。 本メルマガでは世界のいろいろな都市のグラフィティをこれまで紹介してきたが、今年3月25日号ではタイ・バンコクのグラフィティ・シーンをご覧いただいた。記事で紹介したのが別名「グラフィティ・パーク」と呼ばれる、ラチャテウィー駅近くのチャームラー公園。しかしその同じラチャテウィー界隈を拠点にバンコク市内全域で、ほかのどんなグラフィティ・ライターともまったく異なるスタイルの、もはやグラフィティと呼ぶべきかアートと呼ぶべきか判断に苦しむ独自のグラフィック表現を展開する、それもホームレスの初老の男性がいるという事実を、僕はつい最近まで知らなかった……悔しい!

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なんだかわからないピーター・ドイグ

お小遣いあげるから旅行してきなと背中を押され、けど東京都民だけはどこも行っちゃダメと言われ、しょうがないので都内で再開した美術館やギャラリーに足を運ぶ日々。先週はようやく、竹橋の国立近代美術館で開催中の『ピーター・ドイグ展』に行ってきた。 展覧会が始まったのは2月26日、しかし新型コロナウィルス感染防止で29日から臨時休館(わずか3日の展示期間!涙)、しかし6月12日にめでたく再開して10月まで会期延長される話題の展覧会。もう見てきたというひとも多いだろうし、SNSなどにも感想がたくさんアップされている。現代美術業界ではもちろん有名な作家であるものの、正直言って日本でそれほどポピュラーではなかったと思うし、今回が日本では初めての個展だが、毎日たくさんの観客を集めているようだ。メディアの報道よりも、SNSでのクチコミで情報が拡散している気がする。

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永遠不滅の水森亜土

本郷の東京大学裏手から上野不忍池に抜ける坂にある弥生美術館。いま「いつみても、いつでもラブリー♥ 水森亜土展」を開催中だ(10月25日まで)。 歌を歌いながらアクリルボードに両手でお絵かきするパフォーマンスで知られるイラストレーター・水森亜土。 子どもの頃から親しんでいるけれど、大人になった今も大好き!という方は多いでしょう。 とびきりラブリーでハートウォーミング、またセクシーでビターな味わいもある亜土作品には、時を超えたユニークな魅力があります。 本展覧会では亜土が「絶対に売らない」と決めている秘蔵の絵画作品やグッズの原画を大公開! 歴代〈亜土グッズ〉を700点超!を展示します。日本橋で生まれ育った亜土がみた、古きよき東京の魅力もご紹介します。 (公式サイトより) 水森亜土を知らない日本人って、いるのだろうか。1939年生まれ、いま80歳。子どものころは地元・東京日本橋の川にいかだが行き交っていたという時代に育ち、ジャズ・シンガー、童謡やアニソンの歌手・声優、イラストレーター、劇団の看板女優・・・・・・「肩書」という言葉がまったく無意味な縦横無尽の活動で、いまも現役。可愛らしい怪物である。

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ロンドン猫の妄想大冒険

コロナ禍のアート、みたいなテーマで世界中にさまざまな取り組みが提案されて、オンラインミュージアムから「あつ森」の盛り上がりまで、1年前には想像もできなかった動きが次々とインターネット上で展開している。メガ・ミュージアムが本気で取り組むプロジェクトも興味深いが、アーティストが個人で配信する、ささやかな企画や作品もまた愛おしい。 今年1月8日配信号「FINDING TSUKIJI ― 築地を教わる」で紹介したイギリス人アーティスト、ジェイク・ティルソン。ロンドン中心部から30分ほど電車に乗った南部の郊外ペッカムで、彼もまたもはや半年以上自主引きこもり中。ちなみにペッカムという街は、かつてはあまり治安がよくない場所とされていて、そのかわりスクウォットされた建物で大規模なクラブイベントが開かれたり、アンダーグラウンド文化では先鋭的な場所だったのが、いまやロンドン屈指のトレンディ・タウンとなっている。 ジェイクはペッカムに妻の陶芸家ジェニファー・リーと、やはり画家である24歳の娘ハンナ、それに愛猫と住んでいるが、娘のハンナはいま別の場所で制作中。「娘と会えないので、我が家の猫をテーマにしたマンガの小冊子をPDFでつくってみました!」というお知らせが先日届いた。タイトルは『NINJA PEANUT』。

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大竹彩子とめぐる「GALAGALA」

毎週のようにいろんなアーティストを紹介しているけれど、そのほとんどは取材のために初めて会ったり、リモートでお話を聞くひとたち。しかし今回はもともと親しい、というより生まれたときから知ってるので非常に書きにくい・・・・・・渋谷PARCOミュージアムで個展「GALAGALA」が始まった大竹彩子のことだ。 彩子ちゃん(と敢えて呼ばせてもらうと)はご存じのとおり大竹伸朗くんの長女。1988年宇和島生まれ。小さいころは剣道少女だった気がするが、大学進学で東京に上京。そのときは美大ではなかったが、卒業後1年間宇和島に帰ったあとロンドンに渡ってアートカレッジの名門セントマーティンズでグラフィック・デザインを学んで帰国した。そのころからロンドンやシンガポールで展覧会を開くようになり、日本では2018年に六本木のギャラリーART UNLIMITEDで開いた「KINMEGINME」が最初。

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芦屋の時間

「阪神間」という言葉には、単に大阪と神戸のあいだという地域を指す以上の、独特のニュアンスがある。20世紀初期の阪神間モダニズムが象徴するような、近代的で上質な文化生活。いまで言えば「#ていねいな暮らし」みたいな、というと刺があるように聞こえてしまうかもしれないが、歩いてみれば「ああ、こういうとこでゆったり暮らせたらなあ」と思わずにいられない、確かな居心地良さがあるのは確か。 その阪神間で隣り合う芦屋と西宮にある、ふたつの美術館を回ってきた。芦屋市立美術博物館で開催中の『芦屋の時間 大コレクション展』と、西宮市大谷記念美術館の『没後20年 今竹七郎展』。会期は芦屋が11月8日まで、西宮が12月6日までなので今週は芦屋、来週に西宮の展覧会を紹介するが、両館のあいだは2キロちょっと、歩いても30分足らず。気になったら、ぜひふたつあわせてご覧いただきたい。

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とろとろのりんごのわたし――友沢こたお「Pomme d'amour」

小説家は作品を重ねるにしたがって円熟していくけれど、詩人は最初の作品でいきなり高みに達してしまうことがある、と言ったひとがいた。スタートしたとたんにトップスピードに乗る、みたいな。音楽にもそういうことがあるけれど、アートの場合はどうなのだろう。 本メルマガではもうおなじみ、新御徒町のモグラグ・ギャラリーでいま友沢こたお個展『Pomme d'amour』が開かれている。タイトルの「ポム・ダムール」はフランス語でりんご飴を意味する。直訳すれば「愛のりんご」。とろとろの飴がかかった果実。ちなみに「pomme d'Adam」(アダムのりんご)になると喉ぼとけのこと。イヴに差し出されアダムがかじってしまったりんごが喉に引っかかったことから来ているが、「ポム・ダムール」にはそんな禁断のニュアンスも秘められているのだろうか。

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しがみつく綱としての絵――雫石知之「生きたい 死に際」

西荻窪の駅のそばのギャラリーで、すごく不思議な絵の展覧会をやってます!と、メルマガの技術面を担当するスタッフから連絡をもらった。添付してくれたDMには、一見男か女かわからない全裸の人間が、空中に吊り下げられている。縄やフックを使うSM的なサスペンションではなく業務用というか、性的というよりむしろエクストリームなスポーツにも見える吊りの光景で、そこに『生きたい死に際』雫石知之 展というタイトルが乗っていた。 いわゆるフェティッシュ系のアーティストともちょっとちがう雰囲気がある気がして調べてみると、ご本人のTwitterアカウントにこんな自己紹介が載っていた――

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田中一村ができるまで

田中一村は1977年に奄美で亡くなるまでほとんど知られることなく、死後2年経って公民館で3日間だけの遺作展が開かれ、その数年後にNHK『日曜美術館』などで取り上げられていきなり全国的に大ブレイクした「死後発見」組のひとり。奄美には記念美術館があり代表作の多くが収蔵されているが、本土ではときたま開催される展覧会以外に、まとまった数の作品を見られる機会はあまりない。去年夏にリニューアルオープンしたばかりの千葉市美術館では、いま『田中一村展 ― 千葉市美術館収蔵全作品』を開催中だ。

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ポップアーティストとしての三島喜美代

まだまだ気楽に旅行できる状況ではないけれど、先週は日帰りで京都に行ってきた。午前中に東京を発って、夕方には戻りの新幹線に乗っていて、滞在時間4時間ほど。もったいないけどしょうがない。平安神宮に向かって対面する京都市京セラ美術館と、国立京都近代美術館の2館で開催中の展覧会をこれから2回にわけて紹介する。今週は京近美のメイン企画展「分離派建築会100年 建築は芸術か?」……ではなくて、4階コレクションギャラリーで開かれている収蔵作品展の一室、「特集:三島喜美代」という小さな展示から。

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絵画のドレス ドレスの絵画

名前を知ってはいるし地元でもあるけれど、ちょっとだけ遠かったりして行けないままになっている美術館、というのがある。 八王子にある東京富士美術館は都心部から中央線とバスを乗り継いで約1時間半という微妙な距離感。約3万点の作品を所蔵し、「とりわけルネサンス時代からバロック・ロココ・新古典主義・ロマン主義を経て、印象派・現代に至る西洋絵画500年の流れを一望できる油彩画コレクション」(美術館サイトより)は、ルネサンス絵画からルーカス・クラーナハ(父)、アルブレヒト・アルトドルファー、ピーテル・ブリューゲル(子)、ジャン=オノレ・フラゴナール、フランソワ・ブーシェといったオールドマスター、プーシェ、フラゴナールなどのロココ、そしてルノワール、モネ、セザンヌ、ゴッホなどの印象派、さらにはウォーホル、キース・ヘイリングまで日本屈指のコレクション。それも広範な時代をもれなくカバーする裾野の広さが際だつ美術館だ。

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文明開化と21世紀をつなぐ電線絵画

それがバンコクでもプノンペンでもホーチミンシティでもいいけれど、街に踏み出して「あ~~~アジアに来たな!」といきなり実感するのは、あのモワッと湿気を含んだ暑さ。そして建物と道路を黒い毛細血管のように這い回る、おびただしい電線の群れだ。あるときは巨大な糸玉のようにからまりあい、あるときは建物の外壁にエレクトリックなツタのようにからみつく、そういうアジアの電線を見るたびに、僕は急いでカメラを取り出さずにいられない。 電線を空中から地中へ、というのは世界的に、現代の街づくりの必修課題らしい。日本でも当然その工事は進められている・・・・・・はずだが、東京だって大通りはともかく一歩裏通りに入り込めば、そこにはあいかわらず電柱と電線がしっかり居座っている。 西武池袋線中村橋駅からすぐの練馬区美術館では、いま「電線絵画展-小林清親から山口晃まで-」を開催中。絵画にもいろんなくくりかたがあるが、「電線」でまとめられる絵画展というのは・・・・・・かなり珍しいはずだ。

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「ほっこり」より「もっこり」 ――宮田嵐村とはだれだったのか

長野県松本市、といえば国宝松本城だったりサイトウ・キネン・オーケストラだったり草間彌生だったり、いろいろハイブローなイメージが思い浮かぶが、かつては松本といえばまず「松本民芸家具」であった。 あの、いかにも重厚、まさに重くて分厚い風合いが個人的にはどうもなじめなかったが(やけに高額だし)、ずいぶん昔に松本駅近くの民芸土産物屋にふらっと入ったら、店の奥のほうに「道神面コーナー」と記された壁面があり、なんとなくアフリカやオセアニアのプリミティブな雰囲気のお面でありながら、よく見ると顔が男女性器! 道神は道祖神のことだったか・・・・と驚き、値段も手ごろなのでひとつ買って帰った。小さな木彫りの道神面は1月から12月までの暦にあわせて12種類あるというので、誕生日の1月を選んだら、「のぞく」という作品名とともに「不審そうにのぞかなくとも、不浄は払われる」という、よくわからない文句が記されている。

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風間サチコと登る『魔の山』

2月17日号で「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」を特集した東京都現代美術館では現在、地下2Fで「ライゾマティクス_マルティプレックス」、3Fで「マーク・マンダース ― マーク・マンダースの不在」と2本の大型企画展を開催中。さらに1F展示室では「Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021 受賞記念展」として風間サチコと下道基行、ふたりの受賞者による展覧会が開かれている(こちらは無料!)。今週のロードサイダーズではライゾマでもマンダースでもなく、大好きな版画家・風間サチコをがっつり紹介したい。 Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)とは2018年度に始まった新しい美術賞で、「中堅アーティストを対象に、受賞から2年にわたる継続的支援によって、更なる飛躍を促すことを目的に」して賞金や海外での活動支援、作品集の作成、東京都現代美術館での展覧会開催などをサポートするアワードだ。風間サチコと下道基行はその第1回である2019ー2021年度の受賞者で、すでに2020ー2022(藤井光、山城知佳子)、2021ー2023(志賀理江子、竹内公太)までが決まっている。

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病床童夢 ―― JIROX MEALSと今井次郎

美味しそうじゃない食事が、美味しそうに見えない容器に盛られている。 箸をつけたくないな~という気持ちのあらわれのように、ご飯におかずを載せて雪だるまみたいな顔をつくってみたり。バナナの皮を皿から伸ばして手足にしてみたり。 「食べ物で遊ぶんじゃありません!」と、いまどきのお母さんも子どもを叱るのだろうか。 そんなたわいもない「食べ物あそび」の写真が、実は末期癌の患者が入院中に出される食事を病床で撮影したものと知った瞬間、胸が締めつけられて目が離せなくなる。 今年2月の終わりに『JIROX MEALS』と題された小さな写真集が、自費出版でリリースされた。著者としてクレジットされている名前は今井次郎=JIROX。でも今井さんはもう9年前に亡くなっていて、夫人のかやさんと、自身のGallery覚(銀座)、移動展覧会「キャラバン隊」など展覧会の面で支えてきたギャラリスト御殿谷(みとのや)教子さんのふたりによって、『JIROX MEALS』は世に出ることになった。

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虎よ逃げろ! ――大・タイガー立石展@千葉市美術館

スポーツ観戦や演劇はいいのに美術館はダメという不条理な百合子ブシに苦しむ東京のおとなり千葉県では、公立美術館も通常開館中。千葉市美術館では「大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師」が開催されている。英語のサブタイトルが「The Retrospective」とTheで強調されているように、日本のポップ・アートを振り返るときに欠かすことのできない、しかしその全貌がなかなかつかみにくいアーティストでもあったタイガー立石の、決定的な回顧展だ。グループ展などでいくつか作品を見る機会はよくあるけれど、デビューから遺作までこれほどまとまって活動を辿れることはめったになかったので、個人的にもすごく楽しみにしていた展覧会だった。

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読めそうで読めないけど読めそうな「レターズ」へ

渋谷PARCOとは交差点を挟んだ対面に位置する東京都渋谷公園通りギャラリーは、東京都現代美術館のサテライト施設として2020年2月にオープンしたアールブリュット/アウトサイダー・アートに特化した展示施設。本メルマガでは昨年7月8日号で「フィールド⇔ワーク展 日々のアトリエに生きている」、9月16日号で「満天の星に、創造の原石たちも輝く -カワル ガワル ヒロガル セカイ-」と、2つの展覧会を続けて紹介した。その公園通りギャラリーではただいま「レターズ ゆいほどける文字たち」を3月から開催中……のはずが東京都の緊急事態宣言により臨時休館中(涙)。現時点では5月31日までということになっているけれど、この先どうなることか。会期は6月6日までなのに。今週は再開への願いを込めて、アールブリュット/アウトサイダー・アートと文字の関わりに焦点を当てたこの展覧会を紹介してみたい。

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BABU式 YES と NO

ロードサイダーズではもうおなじみ、北九州小倉を拠点に活動を続けるスケーター&グラフィティ・ライター&彫師&現代美術家であるBABU。東京では2017年新宿ビームスジャパン・Bギャラリーでの『BABU 展覧会 愛』から4年ぶりとなる個展『YES NO』が、渋谷PARCO内のギャラリー、OIL by 美術手帖で始まっている。オープニングパーティを兼ねた、先週6月17日のDOMMUNEでの特集をご覧になったかたもいらっしゃるだろうか。

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いのくまさんとニューヨーク散歩

JR高松駅から予讃線で30分足らず、丸亀駅前広場の一角を占める丸亀市猪熊弦一郎現代美術館。その大きさのわりに威圧感がないのは、谷口吉生の設計によるところも大きいだろうが、猪熊弦一郎というアーティストのキャラクターも反映している気がする。 アート好きのひとに人気が高い猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)ではいま、「猪熊弦一郎展 いのくまさんとニューヨーク散歩」と題された企画展を開催中。もともとMIMOCAは1991年、猪熊弦一郎から寄贈を受けた約2万点の作品をもとに開館したが、今回の「いのくまさんとニューヨーク散歩」は、猪熊弦一郎が1955年から73年まで20年間近くを過ごしたニューヨーク時代を、その時期に制作された作品だけでなく、散歩の合間に撮られたスナップ写真や8㎜映像、ギャラリー巡りで集めたフライヤーなどもあわせて見せることで、彼が暮らした60~70年代のニューヨークという場所、過ごした日々、歩いた時間……そこから醸し出される空気感のなかで、生まれた作品を新たな眼で見てみようという企画だ。

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はたよしことボーダレス・アートミュージアムNO-MA

京都駅から東海道山陽本線の新快速で40分足らず、城下町の風情が色濃く残る近江八幡のボーダレス・アートミュージアムNO-MAで「ボーダレスの証明 はたよしこという衝動」が開催中だ。 アウトサイダー・アート/アール・ブリュットと現代美術のシームレスな交感を展覧会というかたちで模索してきたNO-MAは、これまでメルマガでも何度か取り上げてきた。昭和初期の町屋をリノベーションしたNO-MAが開館したのは2004年、はたよしこさんはその開館当時から2019年まで、NO-MAのアートディレクターとして多くの展覧会を企画してきた。ひとりの絵本作家が障害者の創作活動と出会い、NO-MAというユニークなハコを舞台に提示してきた、アートにおける障害と健常とのボーダーを崩す試み。その30年以上にわたる歩みを振り返るのがこの展覧会だ。

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前川千帆展――カワイイの奥にあるなにか

今年5月19日号で「虎よ逃げろ! ――大・タイガー立石展」を紹介した千葉市美術館で、いま「平木コレクションによる 前川千帆展」が開催中だ。 僕は不勉強で前川千帆という名前すら知らなかったが、展覧会サイトの説明によれば「恩地孝四郎・平塚運一とともに「御三家」と称された、近代日本を代表する創作版画家」なのだそう。恩地孝四郎はもちろん好きでいたし、平塚運一は長野の須坂版画美術館・平塚運一美術館で観た、とりわけワシントンDCで暮らした30年以上の時期につくられたアメリカ時代の作品に魅了された。なのでフライヤーに載っている作品も可愛らしかったし、観ておこうかぐらいの軽い気持ちで展覧会に足を運んだら、予想外に充実した内容にびっくり。すぐに取材させていただくことにした。一部展示替えを含んだ前・後期で9月20日までの展覧会。こんな時期ではあるけれど、機会があればぜひ美術館でご覧いただきたい。

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ポコラート記念展――世界は偶然なのか、必然なのか

秋葉原から上野に向かう、地下鉄末広町駅そばのアーツ千代田3331でいま「ポコラート世界展 偶然と、必然と、」が開催されている。僕が中学生だったころはここが隣の学区の錬成中学校だったが、それが人口減少で廃校になったあと、いま東京における現代美術の拠点のひとつになっているのはちょっと感慨深くもある。 アーツ千代田3331が2010年にオープンした当初から続けられている企画が「ポコラート(POCORART)」。今年の「偶然と、必然と、」はその10回目の記念展として、世界22ヶ国の作家50名による作品240点余が集められた、これまでのポコラートとは少々おもむきの異なる展覧会になっている。 そもそもポコラートとは Place of “Core + Relation ART” の略で、その意味は「障がいの有無に関わらず人々が出会い、相互に影響し合う場」なのだそう。

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彼らはメキシコになにを見つけたのか ――「メヒコの衝撃」@市原湖畔美術館

房総半島のほぼ真ん中、巨大な人工湖である高滝湖を臨む丘にある市原湖畔美術館。東京都心からクルマで行けばアクアラインを経由して1時間ちょっとだが、電車だとなかなか大変。アクセス的には難易度高めだが、本メルマガでは2017年04月26日号「房総の三日月」で取り上げ、同じ2017年には「ラップ・ミュージアム」展というヒップホップをフィーチャーした展覧会を開催したり。都心の大きな公立美術館とはちょっと異なるスタンスの、柔軟な企画がいつも気になるミュージアムだ。 その市原湖畔美術館で現在開催中なのが「メヒコの衝撃」展。よくあるメキシコ現代美術展かと思ったら、サブタイトルに「メキシコ独立200周年 メキシコ体験は日本の根底を揺さぶる」というふたつのサブタイトルがついている。これはつまりメキシコを訪れ滞在した体験が、みずからの制作への大きな影響だったり転機となったりした、日本人アーティストたちを集めたグループ展なのだった。

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Walls & Bridges 壁と橋の迷宮で

前回、国立新美術館での「ファッション イン ジャパン」展を紹介したニコニコ美術館から、「東京都美術館で開催中のイサム・ノグチと「Walls & Bridges」を特集するのでどうですか」とお誘いが来た。僕ごときがイサム・ノグチを語るなんて……とたじろぎ、「Walls & Bridges」のほうはあまり気にしてなかったし……とためらったら、「イサム・ノグチは冒頭ちょっとだけで、「Walls & Bridges」のほうをしっかりやりたいんですけど、都築さん気に入りそうな展覧会なので」と押されて承諾。8月21日に生配信された番組をご覧いただいたかたもいらっしゃるかも。コロナ禍で1年延期になったりして、期せずして両方のキュレーションを同時に手がけることになった学芸員の中原淳行さんに案内してもらう2時間半ほどのプログラムだったが、ほぼノーマークだった「Walls & Bridges」がすごくおもしろかったので、今週は当日の会話をなぞりながら展覧会を紹介させていただく。展覧会は10月9日まで開催中。ニコニコ美術館もまだアーカイブ視聴できるようになってます。

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塔本シスコ、日常の楽園絵巻

9月4日から始まっているので、もう行かれたかたもいらっしゃるだろう、世田谷美術館で「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス」が11月7日まで開催中だ。 塔本シスコをこのメルマガで取り上げたのは2013年10月02日号「百年の孤独――101歳の現役アマチュア画家・江上茂雄の画業」で、熊本県荒尾市に住む101歳の現役アマチュア画家、江上さんを取材。そのとき荒尾に隣接する福岡県大牟田市と田川市で彼の小さな展覧会が開かれていて、ちょうど同じ時期に熊本市から南下した宇城市の不知火美術館で始まったのが塔本シスコ展。僕が塔本シスコの作品をまとまって見ることができた初めての機会だった。

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信濃の国の妖怪劇場

文科省の統計によると、全国には1064館の美術館があるそうだ(2015年調べ)。こんな仕事をしているからずいぶんいろんな美術館に行ってきたと思うけれど、それでも全体の1割にも届かないはず。人生の残り時間を考えると、あとどれくらい行けるのか……。そのなかでもっとも美術館の多い県は東京都(88館)ではなく、なんと長野県(110館)。さすが教育県といわれるだけあるが、今回訪れた山ノ内町立志賀高原ロマン美術館も、訪れるのは初めて。本メルマガでは2016年07月13日号「北国のシュールレアリスト――上原木呂2016展によせて」、2020年11月11日号「木呂とマメとBOROの一幕劇」で紹介した上原木呂さんの大規模な個展「上原木呂 妖怪画展 つくも神と百鬼夜行」を観覧に行ったのだった。

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死刑囚表現展 2021、誌上展覧会!

先月(10月20日号)紹介した「死刑囚表現展 2021」。これまでずっと毎年10月に開催される世界死刑廃止デー企画「響かせあおう死刑廃止の声」会場で、絵画や文章作品がロビー展示されてきた。しかし去年に続いて新型コロナ感染防止のために今年も応募作品の全点を展示することができず、かわりに11月5日から7日までの3日間、昨年と同じく中央区入船の松本治一郎記念会館で全作品展示イベントが開催された。 僕が行ったときもかなりの盛況だったけれど、3日間だけでは予定が合わず行けなかったひともたくさんいるだろう。これから日本各地で巡回展が開催される予定だが、会場の関係で全点が展示できるとはかぎらない。また図録もいまのところ予定がないということで、今週は主催の「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」にお願いし、一部をのぞいた全作者による作品を誌上公開させていただく。

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存在のこたえられない軽さ

東京でアートギャラリーめぐりをしているひとは、ここ数年徐々にギャラリーが東京の東側にシフトしていることに気がつくだろう。江東区冬木はもともとの木場エリアで、材木商の冬木屋から町名がつけられている。前は材木屋だったという天井の高い空間を持つギャラリーM16(いちろく)は、この夏にオープンしたばかりの新しい画廊。そこではいま木彫家・内堀麻美の個展「もの懐かしさ」が開かれている(11月28日まで)。

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上野公園のエブリデイ・ライフ

今年9月15日号で紹介した「Walls & Bridges 壁と橋の迷宮で」の取材に行ったとき、「次は公募団体展の作家たちの企画展やります」と聞いて、すごく興味が湧いた。公募団体展……近現代の日本美術界を良くも悪くも象徴する独特のシステム。意識高い系の現代美術ファンは、団体という言葉を聞くだけで後ずさるかもしれず(そうでもない?)。上野公園の東京都美術館ではいま「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」を開催中。先月から始まっていて、もっと早く取材したかったのだが、ようやく紹介できてうれしい。

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湯けむりの彼岸――大竹伸朗「熱景」

もう報道やSNSの投稿でご覧になったかたも多いだろうが、愛媛・道後温泉本館の保存修理工事現場をすっぽり覆う、大竹伸朗による巨大なテント絵(というのか)〈熱景 NETSU-KEI〉が去年12月にお披露目、なにも知らずに来た入浴客を驚かせた。 30メートルx30メートル、高さ20メートルというサイズは、ずいぶん遠くまで離れないと全容を写真に撮れないくらいの、まさに「景」。しかも2009年には直島にこれも建物まるごとの〈直島銭湯「I♥湯」〉をつくっているので、2つめのお風呂作品! 銭湯の看板絵を描くアーティストはたくさんいるが、お風呂まるごとを2つも手がけたアーティストは珍しいかも。

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おかんアート村の住人たち 1 嶋暎子さんのこと

おかげさまでオミクロンにも負けず、一部Twitter民の罵倒にも負けず、いまのところ開館を続けられている「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」。しかしこの先どうなるか予断を許さないので、できたら早めに足を運んでいただけるとうれしいです。 ご覧になったかたはおわかりだろうけど、会場は1千点以上の作品で埋め尽くされているので、10年以上の取材でめぐりあったおかんアーティストたち、ひとりひとりのパーソナリティにはほんの少ししか触れられなかった(それでも通常の展覧会に較べれば、はるかに多量のテキストが壁面を埋めているけれど)。なのでこれから少しずつ、特に印象深かったアーティストのひとたちを紹介していきたい。

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おかんアート村の住人たち 3 森敏子さんのこと

東京都渋谷公園通りギャラリーで開催中の「Museum of Mom’s Art ニッポン国おかんアート村」。厖大かつ珠玉のおかんアートが並ぶメインの展示室1のなかで、その悶死級のかわいさ、愛らしさでとりわけ人気を集めているコーナーのひとつが森敏子さんの陶芸作品群だ。 神戸市長田区の路地に面した家にお住まいの森敏子さんは、いま83歳。今回の展覧会の共同キュレーターであり、会場デザインも担当してくれた建築家であり下町レトロに首っ丈の会の隊長でもある山下香さんが、行きつけのマッサージ屋さんの券売機の上に飾ってある陶芸作品に魅了され、さっそく紹介してもらってお付き合いが始まったことから、展示に参加していただいたくことができた。

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おかんアート村の住人たち 4 系谷美千代さんのこと

神戸市兵庫区にお住まいの系谷美千代さん。家事と子育てをしながら(67歳で子ども4人、孫7人!)、ずっと習字の先生をしている。阪神淡路大震災でお宅が被災、小学校の体育館で避難生活をしていた経験から、いつか恩返しをしたいとずっと思っていたそう。 神戸のほかに地方にも習字を定期的に教えに行っていて、北陸で出会ったのが紙でつくる花。仲良しの生徒さんがお姉さんの家でお茶に誘ってくれたときに、こんな紙の花がたくさん飾ってあったという。

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「ドキュメントとしての表現」展を見て

少し前になるけれど、今年1月12日から16日までの5日間、埼玉県浦和市の埼玉会館で「ドキュメントとしての表現」という小さな展覧会が開かれた。埼玉会館の展覧会では本メルマガでおなじみの障害者支援施設・工房集が主催する大規模なグループ展「問いかけるアート」を2020年10月21日号で紹介したが、今回は南関東・甲信ブロック(東京都、千葉県、神奈川県、山梨県、埼玉県、長野県)で活動する障害者芸術支援センターと、長野県の信州ザワメキアート展2021実行委員会が協力して開催された合同企画展。埼玉、東京、長野、千葉の4都県に在住する9名の作品、約150点が展示されているが、その大半は障害者施設以外の場所で個人的な活動を続けている作家たちというところが、通常の障害者アート展とずいぶんちがう。

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メメント・モモ 豚を育てて食べるまで

今週金曜(3月25日)から約2週間、上野の東京藝術大学美術館陳列館で「ヴァーチャル・ボディ メディアにおける存在と不在」と題された展覧会が開催される。日本、チリ、中国、ドイツ、メキシコ、そしてアメリカを拠点に活動する14名の参加アーティスト(日本初公開多数)のうち、ロードサイダーズ・ウィークリー2016年2月17日号「皮膚という衣装のために」で紹介したのが八島良子。1993年広島・江田島生まれの若いアーティストである。 八島さんの作品を知ったのは記事を作る前年のこと。デザイン系の大学生の卒業制作を対象とした「三菱ケミカルジュニアデザイナーズアワード」というコンペが2000年から2015年まで毎年開かれ、僕もその審査員のひとりをつとめていて、最終年のコンペで審査員賞である「茂木健一郎賞」と「都築響一賞」を同時受賞したのが八島さんの〈undergo〉。翌年の記事で紹介した文化庁メディア芸術祭で審査委員推薦作品に選ばれた〈Limitations〉は、それをブラッシュアップした作品だった。

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糸はエロス、それは愛! 吉元れい花のダイナマイトストリッパーズ降臨祭

向ヶ丘遊園駅からてくてく歩いて行くと20分ほどであらわれる川崎市の生田緑地。その丘をさらにてくてく登っていくと、川崎市岡本太郎美術館がある。 岡本太郎美術館では1997年から毎年「岡本太郎現代芸術賞」という公開コンペが開かれている。これまで本メルマガでは2014年の受賞者であるサエボーグ(2月26日号)、小松葉月(12月17日号)を紹介してきた。25回目となる今年の大賞(2021年度・TARO賞)を受賞したのは吉元れい花さんの《The thread is Eros, It’s love!》。芸術賞始まって以来、初めての刺繍作品の受賞である。

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モンド改め奥村門土・東京展開催!

ロードサイダーズのみなさまにはもうおなじみ、福岡のモンド画伯。似顔絵から始まったイラストレーションにとどまらず映画デビューも果たし、もうミュージシャンのボギーさんの長男という説明が不要の活躍ぶりだ。 2003年生まれのモンドくんと出会ってから、もうすぐ10年になる。2013年10月02日号「天使の誘惑――10歳の似顔絵師・モンド画伯の冒険」で紹介したのが最初(ちなみにその号は同じ九州の101歳の現役アマチュア画家・江上茂雄さんも紹介、ものすごい年齢差の記事が並んだ)。そのときモンドくんは10歳、小学4年生だったのが、いま17歳で高校を卒業したばかり。アーティストネームを「モンド」から本名の奥村門土にあらため、創作活動に専念する人生を送り始めたところだ。

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ヌキ本――苦痛と快楽の果てに

とりあえずこのチラシを見てほしい。「令和4年度 KAC主催 アート5人展」……あまりにシンプルで引っかかりゼロのへなちょこタイトル。これで「行かなきゃ!」と思うひとがどれくらいいるだろうか。しかもKAC(亀戸アートセンターの略)は、アートセンターという立派な名前とはウラハラの小さなギャラリー。最寄り駅の都営新宿線大島から徒歩12分、亀戸駅からだと徒歩20分という……。 「5人展」の5人とはドキドキクラブ、wimp、wu-tang、四本拓也、ヌキ本。このメンバー表を見て「行かなきゃ!」と興奮したひとが何人いるかわからいけど、僕は興奮しました! なぜなら久しぶりにドキドキクラブくんに会えるから。

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ふたたび妖怪たちのいるところ

中国地方のちょうど真ん中あたりに位置する広島県三次(みよし)市。江戸時代から浅野藩の城下町として栄えた三次が「もののけのまち」として町おこしをはかり、2019年に開館したのが湯本豪一記念 日本妖怪博物館、通称「三次もののけミュージアム」。日本屈指の妖怪コレクターである湯本豪一(ゆもと・こういち)さんの30年以上をかけた約5千点におよぶ膨大なコレクションをもとにした、もののけ=妖怪に特化したミュージアムである。 ロードサイダーズでは2021年7月14日号で「妖怪たちのいるところ」と題して、開催中だった企画展「幻獣ミイラ大博覧会―鬼から人魚まで―」を特集。コロナ禍が始まる前に訪れることができて幸運だった。そもそも2020年春に開催された「妖怪のかたち 魔像三十六体と百体の謎」で、展覧会タイトルにもある謎に包まれた木彫妖怪像の立像36体、座像100体、あわせて136体が一挙に展示されると聞いて、すごく興味を惹かれたのが始まり。ただ、ちょうどコロナ禍が始まったころで「妖怪見物旅行」できる時期ではなく断念したのだった。 そしてようやくコロナ禍が一段落しかけてきた現在、もののけミュージアムでは春の企画展「妖怪のかたち2 あつめて・くらべて・かんがえる」を開催中(6月7日まで)。

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クイーン・オブ・バッドアート降臨! 前編

つい先月、5月の連休の終わりごろ。世田谷区用賀の都立砧公園はオミクロン株も一段落という気分の老若男女で大賑わい、公園内の世田谷美術館も出版120周年を記念したピターラビット展で活気に溢れていた。その賑わいを横目に僕が向かったのは、閑散とした区民ギャラリーの一室。ここで5月3日から8日までのたった6日間、「女系家族 パート3」という小さな展覧会が開かれていたのだった。

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クイーン・オブ・バッドアート降臨! 後編

先週号「クイーン・オブ・バッドアート降臨! 前編」で紹介した新開のり子さん。お母さん、お姉さんとともに5月3日から8日まで世田谷美術館区民ギャラリーで開いたグループ展「女系家族 パート3」の様子を先週はお見せしたが、今週はいよいよ本編! 新開のり子さんのビザールな鉛筆ドローイング世界へとお連れする。 新開のり子は1972年東京都港区生まれ、今年50歳。長く暮らす世田谷区内のご自宅に伺い、お話を聞くことができた。

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第8回・心のアート展を見て

体温を超えそうな猛暑に見舞われた東京で6月28日から7月3日までの6日間、池袋の東京芸術劇場内のギャラリーで恒例の「心のアート展」が開催された。先だって告知でもお知らせしたが、今年8回目になる「心のアート展」がスタートしたのが2009年。このメルマガでは2015年の第5回から毎回取材させてもらってきた。今回の第8回はもともと去年開催予定だったが、コロナ禍により1年延期を余儀なくされ、今年開催となった。

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立ち上がる石の群れに

吉祥寺の小さなマンションの1階に「111」という小さな店がある。このメルマガでも何度か紹介したグラフィックデザイナー佐々木景が営むショップ兼ギャラリー。景くんはアダルトDVDからハードコア・ミュージシャンのジャケットまで、なんでもハードな方面が大好物のデザイナーで、ショップもそんなテイストの書籍、音源、雑貨などがぎゅう詰め。その景くんから「こんどチンコ型の石の展覧会をやるんで、作家に会いに行きませんか」と誘われた。 久保田弘成(くぼた・ひろなり)というアーティストにはかすかに聞き覚えがあって、もともとはボロボロの自動車を巨大な回転台に装着して(縦方向に)ぐるぐる回すという、わけのわからない、しかしエネルギーだけは爆発的な作品をいろんな場所で披露して、僕もいちどだけ現場で見たことがあった。

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異性装の日本史

すでにSNSでも話題となり、気になっているひとも多いであろう展覧会が9月3日に渋谷区立松濤美術館で始まったばかりの「装いの力——異性装の日本史」。異性装という言葉は、女装する男性や男装する女性、つまり身にまとう衣服によって性別の壁を越えたときに立ち現れるちからを、神話の時代から現代まで美術史の面から通観しようという、きわめてユニークな展覧会だ。

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シング・ア・シンプル・ソング ――嶋暎子の昨日・今日・明日

今年1月から4月まで開催された「ニッポン国おかんアート村」(@東京都渋谷公園通りギャラリー)での、新聞紙バッグとコラージュ作品展示が大きな話題となった嶋暎子。嶋さんと出会ったのは展覧会の構成がほぼ固まった10月末のことだった。その出会いによって展示の内容をすっかり書き換えることになった経緯は、2022年2月2日号「おかんアート村の住人たち 1 嶋暎子さんのこと」で詳しく紹介した。 嶋さんと出会えたのはTwitterを眺めていて、世田谷美術館分館・市民ギャラリーで2021年10月27日から31日まで5日間だけ開かれていた「紙の船 嶋暎子個展」を知ったから。「どんなもんだろうなあ」くらいの軽い気持ちで行ってみた展示に驚愕、運良く会場にいらしていた嶋さんともお会いできたのだった。

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『ドライブ・レコーダー』――あいち2022を観て

7月30日から始まっていた「STILL ALIVE 国際芸術祭あいち2022」、閉幕が10月10日に迫って、日帰りでいそいで行ってきた。名古屋市内だけでなく一宮、常滑などに散らばった展示を回ることはとてもできず、メイン会場となった名古屋・栄の愛知芸術文化センターしか観られなかったけれど、閉幕までに間に合えば観てほしい展示があったので、今週はそれを紹介したい。

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museum of roadside art 大道芸術館、オープン!

先週の編集後記でひっそりお知らせしたとおり、東京墨田区の花街・向島に「museum of roadside art 大道芸術館」が10月11日、公式オープンした。 永井荷風の『墨東綺譚』で知られる「墨東」は隅田川の東側を指す。川を挟んだ西側(都心側)が浅草で、言問橋(ことといばし)を渡った東側がスカイツリーのある押上、向島、京島などを含む墨東地域。江戸時代から花街として栄え、『鬼平犯科帳』などでもしばしば登場するので、名前だけは知ってるというひとも少なくないだろう。 向島にはいまでも9軒の料亭が営業中で、70数名の芸者衆もいる。東京の芸者と言えば新橋、赤坂などが知られるが、実はいま東京で現役の芸者のほぼ半数が向島芸者で、この人数は京都祇園甲部といい勝負。京都で舞妓と呼ばれる見習いは東京では半玉と呼ばれ、東京の六花街(赤坂・浅草・神楽坂・新橋・芳町・向島)のうち、数名ながら半玉がいるのは向島だけとか。

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駐車場の怪物たち

ロードサイダーズにはおなじみ上野・新御徒町mograg galleryで、ただいま塙将良「HANAWANDER BREATH OF THE WILD」が開催中。これまで塙さんの作品は何度か紹介してきたが、作品自体はもちろん、前々から聞いていた彼の制作スタイルがすごく気になっていたので――なにせ工場労働のあと駐車場の片隅にクルマを停め、車内で作品をつくっているという――この機会にじっくりお話をうかがうべく、定宿ならぬ定位置だという千葉某所のケーズデンキ駐車場に、鋭意作業中の塙さんを訪ねた。塙将良(はなわ・まさよし)は1981年茨城県ひたちなか市生まれ、41歳。最近では日本以外にフランスのアールブリュット/ロウブロウ・アート・シーンでも注目を集める作家である。

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museum of roadside art 大道芸術館、オープン! vol.3

東京墨田区の花街・向島に10月11日、公式オープンした「museum of roadside art 大道芸術館」。最終回となる第3回は、2階から3階に向かう階段踊り場のバッドアート展示、そして3階の鳥羽秘宝館再現フロアにお連れする。 その前にいわゆる「バッドアート」のなにがそんなに僕のこころを捉えたのか、まとめてみたのでご一読いただきたい。

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栗山豊とアンディ・ウォーホル

Yahoo!ニュースを見ていたら「価値わからない・なぜ5点も・本物に感動…県が3億円で購入、ウォーホル作品に波紋」という刺激的(笑)な見出しが目に入った。「鳥取県がポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルの木製の立体作品「ブリロの箱」5点を計約3億円で購入したことが波紋を広げている。2025年にオープンする県立美術館の集客の目玉として期待を寄せる一方、疑問の声も相次ぎ、県は急きょ住民説明会を開催する事態となった」(読売新聞10月27日より)。 記事によれば県は「都市部の美術館にないポップアートの名品を展示できれば、鳥取の存在感をアピールできる」として、2025年に倉吉市に新設する県立美術館向けに《ブリロの箱》を購入(1968年のオリジナル1点と死後の90年に制作された4点、計5点)。しかし9月の県議会では「日本人には全くなじみがない。米国にあってこそ意味がある」と批判があったほか、県教育委員からも「3億円を高いと感じる人がいる」「なぜ1点ではなく、5点必要なのか」といった不満が示された……のだそう。

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HEY! LE DESSIN 絵画とは素であり描であり 1

2年半待った。ようやく自主隔離もPCR検査もなくなって、まだ航空券は高額だけど我慢できず久しぶりの海外取材、いまパリにいる。日本からも死刑囚の絵画作品群が参加した(僕もテキストを書かせてもらった)、アルサンピエールで開催中の大規模グループ展「HEY! LE DESSIN」を見ておきたくて。 パリでいちばん高い丘。その頂上にサクレクール寺院がそびえるモンマルトル。ピカソやモジリアーニが住んだ安アパート洗濯船、ルノワール、ユトリロ、ロートレック……そうそうたるアーティストたちが青春を過ごしたモンマルトルは、パリ有数の観光地であるとともに、そのふもとにあたるマルシェ・サンピエール地区はパリ随一の生地問屋街。ファッション関係者にはとりわけよく知られる、まあパリの西日暮里というか。 カラフルな生地が店先からあふれ出す商店街の奥にあるのが、ミュゼ・アル・サンピエール。もともとはマルシェ(市場)だった19世紀の建物を改装、素朴派の作品を集めたマックスフルニー素朴派美術館として1986年に開館した。1995年からはアウトサイダーアート/アールブリュット/ロウブロウアート専門の展示施設として毎年1~2本の企画展示を開催している。

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HEY! LE DESSIN 絵画とは素であり描であり 2

先週に続いてパリ・モンマルトルの丘のふもとにあるアウトサイダーアート/アールブリュット/ロウブロウアート専門の展示施設、アルサンピエールで開催中の「HEY! LE DESSIN」から、2階展示室のアーティストたちを紹介する。先週も書いたとおり、約60名/組のアーティストが参加した「HEY! LE DESSIN」には、もちろんアウトサイダーアートあり、戦地の兵士たちの作品もあれば、タトゥーやグラフィティの下絵、原画もあり。「描くこと」の多様さと奥深さ、同時に技術的な修練も難解なコンセプトも飛び越える直感的な表現の可能性も強く感じさせる。「ひとから教わること」と「自分でつくること」のあいだにある決定的な差を、こうした野心的な展覧会があらためて僕らに突きつけてくれるのだ。

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首都高を走るアート

2017年の末だから、いまからちょうど5年前になる。品川区大崎駅前の大崎ニューシティにある「O(オー)美術館」で『開通55周年記念・芸術作品に見る首都高展』(2017年12月16~20日)という、会期たった5日間の風変わりな展覧会が開かれて、その会場で佐々真(さっさ・まこと)さんという風変わりなコレクターに出会った。展覧会と佐々さんのコレクションは2018年02月28日号 収録「アーティストたちの首都高」にまとめたが、あれから5年、同じO美術館でふたたび佐々さんのコレクションを披露する「開通60周年記念 芸術作品に見る首都高展」が開かれることになった!

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夢は細部に宿る――「藤野一友と岡上淑子」展を見て

福岡市美術館で開催中の「藤野一友と岡上淑子」展が気になっているかたも多いだろう。 1928年、高知市生まれの岡上淑子は主に1950年から1956(昭和31)年にかけてのわずか7年間に洋雑誌を切り抜き貼り合わせたコラージュ作品を140点ほどつくりだし、長く忘れられたあと40年後の1996年に「再発見」され、いまや回顧展や作品集が目白押しのアーティスト。いっぽうの藤野一友は1928年東京生まれ。1950年代からシュールな幻想絵画を描き続けたが1980年、51歳で死去。ふたりは同年に生まれ、1957年に結婚した夫婦でもあった。「藤野一友と岡上淑子」展は、このふたりの作品を同時に展示する並列個展であり、ふたりの業績を通して当時のクリエイティブなエネルギーを感じることもできる、初の機会でもある。

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合田佐和子が遺してくれたもの

今年も見ておきたい展覧会がたくさんあり、その多くを見逃してきた。いま高知県立美術館で開催中の「合田佐和子展 帰る途もつもりもない」は11月の初めからスタートしていて、気になりながら行けないでいたが、1月15日の閉幕を前になんとか間に合い、こうして紹介できてほっとするばかり。 合田佐和子という名前に「お!」と反応するのは中年以上のひとがほとんどかもしれない。僕が社会に出た1970年代から80年代にかけて、合田さんはアート/イラストレーション界のスター的な存在でもあった。当時の合田さんは唐十郎の状況劇場や寺山修司の天井桟敷、それに商業ポスターの仕事の最盛期だったので、僕が最初に知ったのは売れっ子イラストレーターとしての合田佐和子だった。でも、そのころはアーティストよりもイラストレーターのほうが時代の先端にいると思われていたので、いまのイラストレーターという肩書きとはちょっと違うニュアンスというか、キラキラの存在感があった。

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レジスタンスとしての祝祭 ――ニューオリンズのブラック・インディアンズ

去年11月に久しぶりのパリを訪れ、地下鉄駅のポスターを眺めていたら、ケ・ブランリで「Black Indians de La Nouvelle Orléans」(ニューオリンズのブラック・インディアンズ)という展覧会が開催中だった。ご承知のとおりエッフェル塔近くに2006年に会館したケ・ブランリは世界屈指の民族学博物館であり、原始美術(プリミティブ・アート)の美術館でもある。 ニューオリンズといえばマルディグラ。リオのカーニバルなどと並ぶ大イベントだ。マルディグラとは「太った火曜日」という意味だそうだが、カトリック教徒にとって重要な、飲食を慎む約40日間の四旬節の直前に行われる最後の宴がマルディグラ。四旬節が明けるとキリスト復活を祝う復活祭(イースター)が待っている。イースターはキリストが復活した日曜日と決まっているので、そこから40日(日曜を除く)遡ると火曜日になるので「太った火曜日」というわけ。ニューオリンズでは今年も2月21日の火曜日に2023年度のマルディグラが開催されたそうで、リオと同じくいちどは行ってみたいもの・・・・・・。ちなみに「カーニバル」という言葉自体も、もとはラテン語の「カルネ(肉)+バル(去る)」、つまり肉よさらば!という意味だ。

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優雅な作品が最高の復讐である ――「甲斐荘楠音の全貌」展@京都国立近代美術館

春うらら、桜満開の週末。京都に行くには最悪のタイミングでありながら、いそいそと朝の新幹線に乗り込んだのは、4月9日で終わってしまう京都国立近代美術館の開館60周年記念「甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性」を観ておきたかったから。この展覧会、実は7月1日から東京ステーションギャラリーに巡回するが、京都で生まれて京都で亡くなった、その画風も生きざまも陰影に満ちた生粋の京都人だった甲斐荘楠音(かいのしょう ただおと)は、やっぱり京都の地で観たかった。

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林田嶺一のポップ・ワールド@NO-MA

先週号で紹介した「甲斐荘楠音の全貌」展を京都国立近代美術館で取材した翌日、おとなり滋賀県の近江八幡・ボーダレス・アートミュージアムNO-MAで「林田嶺一のポップ・ワールド」展を観た。 林田嶺一(はやしだ・れいいち)は1933年、当時の満州国生まれ。去年(2022)7月に88歳で死去している。20代のころから趣味で油絵を描いていたが、2001年になってキリンアートアワードで優秀賞を68歳で受賞。それからおもにアウトサイダー・アート/アール・ブリュット関連のグループ展などでの出展が増えていった。僕が初めて林田さんの作品に出会ったのは同じNO-MAで2006年に開催されたグループ展「快走老人録~老ヒテマスマス過激ニナル~」でのこと。以来、いくつかの展覧会で数点ずつ作品は見てきたが、これだけまとまった個展の開催は生前も没後も初めてのはずだ。

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大竹伸朗展@愛媛県美術館!

2月5日までの東京国立近代美術館に続いて、5月3日から松山の愛媛県美術館で大竹伸朗展が始まった。 愛媛県美術館は東京国立近代美術館よりも展示スペースが広く天井も高いので、同じ展覧会の巡回でも印象がずいぶんちがう。愛媛展では東京展で展示されたおよそ500点の全作品に加えて、本メルマガ2022年1月26日号「湯けむりの彼岸――大竹伸朗「熱景」」でも紹介した道後温泉の巨大テント膜、それにホームグラウンドである宇和島の学習交流センター「パフィオうわじま」ホールにおさめられた巨大な緞帳――松山と宇和島で手がけた大作ふたつの原画などが展示されている。これは愛媛展のみの展示であるうえに、道後温泉もパフィオうわじまの緞帳も展覧会と一緒に現物を観ることができるので、このふたつのボーナストラックのためだけにでも愛媛展を訪れる価値はあるかと。

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秘宝館のまぼろしを求めて

「鬼畜系」「電波系」という言葉の生みの親だった異端のライター、村崎百郎が遺した資料・コレクションを展示する「村崎百郎館」が完成したのにあわせて、まぼろし博覧会を最初にロードサイダーズで紹介したのは2014年07月03日号「ゴミの果てへの旅――村崎百郎館を訪ねて」。それからもうずいぶん長いお付き合いになる。 2011年の開館以来珍スポット・ファンにはすでにおなじみと、最近ではNHKの人気シリーズ『ドキュメント72時間』でも新たなファンを増やしているまぼろし博覧会。もともとは『伊豆グリーンパーク』という熱帯植物園で、2001年ごろに閉館、放置されていたのを、出版社データハウスの総帥・鵜野義嗣が買い取って、コレクションを展示する場としてオープンさせた巨大施設だ。

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中園孔二のソウルメイト

ロードサイダーズでは2021年7月21日号「いのくまさんとニューヨーク散歩」で訪れた丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で、いま「中園孔二 ソウルメイト」展が開催中だ。すでにさまざまなリポートがネットに上がっているので、ご覧になったかたもいらっしゃるだろう。 中園孔二(こうじ 本名・晃二)は1989年生まれ。2012年に東京藝術大学を卒業し、その翌年「中園孔二展」(小山登美夫ギャラリー・東京)で作家デビュー。そしていまからちょうど8年前の2015年7月、香川の海で消息不明となり他界、25年の短い生涯だった。

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日々の泡のなかで ――岸キエコの絵と手紙

西荻(西荻窪)に「ニヒル牛(ぎゅう)」というアートギャラリー雑貨店がある。たまのパーカッショニストとしてよく知られた石川浩司さんがプロデュースするニヒル牛は、2000年に開店してもう20年以上、高円寺とも吉祥寺とも異なる西荻カルチャーの一角を担ってきた。 もともと小さなニヒル牛の店内には200個以上の、木や廃材でつくった箱やスペースがびっしりで、さらにぎゅうぎゅうの空間。そのひとつずつの箱を参加作家が月極めで借りて、思い思いの作品や商品を並べている、蜂の巣みたいなひと箱展の集合体だ。 そのひとつを借りて展示販売を続けているのが帯広在住の岸キエコ。去年、ファンから教えられたという大竹伸朗くんに「おもしろい作家がいるよ」と言われて、西荻に見に行ったのがキエコさんを知るきっかけだった。

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並行世界の歩き方

「並行世界の歩き方 上土橋勇樹と戸谷誠」という奇妙なタイトルの展覧会が滋賀・近江八幡ボーダレス・アートミュージアムNO-MAで開催中だ。メルマガではすでにおなじみのNO-MAはとても興味深い展覧会に、とても奇妙なタイトルをつけることが多い気がする。今回の「平行世界」が「地球」のもじりであるかどうかはともかく、上土橋勇樹と戸谷誠という、まったく交わらない独自の世界観を表現するふたりの作家を、SFで言うパラレルワールドのような広がりへの2通りの導き手として紹介してくれる貴重なチャンスというか、マルコビッチの2つの穴みたいな展覧会だ。

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蛭子能収「最後の展覧会」

すでにテレビ、新聞からネットニュースまで驚くほど広く紹介されているのでご存じだろう、根本敬 presents 蛭子能収「最後の展覧会」が、表参道のAKIO NAGASAWAで開催中だ。認知症を公言している蛭子能収の、これがほんとうに最後の展覧会になるかどうかは本人を含めてわからないだろうが、久しぶりに絵筆を取りキャンバスに向き合った新作群は、往年の毒にあふれたシャープな図像とはかけ離れているし、教えられなければこれが蛭子さんの絵とはだれもわからないはずだ。

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白木谷国際現代美術館を訪ねて

8月に高知・四万十の「太陽の眼」でトークがあった翌日、どこかに寄っていきたいな~と考えたときに思い出したのが「白木谷国際現代美術館」だった。前に太陽の眼の店主さんから「ここ、オススメですよ!」と教えてもらっていて、うまく日程が合わずに行けなかった白木谷国際現代美術館。そうとうの現代美術ファンでも「そんなとこあったっけ?」と初耳のひとが多いだろうが、その名のとおり高知市中心部からクルマで30分ほど(南国市の後免駅からなら20分足らず)、おとなり南国市の山中・白木谷にある私設の個人美術館である。

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大道芸術館、1周年記念大増設報告!

先週末は3年ぶりになるロードサイダーズ・オフ会も開催できた向島・大道芸術館。昨年10月のオープンからちょうど1周年というタイミングで、先週は2日間かけて30点以上の作品を追加設置した。もともとかなりの圧縮展示だったが、日展やドンキホーテを見習って!とにかく空いてる壁面はすべて埋めたい!という決意で大量の作品を倉庫から持ち込み、設営スタッフたちのがんばりでそのすべてを展示することができた。 オフ会参加者のみなさまにはもうご覧いただけたが、今週は大道芸術館1周年で大幅増の(展示替えではなく!)作品展示空間にお連れしたい。これからリストをつくってプリント、開館時に制作した図録に付録として差し込む予定なので、機会があったらぜひ現場で見てほしいが、まずはこちらで予習していただけたら。

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日曜の制作学

ロードサイダーズでは久しぶりに取り上げる広島県福山市・鞆の津ミュージアムで展覧会「日曜の制作学」が開催中だ。始まったのが8月20日、終わりが12月30日というギリギリの紹介になってしまい申し訳ないが、どうしても記事にしておきたかったのは、1)渋谷の「ニッポン国おかんアート村」展で来場者を震撼させた驚異のコラージュ作家・嶋暎子さん(今月81歳に!)の、新作1点を含む大型作品7点が勢揃い展示されているから 2)ロードサイダーズではおなじみ、最近では「門土くんのお父さん」としても知られる福岡のボギーさんの、お母さんである奥村隆子さんのめくるめく手芸ワールドが初披露されているから。嶋さんについては、本メルマガの読者にはもはや説明の必要がないだろうし、ボギーさんのお母さんの手芸ワールドは、以前にボギーさんが投稿した手編みのセーターの話がSNSですごくバズったので、ご存じのかたもいらっしゃるはず。実はそのときすぐにボギーさんに寄稿してもらおうと思ったのだが、残念ながら諸事情で実現しなかったので、個人的にも今回の展示がすごく楽しみだった。

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ダメだと言われても描き続けますから――102歳の水墨画家・高野加一さん訪問記

「沖縄ですごい画家と出会った!」と友人が興奮したメッセージを送ってきた。しかもそのひとは彼と同じ東京都葛飾区在住で、帰ってさっそくアトリエを訪ねていろいろ見せてもらったので、こんど一緒に行こう!という。ふーん、どんなひと?と、いちおう聞いてみたら「102歳の現役水墨画家!」と言われて一気に興味が沸騰した。 高野加一さんは1921(大正10)年10月10日、新潟県長岡市生まれ。太平洋戦争中は中国北部の軍事工場で働き、終戦後に葛飾区で自動車整備工場を立ち上げた。65歳で定年、と後進に道を譲って趣味で水墨画を始め、2017年に日展に初入選。21年には100歳で2度目の日展入選。

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ギョウザとアートで満腹体験

僕的札幌二大名所のひとつ「大漁居酒屋てっちゃん」がコロナ禍の2020年4月に閉店したのはショックで(もうひとつがレトロスペース坂会館)、ニュースを聞いてすぐの4月15日号で特集「てっちゃんの記憶」を配信した。店を閉めたあとのてっちゃんは趣味の絵を描いたりジムに通ったり、通算45年間におよんだ居酒屋営業の疲れを癒やしていたようだだが、1990年代に大竹伸朗くんと僕をてっちゃんに連れていってくれたアーティスト上遠野敏さんが「てっちゃんが餃子屋を始めました!」という、うれしいニュースを1年ほど前に伝えてくれた。オープンから1年ほども経ってしまったが、先日ようやく初訪問をかなえられたので、さっそく報告させていただきたい。

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ロンドン・コーリング ――INAGAKIが描く都市景観と生きものたち

ときたま外国から作品や書籍について問い合わせをもらうことがあって、かつてはそれがFacebookだったのが、いまはほとんどInstagramだ。こちらもインスタをボーッと見ていて、思わぬ発見に出会うことが増えてきた。 いまから1年半ほど前、インスタの画像や動画ですごくおもしろいストリートアートを描いている若者を見つけて、そのセンスの良さに唸った。イーストロンドンのショアディッチやブリックレーン界隈のストリートが多くて、ネットで探してみるとロンドン在住。Inagakyという名前はもしかしたら「稲垣」?日本人かも?と思っていたら、ちょうど同じころに、ロードサイダーズで寄稿してくれているロンドン在住のアツコ・バルーさんも彼をインスタで見つけていた。

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ルガール 山崎俊生と心象の世界

京都御所の東側・河原町通りの荒神口にある展示空間「art space co-jin」は、きょうと障害者文化芸術推進機構の活動拠点として2016年に稼動を始めたアールブリュットに特化した展示スペース。ロードサイダーズでは2021年に4名の作家によるグループ展「ゆびさきのこい」を紹介した。そのco-jinで開催中の展覧会が「ルガール|山崎俊生と心象の世界」。京都市内の病院に保管されてきた精神疾患の患者たちによる膨大な作品を開陳する、小規模ながら貴重な鑑賞機会だ。

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周回遅れのトップランナー 田上允克 [後編]

時流に媚びない、のではなく媚びられないひとがいる。業界に身を置かない、のではなく置いてもらえないひとがいる。 孤高と言うより孤独。天才と言うより異才。これはどこかの地方の、どこかの片隅で、きょうも黙ってひとりだけの作品世界を産みつづけるアーティストたちの物語である。

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石子順造的世界:府中市美術館にて開催中

1970年代に『ガロ』を読みふけった世代にはおなじみ、石子順造は『キッチュ論』、『コミック論』などで知られた美術評論家であり漫画評論家。漫画にアングラ芸術、街場のデザインなど、当時見向きもされなかったストリート・レベルのアートの価値を積極的に評価した、先駆的な存在でした。昭和52(1977)年に、わずか49歳で亡くなっているので、もちろんお会いしたことはないけれど、業績を見てみれば僕の大師匠というか・・・。

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人形愛に溺れて・・妖しのドールハウス訪問記

オープニングの夜だったか、トークショーのときだったか、いろんなお客さんに写真とラブドールの説明をしていたときに、じっとドールを見つめている、というか睨めまわしているひとりの男性が目に止まった。さっそく近づいていって、「これがオリエント工業という会社の最高級ラブドールで、お値段70万円・・」と得意になって説明しようとしたら、「知ってます、持ってますから」と返されてギャフン。それが「写真家兼模造人体愛好家」である兵頭喜貴さんとの出会いだった。

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刑務所博物館で身もこころもヒンヤリ

Corrections Museum 廊下に沿った舎房を覗いてみると・・そこにはとんでもない拷問を受けている受刑者たち(のマネキン・・もちろん!)がいた。籐で編んだ巨大なボール(セパタクローで使うような)に囚人を入れ(しかもボールの内部には無数の釘が突き出している)、それを象に蹴らせる! なんてイマジネーション豊かすぎる拷問器具が、マネキン込みで展示されていて、迫力満点。こうした拷問は政令によって1934年に廃止されるまで行われていたというから・・恐ろしいですねえ。

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『バッタもんのバッタもん』でバッタバタ

この展覧会のことを取り上げたのは、企画自体がおもしろいこともあるんですが、2010年神戸での展示がルイ・ヴィトン社の抗議にあって中止になったように、今回も参加作品の一部にギャラリー側からクレームがつき・・・結果として「ブラックボックス」と岡本さんが名づけた、モザイクをかけたように見える箱の中に展示することになったという、「またかよ!」な顛末を聞いたから。 その、問題の作品とは「アンパンもん」と「せんともん」。

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三上正泰の、なんでもボールペン

昨年11月から今年2月まで、花巻の「るんぴにい美術館」という、小さなアウトサイダー・アート・ギャラリーのグループ展に参加しました。場所が岩手県なので、ご覧になれた方は多くないでしょうが、参加アーティストの中には初めて作品を見ることができた地元の作家もいて、僕としては興味津々。なかでも三上正泰さんの作品には目が釘付けになり、急いで模造紙を買ってきて、写真撮らせてもらいました。

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鞆の浦おかんアート紀行

今回の展覧会では、先週ご紹介した福山のアウトサイダー・ルポルタージュのほかに、鞆の浦で出会ったカリスマ・おかんアーティストたちとその作品群も展示される。アート・ギャラリーで「おかんアート」が、ファインアートに混じって展示されるのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。規模は小さいが、実家の茶の間やスナックのカウンターとかではなく、ギャラリーという展示空間でどう見えるのか、僕としても興味津々だ。

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ドクメンタ13 日本からは大竹伸朗が参加して、6月9日より開催!

ドイツ連邦共和国のほぼ真ん中に位置するカッセル。フランクフルトからICE(インターシティ・エクスプレス=特急)で約1時間半ほどで到着するこの古都は、5年にいちど開かれる現代美術の祭典「ドクメンタ」の開催地として、あまりにも有名である。 実は今回のドクメンタ13には、日本から大竹伸朗が選ばれ、参加している。そこでロードサイダーズ・ウィークリーでは大竹伸朗に依頼し、今回のプロジェクトの制作ノートを連載してもらうことになった。

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特別集中連載: カッセルでの日々 2 (写真・文 大竹伸朗)

去年同様降り立ったフランクフルト空港で印象的だったのはいろいろな公共機器のデザインがクールでカッコいいこと、イギリスとも違う鉄壁のジャーマンセンス。しかしここにハマっていくと嫌みな「江戸っ子自慢」に似た妙な「ヨーロッパコンセプトかぶれ」「臭いアートセンス野郎」「一見進化系パソコン常備携帯バカ」「欧米語るがお前には黒船は永久にやって来ない野郎」へ急接近する危険性もあるので要注意だ。ドイツの時刻表よりオレは北千住のスナック看板を信じる!

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特別集中連載:カッセルでの日々 3 (写真・文 大竹伸朗)

滞在場所であるアパートとドクメンタ本部、森の設置場所の位置関係もきちんと把握できないまま毎朝チャリ発進の日々が始まった。日本とくらべると真冬に近い気候の中、時にロンドンの遠い日々を時に別海での忘却の彼方が頭をよぎり樫の巨木元とにかく終わりの見えない作業に突入した。「小屋作品」の最終形はここカッセルで何を拾うかにすべてがかかっている。

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特別集中連載:カッセルでの日々4 (写真・文 大竹伸朗)

カッセルの路上ゴミ神様に身を委ねる日々においては、常に進行形の未知の作品に思いを向けていれはいいかというとそういう理屈にはならない。あまり思いつめるとカスばかりつかむことになる。そこには「間」といいますか見て見ぬ振りをするというのか本当は凄く欲しいのだがその思いをゴミ神様に察せられるとスルリと逃げてしまうと申しますか、ゴミとの微妙な距離感、気持ちの駆け引き、無言の折り合いが必須となる。

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特別集中連載:カッセルでの日々5 (写真・文 大竹伸朗)

ということで、「カッセルでの日々」5回目最終回です。 (中略)ドイツから帰国して2週間あまり、この回の写真の日々からすでにかなりの時間が経ってしまったような、夢の中の出来事であったような不思議な気持ちです。2カ月あまりのチャリの日々と屋外作業のツケか筋肉痛の回復が非常にとてつもなく遅い、というか原因はひとつだけど。がもちろん当然とてもいい経験をさせていただけたと感謝しています。

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新連載:日日 (大竹伸朗)

「気分」という言葉から人は何を思うのだろう、時々そんなことを考える。「気持ち」といってしまうと若干杓子定規な印象とでもいうのかどこかあたりさわりのない距離感を感じてしまう。が「気分」だと心の中に風船がユラユラ揺れ動いているような、問いつめられても笑っていればいいようなそんな気楽な印象が個人的にはある。例えば「携帯」というやつ、自分にとってこれが「気分」とは相性がいい。

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日日2 宇和島のぼり屋ブルース(大竹伸朗)

カッセルから帰国後、宇和島での初仕事は「布染め」で始まった。現在来春刊行予定の「ジャパノラマ完全版作品集」を制作中で、限定版の200部カバーをすべて異なる手染めの布で覆うというのが目的だ。染めの作業には近所の老舗「黒田のぼり店」の仕事場を御借りしている。200部+予備分カバーの布にはおおよそ巾70cmの綿布で合計100mほどを1人で染める必要があり黒田さんから不定期に「仕事場空いとるで~来るなら朝から来てや~!」との御声がかかれば極力駆けつけ作業にかかることにしている。

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夭折の天才少年画家・沼祐一

会場は老若男女の山下清ファンで、オープン早々にもかかわらず驚くほど混み合っていた。『山下清とその仲間たち』と題されているように、本展は山下清を中心に、八幡学園で育った子供たちの作品が展示されているのだが、もちろん多くの入館者のお目当ては山下清。でも僕としては山下清はもちろん大好きだけれど(容姿も似てるし)、なかなか原画を見る機会のない他の入園児童たち、なかでも「沼祐一」という名の少年にすごく興味があった。以前に本の図版で見ただけで、原画はいちども見たことがなかったが、そのクオリティの高さには衝撃を受けていたので・・。

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夜露死苦現代詩2.0 最終回 レイトのアートワーク

文芸誌『新潮』で去年初めから連載してきた、日本語ラップの詩人たちを訪ね歩く旅「夜露死苦現代詩2.0 ヒップホップの詩人たち」が、昨日発売の第15回で最終回を迎えました。これから単行本化の作業に入りますので、お楽しみにお待ちください。THA BLUE HERBにはじまって、B.I.G. JOE、鬼、田我流、RUMI、TwiGy、ANARCHY、TOKONA-X、小林勝行、チプルソ、ERA、志人、NORIKIYO、ZONE THE DARKNESSと、個性的なラッパーたちをたくさん紹介してきましたが、最終回を飾ってくれた「レイト」も、これまでの14人に負けず劣らずの超個性派。いままで登場したなかでもっとも詩的な感性にあふれたリリックを書くひとりです――。

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旅のついでに展覧会めぐり

まだまだ猛暑のただ中ではありますが、先週から各地でちょっとストレンジ・テイストな展覧会がスタートしたり、もうすぐ始まったりします。もう夏休み終わっちゃった! という方も多いでしょうが、ここでまとめてご紹介しておきます。場所は広島、山口、滋賀、東京・・どれかひとつでも、どこかで巡り会えますように。まずは以前、僕もオープニングのグループ展『リサイクルリサイタル』に参加した、広島県福山市の鞆の津ミュージアムでは、先週土曜日から『万国モナリザ大博覧会』なる展覧会を開催中。ちょうど空山基さんのハードコアなモナリザをお見せしたばかりですが――

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オリンピックの芸術競技

オリンピック開催ごとにトリビア・クイズなんかに出てくるが、かつてオリンッピックには「芸術競技」という部門があったのをご存じだろうか。 近代オリンピックの父・クーベルタン男爵の提唱で始まった初期のオリンピック規約には、「スポーツと芸術の部門で競技を行わなくてはならない」と定められていたそうだ。もともとスポーツを文化、芸術、さらには信仰の発露としてとらえた古代ギリシア人の精神に則って再興された近代オリンピックだから、芸術競技が設けられたのもおかしくない。

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おかんアートの陰影(ROADSIDE SENDAIから)

このメールマガジンでも、これまでたびたび取り上げてきた「おかんアート」。最近はいろいろな町に行くたびに、その土地のカリスマ・おかんアーティストを探すのがお約束のようになってしまっている。すでに何度か書いたが、おかんアートとは―― メインストリームのファインアートから離れた「極北」で息づくのがアウトサイダー・アートであるとすれば、もうひとつ、もしかしたら正反対の「極南」で優しく育まれているアートフォームがある。それが「おかんアート」。その名のとおり、「おかあさんがつくるアート」のことだ。

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伊達政宗歴史館と仙台武家屋敷(ROADSIDE SENDAIから)

今回ご紹介するのは「みちのく伊達政宗歴史館」と「仙台武家屋敷」という、なかなかレアな観光教育施設。伊達政宗歴史館は仙台のお隣、松島の美しい海岸沿いにあるのですが、津波の被害を受けて1階部分が泥で埋まってしまい、スタッフやボランティアの懸命の努力により、震災から1ヶ月半ほどで再開にこぎ着けたという蝋人形館。いっぽう仙台武家屋敷&人間教育館のほうは、かなり前に『BQ』という民放デジタル放送番組で1年以上放映された、映像版『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』でも取材・放映した、仙台きっての隠れB級スポットだったのですが、それがそのあとも脚光を浴びるケースはほぼなく・・・こちらも震災による地震で甚大な被害を受け、無期限休館中。

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死刑囚の絵展リポート

執行日はだれにも――肉親にも、本人にすら――事前に明かされることはなく、その日の朝に声をかけられて(朝食後だという)、初めて「きょう死ぬんだ」とわかる仕組みになっている。毎日、毎日、ときには何十年も・・・そうやって自分が死ぬ日を待つ日々。死刑には賛成派も反対派もいるだろうけれど、これを精神的な拷問と言わずして、なんと言うのだろうか。そういう極限の状態に置かれている日本の死刑囚たちがつくりだす、極限の芸術作品。それを集めた小さな展覧会が広島で開かれたというニュースを、今月初めのメルマガでお伝えした。幸運にも展覧会に駆けつけることができたので、今回はその模様をリポートしたい。

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めくるめく70年代の記憶と再生

1956年に生まれた僕は、1970年に中学3年生だった。その年、ジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョプリンがドラッグで命を落とし、三島由紀夫が割腹自殺し、赤軍派は日本航空のよど号を乗っ取って、あしたのジョーになろうと北朝鮮に向かった。その年に大阪のはずれでは「人類の進歩と調和」をうたった万国博覧会が開催され、6400万人以上の入場者を集めていた。いま北浦和の埼玉県立近代美術館で『日本の70年代 1968-1982』という展覧会が開かれている(11月11日まで)。

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ソウル日日:신로 오타케(大竹伸朗展)ソウル・ダイアリー1

11月23日から来年の1月20日までソウル市の三清洞に位置するアートソンジェセンターで韓国での初個展が始まる。あえてこの時期の初ソウル展で「日本景」展示となりました。 来る前の一抹の不安はどこそこ、韓国の皆さんにはとても熱く心底親切に協力していただき感謝の毎日です。今回の展覧会は、1階にポスター13点と本、先日のメルマガに登場したエディションノルトによるドクメンタ(13)出品作『モンシェリ/スクラップ小屋としての自画像』制作過程映像を、2階に20歳から30代にかけて、また最新作である「時憶シリーズ」8点を含む「コラージュ作品」42点、最新未発表スクラップブック3冊、3階に新作を含むジャパノラマシリーズ105点、そして制作中のネオンによる新作、合計150点以上の作品で構成します。「路上」から生まれ対極に位置する「内側と外側の景」による初めての試みです。

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大竹伸朗展速報

先週号でお伝えしたように、この24日から韓国ソウルで『大竹伸朗展』が開幕した。場所はアートソンジェ・センター。東京で言えば表参道と原宿をいっしょにしたような、ファッショナブルな街・三清洞にあるアートスペースの、1階から3階まで、全館を使った大規模な個展だ。2010年に光州ビエンナーレに参加して以来、韓国では2度目の展覧会になる大竹伸朗。しかし意外にも、海外での個展は1985年にロンドンICAで開いて以来、なんと27年ぶりの2回目。そして今回は、以前のロンドン展とは比較にならない、スケールアップしたボリュームのソロ・エクジビションである。本メルマガでは先週の、アーティスト本人による『ソウル日日』に続いて、今週は展覧会のリポート、そして来週にはふたたび本人による第2弾リポートを、動画を交えながらお送りする予定だ。

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ソウル日日:신로 오타케(大竹伸朗展)ソウル・ダイアリー2

約3週間のソウル滞在から戻った。今回は作品設置に加えネオン管による現地制作があり通常よりチト長めの滞在になった。二十歳から今年までに制作した作品百数十点を広いフロア2つを使っての展示になりました。 今回の展覧会は現地制作のネオン管新作を含め「路上」が軸となるテーマで組み立てました。路上に物質として落ちているモノによるコラージュ的作品と、路上に非物質として捨てられた音や光、また捨てられた気配をモチーフに描いた「ジャパノラマ・シリーズ」という自分の中で対極に位置する作品をあえて2フロアに分けて展示してみた。 年末から正月明け、航空運賃の安くなる極寒のソウルに是非とも足を運んでみて下さい。

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新宿にゾンビ来襲! @新宿秘宝館

すでに告知しているとおり、先週土曜日からギャラリー新宿座において、『新宿秘宝館』が開催されています。土曜日の初日には、あいにくの雨模様にもかかわらず、100人以上のお客さまが来てくれました。どうもありがとう! 新宿秘宝館:みんな嘘っぱちばかりの世界だった 甲州行きの終列車が頭の上を走ってゆく 百貨店の屋上のように寥々とした全生活を振り捨てて 私は木賃宿の蒲団に静脈を延ばしている――かつて旭町と呼ばれた新宿4丁目の木賃宿で、林芙美子は放浪記にこう書いた。JRとタカシマヤの澄まし顔に、道の向かいから思いきり毒づいているような、すえた昭和の匂いがいまだ漂う一角。そんな場所で、昭和の秘宝をいま開陳できる幸せを思う。

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追悼・嶋本昭三

今週金曜日(2月15日)からニューヨークのグッゲンハイム美術館で、大規模な具体展が始まる。『GUTAI: SPLENDID PLAYGROUND』というタイトルそのままに、破天荒なエネルギーが炸裂した具体美術協会の全貌が、アメリカのハイアート・シーンにどう受け取られるのか、興味津々だ。考えてみればいまからもう30年あまり前、僕がBRUTUS誌で具体の特集を作ったころ、資料を集めるのはほんとうに大変だった。おそらく戦後の日本美術で唯一、国際的な評価を受けたムーヴメントであったのに、当時の東京の現代美術業界で具体は「関西ローカルで、ずっと前に終わったもの」として、ひどく不当な扱いしかされていなかったことを思い出す。

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グラフィティの進化系――KaToPeの幻想世界

北千住駅を西口に降りる。駅前の居酒屋街やキャバレー・ハリウッドの看板にこころ引かれつつも商店街を直進、宿場通りを右に折れてずーっと歩いていくと、小さな立ち飲み屋が見つかるはずだ。地下鉄の乗り入れや大学の進出で、このところ急に若者系の店が目立つようになった北千住の、新しい空気を象徴するようなこの店、『八古屋』と書いて「やこや」と読ませる。もともとは古着屋だったが、2010年に立ち飲み屋になった。「ものすごく狭いけど、ものすごく安くて、築地から仕入れてくる突き出しとかものすごく美味しくて、お客さんも地元のラッパーとかいろいろで、ものすごくおもしろい絵も飾ってあるんです」という、若い友人からの断りようのないお誘いを受けて、ある晩うかがってみると・・・そこに飾られていたのがKaToPeの作品だった。

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銀座6丁目のフェティッシュ宇宙

このメルマガではすでにおなじみの銀座ヴァニラ画廊。現代とか古典とか、プロとかアマとか関係なく、とにかく「フェティッシュ」という一点に絞ってアーティストを選び、展示を続けている珍しいギャラリーだ。そのヴァニラ画廊が昨年、初の公募展を開催。その受賞者展が今月1日から13日まで開催中である。美術評論家・美術史家の宮田徹也さん、ギャラリー・オーナーの内藤巽さんと共に、僕も審査にあたったこの公募展。最初は告知コーナーで触れるくらいにしておこうと思ったが、さすがにヴァニラらしいビザールな作品が集まったので、ここでちらりと紹介してみたい。第一次審査を通過した33作品の中から、今回は大賞1名、審査員それぞれの賞が1名ずつ計3名、さらに奨励賞が3名選ばれた。今回の受賞者展では各賞の受賞作品と、第一次審査通過作品も併せて展示されるという。

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蛍光色の夢精――『女根』と女木島をめぐる旅

3年にいちど開かれる瀬戸内国際芸術祭。その夏会期が7月20日から始まる(9月1日まで)。すでに夏休みを利用しての、芸術祭ツアー計画を立てている方も多いだろう。前回の2010年から、さらに拡大した規模で拡大される今回の芸術祭。よほど緻密に計画を立てないと、短時間でいくつもの会場を回るのは不可能だし、そもそもいくつもの島をフェリーで巡らなくてはならず、会場によっては入場制限もあったり、なかなか事前の予定どおりにスケジュールを消化することは難しい。これから行こうという方には、なるべく余裕を持ったスケジュールで、「ここだけは!」という展示を数カ所選んで回ることをおすすめする。

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追悼・東健次と『虹の泉』

東健次さんに初めて会ったのは2003年のことだった。三重県山中に『虹の泉』と名づけた、とてつもない彫刻庭園を独力で築いている作家がいると聞き、当時連載していた美術雑誌『PRINTS 21』のために取材に伺ったのだった。翌年、今度は珍日本紀行の特選名所をハイビジョン・ムービーで撮り下ろす民放BSの深夜番組『BQ』のために再訪。まったく落ちないペースと、変わらぬエネルギーに驚嘆したものだったが・・・それから約10年。あれからどうなったろう、と進行具合を気にしながらも、なかなか訪問できずにいるうちに、つい先ごろ、東さんをずっと支えてきた奥様から「完成直前に東健次が亡くなりました」とのお知らせをいただいた。この5月22日に、74歳の生涯を閉じられたのだという。

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殺戮の造形  ――モザンビークの武器彫刻

駅から歩く距離を考えると(特に炎天下)気持ちが萎えるが、それでもときどきは行っておきたい大阪万博公園内の国立民族学博物館。常設展示を見て回るだけでも、丸一日かけられる規模のコレクションだが、ここはまた時々すごく興味深い企画展を開催していて、しかも東京にいるとそれがなかなか伝わってこなくて、つい見逃してしまうことが少なくない。その民博で現在開催中なのが『武器をアートに』(11月5日まで)。「モザンビークにおける平和構築」という、いかめしいサブタイトルがついているが、これは長く内戦が続いてきたモザンビークでの、武器を使ったアート(立体作品)の展覧会。展示の規模は小さいが、非常に見応えのあるコレクションだ。

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裸女の溜まり場――よでん圭子のアナクロ・ヌード・ペインティング

今年の春、銀座ヴァニラ画廊の公募展審査をしていたときのこと(2013年4月2日配信号に掲載)。いかにもフェティッシュな若い作家たちの絵画や立体が並ぶ中で、ひとつだけ異彩を放つ、不思議に古風なヌードの油絵が目に留まった。「よでん圭子」さんという女性画家の作品で、くすんだグレーの肌の裸女たちが、画面上にのびやかに配置されている。古典的な構成と技法と、ぜんぜん古典的じゃない風合いを兼ね備えた、それはなんとも評価しがたい絵だった。フェチやSM系に特化した専門画廊(!)であるヴァニラに、こういう作品を送ってくるとは、いったい本気なのだろうか、意図的に狙ってるのだろうか、それとも・・・。

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大竹伸朗・秋の陣

高松市美術館の『憶速』が9月1日で無事終了し、しかし丸亀市猪熊弦一郎現代美術館での『ニューニュー』はまだまだ続行中(11月4日まで)、ヴェニス・ビエンナーレも続行中(11月24日まで)、瀬戸内国際芸術祭での女木島インスタレーション『女根』は、10月5日からの秋会期が迫るなか、さらにパワーアップ中。そして東京のタケニナガワ・ギャラリーではあらたな展覧会が9月8日にスタートしたばかり(10月26日まで)・・・。2013年の大竹伸朗祭りは、まだまだ大団円を迎えそうにない。

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天使の誘惑――10歳の似顔絵師・モンド画伯の冒険

101歳のアマチュア画家・江上茂雄さんに荒尾でお会いした翌日、福岡市に戻ってもうひとり、ずっとお会いしたかったアマチュア画家にお目にかかることができた。モンド画伯・・・こちらは10歳のアーティストである。モンド画伯――本名・奥村門土くん――は福岡の小学4年生、先月10歳になったばかりだ。3人兄弟の長男である門土くんのお父さんは、福岡の音楽シーンでは知らぬもののないミュージシャンであり、イベントオーガナイザーでもある「ボギー」さん。公式サイトの自己紹介によれば――

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死刑囚の絵 2013

告知でお知らせしてきたとおり、先週土曜日(10月12日)、新宿区四谷区民ホールで『響かせあおう 死刑廃止の声 2013』が開催された。世界死刑廃止デーである10月10日にあわせ、死刑廃止運動を続ける「FORUM 90」が毎年主催している集会で、今年で9回目になるという。午後1時に始まった集会は、田口ランディさんによる「死刑囚からの手紙」朗読、元冤罪死刑囚・免田栄さんのお話などに続いて、「シンポジウム・死刑囚の表現をめぐって」が開かれた。これは本メルマガで紹介してきた死刑囚の絵画を含む、小説、短歌、俳句など死刑囚自身による表現活動を世に出してきた大道寺幸子基金によるもので、7名の選考委員によって選ばれた2013年度の優秀作品が発表・講評される、年にいちどの貴重な機会である。

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芸術はいまも爆発しているか――岡本太郎現代芸術賞展

岡本太郎美術館では現在、毎年恒例の「岡本太郎現代芸術賞展」を開催中(~4月6日まで)。今年が17回目、780点の応募作品が集まったというこの公募展は、「芸術は爆発である!」精神を大事にしてます、と学芸員が強調するように、ふつうの現代美術館の公募展とは、ちょっと毛色の異なる作品が集まるので見ていて楽しい。今年は、本メルマガでも2012年6月20日配信号「突撃! 隣の変態さん」で紹介したラバー・アーティスト「サエボーグ/saeborg」が、グランプリである岡本太郎賞の次点にあたる岡本敏子賞を獲得したというので、軽い気持ちで出かけてみたら、ほかのアーティストたちの作品もすごくおもしろかったので、展示されている入賞作品20点のうちから、いくつか選んで紹介してみよう。

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絵という鏡――岩瀬哲夫の絵画

すでにいまから1年前になるが、2013年4月3日号(061)で銀座ヴァニラ画廊の公募展「第1回ヴァニラ大賞」の記事を配信、そこで入賞した愛知県在住の画家・よでん圭子さんについては、9月18日号(083)で詳しく紹介した。今年も「第2回ヴァニラ大賞展」が今月17日から開催中(29日まで)。前回に負けず劣らずのエクストリームな作品群が顔を揃えているので、銀座におでかけの際はぜひ立ち寄っていただきたいが、そのなかで特にこころ惹かれ、「都築響一賞」に選ばせてもらったのが岩瀬哲夫さん。若いアーティストがほとんどのなかで、64歳というベテランで、聞けば画家が本業でもないという・・・。

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グロテスクのちから アニー・オーブと甲斐庄楠音

今週は僕自身も少しだけ関係のある、東京と京都のふたつのアートスペースで開かれている展覧会をご紹介する。ひとつめは、先週号の告知でも少しだけ書いたように、上野稲荷町ガレリア・デ・ムエルテで開催中の『ザ・ディープ・ダーク・ウッズ/アニー・オーブ展』。ハードコア、ブラックメタルなど、異端の音楽に特化したレコード、CDショップと、そうしたテイストのジンやTシャツなどのグッズ、さらには展示スペースを併せ持つ、この小さな店については、『東京右半分』で読んでいただけたかたもいらっしゃるかもしれない。

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時をかけるアーティスト

滋賀県近江八幡に残る昭和初期の町家をそのまま使ったアウトサイダー・アート・ミュージアムNO-MA(正式名称はボーダレス・アートミュージアムNO-MA)。本メルマガでも前回の『アール・ブリュット☆アート☆日本』を含め何度か紹介しているが、2004年の開館以来、今年が10周年にあたるという。日本におけるアウトサイダー・アート展示施設として、草分けのミュージアムである。そのNO-MAで今月27日まで開催されているのが、『Timeless 感覚は時を越えて』と題されたグループ展。

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宮間英次郎物語——鳥取アール・ブリュット展に寄せて

『そこにある美術—アール・ブリュット—展』と題されたこの展覧会は、先週土曜日(9日)に米子市美術館でオープン(9月28日まで)。そのあと倉吉博物館、鳥取県立博物館と、ほぼ2ヶ月かけて県内3会場をめぐるという、珍しいスタイルの巡回展でもある。(中略)そして今展覧会の参加者のひとりであり、こちらもすでに読者にはおなじみの「帽子おじさん」宮間英次郎さんが、今年は80歳の誕生日を迎える! もう20年以上、宮間さんの活動を20年間以上見守り、陰で支えてきた畸人研究学会では、傘寿を記念して宮間さんの長い人生をまとめた『宮間英次郎物語』を年末までに発行予定。その前哨戦としてロードサイダーズ・ウィークリーではこれから3週にわたって、ダイジェスト版の『宮間英次郎物語』をお送りする。

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宮間英次郎物語 2(文:海老名ベテルギウス則雄 写真:海老名ベテルギウス則雄、都築響一)

先週に続いてお送りする「帽子おじさん」宮間英次郎の人生いろいろ物語。西成のドヤ暮らしで身も心もすさむうち、競艇と痴漢行為に溺れるようになってしまった、30代の宮間さん。そして長い苦しみの日々を経て「帽子」という表現手段に出会う、運命のドラマが展開していく!

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ちり積もらせ宇宙となす——大竹伸朗展@パラソル・ユニット

日本語を話すときはどうとでもつくろえるけれど、外国語を話すときって、そのひとの人柄がすごく出るような気がする。僕はよく「日本語も英語も同じように話してる」と言われて、それは流暢とかではぜんぜんなく、だらだらと抑揚なく言葉を垂れ流しているというだけのこと。大竹くんの英語は、いつもちょっと考えながら、短いセンテンスがブツッブツッと積み重なっていく感じで、それがなんだかスクラップブックや大きなキャンバスにいろんなブツを次から次へと貼り重ねていく感じにすごく似ていて、ひとりで納得したりするのだが、そんな変なことを考えているは僕だけだろう。すでにお読みいただいているように、いまロンドンのパラソル・ユニットで大竹伸朗展が開催中だ。

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老ファイターの城

『MANGARO』『HETA-UMA』展の準備中、マルセイユに滞在していた僕に、デルニエ・クリのスタッフたちがひとつプレゼントを用意していてくれた。「キョーイチはきっとこういうのが好きだろう」と、この地方でもっとも有名なアウトサイダー・アーティストの家に連れて行ってくれたのだ。マルセイユ市街から車で1時間足らず、オーバーニュという小さな町の、そのまた外れの小さな村に、ただ一軒だけ、とてつもなくカラフルで過剰な装飾に覆われた家がある。村の交差点に面して、見落としようのない外観・・・それがダニエル・ジャキ(Danielle Jacqui)の住む家だった。

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われらの内なるサドへ——オルセー・サド展へのイントロダクション

SMといえば長く秘められた欲望であったはずだが、いつごろから「わたし、ドMなの」なんて、日常会話でさらっと言われちゃう時代になったのだろう。「SM=サディズム/マゾヒズム」という概念を生み出したといってもいいサド侯爵(マルキ・ド・サド)の、今年は没後200周年にあたる。サドは1740年にパリで生まれ、1814年にパリ郊外のシャラントン精神病院で亡くなった——「我が名が世人の記憶から永遠に消し去られることを望む」という有名な遺言とともに。サドの生きた18世紀後半はフランス革命、アメリカ独立戦争、そして産業革命が進行した激動の時代だった。そうした時代に、人生の3分の1を監獄や精神病院に幽閉されながら書き残された数々の傑作は、後の世に計り知れない影響を与えたわけだが、その没後200周年にあたっていま、パリのオルセー美術館で大規模なサド展『サド——太陽を攻撃する』が開催中である(2015年1月25日まで)。

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ウルトラの星のしたで

『ウルトラQ』から『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』など、特撮変身ヒーローの生みの親であるアーティスト/デザイナー、成田亨の画期的な回顧展『成田亨 美術/特撮/怪獣』が、いま福岡市美術館で開催中だ(2月11日まで)。昨年夏に富山県立近代美術館で始まった本展は福岡のあと、成田亨のデザイン原画を所蔵する青森県立美術館に巡回する(4月11日〜6月7日)。東京での展示はなし。福岡の会期に間に合わないと、展示作品数700点に及ぶこの回顧展を体験するには青森に行くしかない。成田亨は1929(昭和4)年、神戸で生まれた。1歳になる前に、父母の出身地であった青森県に転居。そこで囲炉裏の炭をつかんでしまい左手を火傷、生涯癒えることのない傷を負い、「右手だけで描ける」絵がこころの拠り所となったという。

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近江八幡の乱――『アール・ブリュット☆アート☆日本2』観覧記

先週の告知で少しだけお知らせしたが、日本のアウトサイダー・アートの聖地とも言うべき滋賀県近江八幡市でいま、『アール・ブリュット☆アート☆日本2』が開催中である。日本で最初のアウトサイダー・アート専門展示施設「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」を中心に、市街6ヶ所の町家や美術館、資料館、さらに商店のウインドウや店内にまで拡張した展覧会は、出展作家70数名、作品数1200点以上という大規模なもの。「2」とついているのは、「1」が昨年開催されたからで、その模様は本メルマガ2014年3月19日号で詳細にリポートした。初回に劣らず、アウトサイダー・アート/アール・ブリュット・ファンなら必見の充実した内容なので、今年もぜひ見逃すことなく、ゆっくり時間を取って訪れていただきたい。

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新連載! アウトサイダー・キュレーター日記(写真・文:櫛野展正)

先月の『スピリチュアルからこんにちは』展でも紹介した、本メルマガではおなじみの広島県福山市・鞆の津ミュージアム。死刑囚の絵からヤンキーまで、従来の「アウトサイダー・アート」の枠から大きく踏み出した、挑発的な展覧会を連発してきたキュレーターが櫛野展正だ。展覧会の企画を組み立てるプロセスで、多くの「アウトサイドに生きる創作者たち」と出会ってきた櫛野さん。これから毎月ひとりずつ、そのリアルな出会いの旅を誌上で再現していただく。第1回めは現在開催中の『スピリチュアルからこんにちは』展でも大きくフィーチャーされている、創作仮面館だ。

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84歳の新人アーティスト

教えてくれるひとがあって、ト・オン・カフェの前に立ち寄ったのがギャラリー犬養という場所。こちらはなんと築100年以上という民家をそのままカフェとギャラリーに改造。4年前にオープンしたばかりにはとうてい見えない、ビルの谷間の路地裏に隠れた、そこだけ時間の止まったような場所だった。オーナーであるアーティストの犬養康太さんの一族ゆかりの家というギャラリー犬養。和洋折衷の2階建て木造家屋の各部屋が、極力オリジナルの風合いを残しながらカフェや展示空間に当てられている。ゆったりお茶や酒を楽しむだけでも快適だろうが、今回の目的は開催中だった『山本英子展』を見るため。

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アウトサイダー・キュレーター日記 03 酒井寅義(写真・文:櫛野展正)

源泉数、湧出量ともに日本一を誇る温泉地「別府」。多くの観光客でにぎわう別府駅から電車で3分。別府南部に位置する「東別府駅」は1911年に開業、当時のままの古い木造駅舎が残る風情ある駅だ。そこから徒歩圏内にある「浜脇温泉」は、別府八湯のひとつに数えられ、地元の人たちを中心に愛され続けている。そんな昔ながらの街並みの中に「酒井理容店」はある。理容店といっても外側に看板が出ているわけでもなく、営業中はサインポールがクルクルと回っているだけ。ただ、このサインポールの中で回っているのは、よく目にするあの赤・青・白の模様ではなく、デコレーションされた不気味な仮面や人形なのだ。店主の酒井寅義さんは、1936年生まれの79歳。いまも現役でひとりお店に立ち続けている。

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詩にいたる病――平川病院の作家たち 01 名倉要造

先週お送りした安彦講平さんと平川病院の作家たちの物語、いかがだったろうか。今週からは予告のとおり、ひとりずつ作家たちの人生と作品を紹介していく。そのトップバッターが名倉要造。1946年生まれ、今年69歳。安彦さんとはもう40年以上、作家の中でもいちばん長い付き合いだという。2004年に発行された『名倉要造作品集』(夜光表現双書、行人舎刊――この双書は安彦さんらが立ち上げた自費出版プロジェクト)のなかで、安彦さんはこんなふうに名倉さんのことを紹介してる――。

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詩にいたる病――平川病院の作家たち 02 江中裕子

東京八王子の精神科病院・平川病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載、先週の名倉要造に続いて、今週は江中裕子の作品を見ていただく。〈造形教室〉を取材した8月19日号の記事『詩にいたる病』で、トップに置いた夏目漱石のコラージュ肖像画、その作者が江中裕子さんだ。安彦さんによれば、平川病院の入院中に出会った江中さんは、小さいころから家庭内の葛藤に巻き込まれ、小学生時代からいじめにも遭い、就職した会社の過酷な仕事環境によって精神に変調をきたし、入院こそしていないものの、いまだに通院が欠かせない状態だという。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 04 保護室の壁画

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今週は1980年代に安彦さんによって記録された、貴重な作品をご覧いただく。この連載を始めるにあたって参考にさせてもらった著書『“癒し”としての自己表現』(2001年、エイブル・アート・ジャパン)の中で、とりわけ印象的だった箇所がある。それは閉鎖病棟の保護室に収容された重症患者が、差し入れられた絵の具を使って部屋中を絵で埋め尽くしたという、ちょっとした「事件」だった。病院側からすれば、それは困惑せざるを得ないエピソードだったろうが、彼(書中では「Iさん」と呼ばれている)の作品を見た安彦さんは、エネルギーの迸りに驚愕、その場で申し出て写真とビデオによる撮影記録を残すことになった。

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モンマルトルのベガーズ・バンケット――『HEY! ACT III』誌上展・前編

すでに告知でお知らせしてきたように、9月18日からパリのアウトサイダー・アート専門美術館アル・サンピエールで『HEY! Modern Art & Pop Culture / ACT III』と題された興味深い展覧会が開かれている(来年3月13日まで)。昨年秋の南仏における『MANGARO』『HETA-UMA』展に続き、見世物小屋の絵看板コレクションで僕も参加しているこの展覧会は、パリで発行されているアウトサイダー/ロウブロウ・アート専門誌『HEY!』がキュレーションするグループ展。2011年に第1回が開催され、2013年の第2回展は本メルマガの2013年8月21日号で紹介している。その記事の中で『モンマルトルのアウトサイダーたち』と題して、こんなふうにアル・サンピエールと『HEY!』のことを書いた――

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 08 杉本たまえ

8月にこの短期集中連載を始めたときに、そのきっかけとなった作品との出会いのことを書いた。それは近江八幡NO-MAが主催した『アール・ブリュット☆アート☆日本』展の、会場のひとつとなった薄暗い民家の奥座敷に、浮かび上がるように展示された杉本たまえの作品だった。東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回はその杉本たまえの作品を紹介する。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 09 佐藤由幸

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は佐藤由幸の作品を紹介する。平川病院の〈造形教室〉を初めて訪れたとき、すらっとした青年が大きなスケッチブックを、はにかみながら見せてくれた。柔らかな物腰と、紙の上に描かれている激しい感情の表出。そのギャップの大きさに驚いた。それが佐藤由幸さんだった。佐藤由幸、1973年生まれというから42歳になるはずだが、とてもそんな歳には見えない、若々しいルックスである。

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秘密の小部屋とエロティック・プリント

オルセー美術館で古き良き時代のフレンチ・エロに浸ったあとは、ぜひ立ち寄っていただきたい店がある。いや、娼館じゃなくて。ラーメン屋に安居酒屋(安くないが)、焼肉屋が軒を連ね、なんだか日本のどこかの駅前飲み屋街の様相を呈しつつあるパリ・オペラ座かいわい。その裏手のシャバネ通り(rue Chabanais)に店を構えるのが『Au Bonheur du Jeur(オウ・ボヌール・ドゥ・ジュール)』だ。ここは19世紀から20世紀前半の、エロティックなビンテージ写真プリントや素描、版画を専門に扱う画廊であり、またそうしたコレクションを書籍として発表する出版社でもある。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 12 堀井正明

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。最終回となる今回は12人目の作家・堀井正明の作品を紹介する。最初にお断りしておくと、堀井正明は〈造形教室〉に属する作家ではなかった。しかし僕が〈造形教室〉の活動を知るきっかけとなった、今年6月の『第5回 心のアート展』で特集コーナーが設けられ、それは前年の作家本人の急逝を受けてであること。そして『心のアート展』実行委員である平川病院〈造形教室〉のスタッフが、残された膨大な作品群の整理・保管に関わるようになったこと。さらにこの連載1回目で紹介した名倉要造の展覧会が9月まで開催されていた宮城県黒川郡大和町の「にしぴりかの美術館」で、彼の全作品を保管することになり、そのお披露目展覧会『堀井正明回顧展 昇華する魂~絵が生きる事のすべてだった~』が、いま始まったばかりであること。そうした経緯を踏まえ、8月末から3ヶ月間にわたった連載の最後を、堀井正明と開催中の回顧展紹介で締めさせていただくことにした。

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アウトサイダー・キュレーター日記 10 にがおえコインランドリー(写真・文:櫛野展正)

東京の京成小岩駅から徒歩10分。葛飾区鎌倉にある「にがおえコインランドリー」と看板を掲げた小さな店舗には、鉛筆で忠実に描かれた有名人の似顔絵が床から壁に至るまでぎっしりと貼り巡らされている。中にはバイク事故直後の北野武や、和歌山カレー砒素事件の林眞須美死刑囚の似顔絵も。「それも有名人には違いないからね」。声のする方へ振り向くと、隣の自宅に住む似顔絵の作者・菅野武志(すがの・たけし)さんが顔をのぞかせた。

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軽金属のマリリン

長年のファンにとっては空山基の「新境地」とも言える作品群は、これまでたびたび個展や、イラストレーター団体の展覧会などで発表されてきたが、意外にも「初めての全点描きおろし」という個展が今週土曜(1月30日)から、渋谷のNANZUKA(ナンヅカ)で開催される。『女優はマシーンではありません。でも機械のように扱われます。』という奇妙なタイトルの展覧会は、マリリン・モンローをモデルにした新作ドローイング15点に、SORAYAMAの名を世界に知らしめた「セクシーロボット」シリーズの立体作品を加えたもの。

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バロン吉元の脈脈脈

いまから50年前に小学生だったころは(涙)、少年マガジンやサンデーにどっぷり浸っていたのが、そういう少年誌を卒業する中学~高校生になると、漫画アクションやビッグコミックのような青年漫画誌にハマるのが、僕らの時代の男子定番コースだった。当時の漫画アクションには『ルパン三世』『子連れ狼』『博多っ子純情』など、年の離れた兄貴が教えてくれるオトナの味、みたいな名作が揃っていたが、その中でも印象深かったのがバロン吉元の『柔侠伝』。連載の始まった1970年に割腹自殺を遂げた三島由紀夫の楯の会の人たちも、連合赤軍の人たちもみんな大好きで読んでいたという(鈴木邦男さんのブログより)。「我々はあしたのジョーである」と言い残して日航機をハイジャック、北朝鮮に去った赤軍派の言葉を引用するまでもなく、当時の漫画、とりわけ青年誌の劇画群は、単なるエンターテイメントであることをはるかに超えた、リアルな「若者の声」だった。

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本歌の判らぬ本歌取り――根本敬のブラック アンド ブルー

かつて本メルマガでも展覧会として紹介した、根本敬による歴史的名盤レコード・ジャケットの再解釈ともいうべき作品群が、ようやく作品集として発表される。『ブラック アンド ブルー』と題される本書には、2013年のスタートからすでに東京、大阪で6回にわたって開催されている連続展示で発表された、約170枚にのぼる作品が収められている。そのほとんどがだれでも知っている名盤である「原盤」が、根本敬的としか言いようのないスタイルで徹底的に再解釈され、時には本歌の判らぬ本歌取りのごとき新たなオリジナリティを持って、僕らの感覚を混乱させる。

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もうひとつの『リリーのすべて』

最近忙しすぎて映画館にちっとも行けてないと愚痴をこぼしたら、「60歳になったんだから安くなるじゃない!」と教えられ、「シニア割」という言葉が生まれて初めて現実的に・・・しかしほんとに安い! ロードショーの通常大人料金が1800円なのに、シニアは1100円だから。で、さっそく行ってきたのが『リリーのすべて』。先週末に上映開始したばかりで、本年度アカデミー賞4部門にノミネート、アリシア・ヴィキャンデルが助演女優賞(実質的には主演だが)を獲得した話題の新作だ。もう観たかたもいらっしゃるだろうか。『リリーのすべて』は性同一障害に苦しみ、世界最初期の性転換手術(性別適合手術)を受けて、男性画家アイナー・ヴェイナーから「リリー・エルベ」という女性になった主人公と、その妻でやはり画家だったゲルダの半生をめぐる物語である。

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アウトサイダー・キュレーター日記 14 西本喜美子(写真・文:櫛野展正)

衝撃的な写真を目にした。お婆さんがゴミ袋をかぶって可燃ゴミとして処分されていたり、車に轢かれたりしている。どう考えても尋常ではない。けれど、それがセルフポートレート写真だと気付いたとき、一気に笑みがこぼれてしまった。作者の西本喜美子さんは、現在87歳。熊本県熊本市にあるエレベーター付きの一戸建て住宅で、感情認識パーソナルロボット「Pepper」と暮らしている。

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北国のシュールレアリスト――「上原木呂2016」展によせて

上原木呂(うえはら・きろ)という、変わった名前を目にしたのは、『独居老人スタイル』で仙台のダダカンの取材をしていたころだった。ダダカンさんと長く親交を結び、2008年には東京で開催された『鬼放展――ダダカン 2008・糸井寛二の人と作品』を企画制作するいっぽう、自身もアーティストとしてマックス・エルンストやヤン・シュヴァンクマイエルと合同展を開き、おまけに新潟の老舗蔵元として日本酒の醸造や、地ビール第一号であるエチゴビールの生みの親でもあるという。しかも経歴は蔵元の跡取りなのに芸大に進学。すぐに中退してチンドン屋に入り、そこからイタリア・ローマに渡って古典仮面劇の道化役者として活躍。フェリーニの知遇を得たり、マカロニ・カンフー・アクション映画に多数出演したり!という日々を送った後に帰国。蔵元の五代目社長として家業を盛りたてつつ、コラージュや水墨画などの制作にも熱心に取り組み続け、社長業を退いた数年前からはツイッターで毎日、水墨画の仏画をアップ。「朝と晩と1時間ぐらいで、毎日30枚くらいは描きますかねえ・・・あと水彩とかいろいろ、大小あわせれば年に3万点くらいは作ってます」という、68歳にして恐るべき創作意欲の持ち主なのだ。

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『僕的九州遺産』開幕!

先週、誌上プレビューした福岡天神アルティアムでの『僕的九州遺産 My private Kyushu』、先週土曜日になんとか無事、開幕できました! 福岡という展覧会は初めての場所で、どれだけのひとが来てくれるかと心配でしたが、おかげさまで10月1日のオープニングは大盛況。一時は入場制限がかかるほど、たくさんのお客様が来てくれました。ほんとうにありがとう! 展示内容については先週号で詳しく紹介したので、もう繰り返しませんが、今週は会場をご案内します。

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東京・東と西のロウブロウ

高級割烹の職人が遊びで牛丼作っても似合わないように、ハイエンド・オーディオショップの試聴室でゴリゴリのラップをかけても気持ちよくないように(ちがうか?)、ロウブロウ・アートには銀座や表参道の高級アートギャラリーよりも、やっぱり得体の知れない(失礼!)場末のスペースがしっくりくる。ちょうどいま、これまで本メルマガで紹介してきたアーティストの小さな展覧会が、東京の東側と西側で開催中。急いでハシゴしてきたので、急いでご報告する!

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水枕 氷枕

いかにも金沢らしい築百年という町家。浅野川に面したその家の1階は、2万冊を超える蔵書が並ぶ私設図書館。2階に上がれば畳敷の展示室。ホワイトキューブの美術館やギャラリーとはかけ離れた、ゆったりと静かな空間で福田尚代展『水枕 氷枕』が開催中だ(11月21日まで)。本メルマガ2015年5月20日号で紹介した福田さんは、アーティストであり回文作家でもある。1967年、埼玉県浦和市生まれ。東京芸大・油絵科から大学院で学び、アメリカ・ワシントン州の森の中の小さな町で暮らしたのちに帰国。市役所、プラネタリウム、絵画教室、郵便局・・・いろいろな仕事で生計を立てながら、ずっと制作を続けている。

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ブラック・イズ・ビューティフル?

ケ・ブランリ美術館でいま開催中の展覧会が『カラーライン(The Color Line)』。カラーラインとはボクシング界で、白人チャンピオンが黒人挑戦者との対戦を拒否できたシステムで、アメリカにおける人種差別を象徴する言葉になっている。そう、この展覧会は19世紀の奴隷制廃止から現代にいたるまでの、アメリカの人種差別の歴史のなかで黒人(アフリカ系アメリカ人)たちが生み出してきたアートを俯瞰する、非常にユニークで、しかもトランプ大統領当選という絶妙のタイミングに(結果的に)リンクしてしまった、挑発的な企画でもある。今回は本メルマガでもおなじみ、パリ在住の作家・飛幡祐規(たかはたゆうき)さんにお願いして、展覧会を観てきていただいた。会期は来年1月17日まで。クリスマス~正月にパリ旅行を考えている方は、ぜひ足を運んでいただきたい。

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ウーフではない井上洋介

この夏『神は局部に宿る』展を開いた渋谷アツコバルーで、いま『井上洋介 絵画作品展』が開催されている(12月25日まで)。会期末ぎりぎりになってしまったが、見逃すにはあまりに惜しい機会なので、急いでご紹介したい。井上洋介は画家・イラストレーター・絵本作家という肩書きになっているが、多くのひとにとっては童話『くまの子ウーフ』の絵で知られているだろう(文:神沢利子)。だれが描いたのか名前は知らなくても、ウーフの絵を見ただけで胸がキュッとなる読者が、たくさんいるのではなかろうか。『くまの子ウーフ』の世代ではまったくない僕にとって、井上洋介はまず、お茶の水の「レモン画翠」の挿画のひとだった。創業が大正期にさかのぼるというレモン画翠は、お茶の水がちゃんとした学生街だった時代に、画材店と喫茶店が一緒になった、すごくお洒落な場所だった。井上さんは劇団・天井桟敷の美術担当をしていたこともあって、レモンの広告で見ていたイラストレーションは、絵本とはまたちがう味の、アイロニーやユーモアやエロティシズムを濃厚に漂わせたオトナの世界観でもある。

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手芸のアナザーサイド 3 小嶋独観子と「ミシン絵画」

「ご本人のご意向により、記事を削除いたしました。

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「媚び」の構造

異常な絵を見た。『萬婆羅漢図』と題されたその絵は、一見よくある羅漢図なのだが、よく見ると羅漢さまたちの足下には5人ほどのマンバギャルが群れている。マンバだから「萬婆」。マンバたちはガラケーの画面を羅漢さんに見せたり、脱色した髪にコテを当てたり、マックシェイクを地面に置いてタバコを吸ったりしていて、仙境と渋谷センター街が合体した趣でもある。そして不思議に違和感がない。日本的な羅漢図の持つデコラティブな画面と、マンバのデコラティブな存在感が、ひとつのイメージに統合されているからだろうか。作者の近藤智美(こんどう・さとみ)さんは自身がもともとマンバで、引退後はキャバ嬢から「軟禁経験」などを経て、独学で展覧会を開くようになったアーティストと聞いて、ますます興味をひかれ、新宿歌舞伎町そばのアトリエにうかがわせてもらった。

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アウトサイダー・キュレーター日記 25 梶田三雄(写真・文:櫛野展正)

名古屋駅から電車で8分。たどり着いた南荒子駅の周辺は、あちこちに畑が残り、とても穏やかな町並みが広がっている。駅の最寄りにあるのが、一軒家を改築した美術館『小さな美術館かじた』だ。駐車場のユニークな庭木や「美術は心の栄養」「人生助け合い」など標語の入った手作り看板が楽しい。玄関を開けると、年配のお客さんたちの談笑が聞こえてきた。その中心にいたのが、館長の梶田三雄(かじた・みつお)さんだ。梶田さんは、昭和15年に愛知県知多郡美浜町上野間で5人兄弟の三男として生まれた。長男が一男(かずお)、次男が次男(つぎお)、梶田さんが三番目だから三雄(みつお)なのだとか。

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房総の三日月

千葉県市原市、と言われてピンとくるひとはどれくらいいるだろうか。ジェフユナイテッド? ぞうの国? 鉄ちゃんなら可愛らしい小湊鐵道を思い出すかもしれない。房総半島のほぼ中央に位置する市原市は、市制施行50周年を記念して2014年にアートイベント「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」を開催。いま、その2回目となる「いちはらアート×ミックス2017」が開かれている。別に国際的ならいいというわけではないけれど、今回は外国からの参加作家がロシア人アーティストひとりだけという、ぐっとドメスティックな顔ぶれ。車なら東京都心から1時間半足らずなのに、点在する会場を電車とバスを乗り継いで回るのはかなり困難が伴うアクセスの不便さ。正直言って町おこしアートイベントの典型的な失敗例というか・・・あまりお勧めできるような内容ではないのだが、にもかかわらず今週みなさまをお連れするのは、唯一の外国人参加作家であるレオニート・チシコフ(Leonid Tishkov)を紹介したいから。

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リボーンアートフェス・フリンジ・ツアー

先々週に特集したばかりの札幌国際芸術祭をはじめ、8月は各地でアートフェス真っ盛り。横浜トリエンナーレのようなメジャー級から、町おこしサイズのイベントまで大小さまざまだが、東日本大震災で被災した石巻市では「リボーンアート・フェスティバル(Reborn-Art Festival 2017)が開催中だ。9月10日までと会期終了が近づいたタイミングではあるが、札幌と同じくロードサイダーズらしいフリンジ系をめぐる駆け足ツアーに、今週はお連れしたい。「アートと音楽と食で彩る新しいお祭り」・・・のキャッチフレーズに惹かれるかは微妙なところだが、リボーンアート・フェスが気になったのは、このメルマガで何度かフィーチャーした北九州小倉在住のアーティスト/スケートボーダー/彫り師であるBABUが参加すると聞いたのがきっかけだった。

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ことばの彫刻家、荒井美波

なにもこのタイミングを見計らったわけではないが、いま阿佐ヶ谷のTAVギャラリーでは、藤井健仁とは対照的な、やはり金属を使った立体作品の展覧会が開かれている。荒井美波『行為の軌跡III』、恵比寿トラウマリスから3年ぶりの個展だ。いまは残念ながらなくなってしまった、美大の卒業制作を対象にした公募展「三菱ケミカル・ジュニア・デザイナーズ・アワード」で、2013年の佳作を受賞したのが荒井さんだった。僕も審査員をつとめていて、審査会場で作品と出会ったのだったが、「デザイン」と言えるかどうかは別にして、その発想とセンスには一同唸らされた。

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そう来たかラッシーくん!

今年6月、金沢21世紀美術館で『川越ゆりえ 弱虫標本』展の公開対談をしたときのこと。終了後にそのまま机を寄せ集めて懇親会が始まって、しばらくしたら「私の作品、見てもらえませんか」と話しかけられた。へ~、どんな絵描かれるんですかと聞いたら、「いえ、自分が描くんじゃなくて、いろんなアーティストのかたにお願いして描いてもらってるんです」という。アーティストにコミッション! 一見、ごくふつうの主婦という感じの方なのに・・・とびっくりしていると、葉書をちょっと大きくしたくらいの紙束をリボンで閉じた画集?を手渡された。表紙には『ラッシーくん作品集』と書かれている。ラッシーくんって? 「あ、うちの愛犬なんです。いろんなアーティストのかたに、ラッシーくんをモチーフに描いてもらったコレクションなんです」と言われ、絶句したまま開いてみると、まさに! 油絵に水彩画、木彫にペーパークラフトまで、さまざまなラッシーくんアートが何十点も集められ、しかもそのほとんどの作品写真が、本物のラッシーくんと一緒に写されている。

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バスキアの「描かれた音楽」

少し前にZOZOTOWNの創業者がバスキアの初期作品を約123億円で買ったニュースが、ネットで話題になった。落札された作品は1982年、バスキアが現代美術界にデビューした最初期の作品で、それは僕がバスキアに初めて会った年でもあった。いまロンドンのバービカン・ギャラリーでイギリス初の大規模な回顧展『Basquiat: Boom for Real』が開催中だ(2018年1月28日まで)。1960年12月22日に生まれ、1988年8月12日にわずか27歳の生涯を終えたジャン=ミッシェル・バスキアは、今世紀に入ってからも2005年のブルックリン美術館をはじめ、いくつか大規模な回顧展が開かれてきたが、それでも現代美術史にこれだけ決定的な影響を与えたアーティストにしては、展覧会の少なさのほうが気にかかる。ちなみに「ブーム・フォア・リアル」というのは、王冠などと同じくバスキアの作品によく登場するフレーズで、意訳すれば「うわ、まじか!」みたいな感じだろうか。

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日常版画家・重野克明

中学のころに初めてアンディ・ウォーホル展を観たのは東京駅の大丸だった。アレン・ジョーンズ展を観たのは新宿伊勢丹だったし、美術書や写真集コレクションの泥沼に引き込んでくれたのは池袋西武にあったアールヴィヴァン(現・ナディッフ)だった。いま、「デパート画廊」というものは現代美術の一線から退いてしまった感があるけれど、それでも興味深い展覧会はずいぶん開かれている。ときどき気になるのが日本橋と新宿のタカシマヤで、日本橋店の6階美術画廊Xではきょう(10日)から『ザ・テレビジョン 重野克明展』を開催中だ。

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佐伯俊男展『雲然』

佐伯俊男の絵に出会ったのは三上寛のレコードジャケットだった。1971年にデビュー作『三上寛の世界』が出ているが、僕が最初に買ったのは2枚目の『ひらく夢などあるじゃなし 三上寛怨歌集』で、72年だから高校2年だったか。当時は横尾忠則を筆頭とする「イラストレーター」が「アーティスト」よりも流行の職業とされていて、佐伯俊男も新進イラストレーターだったが(『平凡パンチ』のグラビアで衝撃的なデビューを果たしたのが70年)、三上寛の歌声と同じくらい、オシャレではとうていないし、ポップでもない、若々しくすらない、でもほかのだれともちがう画面にいきなり圧倒されたのだった。

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モノクロームの果実――岡上淑子コラージュ展によせて

高知県立美術館で『岡上淑子コラージュ展――はるかな旅』が開催中だ。この展覧会を待っていたひとは少なくないと思う。今年90歳になった岡上さんの初の大規模回顧展である本展は、国内所蔵のコラージュ80点、写真作品19点に加え、コラージュから新たに制作されたシルクスクリーン、プラチナプリントなど計115点、さらに海外所蔵などで展示できなかった作品もプロジェクションで紹介されている。コラージュと写真で現存する全作品数が150点ということなので、今回は岡上淑子という作家の全容を開示するもっとも重要な機会になる。高知展後の巡回は予定されていないので、すでに地元よりも県外からの来館者が多く訪れているという。展覧会に「はるかな旅」とサブタイトルがつけられているのは、岡上さんの制作活動が1950年代のわずか7年間だけで、21世紀になってから40年以上ぶりに「再発見」されたものであるからだ。

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アーティストたちの首都高

品川区大崎駅前の大崎ニューシティに、「O(オー)美術館」という展覧会場があるのをご存じだろうか。品川区立の施設で、場所が便利で広い展示空間があるわりに利用料金が安いので、ときどきおもしろい展覧会に出会う。『独居老人スタイル』で紹介した戸谷誠さんも、ここがお気に入りの発表場所だ。昨年12月16日から20日まで、ここで『開通55周年記念・芸術作品に見る首都高展』という風変わりな展覧会が開かれた。たった5日間の会期だったが、なんとか間に合って足を運んでみたら、そこには東京の首都高(首都高速道路)が描かれた絵画や版画、写真などの作品が100点あまり、広い会場を埋め尽くしていた。首都高を描いたり写したりした作品がこんなにあったのかと驚いたが、このコレクションが首都高の会社としてではなくて、首都高の関連会社にお勤めする会社員の個人コレクションと聞いてさらにびっくり。

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フォトノベル――忘れられた物語のために

「フォトノベル」あるいは「フォトロマン」「ロマンフォト」と呼ばれる表現をご存じだろうか。スタイルは漫画なのだが、絵の代わりに人物や風景の写真がコマ割りに配置され、そこに吹き出しで台詞や説明が載っていく、いわば「写真漫画」のこと。日本ではあまり流行しなかったようだが、僕が働いていた最初期の雑誌『POPEYE』では後半のモノクロページで、しばらく「フォトロマン」のページをつくっていた。そしてフォトノベル/フォトロマンはヨーロッパ、とりわけイタリアやフランスでかつて絶大な人気を誇っていて、しかも知識人からは徹底的にバカにされ続けた、20世紀欧州大衆文化の極北ともいえる表現形態だった。南フランス・マルセイユの海岸沿いにある欧州・地中海文明博物館(Musée des Civilisations de l’Europe et de la Méditerranée、通称Mucem)でいま展覧会『Roman-Photo(英語タイトルPhoto-Novel)』が開催中だ(4月23日まで)。フォトノベルをまともに取り上げた、初のミュージアム展覧会であるこの大胆な企画を、今週はたっぷり紹介させていただきたい。

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一番先生、降臨!

寒々しい駅前広場で、聞いたこともないアイドルグループが歌ってる。わずかに足を止める観客。冷ややかな通行人の視線を気にすることもなく、両手にサイリウムを握って応援に声を張り上げるヲタの一団。アイドルシーンよりも、そういうアイドルヲタシーンに興味を惹かれるようになって、まもなく見つけたのが「一番先生」だった。一番先生という称号を持つ、この男性が踊る動画を初めて見たのは、たぶん5年くらい前だったろう。アイドルイベントではなく、それは巨大な野外フェスで、向こうのほうでだれか有名アーティストが演奏しているのだが、フィールドを埋めた数千人の観客の真ん中にぽっかり穴が開いて、そこで一番先生が踊りまくり、取り巻く客たちはステージに背を向けて一番先生のほうに熱狂しているのだった。だれ、このひと!

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パニョス・チカーノス――ルノ・ルプラ=トルティの刑務所芸術コレクション(文:中山亜弓)

2014年に南フランス・マルセイユとセットで開催された『MANGARO』『HETA-UMA』展。本メルマガでは2週にわたって詳しく紹介したが、その取材を通して出会ったひとりがルノ・ルプラ=トルディ。展覧会の開催メンバーとして、日本から参加したアーティストたちをがっつりサポートしてくれた。2017年に短期連載した石川次郎の滞在記『フランス侵略日記』でも「ルノさん」と呼ばれて毎回登場していたので、あのひとか!と思われる読者もいらっしゃるかも。そのルノさんは、実は「パニョス・チカーノス」と称される、メキシコ系アメリカ人が刑務所で描いたハンカチ絵の世界的なコレクターでもある。すでにヨーロッパ各地では彼のコレクションによる展覧会がいくつも開かれているが、このほど東京でも中野タコシェと渋谷アップリンク・ギャラリーの2ヶ所でコレクション展が開催されることになった。

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未来への帰還――ニューヨークのラメルジー回顧展

ストリート・アートの世界ではカルト的な人気を誇ってきながら、2010年に49歳で亡くなったあとは、著作権の帰属がはっきりしない状態が続いたこともあり、なかなか単独の回顧展が開かれなかったが、5月4日からニューヨークのレッドブル・アーツ・ニューヨークという、あの飲料メーカーが運営する非営利アートスペースで初の大規模回顧展『RAMMELLZEE: Racing for Thunder』が開催されると聞き、いても立ってもいられなくなって急遽ニューヨークに観に行ってきた。RAMMELLZEE――正式にはRAMM:ΣLL:ZΣΣと表記する、Σ(シグマ)は総和をあらわす数式、ラメルジーはみずからの呼称を名前ではなく「方程式」であると主張していた――は1960年にニューヨークJFK空港に近い浜辺の町、クイーンズのファー・ロッカウェイ(Far Rockaway)で生まれた。

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カーテンの襞から覗く顔

現役の、という言い方は変だけど、いま生きている作家の美術には大別して「現代美術系」と「団体展系」がある。そのどちらにも入らない作家は、美術館でも美術雑誌でもなかなかフィーチャーされにくいけれど、そういう作家たちのほうが実はたくさんいて、ただ見つけにくいだけなんじゃないかと思うようになった。藤田淑子という作家を知ったのはまだ2~3年前のこと。どこかの展覧会のレセプションでポートフォリオを見せてもらったのか、銀座ヴァニラ画廊の公募展に送られてきた作品を見たのが先だったのか。よく覚えてないけれど、すごく妙な絵だな、と思ったのはよく覚えている。銀色の背景に、ほとんど赤と青、みたいな単純な色合いの人物やカーテンのドレープ、つまりひだひだがべたっと描かれていて、でも人物には目も鼻も口もない。むしろ主役は赤や青のひだひだみたいだ。

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須田悦弘のミテクレマチス

静岡はいろんなキャラクターを備えた県で、名古屋側の西には浜松があるし、真ん中に静岡市、東京側の東には熱海がある。あと、もちろん富士山も。そういうなかで伊豆半島の根っこにある三島市は、観光地としてはあまり話題に上がらないかもしれない。浜松で仕事があった日に、無理すれば日帰りで帰れるところを、ふと思いついて新幹線を三島で降りて一泊することにした。駅前からシャトルバスで行けるヴァンジ彫刻庭園美術館で、須田悦弘の展覧会が開催中なのを思い出したから。

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デジタルな虹の彼方に

銀座に隣接した京橋には小さなギャラリーがずいぶん集まっている。フィルムセンターかLIXILギャラリーからスタートして、気になる展覧会をいくつかハシゴして、美々卯で蕎麦を食べておしまい、というのが僕にはすごく楽しいコースだ。この7月、art space kimura ASK?というギャラリーの地下室で、『はげ山と閑散都市の原始/functional, primitive』と題された展覧会を観た。倉庫みたいな小さい部屋に、映像やプリントや立体物がいっぱいに散らばっている。その空間の密度と、とりわけ映像の異様さにぐぐっと掴まれた気持ちになって、作者の藤倉麻子さんと話してみると、東京藝大の大学院をこの春に修了したばかりで、ギャラリーでの個展もこれが初めてなのだという。高速道路、壁に並ぶ公衆便所の便器、海、浜辺・・・都市と自然の環境が奇抜な色彩とフラットな作画の3DCGで展開している。それはものすごくカラフルでポップなようで、ものすごく人工的で冷たくて、不気味な風景でもある。いったいどんなひとが、こんな世界観をビジュアル化しているのだろう。

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佐藤貢 漂着した人生

まったくの口コミだけで、静かに読みつがれている旅行記がある。前編が2015年、後編が翌16年に、大阪のギャラリーが版元となって刊行された自費出版・少部数の文庫2冊組。いずれも130ページそこそこのコンパクトなつくりで、一般書店やAmazonなどオンラインショップでも買うことができないから、わずかな在庫を手にした幸運な読み手が、次の読み手へと伝えているのだろう。『旅行記』(前・後編)と題されたその本の著者は佐藤貢(さとう・みつぐ)。廃材を使った立体作品をつくるアーティストで、2005年から大阪や名古屋を中心に活動を続けているが、どれほどのひとが彼の名を知っているだろうか。その佐藤貢が今月末から神保町ボヘミアンズ・ギャラリーで個展を開く。東京での展示は、わずかなグループ展を別にすれば、2007年の森岡書店から10年以上ぶりになるはずだ。

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銀河芸術祭と佐渡島圏外ツアー

先週末の土日2夜にわたって佐渡からお送りしたSADOMMUNEスナック芸術丸、ご覧いただけただろうか。DOMMUNEスタート当時から始まったスナック芸術丸の、49回目と50回目・・・100時間目!という記念すべき回を、初めてリアル・スナックから、それも佐渡という離島の地からお送りできたことはまことに感慨深い。配信前は台風直撃を心配したのだが、幸いにも進路が逸れて、夜中に強風が吹いたくらい。3日間の滞在中、天候にも恵まれたので、配信の合間に芸術祭のいくつかのロケーションを中心に、久しぶりの佐渡を急いで回ってきた。今週は北海道めぐりの2回目を掲載する予定だったけれど、芸術祭が10月14日まで開催中とのことで、急遽佐渡特集をお送りすることに。新潟では越後妻有アートトリエンナーレ「大地の芸術祭」、新潟市の「水と土の芸術祭」という2つの大型芸術祭が今年は重なったけれど、「大地」と「水と土」に対して、こちらは「銀河」。今回が第1回、それも手作り感覚満載の、あまり知られていない芸術祭の私的なリポートにお付き合いいただきたい。

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バッドアート美術館、まさかの東京展!

「ボストン美術館の至宝展」が去年東京都美術館で始まって、名古屋展で閉幕したのはまだこの夏のことだけれど、世界的なコレクションを誇るボストン美術館がボストン美術界の頂点とするならば、ボストン美術界の最底辺(笑)に位置するのがミュージアム・オブ・バッド・アート=略称「MOBA」。モマじゃなくてモバね。しかしこんなものまで・・・とニュースを聞いて絶句したのが、明日11月22日から東京ドームシティのギャラリー・アーモで始まる「バッドアート美術館展」。本気でしょうか・・・。「ROADSIDE USA」でボストン郊外デダムの映画館地下にあったMOBAを訪れたのは2001年のこと。それから17年経ったいま、あのコレクションが東京で、それも公立美術館ではなくて遊園地のなかの展示スペースという・・・ふさわしいと思えなくもない場所で見られることになるとは!

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高橋舞のガムテープ

このメルマガでも何度か紹介している浜松市の障害福祉施設アルス・ノヴァ。最初に訪れたのは2016年、「一日ノヴァに来てもらって、感想を話してください」という「ひとインれじでんす」と名づけられたプログラムだった。それまでアウトサイダー・アートの取材を通じて知っていたいくつかの施設とはまるで異なる、自由で、ほとんどフリーキーとさえ呼びたい、利用者とスタッフがつくる空間のありかたに衝撃を受けた。今年の春には朝日新聞からお話をもらって再訪している。

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座禅と写経とフレディ・マーキュリーから生まれた絵――柿本英雄展を見て

近所の花屋に行ったら、店先に妙なポスターが貼ってあった。「柿本英雄展 半分青いの画家が描く色の絵日記」とあるけれど、柿本英雄ってだれだろう?「半分青い」って、NHKの連ドラと関係あるんだろうか? そしてアウトサイダー・アートというより、むしろ先日特集したばかりのバッドアートの系譜とおぼしき、なんとも言えない味の、この絵はいったい!? 思わず花屋の店主に聞いてみたら、店の2階でレンタルギャラリーをやっているので、「いきなりDMが送られてきたんだけど、ちょっといいなと思ったんで貼ってるの」とのこと。う~む、またも期せずしての出会いが! というわけで先月、浜松に高橋舞さんの展覧会を見に行った機会に名古屋まで足を伸ばしてみた。会場の大一美術館はパチンコメーカーの大一商会が所有する、エミール・ガレやドームなどアールヌーボー期のガラス工芸コレクションで知られる美術館。その1階にあるレンタルギャラリーが「柿本英雄展」の会場となっていた。

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昭和・平成のヒーロー&ピーポーたちへ

平成の終わりが近づいてきて、いろんな分野で平成をふりかえる企画が目立っている。数年間の準備期間を要する美術館の展覧会にも、ちょうどタイミングを合わせたかのような企画展が重なっていて(まさか学芸員諸氏がこの展開を予測していたわけではなかろうが)、今週来週と2回にわたって3つの展覧会を紹介したい。まずはいま、たぶん現代美術ファンがいちばん気になっているであろう兵庫県立美術館で開催中の『Oh!マツリ☆ゴト 昭和・平成のヒーロー&ピーポー』から。第二次大戦前のモボ・モガ時代から2018年の新作まで、およそ90年間にわたる昭和・平成時代の日本美術を「ヒーロー&ピーポー」という斬新な枠組みで捉え直したこの展覧会。

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高知でニューペインティング遍路

先週は第二次大戦前のモボ・モガ時代から2018年の新作まで、およそ90年間にわたる昭和・平成時代の日本美術をユニークな視点でまとめなおした『Oh!マツリ☆ゴト 昭和・平成のヒーロー&ピーポー』(兵庫県立美術館)を紹介した。今週は高知県立美術館で開催中の『ニュー・ペインティングの時代』と、神戸ファッション美術館で開催中の『コレクション展 平成のファッション1989.1.8−2019.4.30』にご案内する。1980年代の前半、それまでのアート業界とはまったく異なる場所から生まれてきた「ニューペインティング」と総称されるムーヴメントが、それ以降のアート・シーンを一変させてしまったのはご存じのとおり。実は高知県美は欧米のニューペインティング期のかなり充実したコレクションを所蔵していて、本展も借り物は1点もなく、すべて館蔵作品。21点の大作が展示される今回は、その久々の揃い踏みということになる。

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欲望の風景画――林良文展「「変化の二乗」

どんな絵が好きなんですか、と聞かれて考え、「いかがわしい」という形容詞が褒め言葉に使える作家かな、と思ったことがあった。林良文はもう30年以上もいかがわしさに充ち満ちた鉛筆画を描き続けているパリ在住のアーティストだが、いま東京九段の成山画廊で、70歳にして初という油絵の展覧会を開いている。ずっと前からパリでお会いしたかったけれど果たせず、今回初めてゆっくりお話を聞くことができた。すでに日本でも数冊の画集が出ているし、展覧会も何度も開かれているので、ご存じのかたもいらっしゃると思う。「いかがわしい」の同義語が「反道徳的」や「みだら」なのだとすれば、徹底的にいかがわしい緻密なモノクロ宇宙を長いあいだ育んできた林さんが、思いもかけず見せてくれた油絵。それはねっとりした色彩のなかに、血液や体液が練り込められているような、粘着系の妄想が画中で暴れているような・・・・・・むしろどうしていままでこんな絵を描かないでいたのか、描かないでいられたのか、疑問のほうが膨らむのだった。

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ビル景のかなたに

月曜夜のDOMMUNEでご覧いただいたかたもいらっしゃると思うが、ゲスト審査員をつとめさせてもらったか『熊本アートパレード』展が終了したばかりの熊本市現代美術館で、『大竹伸朗 ビル景 1978-2019』が4月13日からスタートする。1978年に「ビルのある風景」をふと描いたことがきっかけで、もう40年間以上、気がつけばビルが画面のどこかに描かれた風景を彼は描き続けてきた。意識することもなく、しかし途切れることなく描かれてきたビルたち。風景画家が海や山や木々を飽かず描くように、大竹伸朗は都市のスカイラインや剥がれかけた壁、コンクリートの地面をランドスケープとして描いてきたのだった。

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アウトサイドはどこにある

クシノテラス主宰者であり、本メルマガでも2015年から「アウトサイダー・キュレーター日記」を、もう41回も連載してくれている櫛野展正による『アウトサイド・ジャパン展~ヤンキー人類学から老人芸術まで』が、先日『バッドアート展』を開いた東京ドーム・ギャラリーアーモで、いよいよ4月12日に開幕する。2018年9月に刊行された同名の著書の、立体版というか実写版とも言うべきこの展覧会は、2012年の鞆の津ミュージアム開館からずっと続けられてきた彼のアーティスト巡礼の、集大成となるはずだ。

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墨汁の錬金術師

よほどインディーズ漫画に詳しいひとでないと、キクチヒロノリという名前にすぐ反応はできないかもしれない。1998年から2000年代の初めにかけて数冊の単行本を発表するが、その後ほとんど活動が知られないまま時が経ち、いま突然、あらたな作品集を発表。その刊行記念展が中野タコシェで開催されることになった。『アルケミカル・グラフィックス=錬金術の図像』というタイトルのとおり、だれも解読できない古代の象形文字で書かれた物語のようにも見える、呪術的なイメージの集積。それは過去の単行本で見ていたポップな作風とかけ離れて、これがどんなふうに、どんな人間によってつくられたのか興味をかき立てるのだが、キクチヒロノリ本人についてはほとんど資料がない。公式ウェブサイトもあることはあるが、最終更新が2011年で止まったまま。その謎めいたキャラクターが気になって、今回は茨城県在住のキクチさんと電話でお話することができた。

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モンマルトルのロウブロウ・アート祭 3(文:アツコ・バルー)

今回のパリ、アルサンピエールでのグループ展のリポート第3弾である。それにしても世界中からよくまあこれだけユニークな人たちを集めてきたものだ、と感心させられる。それはHey!マガジンの長年の積み上げ、2000年から取り上げてきた作家の幅の広さと密度の成果であろう。もっともHey!の主催者、アンヌとジュリアンは1990年からすでにギャラリーを開いていたので、もう29年にわたる歴史がある。アルサンピエールはパリ市が旧市場を改造して1995年にオープンしたアールブリュット、アウトサイダーアート、特殊なアートに特化した美術館である。東京都にもこういうのを作りましょう。ということで4年ほど前に舛添知事が見学に来たことがあったが、そのすぐ後でスキャンダルがいろいろあったようであっさりと知事は退任して同時に計画も消えてしまった。

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地の果ての謝肉祭

MONA=ミュージアム・オブ・オールド&ニュー・アート。美術ファンならすでにご存じの方も多いだろう。タスマニア州都ホバート郊外の貧しい町、グレノーチーに生まれ育った天才的なギャンブラー、デヴィッド・ウォルシュが、数百億円にのぼる私財を注ぎ込んで開いた、SEX & DEATH=性と死のテーマに特化した古代から現代に至るコレクションという途方もないミュージアムは、タスマニアを一夜にして「いま世界でいちばん行きたいクールな旅行先」に変えてしまった。そのコレクション、デザイン、オペレーションにいたるまで、「ふつうの美術館」の真逆を行くMONAが、夏と冬の年2回開く音楽とアートの祭典、それが夏(つまり日本の冬)の「MOFO」であり、冬(日本の夏)の「DARK MOFO」である。ちなみにMOFOとは「MONA FOMA=Museum of Old and New Art: Festival Of Music and Art」の略。6月6日にスタートし23日に閉幕したばかりの、7回目となるDARK MOFO 2019には、本メルマガで何度も取り上げ、8月には「あいちトリエンナーレ」にも登場するサエボーグが参戦した。

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MONA、あるいはルーレットのゼロに賭けた美術館

いまも昔も巨万の富を築いた大金持ちがつくりたくなるものの筆頭、それが美術館だ。ロサンジェルス、モスクワ、上海・・・・・・世界にはメジャーな公立美術館をしのぐ規模の個人美術館がいろいろあるが、そのほとんどすべては「ちゃんとしたコレクション」。高い教養と専門知識(と潤沢な資金)によって収集された、ごくまっとうなラインナップであって、個人だから公立美術館よりはるかに野心的な企画展が見られるかと思うと、意外にそうでもなかったりする。それは大金持ちが「カネ稼いでるだけじゃなくて、ちゃんと文化貢献してるんですよ」という大衆へのアピールでもあるからだろうか。でも、そういう芸術愛の奥に秘められた虚栄心や罪悪感とはまったく無縁の、やりたい放題やってるだけの巨大個人美術館がある。それがタスマニアのMONAだ。

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「ビル景」の息づかい

すでにご覧になった方も多いだろうが、大竹伸朗『ビル景』展が7月13日から水戸芸術館で開かれている。本メルマガでは今年4月3日号で熊本市現代美術館での展覧会を特集したが、そこからさらに新作など100点あまりが加わり、約600点の「ビル景」が並んだ大規模な展示になっている。また今回の『ビル景』は、大竹くんにとって2006年の東京都現代美術館での『全景 1955-2006』以来、なんと13年ぶりとなる関東エリアでの美術館個展でもある。

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工房集の作家たち 2 大倉史子

先週の尾崎翔悟に続いて、埼玉県川口市の工房集につどう作家たちから、今週は大倉史子(おおくら・ふみこ)を紹介する。にぎやかな工房集のアトリエを抜けて裏庭に出ると、陽当たりのいい片隅に置かれた机に画用紙を広げて、熱心にペンを走らせる女性がいた。大倉史子さん、1984年生まれ。もともと創作が大好きで、高校卒業後、活動を続けられる場所を求めて、みずから工房集を選んで2003年から通うようになった。大倉さんには自閉があり、他人とのストレートなコミュニケーションが難しく、たいていはみんなと離れた庭の机などで絵に取り組んでいる。いつもひとりで。ただ、それは「みんなのなかに入っていかない」だけで、すぐそばにはいるという、大倉さんなりの「一緒にいる」ありかたなのかもしれない。

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工房集の作家たち7 金子隆夫

埼玉県川口市の工房集につどう作家たちを紹介する連続企画、7回目となる今週は金子隆夫を紹介する。前回登場した横山涼さんの隣で机に向かっていた、あの男性が金子さんだ。金子さんは1976年生まれ、工房集の関連施設である川口太陽の家に所属している。工房集のギャラリーには小さな販売スペースがあって、作品やカタログが並んでいる。そのなかに『生きるための名言集。』と題されたハガキサイズの薄手の作品集があった。よく見ると「その1」から「その7」まで、もう7冊もつくられて、スタッフによると「どれもけっこう人気で、よく売れてるんですよ~」というのだった。

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不意の崇高――國分隆展@にしぴりかの美術館

仙台市中心部から北に向かって1時間ほど、黒川郡大和町(たいわちょう)に障害者福祉サービス施設に付随した「にしぴりかの美術館」がある。ちなみに大和町は彫刻家の佐藤忠良や、なんとあのDJポリスの出身地だそうだが、眠るような街並みに溶け込んだ、まったく美術館らしくないカジュアルなたたずまいのにしぴりかは、アウトサイダー・アート/アール・ブリュットに特化した展示で、このメールマガジンでも何度も紹介してきた。そのにしぴりかで1月17日まで開催中なのが「シリーズ夜光~國分隆展~」。やはり本メルマガで2015年、「詩にいたる病」として短期集中連載した、高雄の平川病院などいくつもの精神科病院で〈造形教室〉を主宰してきた安彦講平(あびこ・こうへい)さんの「光は闇の内から生まれ出る 光は闇の奥底を照らし続ける」という言葉から採られたそうで、このシリーズでは毎回、〈造形教室〉に関わる作家をひとりずつ個展形式で紹介している。

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地上絵と限界鉛筆

2018年10月に新潟市の北書店でトークイベントをやらせてもらったときのこと、休憩時間にお客さんのひとりが「こんなの作ってるんです」と、手のひらに乗せたホチキス針箱ぐらいの小箱を見せてくれた。そーっと箱を開けると、そこからチビた・・・・・・というより極限まで削り込まれて小さなホック(スナップボタン)の頭ぐらいになった鉛筆がいくつも出てくる。こんなのいったい、どうやってつくったんだろう! 本人が言うところの「限界鉛筆」の作者・鈴木千歳さんは、お話を聞いてみると、なんと!サスノグリフスのメンバーだとも言う。ご存じのかたもいらっしゃるだろうが、「サスノグリフス」は新潟の海沿いの砂浜にナスカのような巨大な地上絵を描き、それを空から見てもらおうという(だれが!)プロジェクト。こんなに巨大なものと、こんなに微細なものを同時に手がけてるって、いったいどんなひとなんだと興味が募りつつ、なかなか機会がないまま時間が経って、ようやく先日新潟を再訪。ゆっくりお話を伺うことができた。

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怪人シキバ二十面相

ずいぶん前から机の脇に山下清の写真を貼って、ときどき眺めている。放浪時代の山下清は道路ではなく線路を歩いて次の町に向かうのが常だったそうで、それは線路を歩いていれば道に迷わないし、駅舎で寝ることもできるからだった。山下清は知名度に欠けたのではなく、知名度がありすぎて過小評価されてきたアーティストだと思うが、多くのひとがイメージする山下清は「裸の大将」の芦屋雁之助なのであって、実物の山下清は汚れなきオトナコドモどころか、障害者施設の八幡学園に暮らすようになった子ども時代からかなりのワルで、先生方に手を焼かせていた。

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ホンコン・コーリング

新型コロナウィルスで日本やアメリカ、ブラジルのような「負け組」と、韓国や台湾のような「勝ち組」が徐々にはっきりし始めている現在。1月23日に1人目の感染者を出した香港は、その後の徹底的な制御と情報公開のおかげで4月末から新たな感染者が出ておらず、ウィルスの封じ込めに成功したかのように見えるが・・・・・・そのいっぽうで、感染防止を目的とする集会禁止令が解除される日が来ても、コロナ直前まで盛り上がっていた政府への抗議デモ活動のほうは、さらなる規制を可能にする条例が制定されて完全に封じ込められるのではないかという危機感が高まっている。僕ら日本人にとって「行きたくても行けない国」のひとつになってしまっている香港で、3月14日から開かれているのが周俊輝(チョウ・チュン・ファイ)の個展『背影 Portraits from Behind』。日本の状況がこんなふうになる前は、もしかしたら見に行けるかと淡い期待を抱いていたが、会期終了になる5月16日まで事態好転が望めない状況なので、ギャラリーから画像を送っていただいて紹介することにした。

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私たち、言葉になって帰ってくる

ようやく各地で規制が緩やかになりはじめたけれど、まだまだ美術館は多くが休館中。今年が開館30周年という千葉佐倉のDIC川村記念美術館も、全面休館が続いている。3月20日から始まる予定だった「ふたつのまどか」は、サイ・トゥオンブリーやジョアン・ミロなど美術館の収蔵作品と、現代の作家たち5人を組み合わせたおもしろい試みで、本メルマガ2015年5月20日号で配信した「銀河の中に仮名の歓喜」で紹介した現代美術家であり回文作家でもある福田尚代さんが、ジョゼフ・コーネルとのセットで参加している。

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SYSTEM K ―― ゲットーの未来派たち

「神は局部に宿る エロトピア・ジャパン」(2016年)や「渋谷残酷劇場」(2018年)を開催したアツコ・バルーを主宰し、現在はロンドンを拠点に活動するアツコさんから「これ、知ってる?」という短いメッセージと一緒に、映画の予告編のリンクが送られてきた。『SYSTEM K』というそのドキュメンタリーは、今年1月にパリでワールドプレミアを迎えたばかりの新作。それはコンゴ民主共和国の首都キンシャサのゲットーで活動するストリート・アーティストやパフォーマーを記録した、刺激でひりつくドキュメンタリーだった。 監督はフランス人のルノー・バレ(Renaud Barret)。2010年にはやはりコンゴの路上で活動する、ポリオ(小児麻痺)障害者たちのバンドとストリート・チルドレンによるプロジェクトの記録『ベンダ・ビリリ もう一つのキンシャサの奇跡』が公開され、日本でもかなり話題になった(フローラン・ド・ラ・テュライとの共同監督)。

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「あるがまま」にアートはあるのか

特別展「あるがままのアート 人知れず表現し続ける者たち」が上野の東京藝術大学美術館で始まっている(9月6日まで)。今年も各地でアウトサイダー・アート/アール・ブリュット関係の展覧会はたくさん開かれたり予定されているが、本展はその規模と充実度で今年屈指の、日本の作家たちを紹介する展覧会だと思われる(しかも入場無料!)。

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PARCOの向いはアールブリュット――「カワル ガワル ヒロガル セカイ」展

今年7月8日号「公園通りのアウトサイダー」で紹介したばかりの、東京都渋谷公園通りギャラリー。新木場の東京都現代美術館のサテライト施設として今年2月にオープンしたアールブリュット/アウトサイダー・アートに特化した展示空間だ。「大竹彩子 GALAGALA」展を開催中の渋谷PARCOとは交差点を挟んだ対面に位置する絶好のロケーションなので、PARCOに行く際はぜひこちらも立ち寄っていただきたい。 公園通りギャラリーではいま「アール・ブリュット2020特別展 満天の星に、創造の原石たちも輝く -カワル ガワル ヒロガル セカイ-」を開催中(12月6日まで)。この領域の展覧会にありがちな、情緒的で内容不明系のタイトルはちょっとナンですが・・・・・・国内の作家16名と海外の作家2名の計18名からなるグループ展は、かなりの充実ぶり。

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祝・ダダカン師、百歳!

『独居老人スタイル』や、本メルマガでも何度かフィーチャーしたアーティスト/ハプナーのダダカン(糸井貫二)が今年ついに100歳を迎え、今月13日から東京泉岳寺のカフェ・ゴダール・ギャラリーで記念展覧会が開催される。ギャラリーはカフェを併設した小ぶりの空間だが、「ダダカンの『殺すな』展」を前後期にわけて、またそのあいだにはダダカンゆかりのアーティストや、影響を受けた若手作家による「オマージュ作品展」を開催予定。仙台の伝説なのだから、本来は宮城県美術館かメディアテークあたりで大回顧展を開催すべきだと思うのだが、ぜんぜん動きなし。そのあいだに101歳になってしまう!のもナンなので、まずはカフェギャラリーでの展覧会で渇を癒やしておきたい。

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追悼・ラッシー君

ロードサイダーズのみなさまにはもうおなじみ、金沢在住の主婦アーティスト&コレクター山川博子さんの愛犬ラッシー君。去年になって、あんまり具合がよくないと聞き、動けるうちに山川さんと一緒の写真撮ろう!とか言ってるうちにコロナが始まり金沢に出かけるのを先延ばしにしているうちに、先日「ラッシー君が亡くなりました」というお知らせをいただいた。 山川さんと出会ったのは2017年6月、金沢21世紀美術館の『川越ゆりえ 弱虫標本』展でトークに呼ばれたときだった。そのときのことを書いた2017年10月18日 配信号「そう来たかラッシーくん!」に、こんなふうに書いた――

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大竹彩子 GALAGALAGALA

コロナ禍に揺れる東京で、昨年9月に渋谷PARCOミュージアムで開催された大竹彩子展「GALAGALA」。予想をはるかに上回る集客と反響に周囲はもちろん、本人も驚いたかもしれない。展覧会についてはメルマガ2020年9月16日配信号でもインタビューを交えてたっぷり紹介した。 彩子ちゃんがロンドンのセントマーティンズ・カレッジを卒業して帰国し、東京で最初のグループ展に参加したのが2017年(「dix vol.02」クワイエットノイズ アーツアンドブレイク)。それからいくつかのギャラリーでの個展やグループ展を経て、2019年の原宿ディーゼル・アートギャラリーの「COSMOS DISCO」で、一気に一般層(という言い方も変だが)にブレイク。翌年の渋谷PARCOでも全作品が早々にソールドアウト。その成長というか進撃のスピード感には、彼女をよく知ってるつもりだった僕も驚くばかりだった。 コロナウィルスはあれからもしつこく居座っているが、2月11日から今度は大阪・心斎橋PARCOで「GALAGALAGALA」がスタートする。

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平成とは「うたかたと瓦礫」の時代だったのか

先々週は京都国立近代美術館で開催中の「三島喜美代」コレクション展を紹介したが、今週は平安神宮に向かう道路を挟んで対面する京都市京セラ美術館で開かれている「平成美術 うたかたと瓦礫(デブリ)1989-2019」をご覧いただく。開館が1933(昭和8)年、実は公立美術館として日本に現存する最古の建築という京都市美術館。2015年に開催された「PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭」の会場となったときは、ふだん閉じられていた庭園への扉が開放されて、こんなんなってたのか!とびっくりさせられた。2020年に大規模な改修を終えて京都市京セラ美術館としてリニューアルオープン。敷地の北東部分に新設された現代美術棟・東山キューブでは、5月から「杉本博司 瑠璃の浄土」が4ヶ月あまりにわたって開催されたので、アート・ファンにはすでにおなじみだろう。

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南の島の少年画家

砂守勝巳の奄美の写真を見ていて、不意に思い浮かんだ光景があった。 2006年に奄美の田中一村記念美術館を訪ねたとき、当時学芸員だった前村卓臣(まえむら・たくみ)さんに紹介したもらったのが屋嘉比寛(やかび・ひろし)という少年のコンピュータ・グラフィックス作品。高機能自閉症だった屋嘉比くんは、小学校4年生のときに田中一村の絵を出会い、美術館に通うようになって、一村作品をモチーフにしながら自分なりの絵を描いているうちに前村さんに発見され、12歳にして特別企画展を記念美術館で開くまでになったのだった。 その驚愕の作品群に、前村さんと同じく打ちのめされた僕は、当時連載していたデザイン誌『アイデア』でさっそく紹介。その記事は単行本『現代美術場外乱闘』(2009年、洋泉社刊)に収録されたが、どうも再刊が絶望的なようで、古書店で探していただくしかないが、せっかくなのでここに再録しておく。

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サエボーグとうんこの城

特異なラバー造形作家サエボーグの展覧会が渋谷PARCOミュージアムで先週末から始まっている。 2012年に自宅アトリエ訪問記を書いたのをはじめに(「突撃! 隣の変態さん」、2014年の「Slaughterhouseスローターハウス」、2016年の「ピッグペン」、2018年の「Wastelandウェイストランド」、そして2019年にはオーストラリア・タスマニアDARK MOFOでのパフォーマンスなど、ロードサイダーズではその活動をずっと追いかけてきた。

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アウトサイダー・キュレーター日記 vol.48  鴨江ヴンダーカンマー (写真・文:櫛野展正)

アウトサイダーアートの取材を続けながら、昨年末から静岡市に移住して、「アーツカウンシルしずおか」でも働き始めた。静岡県西部、遠州地方に位置する県内最大の都市・浜松市。駅から車で西へ5分ほど走ったところに、「鴨江観音」の名で知られる鴨江寺(かもえじ)がある。 この遠州地域では、かつて人が亡くなれば、その霊は鴨江寺へ行くと信じられており、死んだ霊をなぐさめるため、彼岸に「鴨江まいり」をする風習があった。鴨江寺で春と秋に開催されるこの彼岸会には、境内が参拝客で大賑わいとなり、サーカスや見世物小屋だけでなく、境内周辺の道路には瀬戸物市や植木市、玩具や飲食物を販売する屋台が立ち並んでいたという。

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「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」 開幕!

告知を続けてきた「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」が、先週22日に無事スタートした。すでにSNSなどでご覧になったかたもいらっしゃるかと。展覧会の準備・設置からオープンに至る期間は(いまでもだが)新型コロナウィルス・オミクロン株の陽性者が急増している時期。直前まで開催が危ぶまれたが、なんとかオープニングの日を迎えられて、一堂ほっとひと息。しかし今後の展開はほんとうに予断を許さないので、ご興味あるかたは一日も早くご覧になっていただきたい。

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KAEのハイミーな極楽 (文:アーバンのママ)

ここ数年、アクリルを使ってアクセサリーやアート作品を作るアーティスト、KAEの大ファンだ。 はじめに目を惹かれたのはアクセサリーで、例えば、サワー、湯、サウナ、呑、大入、福……KAEが日常の中でセレクトした文字をカラフルなアクリルで切り取ったパーツたち。そのかわいさといったら……。耳から「サワー」と「呑」の文字をぶら下げて居酒屋でレモンサワーとか呑みたいですよね? メルマガ読者の方なら絶対にわかりますよね、この感じ! そのうちにすっかり仲良くなったKAEとわたしは、実はラブホテルとか秘宝館とか同じものが大好きなことも判明して、だったら一緒になにか作ろうよって都築編集長の作品を落とし込んだコラボパーツを作るようになった。最初から細かい相談はせず、すべての素材をKAEに渡して自由にデザインしてもらった。そしたらスケベ椅子もペペローションも秘宝館の看板も、いつも持ち歩きたくなるポップでアーバンなデザインに姿を変えた。耳にスケベ椅子のピアスをつけてゴキゲンになるなんて、そんなこと、ある(笑)?

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おかんアート村の住人たち 5 西村みどりさんのこと

おかんアーティストから名刺をもらうことはめったにないが、西村みどりさんはかわいらしいシールを貼った名刺を差し出してくれて、そこには「手作りの家 小物・色々 西村みどり」と書いてあった。 西村みどりさんは兵庫県北部、スキー場で知られる神鍋高原に近い豊岡町(現・豊岡市)の出身、現在67歳。いちど結婚して離婚、再婚したが、川崎重工にお勤めしていたご主人に先立たれ、一時は落ち込んだけれど、いつまでも家に籠もってるわけにはいかないと、前に通っていた神戸のおかんアート仲間の会にふたたび通い出して8年ほど。いまでは「ひとり住まいで気楽な毎日です!」とのこと。

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おかんアート村の住人たち 6  千成春屋さんのこと

阿倍野区王子町の北畠本通商店街にある千成春屋。ここは地元で30年以上続くクレープ屋さん。粉モン文化の大阪で、おいしいと評判でテレビなどの取材も多い下町の有名店だ。   千成春屋を知ったのはもう10年ほど前になる。「おかんアートがすごくおもしろい!」とひとりで騒いでいたころ、関西エリアの珍スポット&奇人発掘の第一人者・吉村智樹さんが、「壁一面におかんアートが飾ってあるクレープ屋があります」と教えてくれた店だった。それが最近、「下町レトロに首っ丈の会」会長の伊藤さんが、「大阪ですごい店を見つけました!」とメッセージをくれて、どうも写真に見覚えがあると思ったら、その千成春屋なのだった。なんという偶然!

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Freestyle China 即興中華  逃げたサルが向かった先は――写真家・魏子涵インタビュー (写真:魏子涵、都築響一/文:吉井忍)

「動物園、よく行きますか。」 先日まで品川で展示されていた『情動の匂い』について、作者である魏子涵(ぎ・しかん/ウェイ・ズーハン)さんにお話を伺った日のこと。挨拶が済むと、彼女が先に口を開いた。 魏さんは中国山東省出身、メディア関連の名門・中国伝媒大学(北京市)で写真を専攻した後、2016年に来日。武蔵野美術大学大学院の写真コースで学んでいた2019年、キヤノンマーケティングジャパン株式会社が開催する写真家オーディション「SHINES(シャインズ)」に入選した。これに関連して2022年2月25日~3月29日まで「キヤノンオープンギャラリー1」(東京都品川区)で開催されていたのが『情動の匂い』だ。都築編集長に教えていただき、会期内に滑り込むことができた。

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museum of roadside art 大道芸術館、オープン! vol.2

東京墨田区の花街・向島に10月11日、公式オープンした「museum of roadside art 大道芸術館」。先週に続く第2回は、1階から2階に向かう階段踊り場から、2階のバーエリア「茶と酒 わかめ」誌上ツアーにお連れする。

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ドキュメント ぴんから体操壁画制作記

去年12月17日、新宿ゴールデン街で起きた火災を覚えているひともいるだろう。2016年4月の放火による火災に較べれば被害は軽微だったが、それでも靖国通り側にあるG2通りにある、歌謡曲ファンにはよく知られたギャランティーク和恵さんの「夜間飛行」など4軒が罹災。そのなかに中村京子さんの中村酒店もあった。 1980年代のアダルトビデオ黎明期から活躍、巨乳というジャンルを確立した伝説の女優であり、女相撲の力士としても知られてきたアンダーグラウンドのミューズ、京子さんはゴールデン街にバー「中村酒店」を開いて去年がちょうど20年目。アングラ、サブカル、ただの酔っ払い…………いろんなひとたちに愛されてきた店が節目の年の瀬にもらい火で全焼してしまった。

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新連載! 暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく (画・文:新開のり子)

先月末の8月23号「LIFE ―― ある家族(と犬)の情景」でも詳しく紹介した異能の鉛筆画家・新開のり子。熱心なロードサイダーズのみなさまにはもうおなじみだろう。 新開さんを初めて取り上げたのは2022年6月1日号、8日号の2週にわたって紹介した「クイーン・オブ・バッドアート降臨!」。そのときは詳しく書かなかったが、ふつうの会社員生活を送っている新開さんが鉛筆画を始めたきっかけには「会社で体験したいろんなイヤなことを、絵に描いてみたら気が晴れるかもよ」という、お姉さんからの勧めがあった。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  03 ちびくろさんぼ (画・文:新開のり子)

3歳頃、お遊戯会で全身黒づくめのちびくろさんぼの役をもらいました。 (本当は、木が良かったのですが・・・・・・) お遊戯会では、大勢の保護者たちに見守られながら無事に終わりました。 大役を果たし安心して保育園のなかでお人形さんと戯れていると、友だちが2階に行こうと誘ってきます。 言われるままついて行きました。 2階は、木の温もりのある山小屋のようなお部屋です。

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セックス&ワックス・イン・ザ・ホスピタル

2014年に南フランス・マルセイユとセットで開催された『MANGARO』『HETA-UMA』展。本メルマガでは2週にわたって詳しく紹介したが、その取材を通して出会ったひとりが、フランス・モンペリエ在住のキュレーターでアーティストでもあるルノ・ルプラ=トルディ。変わったものが大好きな嗜好が似ていてすぐに仲良くなったルノは、メキシコ系アメリカ人“チカーノ”の囚人たちが、手紙代わりに塀の外の家族や近親者たちに向けて絵を描いたハンカチ「パニョス・チカーノス」の熱心なコレクターでもある。2018年には中野ブロードウェイ・タコシェの中山亜弓さんに「パニョス・チカーノス――ルノ・ルプラ=トルティの刑務所芸術コレクション」として記事もつくっていただいた。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  05 ローラーホッケー (画・文:新開のり子)

小学校低学年の頃、ローラースケートが流行っていました。 私は、小学校が終わるとせっせと30分かけて児童館に向かいます。向かう途中、大きい犬に話しかけて通り過ぎます。毛並みが荒く、餌のお皿がいつも空っぽです。 もう食べてしまったのか、待っているところなのか。 「可哀想だね。お腹空いたね。飼い主の人に言おうか? でも児童館に行くからまたね!」通る度に声をかけ、足早に通り過ぎます。

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三島喜美代 ― 遊ぶ 見つめる 創りだす

美濃焼の本拠地である多治見の丘陵地にあるセラミックパークMINO内に2002年にオープンしたのが岐阜県現代陶芸美術館。その名のとおり近現代の陶芸に焦点を絞った岐阜県立美術館だ。建築は磯崎新なので、華美というのとはちがうテイストだが、その環境、立地、空間構成など、すべてにものすごく贅沢なつくりのミュージアム。その広々とした展示室と屋外も使っていま「三島喜美代 ― 遊ぶ 見つめる 創りだす」が開催されている。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  18 シュレッダー (画・文:新開のり子)

入ったばかりの会社で私は、少し早めに出勤して、頼まれた大量の用紙をシュレッダーにかけます。 ゴロゴロガーガーと鈍い音を鳴らしながら、シュレッダーは、回転しています。 やってもやってもなかなか終わりません。 そこでなにか音が耳に入ってきました。 「ガラガラうっさいんだよーーーーー」 悲鳴に近い声です。 これは大変です!  慌ててシュレッダーのスイッチをオフにします。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく 19話 サウナでスッキリ? (画・文:新開のり子)

会社帰りや休日に行くサウナにハマっていた時期がありました。 疲れを取るには、ジンワリ汗が流せるサウナが一番いい!と思い探して行ってみたのですが・・・ スポーツクラブ、温泉施設、岩盤浴専門店、スーパー銭湯、銭湯。 サウナは、低温のミスト、スチームサウナもよいですが、熱々高温のサウナでスカーッと汗を流すのが気持ち良いです! 自分との限界まで戦う高温サウナが好みです。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  22話 ボロボロ自転車 (画・文:新開のり子)

通勤手段が自転車の時がありました。 職場のQさんとPさんが寄ってきて「いいわねー新しい自転車?自転車で通勤なんて羨ましいわー」 私は、「はい」と少し自慢げな態度をしてしまいました。 思い切って新しいのにして良かった! 褒められたようでなんだか嬉しかったです。 ある日Qさんが「あのー。近くまで行きたいんだけど、自転車を貸してくれない?」とボソボソ言います。 私は、「どうぞ使ってください!」と言って鍵を渡しました。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  25話 カレーの日 (画・文:新開のり子)

入ったばかりの会社です。 私は、簡単な自己紹介をして席に着きます。 続けて同時期に入ったC子さんも自己紹介をします。気だるそうにこちらをみているのは、ベテランIさんとHさん。 挨拶も終わり新人の私達は席に着きます。 仕事を振られ2人で相談しながらやります。 とまどったり、間違えたりすると大変です。 「なにやってんのよー」と大きな声で怒鳴ります。 そんなピリピリムードで毎日を過ごします。 ある日、先輩Dさんがポストまで郵便物を取りに行きました。 戻ってくるなり怒っています。 私達のところへ来て郵便物を知らないかと聞いてきます。 私達が「知りません」というと、先輩は怒りながら向こうへ行ってしまいました。

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ログズ・ギャラリーの「農民車ショー」

ログズ・ギャラリーから久しぶりに届いた新しいプロジェクトのニュース、それが「農民車ショー」です。3月16日から25日まで、大阪市内で開かれた展覧会には残念ながら参加できなかったのですが、東京展への期待を込めて、ここにプロジェクトの紹介をさせてもらいます。 「農民車」という言葉は、僕も知りませんでしたが、淡路島の一部の地域でだけ使用されている、独特な手作り車両のこと。

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妄想芸術劇場・ぴんから体操展、開催決定!

毎回告知欄でもお伝えしている「VOBO 妄想芸術劇場」を読んでいただいている方にはおなじみかと思いますが、我が国最強(最狂?)の素人露出投稿雑誌『ニャン2倶楽部』および『ニャン2倶楽部Z』の投稿イラストページで、創刊当初の1990年ごろから、もう20年以上も作品を発表しつづけてきた伝説の投稿職人「ぴんから体操」の展覧会を、ついに開催できることになりました。

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反抗者としてのガリ版画家

福井良之助の孔版画は、そのガリ版による版画です。ガリ版といえば、ラフなタッチが良くも悪くも特徴なのに、彼の作品は「これがガリ版!」と声を上げずにいられない、すばらしく精緻な版画に仕上がっています。僕も最初に見たときは「ガリ版」というのが信じられず、孔版という言葉をまちがって覚えていたのかと焦りました。

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日日 3 美は断面に宿る(大竹伸朗)

知らない街中を歩いているとグッと心を持っていかれる「ブツ」にときどき出会う。例えば煙突、看板、壁、鉄柱、鉄橋、窓枠、道を歩いていれば誰でも目にするものだ。個人的には時間を経た古いものに惹かれることが多いがペンキ塗り立てのギラギラでペラペラなブツのことも多々あり、それらの「ブツ底」には一筋縄では行かない共通項が潜んでいる。四の五の言わず仰ぎ見るブツをとりまく空間ごとスパッと切り取って持ち帰りたい! お宝との遭遇時には言葉にならないため息混じりの衝動がクックックと込み上げる。

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日日4 美が足元にあり(大竹伸朗)

気がつけばいつの間にやら9月だ。今年から来年にかけて展覧会がたて込んでいてそれに伴う移動が多いためかことのほか時間感覚が妙だ。11月23日にスタートするソウルでの個展に始まり今後10カ月間にグループ展含め個展が断続的に続く。いや有り難いかぎり、すべて全力で切り抜けたいと肝に銘じています。ドイツのカッセルにて6月9日にスタートしたドクメンタも中旬に終了、それにあわせて再び現地で解体作業が始まる。今回現地に2カ月滞在制作した作品「モンシェリ/スクラップ小屋としての自画像」も、完成当初は終了と同時に解体廃棄の可能性もあったがなんとか持ち帰る流れにはなり、今から前向きに作品の行く末を探っていこうと思っている。

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ドクメンタ(13)カッセル後始末記(大竹伸朗)

今回ドクメンタでは、設置場所や制作プロセス等自分自身初めて経験することが多く、またそれに伴う不安も大きかったので現地でのそんなダイレクトな人々の反応は心に染むものがあった。多くの観光客でごった返していたカッセルの街も、ドクメンタ展の終了と同時、見事に人足がパタッとなくなり再びオープン前の普通の田舎街にもどった光景も忘れられない。今回は6月の短期連載「カッセル制作日記」に引き続き、続編「カッセル後始末記」として読んでいただけると幸いです。

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未来の油彩画展――あるホームレス画家の心象風景

年末もおしつまった今月28日から31日のカウントダウンまで、たった3日間だけ開かれる、小さな展覧会をお知らせする(30日は休廊)。展覧会の主は横浜で『ビッグ・イッシュー』を売って生計を立てている路上生活者、ピエトロ-L-キクタ画伯である。キクタさんのことを教えてくれたのは、日本近代美術思想史を専門にする研究者の宮田徹也さんだった。横浜のなかでもっとも昭和の匂いを残し、暗闇の似合う街でもある野毛の名物酒場・旧バラ荘で、宮田さんはピエトロ-L-キクタ展を2011年に企画。今回の展覧会はキクタ画伯にとって2度目の、ホームグラウンド横浜での展示となる。

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石巻だより――ワタノハスマイル新作展

昨年の3月21日配信号で大きな反響を呼んだ「ワタノハスマイル」の主宰者・犬飼ともさんから、うれしいお知らせが届いた。ワタノハのメンバーたちによる新作がもう120点あまりもたまって、来週から新作展ツアーが始まるというのだ。前の記事を読んでいただいた方はご存じかと思うが(未読の方はバックナンバー・ページからぜひ!)、「ワタノハスマイル」とは2011年3月11日の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市の、渡波(わたのは)小学校で避難所生活を強いられていた子供たちが、校庭に山積みされた廃材を使って作りだした作品群を発表するプロジェクト。

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根本敬のいない場所

東京都中央区勝どき橋。かつては下町の風情と倉庫街が入り混じる、東京湾岸埋め立て地らしい景観が広がっていたが、いまは地下鉄の延伸と高層マンション建設ラッシュで、大きく様変わりしつつある「ウォーターフロント」地区でもある。その勝どき橋エリアに残る倉庫の、2フロアをギャラリー空間にした「@btf」で、今月1日からスタートしたのが蛭子能収と根本敬による二人展『自由自在(蛭子能収)と臨機応変(根本敬)の勝敗なき勝負』。いまどき珍しいほど徹底したおしゃれ空間で、もっとも異質で浮きまくるふたりの奇才がぶちかます、渾身のアート・コラボレーションとは――

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渋谷で混浴

先々週のメルマガで告知していた『混浴ゴールデンナイトin東京』、4月12日に大盛況のうちに終了しました。渋谷のサラヴァ東京で夜6時半からと9時半からの2回公演だったのですが、両方とも満員御礼という・・・ぜひ定例化してほしいですね。昨秋に別府のアートイベント『混浴温泉世界』で披露され、大反響を巻き起こした「金粉ショー」を含む『混浴ゴールデンナイト』の、東京での一夜限りの特別興行。別府からやってきた混浴温泉世界の女性スタッフ3人のユニット「なみなみガールズ」による微笑ましいイントロで開幕。あとは立て続けにフラメンコの吉田久美子、人間ドッグ・オーケストラ、大人ディスコあけみの吟子(withソワレ、多田葉子、北園優)、そしてトリの「TheNOBEBO」による金粉ショーと、パフォーマンス・アートとエンターテイメントの境界線上を行きつ戻りつする刺激的なステージが堪能できました。

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日日:女根(大竹伸朗)

2010年夏に初めて訪れた香川県の女木島にある休校状態の女木小学校。それから今年の瀬戸内国際芸術祭に向けて、中庭を作品化するプロジェクトがぼんやりとスタートした。この3月20日に展覧会は始まりその作品を「女根/めこん」と名付けた。作品はまだ未完成、今年夏と秋2回のオープンに向けて再び女木島での作業が始まる。香川県高松港から定期船「めおん」で20分北に位置し、鬼が島としても知られる女木島。その鷲ヶ峰展望台(標高188m)から高松を望む。春は瀬戸内の島々に咲く桜をグルリ360度見渡せる絶景が立ち現れる。画面中央右の緑色の屋根が「女根/めこん」(以降「女根」)のある女木小学校。チラリと椰子がのぞく。

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ぴんから体操新作展に寄せて

先週の告知でお知らせしたとおり3月3日(雛祭り!)から銀座ヴァニラ画廊で、『ぴんから体操展 妄想芸術劇場2』と『兵頭喜貴写真展 模造人体シリーズ第5弾 「さらば金剛寺ハルナとその姉妹―愛の玩具たち』という、ふたつのきわめてビザールな展覧会が同時開催される。本メルマガでもすでに2012年3月21日号で特集した兵頭喜貴の(「人形愛に溺れて・・妖しのドールハウス訪問記」)、2年ぶりとなる新作インスタレーション展については、前回の展覧会のあと突如として難病や数々の難問に直面し、厳しい日々を送ってきた作家の復活展でもあり、僕も公開対談に参加させてもらう予定。同時にこちらも2年ぶりとなる伝説の投稿イラスト職人「ぴんから体操」原画展も、久方ぶりに原画と向き合える貴重なチャンスであり、とりわけアウトサイダー・アート・ファンには見逃せない企画になるはずだ。

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追悼――101歳のアマチュア画家・江上茂雄

先週2月27日の西日本新聞の夕刊に、小さな死亡記事が掲載された。本メルマガの去年10月2日号で特集したばかりの、熊本県荒尾市に住む101歳のアマチュア画家・江上茂雄さんの死亡記事だった。「26日午前9字14分、老衰のため福岡市東区の老人ホームで死去、101歳」――地元以外で、どれくらいのひとがこのニュースを知っただろうか。江上茂雄さんは生涯アマチュアを通した、生粋の「日曜画家」だった。ほとんど注目されることもなく、自分だけの絵を描きつづけ、最晩年の去年、101歳にして福岡県立美術館で大回顧展を開催。その取材で秋に荒尾にうかがったときはまだお元気で、家族が同居をすすめても「絵を描くのにはひとりのほうがいいですから」と独居を貫き、ひとりでご飯を食べて絵を描く日々を過ごしていた。

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宮間英次郎物語 3(文:海老名ベテルギウス則雄 写真:海老名ベテルギウス則雄、都築響一)

ついに最終章となる「帽子おじさん」宮間英次郎の人生いろいろ物語。長い苦しみの日々の果てに「帽子」というユニークな表現手段に出会い、日本を代表するアウトサイダー・アーティストとして輝く大団円をお送りする!

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老遊女 05 デッドボールで没収試合! 前編(文:中山美里 写真:谷口雅彦)

『デッドボール』という有名な風俗店がある。『地雷! レベルの低さ日本一』が店のキャッチコピー。地雷…つまり、デブ、ブス、ババアばかりが集まった風俗店なのである。この店の存在を知ったのは、3年以上前のこと。夜の世界でこまごまとした仕事をしている知人から取材をしないかと教えられたのだが、当時、ちょうどアダルト業界のことをある程度自由に書かせてもらえる連載が一気に2つなくなってしまったところで、書ける媒体がなかった。取材したい気持ちは山々だったのだが、その希望は叶えられなかった。そのため、教えられたホームページを見るだけだったのだが、一度見始めたら非常に癖になるのだ。なぜなら「この人たち、本当に風俗嬢なんだろうか?」という面々がずらり。

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アウトサイダー・キュレーター日記 02 小林一緒(写真・文:櫛野展正)

昨年12月、埼玉県浦和市の埼玉会館で『うふっ。どうしちゃったの、これ!? えへっ。こうしちゃったよ、これ!! 無条件な幸福』という展覧会を観に行った。これは埼玉県障害者アートフェスティバルの一つとして企画された展覧会で、5回目を迎える。障害のある人たちの作品群が並ぶ会場を歩いていると、隅の方に展示されていた奇妙なイラストに目が留まった。『俺の日記』と題されたその作品は、ルーズリーフやノートに弁当やラーメンなど実に美味しそうな料理のイラストが描かれている。料理の名前や値段、そして食材と共に、画面の余白に書き添えられた「旨イッ!!」という感想。これは、実際に食べた料理をイラストと感想で記録した絵画だった。展覧会場で身震いがして、僕はその作者を追いかけた。

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家族という作品

ハルカス、ミオ、ルシアス、フープ、キューズ、ベルタ・・・これ、何語かおわかりだろうか。実はどこの国でもない、大阪の下町・阿倍野のゲートウェイである天王寺駅周辺に林立する商業ビルの名前である。いつのまに、こんなことに・・・。天王寺駅からチンチン電車(阪堺電車)の軌道に添って一路南下、阪神高速松原線が上空を通る阿倍野交差点を過ぎると、やっと昔ながらの、いかにも大阪の下町らしい風景が広がって、ほっと一息つけるようだ。「このあたりまでは、まだ再開発の波が押し寄せてきてないんです」と教えてくれたのが、高橋静香さん。彼女が代表をつとめる、築70年の長屋を改造したというアートスペース「あべのま」で今開催中なのが、『あべのま1周年記念展 祖父と祖母と父と母と姉と妹といつものこと』という、長いタイトルの展覧会だ。

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組み立て式の女――植野康幸『現代女子図絵』

神田駅前に広がる混沌空間を抜けた先にある丸石ビルは1931(昭和6)年竣工、有形文化財に指定されている美しい西洋風建築。その3階にある日本に数少ないアウトサイダー・アート/アール・ブリュットに特化したギャラリー「YUKIKO KOIDE PRESENTS」では、いま『植野康幸 現代女子図絵展』を開催中だ(25日まで)。植野康幸(うえの・やすゆき)は1973年生まれ。1歳になっても言葉を発せず、重度の自閉症と診断される。大阪市立難波特別支援学校を卒業し、アトリエ・コーナスに通うようになった。

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“癒し”としての自己表現展・報告

8月18日号から11月25日号まで短期集中連載した『詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち』。先に告知したとおり、その締めくくりともいえる展覧会『第22回“癒し”としての自己表現展』が、先週2日から6日までの5日間、八王子市芸術文化会館いちょうホールで開催された。これまで紹介してきた平川病院の〈造形教室〉の作家たちが多数参加したこの展覧会を、今週は駆け足で振り返ってみたい。『“癒し”としての自己表現展』では毎回、簡素な冊子が準備されているが、その中に収められている各作家自身によるテキストがいつも非常に興味深いので、そちらも併せて紹介させていただく。

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昭和の夜の匂いにむせて

渋谷アツコバルーで開催中の展覧会『神は局部に宿る』は、おかげさまで連日盛況が続いているが、来てくれるひとの約8割が女性客。ラブホに秘宝館、イメクラにラブドールという内容なのに。入口でコンドームを渡され、カウンターではピンクローターとか売ってるのに。昭和をまったく知らない世代にとっての「昭和のエロ」「昭和のお色気」が、いかに「カワイイ」ものに見えるのかを今回は思い知らされた。当時を知るものにとって、それは「イカガワシイ」ものであったり、「下品」なものであったりしたのだが、世代がめぐるうちに、「品」も微妙な変化を遂げるのかもしれない。酸っぱいワインが、いつのまにか芳醇な香りを放つように。先週の記事『ミッドナイト・ライブラリー』でも紹介したが、新進イラストレーター・吉岡里奈の個展『食と女と女と夜と』が、渋谷HMVで始まっている(7月11日まで)。

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道との遭遇・仙台編

仙台国分町のはずれに『Holon』という小さなギャラリーがあるのをご存じだろうか。スケートボード・ショップ『gostraight』の端っこを区切ったような、廊下に見えなくもない狭小スペースだ。本メルマガでは2012年10月3日号で紹介したスケーター/グラフィティ・アーティスト「朱のべん Syunoven」が運営するこのマイクロ・ギャラリーは、2012年のオープン以来これまでさまざまに挑戦的な、非営利というより実に非営利的な企画展を開いてきた。そのholonが4年間の活動の集大成ともいうべき特別企画展『道との遭遇』を開催中だ(1月15日まで)。

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監禁されたラブドール

去年の夏、渋谷アツコバルーで開いた展覧会『神は局部に宿る』。関連企画として同じビルの地下にあるサラヴァ東京で開催したイベントで、可愛らしいラブドールと一緒に登場した女の子を覚えているひともいるだろう。その展覧会の最終日近く、車椅子にラブドールを乗せて、自分もウェディングドレスに身を包んで展覧会場に突然乱入、「響一さんの子供よ!」と叫んで暴れた寸劇?を目撃してしまったひともいるだろう。あのときの女の子が「ひつじちゃん」だ。ちなみにラブドールのほうは「ましろ(魔白)ちゃん」。製造元のオリエント工業も、「おそらく唯一の女性ドール・オーナーでしょう」と太鼓判(?)の、エキセントリックな「自称・永遠の13歳」である。

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アウトサイダー・キュレーター日記 30 井脇満敏(写真・文:櫛野展正)

宮崎駅から電車に揺られること1時間。緑と清流と温泉の町、宮崎県日南市北郷町にやってきた。無人駅となっている北郷駅から5分程歩いたところに、魚やモアイ像、二宮金次郎像などのイラストが外壁に描かれた家がある。中を覗くと、雑多な品が並ぶ庭先に2体の人型のオブジェが見えた。「これは僕の両親がモデルでね、チェーンソーでつくったものなの」と中から声をかけてきたのが、作者の井脇満敏さんだ。井脇さんの車に乗って、しばらく県道33号線を走っていると道沿いの切り開いた斜面に並ぶ無数の作品群が目に飛び込んでくる。着物姿の女性や動物に富士山、そして作業する人の姿まで…これら全て井脇さんが木を切り倒しチェーンソーで加工した作品で、「井脇アート」と命名している。

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心のアート展2017

2015年秋に『詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち』と題したシリーズを掲載した。東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で開かれている〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載だったが、その〈造形教室〉の作家たちと知り合うきっかけになったのが、『心のアート展』という大きなグループ展だった。東京都内の精神科病院で構成される一般社団法人東京精神科病院協会(東精協)が主催する、協会員65病院に入院・通院している、あるいはしてきた患者による公募展。今月末からその第6回となる『心のアート展 「臨“生”芸術宣言! ~生に向き合うことから~」』が池袋で開催される。今回は29施設462作品の応募から選ばれた243点が展示されるという。広く知られてはいないが、アウトサイダー/アールブリュットの領域で、『心のアート展』は東京で最大規模の公募展なのだ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 31 安達則子(写真・文:櫛野展正)

広島県尾道市にある千光寺公園には、プロポーズにふさわしいロマンチックな名所として「恋人の聖地広場」に認定された場所がある。平成26年には、「恋人の聖地広場」から「恋人の広場」に名称変更し、約1000万円の事業費が投じられ整備された。敷地内にはハート形の大小の花壇が計10台設置されているが、千光寺公園内のメインの通りから外れているため、未だ知名度も低く訪れる人もまばらだ。そんな「恋人の広場」の対面には、奇妙な飾りのある家が建っている。近づいてみると、入り口の門のところには、ピンク色や花柄を主体とした装飾が施され歓迎ムードを漂わせているものの、足元の案内板に目をやると「Here is a Private house」の文字が記されている。立ち入りを拒否しているのか歓迎しているのか分からない状況だか、僕は勇気を出して歩みを進めた。雑多な品が並ぶ庭を抜け、インターホンを押すと、ロングヘアーにピンクの衣装が周囲の景観とマッチした女性が現れた。彼女こそ、この作品群の生みの親・安達則子さんだ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 33 けうけげん(写真・文:櫛野展正)

僕の人生で不可欠なものの一つに「笑い」がある。小さい頃から『オレたちひょうきん族』(フジテレビ)や『8時だョ!全員集合』(TBS)に夢中になり、あの時代の誰もがそうであったように、学生時代は「ダウンタウン」の影響を大いに受けた。そこから過去の漫才やコント番組を見返すようになり、本格的にネタを作ることこそ無かったものの、今でも頻繁に若手芸人やネタ番組をチェックしているし劇場にも時々足を運んでいる。最近、お笑い芸人の方々とトークライブで共演させていただいているのも、そうした憧れの気持ちが根底にはある。そんな僕が、最近「この人には勝てない」と感服してしまうほどの熱量を持ったお笑い好きの若者と出会った。待ち合わせ場所の「せんだいメディアテーク」にやってきてくれたのは、「けうけげん」と名乗る25歳の青年だ。

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薬師丸郁夫のサイケデリカ・アイランド

リボーンアート・フェスティバルの会場となっている牡鹿半島の沖合には3つの島があることで知られている。いちばん有名なのが金華山で、島全体が黄金山神社の神域。恐山、出羽三山と並ぶ奥州三霊場のひとつとされている。次に有名なのが田代島で、島民が百人を下回る小さな島でありながら「ネコの島」として多くのメディアに取り上げられるようになった。そして田代島のすぐそばにあるのが網地島(あじしま)。こちらも最盛期には3000人あまりだった島民数が、現在では約300人、平均年齢73歳という典型的な限界集落島。鮎川港からフェリーで15分、石巻港からも1時間という近さでありながら、小中学校もコンビニもない静かな島だ。鮎川港から小さなフェリーに乗って、網地島の長渡(ふたわたし)港に降り立つ。斜面に沿ってのびる住宅街を歩いていくと、すぐに見えるのが「美術館すぐそこ→」と書かれた立札。その先の民家が「薬師丸郁夫美術館」だった。

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アウトサイダー・キュレーター日記 35 岩崎風水(写真・文:櫛野展正)

通称「ビックリ箱」と呼ばれる部屋を描いた絵画。「ビックリ箱」とは刑務所用語で、受刑者は面会や診察の待ち時間の際、この白塗りの電話ボックスのような鍵のかかった個室で待機しなければならない。隣に誰が入っているのかも分からないし話をすることも出来ない。絵の中には、若者から腰の曲がった老人まで描かれている。彼らの服装は、運動靴にスリッパ、作業服に半袖など様々だ。「衣類のラインナップを全部描こうと思って。ゴムの草履は舎房で履くやつで、累進処遇が上位の人は優遇措置として、スリッパを買うことが出来るんです。端の老人は、1年間懲罰や事故がなかった時に貰える無事故賞が右腕に付いてて、これは23年間無事故が続いたということ。無期懲役の人の場合、40年無事故賞を集めた強者もいました。」

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「趣味の殺人」リーおばあちゃんの事件簿

英語の「doll」は女性名のドロシーの省略形が語源で、それがのちに「人間の形をした子供用の玩具」になったと聞いて意外な思いをした。いっぽう日本語の「人形」はそのまま「ひとがた」とも読め、それが人形のかわいらしさと不気味さを同時に現しているようでもある。ワシントンDCのホワイトハウス近くにあるスミソニアン協会美術館(SAAM)分館レンウィック・ギャラリーは、アメリカ近現代の工芸装飾品をおもに展示するミュージアム。小ぶりだが意欲的な企画で知られていて、今月28日までは『MURDER IS HER HOBBY』という奇妙かつ魅力的な展覧会が開かれている。さすがに2泊3日で観に行ってきます!というわけにはいかず悔しがっていたら、ミュージアムから写真をたくさん貸していただけたので、ささやかな誌上展覧会をお送りしたい。

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スズキエイミの一途なコラージュ(取材・文 臼井悠)

本メルマガで昨年10月に紹介した「横浜衛生博覧会」という、中華街の片隅で行われた小さな展覧会を覚えているだろうか。この企画では、コレクター「影ノ森」氏による、本邦初公開となる衛生展覧会関連資料の公開を中心に、4人のアーティストが衛生展覧会の思想と審美感覚を受け継ぐ作品群を展示した。その4人の作家の中に、うわ~このひとちょっとヤバくない?と引き込まれた女性がいた。それが今回取材させていただいた、スズキエイミさんだ。「真っ白なネズミの剥製の中に、七宝で作った臓器を配置して、ヨーロッパのアンティーク木材で作った枠に飾る」って聞いて、いったいどんな作品を想像しますか? それはゴシックとか耽美とか一言では表現したくないような、「なんでこんなの作っちゃったの?」という不思議な違和感をわたしに残した。いったいエイミさんとはどんなひとなのだろう。改めて取材のお願いをしたとある日、品川駅のオー・バカナルに、「今日は娼婦のイメージで来ました」とハイヒールに真っ赤な口紅で彼女は現れた。

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トラベラーはどこへ向かうのか

大阪中之島の国立国際美術館で開館40周年記念展『トラベラー まだ見ぬ地を踏むために』が開かれている(5月6日まで)。え、もう40年!?と驚くひとがいるかもしれないが、もともと国立国際美術館は1970年の大阪万博に際して、公園内に万国博美術館として開かれたもの。万博終了後、1977年に国立国際美術館として開館して以来、長らく万博公園内にあったが、2004年になって現在の中之島に移転してきた。僕は中学校の修学旅行で大阪万博に連れて行かれ、そこで美術館にも立ち寄った覚えがあるので(パビリオンはどこも人気で行列だったから)、もしかしたらそれが初めての近現代美術館体験だったかも・・・と考えると、自分にとってのアート体験40周年ということにもなるのか!笑 なんとなくしみじみしながら美術館を訪れた。

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江上茂雄の見た風景

2013年10月2日号で、熊本県荒尾市に住む101歳のアマチュア画家・江上茂雄の活動を紹介した。100歳を越えて初めて公立美術館で大きな展覧会が開かれるという画歴は劇的というほかなく、荒尾のご自宅でご本人にお話を聞けたのも幸運だったが、翌2014年2月、自宅に2万点以上の作品を残して江上さんは101歳の生涯を閉じている。その希有なアマチュア画家の、東京で初めての展覧会が5月26日から武蔵野市立吉祥寺美術館で開かれる。吉祥寺美術館といえば先月、展覧会カタログとして発表された『はな子のいる風景』を紹介したばかりだが、今回の江上展も「はな子」に続く連続展『カンバセーション_ピース』の第3弾として企画された。

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日独伊親善図画――80年前の児童画を巡って(文:田中直子)

いまから3年かそこら前、杉並の女子美大にトークに行った。南嶌宏先生が呼んでくれたから。南嶌さんは僕にとって、ほんとうに数少ない無条件で信頼・尊敬できる美術評論家で、たぶんただひとり僕の写真プリントを自腹で買ってくれた美術評論家でもあった。僕とほぼ同い年。毎年、銀座ヴァニラ画廊大賞で審査を一緒にするのも楽しみだったのに、2016年にたった58歳で亡くなってしまった。トーク会場で出会った若い研究者が田中直子さん。その田中さんから「たった5日間の会期ですが、こんな展示をやります」と教えてもらったのが、この6月1日から6日まで女子美大の学内ギャラリーで開催された『日独伊親善図画―80年前の児童画を巡って』という、かなり珍しいテーマの展覧会だった。会期最終日の午後になんとか滑り込み、ちょうど在廊していた田中さんにお話を聞かせてもらえたのは幸運だったけれど、展示はカタログや書籍にまとめられる予定も、いまのところないという。第二次世界大戦勃発の直前という時代に、こんなにユニークな絵画が生まれ、ほとんど知られないままに消えていったこと。その片鱗だけでも見ていただきたくて、田中さんに原稿と作品資料提供をお願いした。たった5日間の貴重な展示を補完する、これはささやかな誌上展覧会である。

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神戸でおかんとアートな週末!

「おかんアートってなに?」というようなひとは本メルマガ読者にいないと思われるので、もう説明は省きますが、どんなにクールな現代建築空間も一発で台無しにしてしまう、究極にウォームな極北、というより極南のストリート・アートフォーム。そのおかんアート研究の同志であり、もっとも早くから、もっともしつこくおかんアートを調査保存拡散してきたのが、神戸の「下町レトロに首っ丈の会」。その下町レトロが毎年開催しているオカンアートの祭典『おかんアートとハンドメイド展』が、10回目となる今年も11月3、4日の2日間、神戸で開催されます。おかんアートの領域における最重要アートイベント、おかんアート界のベニスビエンナーレというか、バーゼルアートフェアという感じでしょうか。

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アウトサイダー・キュレーター日記 vol.41 河合良介(写真・文:櫛野展正)

アリス・オディロンなどのヌードグラビアの上から鉛筆で肋骨などを描きこむことで、極限まで痩せた状態に見せた写真。なかには背景をマジックで塗り込み、鉛筆で骨格を強調することで即身仏のようになった写真もある。これは会社勤めをしていた河合良介さんが誰に見せることもなく、密かに行っていた表現だ。死後、娘の塙興子さんがSNSで発表したことで大きな話題を集めた。東京都練馬区にある閑静な住宅の一角に河合さんが暮らしていた邸宅がある。現在は、塙さんが一人暮らしをする家は、木製の家具や調度品が個性的な昭和建築とマッチし凛とした空気を醸し出している。部屋を訪ねると、塙さんの手によって発見され、整理されたファイルが机の上には並べられていた。見てはいけないものを覗き見ているようで、ページをめくる僕の手にも緊張感が走る。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第2回 モーニング娘。と性癖の扉

小さい頃、私は自分の好きなモノやコトを人に話すことが恥ずかしくて恥ずかしくて、モジモジしてしまう女児でした。家族や親戚にも。テレビでサザンオールスターズを見た両親が「良い曲だねえ」と言ったのに、全身全霊の勇気を振り絞って「うん」と頷いたのを今でも鮮明に覚えています。多分、自分自身がガキという自覚があったのでしょう。「小学生の自分がサザン良いなんて、HOTEL PACIFICの良さわかりますなんて、恥ずかしくて言えません(でも素敵だと思います)」という気持ちで。しかし今はどうでしょうか、股を開いてる女子をみずから進んで絵に描き、初対面の方にニコニコ説明しているではありませんか! 時の流れって残酷! モジモジ女児がどうして下ネタニコニコ女になったのか。その原因は「モーニング娘。」です。「モーニング娘。'19」では無く「モーニング娘。」。

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美尻女神の国

先週号で異端の画家・林良文を紹介したが、個人的に日本「二大お尻アーティスト」と思っているもうひとりの異端、春川ナミオの新作品集刊行記念展がきのうから銀座ヴァニラ画廊で始まっている。春川ナミオは1947年大阪生まれ。筆名はストリッパー出身のセクシー女優・春川ますみと、谷崎潤一郎の『痴人の愛』のヒロイン・ナオミをあわせたものという。すでに高校時代からカストリ雑誌『奇譚クラブ』の常連投稿者となり、豊満で気高い女性と、奉仕するマゾヒスト男性の世界を、72歳を迎える現在まで60年以上描き続けているビザール・キング。林良文と同じく、むしろヨーロッパでの人気のほうがいまでは高いかもしれない。

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モンマルトルのロウブロウ・アート祭 1(文:アツコ・バルー)

『HEY! MODERN ART & POP CULTURE #4』がいま開催中だ。ちなみにアル・サンピエールは2階建て。HEY!が占めるのは2階展示室で、1階では『CHICAGO FOYER D’ART BRUT』が同時開催中(どちらも8月2日まで)。こちらはシカゴのアウトサイダー・アート/アール・ブリュット専門美術館「INTUIT」からのコレクションで、INTUITといえばヘンリー・ダーガーの部屋を再現した展示でも知られる世界有数の重要施設。なんと豪華なカップリングであることか。 去年まで渋谷でオルタナティブなギャラリー「アツコバルー ATSUKOBAROUH arts drinks talk」を運営し、現在はヨーロッパに活動拠点を移したアツコ・バルーさんが、さっそく第4回の『HEY!』展をチェック。特に気になった数名のアーティストについて、じっくり書いてくれることになった。これから数回にわたっての短期集中連載、いま世界のいろんな路上で生まれているポップ・カルチャーの息吹、その強烈な口臭を堪能していただきたい!

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モンマルトルのロウブロウ・アート祭 2(文:アツコ・バルー)

パリ・モンマルトルの丘の麓にあるミュゼ・アル・サンピエールは本メルマガで何度か取り上げた、アウトサイダー・アート専門美術館。同じくパリで発行されているアウトサイダー/ロウブロウ・アート専門誌『HEY!』がキュレーションするグループ展『HEY! Modern Art & Pop Culture 』は2011年の第1回から数年おきに開催されていて、2013年の第2回、僕も見世物小屋絵看板コレクションで参加した2015年の第3回と続けて本メルマガで紹介してきた。その第4回となる『HEY! MODERN ART & POP CULTURE #4』がいま開催中。去年まで渋谷でオルタナティブなギャラリー「アツコバルー ATSUKOBAROUH arts drinks talk」を運営し、現在はヨーロッパに活動拠点を移したアツコ・バルーさんが、特に気になった数名のアーティストについて、じっくり書いてくれることになった。今回はその2回目。いま世界のいろんな路上で生まれているポップ・カルチャーの息吹、その強烈な口臭を堪能していただきたい!

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変えられないものが痛みだとしても――第7回・心のアート展

東京八王子市の平川病院や足立区の東京足立病院などで、精神科に入院・来院する患者たちのために〈造形教室〉をもう50年以上続けている安彦講平さんとの出会いから、2015年に「詩にいたる病――安彦講平と平川病院の作家たち」と題した連続企画を掲載した。その縁で知ることになった『心のアート展』が、今年も6月末の6日間、池袋・東京芸術劇場内のギャラリーで開催される。2017年に開催された前回の展示は「心のアート展・印象記」で詳しくお伝えした。2年ぶり7回目となる今回も、東京精神科病院協会・会員21病院、関連3施設の計24施設から437作品の応募を得て、審査を通過した262作品が展示されるという。広い会場いっぱいをエネルギーに満ちた作品が埋め尽くす『心のアート展』は、アールブリュット/アウトサイダー・アート領域で、実は日本屈指の規模を誇るグループ展なのだ。

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DARK MOFOとタスマニアの日々(文:サエボーグ)

先週特集したMONAの冬の祭「DARK MOFO」。日本から参加したSAEBORGが、3週間にわたる滞在の記録を書いてくれた。ステージの合間にはタスマニア観光も、動物たちとの触れあいもしっかり堪能。これからのタスマニア&MONA訪問の参考に、前記事とあわせてお楽しみください!

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地獄の花園――セキンタニ・ラ・ノリヒロ『HELL曼華』

セキンタニ・ラ・ノリヒロという怪しげな名前の作家による、タイトルも怪しげな『HELL曼華』展が新御徒町mograg galleryで開催中だ。東大阪に生まれ育った、実はバリバリなにわっ子であるセキンタニさんと知り合ったのは、本メルマガでも特集した2014年、南仏マルセイユとセットで開催された「MANGARO」/「HETA-UMA」展でのこと。両会場に展示された、まあ全員不気味ななかでもひときわ怪奇風味の強烈な作品のつくりてがセキンタニさんだった。

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あいちトリエンナーレ雑感1

早く行かなきゃと思いつつ時間が取れず、そのうち「今週いっぱいでサエボーグの公演終了!」と聞いて焦り、「あいちトリエンナーレ」に日帰りで行ってきた。「愛知芸術文化センター」「名古屋市美術館」「四間道・円頓寺」「豊田市美術館・豊田市駅周辺」と4つにわかれたエリアのうち、事情通のお話によると「豊田エリアがいちばん充実」らしいのだが、サエボーグの公演がある芸術文化センターと両方日帰りでこなすのは無理があり、断念。会期中にもういちど挑戦したいので、今回はメルマガでの「第一報」と思っていただきたい。

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工房集の作家たち

最初にアウトサイダー・アートの本をつくったのが1989年のArT RANDOMシリーズだったから、もう30年も関わっていることになる。創作活動を取り入れている日本各地の施設もいろいろ訪ね歩いてきたが、なんとなく緊張してしまうところと、いきなりすごくリラックスできるところがあった。施設の歴史や規模や名声とは関係なく。日本で最初にアウトサイダー・アート/アール・ブリュット専門の商業画廊をつくり、一緒にヘンリー・ダーガーの部屋の本をつくった仲間でもある小出由紀子さんに誘われて、今年の夏の初めに埼玉県の「工房集」を訪れることができた。川口市の郊外、「見沼田んぼ」と地元で呼ばれてきたらしいのどかな一角に、カラフルな建物があった。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第8回 一夜漬けの向こう側と口腔内の宇宙

いやぁ、テスト期間ってなんでこんなにも忙しいのでしょうね。終わることの無い試験範囲を眺めつつもお菓子を食べ、インスタ及びSNSをチェックしつつANNラジオ聴いてYouTubeで好きなアーティストのライブ動画見て脇に置いてある漫画を無意識のうちに読んで・・・・・・ほんと忙しかったなぁ。前回に少しお話した専門学校3年間の山場、登院試験に2回目で無事合格したと思ったら、間髪入れず期末試験(17教科)がやって来ました。去年入学して以来何度か経験してますが、もうね、本当に辛い。一日基本3教科を一夜漬け・・・・・・そもそも一夜漬けするから辛いんだろ前々からちゃんとやれと皆さん思うのでしょうが、前々から勉強してもいざ直前にやってみると見事に全部忘れているんですよね。その経験が辛かったのでずっと一夜漬けなのですが、いっつもすんごい辛い。基本、朝までやるのでお腹が空いて、ずっとなにかしら食べていて、この学校に入学してから6キロ太りました。歳のせいかもしれませんが。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第9回 君が幸せならばそれで良い

晴天、並ぶには風が強めで少し寒いがダウンを着てるから日陰になっても大丈夫、そんでもって文庫も持って来ているので想像以上の待ち時間でも暇つぶし可能。もう何度これを経験したか忘れた。現在さいたまスーパーアリーナBABYMETALの物販列からこの連載をお届けしております。現在物販列最後尾に並び始めましたが(安定の1人参戦です)昨日の列よりかは大分マシかと考えています。昨日はアリーナを1周したくらいの長蛇の列だったとか。

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笑う彫刻家――ヴィーゲランに会いにオスロに行く(写真・文:清田貴代 [にっこり寿司アーティスト・たまちゃん] )

いまや説明の必要もなくなったクリエイティブ巻き寿司アーティスト「たまちゃん」。2013年2月13日号「ノリに巻かれた寿司宇宙」で紹介したころは、ラップでくるんだ「割るとウンコ(の絵柄)が出てくる寿司」とかを新宿の飲み屋で披露してたのが、いまや海外に招かれパフォーマンスを披露するまでに! 先日はムンクの『叫び』をテーマにしたコンペで、なんと世界2位を受賞してノルウェー旅行のご褒美。帰国後に会ったら「とんでもない彫刻公園があった!」と興奮していたので、お願いして記事をつくっていただいた。世の北欧デザイン好き女子を震撼させる……真のスカンジナビア・スピリットをご覧あれ!

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第12回 不要不急日記

一体、いつ落ち着くのでしょうか。前回に続いて初っ端から例の新型についての話題で申し訳ないですが、3月下旬現在、とうとう私の住んでいる地域にも外出自粛要請がでましてしっかりと室内にてaikoを流しながらこの連載を書いている次第です。いやあ大音量で聴くaikoはイイですね! しかも今日はこんな時期なのに各地で雪が、こりゃ家にいるしかないですね。私は3月の初めから春休みという長期休みを頂いていて、半ニートの様な生活を送っています。本来ならば速攻1人で某舞浜の夢の国に泊まりがけで行き、現地でキャッキャする可愛い子達を遠くから眺め「春は可愛い女を無防備にさせるぜ」とかTwitterに呟いてる予定だったのですが、どうやら運営再開も4月下旬以降で予定もおじゃんに。周りの友人達は基本ヲタクが多いので「我はこの日の為に生きてきた」というイベントも軒並み中止になり「私は今後何を糧に生きればいいんだ」と嘆く声がチラホラ、トドメに今年のコミケも中止との事で私も無事爆死しました。

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「ここにいる」@にしぴりかの美術館

SNSによって政治が変わることもあれば、誹謗中傷を受けてひとが死ぬこともある。昔より自由なようでいて、実はものすごく不自由な社会に僕らはいま、生きさせられているのかもしれない――そんな窮屈な社会のなかで、すぐそこにいながら、他人の眼を、他人の評価をまったく気にすることなく生きているひとたちがいて、自分のことしか考えてないように見えながら、その生きざまがこういう時代だからこそ、ものすごく眩しくも見えてくる。ロードサイダーズではすでにおなじみ、アウトサイダー・アート/アールブリュットに特化した宮城県の「にしぴりかの美術館」は、喫茶店コーナーも美術館も「換気をこまめにしながら営業中」。5月30日からは福山のクシノテラスが企画するグループ展「ここにいる」がスタートする。

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公園通りのアウトサイダー

渋谷公園通り、新装なったPARCOと交差点を挟んだ斜め向かい角というプライム・ロケーションにありながら、ものすごく地味なたたずまいゆえに、めったに気づかれることのない渋谷区立勤労福祉会館(略称「きんぷく」)。その通りに面した1階がアウトサイダーアート/アール・ブリュットに特化した公立ギャラリーになったことを、どれほどのひとが知っているだろう。 東京都渋谷公園通りギャラリーは新木場の東京都現代美術館のサテライト施設として、今年2月8日にグランドオープン記念展「あしたのおどろき」で開館したのだったが……新型コロナウィルス感染防止でさっそく2月末から休止、そのまま閉幕という無念の結果に。しかし続いての企画展「フィールド⇔ワーク展 日々のアトリエに生きている」が会期を変更して、6月2日から無事にスタートしている。場所も至便、入館も無料でありながら、まだあまり知られていない公園通りギャラリーの展覧会を、ここで少しだけ紹介しておきたい。

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アウトサイダー・キュレーター日記 vol.46 長 恵 (写真・文:櫛野展正)

「最近、こんなのを描いとるんよ」 そう言って見せてもらった写真には、頭に十字架の付いたふくよかな体型の天使が描かれていた。他の写真も、やはり同じような天使の絵が描かれており、その規則性のある描き方は、まるで「障害者」の人が描いた作品のようだ。僕が興味津々で覗き込んでいると、長さんは笑みを浮かべていた。この絵の作者は、広島県呉市在住の長恵(ちょう・めぐむ)さんだ。長年に渡って知的な障害のある人の福祉に携わってきた人物で、僕は勝手に師と仰いでいる。

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アウトサイダー・キュレーター日記 vol.47  沖井誠 (写真・文:櫛野展正)

見渡す限りの水平線上に、島々の陰影が描き出す景色が広がる瀬戸内海。広島在住の僕にとっては慣れ親しんだはずの海も、対岸の愛媛県から眺めるとまた違った景色に見えてしまうから不思議だ。この愛媛県伊予市双海町は、「夕日の美しい街」として知られている。海岸沿いをドライブしていると、道路に沿って飛行機の模型や宇宙人のオブジェなどが密集した場所が目に留まった。潮風を受けて、飛行機のプロペラが一斉に音を立てて回りだしている。慌てて車を停車させ、インターホンを押すと現れたのは年配の男性だった。彼こそが、こうした作品群の作者で、この家に住む沖井誠(おきい・まこと)さんだ。今年69歳になる沖井さんは、5人兄弟の末っ子としてこの街で生まれた。

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死刑囚の絵画展2020

毎年10月10日の世界死刑廃止デーにあわせて開催されるトークと展示イベント「響かせあおう 死刑廃止の声」が、今年も10月10日に開かれることになった。死刑囚の表現をテーマに、応募された作品の展示や、審査員らによる講評を公開で行うこの催しも、今年で16回目。特にコロナ禍で揺れ続ける状況で、開催までこぎつけた関係者の努力に敬意を表したい。 また、今回はウィルス対策のために会場の四谷区民ホールでの展示作品数は、いつもより少なめになるそう。しかし10月23~25日には中央区入船の松本治一郎記念会館で「死刑囚表現展」が3日間にわたって開催され、そこでは応募作品が全点、展示されるということなので、興味あるかたはぜひ足を運んでいただきたい。 このメルマガで最初に死刑囚の絵画作品を紹介したのは、広島市カフェ・テアトロ・アピエルトで開催された展覧会を紹介した2012年10月17日配信号「死刑囚の絵展リポート」。それから今年で8年が経ち、何度か誌上で紹介する機会があったが、僕の知るかぎりいまだに美術メディアできちんと取り上げられたことはない。もう、そういうことに文句をつけたりする気も失せたけれど、僕としてはメルマガが続くかぎり!しつこく紹介し続けるつもりなので、ひとりでも多くのかたに見てもらい、日本の死刑制度が抱える問題に関心を持っていただけたらなによりである。

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Freestyle China 即興中華  絵画の海に浮かぶ希望 中国の美術教師、画家・施海兵 (画像提供:施海兵 文:吉井忍)

最近、中国から届くイベントのお知らせを眺めていると、ライブに映画祭、文学フェアにアートブック展などが目白押し、すっかり日常の様子が戻ったようにも見える。ただ、北京の知人によれば「本格的に寒くなれば、きっとコロナの第二波、第三波が押し寄せる。その前に急いで楽しんじゃおう」という考えらしい。そんな色とりどりのイベントの中でふと目を引いたのが悦・美術館(Enjoy・Art Museum)における施海兵(シー・ハイビン)氏の個展『吹一口気(Blow a breath)』だ。 同美術館は北京市の著名アートスポット、798芸術区に位置する。煉瓦造りの古い工場をリノベーションした3階建ての建物で、総面積は2600平方メートル。シー氏の展示は4つある展示会場の一つで行われたのだが、とにかく作品の数が多い。のちに本人に聞いてみると「持ってきたのは約300枚。実際に展示したのはそのうちの100枚ぐらい」とのこと。丁寧に見ていけば、きっと軽く1時間以上は過ごせそう。一見抽象的、実はとても現実に即した人物画が多い。虚空を見つめるような目の描き方にもやわらかさがあり、全体的に温かな印象を与える作品群だ。 シー氏については情報を探しても、大量の作品と過去数年分の展覧会情報が見つかるだけで、江蘇省の小さな街に住んでいること、普段は美術の先生をしていること以外の経歴を知ることはできなかった。そんな不思議さにも惹かれて、今回zoomでお話を伺った。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第15回  周りの同世代が温かな家庭を築く中僕はただ異常結節をひたすら覚える

いやあ寒くなってきましたね。 可愛いコートを何着か持っているのにそのコートじゃ寒すぎて真っ黒なダウンコートを着、フードをしっかり被りマスクは必須、日々不審者コーデで学校に登校しています。 例の新型は待ってましたとばかりに再び流行し始め、折角の年末年始も今年はひっそりと過ごすことになりそうです。まあ私は受験生なのでほぼ籠って勉強とこの原稿を書く日々なんでしょうけど。 さて、ここ最近の私はと言うと9月いっぱいで1年間に及ぶ臨地臨床実習が無事終わり(なんと1年間無遅刻無欠席、馬鹿は風邪ひかない!)、前期期末試験を越え10月から本格的な国家試験対策が始まりました。

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百歳のダダカンとペーパーペニス

1920(大正9)年、東京都新宿に生まれたダダカンこと糸井貫二は、2020年12月2日に仙台で百歳を迎えた。 1951年、31歳で第3回読売アンデパンダン展へ初出品したのをきっかけに毎年出品する常連となるが、1962年の第14回展で全品出品拒否、撤去される。このころから日本各地で連続的にハプニング(おもに裸体)活動を繰り広げるようになり、1964年10月には「東京五輪祝走・銀座ストリーキング」として銀座四丁目交差点のスクランブル交差点を赤ふん一丁に丸めた新聞紙を掲げて走り出し、途中でほどけた赤ふんを新聞紙に突っ込み「聖火」とするも、ゴール地点(交差点の向かい側)の交番で即逮捕。練馬精神病院へ1年間の閉塞入院となった……。 それから57年間の時が過ぎ、浮かれたり沈んだりしてきた日本は二度目のオリンピックを猛暑のなかで強行し、百歳を迎えたダダカン師は仙台郊外の施設の涼しい部屋で快適な日々を過ごしている。 『独居老人スタイル』や本メルマガでの取材をいつも助けてくれた、ダダカンの若き「見守りびと」である小池浩一くんが、このほど自費出版レーベル「HOLON BOOKS」をスタート。その第一弾として、ダダカンのライフワークのひとつである「ペーパーペニス」作品をまとめた作品集をリリースした。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第17回 地獄の一丁目

暑いですねえ。 この連載が配信されている頃には少し涼しくなっているのでしょうか、波磨は今日も元気に暮らしております。皆さんはいかがお過ごしですか。 ここ最近の私はやっとこさアトリエを元の状態に戻して(去年から今年春までは勉強しかしてなかったので、悲しいことに物置と化していました)油絵を描き始めました。今後いろいろ展示など告知できると思うので宜しくお願いします、こんなご時世なので無理はせず、健康最優先でお願いします。制作頑張りますよお!

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死刑囚表現展 2021

毎年10月に開催されている世界死刑廃止デー企画「響かせあおう死刑廃止の声」。今年は10月9日に新宿・角筈区民ホールで開催。ゲストに弁護士の徳田靖之さん、ジャーナリストの青木理さん、そしてアーティストのSUGIZOさんも参加しての開催となった。ロビーでは例年どおり死刑囚たちの絵画作品などが展示されたが、去年に続いて新型コロナ感染防止で密を避けるために応募作品の全点を展示することができず、かわりに11月5日から7日までの3日間、昨年と同じ中央区入船の松本治一郎記念会館で全点展示とのお知らせをいただいた。 このメルマガで最初に死刑囚の絵画作品を紹介したのは、広島市カフェ・テアトロ・アピエルトで開催された展覧会を紹介した2012年10月17日配信号「死刑囚の絵展リポート」。それから今年で10年目となるまで、何度も誌上で紹介する機会があったが、いまだに美術メディアで正当な扱いを受けているとは言いがたい。もう、そういうことに文句をつけたりする気も失せたけれど、メルマガが続くかぎり!しつこく紹介し続けるつもりなので、ひとりでも多くのかたに見てもらい、死刑に反対のかたも、賛成のかたも含めて、日本の死刑制度が抱える多くの問題に関心を持っていただけたらなによりである。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第18回  朝礼と礼拝

この学校には半年に一回のペースで「朝礼」なるものがある。 なんとか4月を越えて5月分の時間割表が配られた時、1日の1限からデカデカと「朝礼」と書かれていて生徒たちが途端にザワザワし出したのを今でも覚えている。専門学校でも朝礼があるなんて予想していなかった、ダルすぎ。 そういえば小学生から高校生まで朝礼代わりにあったのが「礼拝」でる。 キリスト系列の学校に行っていたので(かといって両親は無宗教)、「礼拝」は私の中では朝礼よりも馴染みのあるものだった。内容は先ず今月の司会進行の教員が今日歌う歌のページ数を言い、生徒は一斉に歌集を開き讃美歌斉唱。その後は旧約聖書or新約聖書の読む箇所を言い(例「マタイによる福音書○章○節」)、代表者の朗読を聞きながらみなもその箇所を黙読。次は今月の先生からのお話(多い時は2人話すことがあった、1人で充分だ)、そしてみなでお祈り、再び讃美歌で終了である。

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おかんアート村の住人たち 2 野村知広さんのこと

東京都渋谷公園通りギャラリーで開催中の「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」から、先週の嶋暎子さんに続いて今週は同じ展示室2「おかん宇宙のはぐれ星」から、嶋さんの新聞紙バッグと隣り合い新聞チラシ箱を展示している野村知広さんを紹介する。 新大阪駅のすぐ北側。自称「日本でいちばん駅近の福祉施設です!」という西淡路希望の家に野村知広さんがいる。1972年生まれ、希望の家に30年以上通所し、いまは近くのグループホームで暮らしている。 野村さんは漫画日記のようなものを書いたり、織物をしたりと多彩な才能の持主だが、特に秀でているのが「新聞の広告チラシを折ってつくる箱」。広告チラシをものすごくきれいな折りたたみ式の箱に仕上げて、それを何十,何百とつくり続けている。もともとは親戚のおばさんに折り方を教わったのがきっかけで、家でやることがないヒマなときにつくっていたのを、しだいに施設に持ち込むようになったとか。こんなに大量につくるようになったのは、12年ほど前にグループホームに入所してからとのこと。

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デルニエ・クリを失う前に 2

先月の8月10日号で緊急特集「デルニエ・クリを失う前に」を配信したばかりだが、9月7日号「立ち上がる石の群れに」で紹介した久保田弘成の『根石院展』を10月2日から開催する吉祥寺111 THR丰ONE(スリーワン)でもデルニエ・クリの作品を揃え、存続の危機にある異端の版画工房/デザインスタジオ/マイクロパブリッシャーのサポートが始まった。前回の特集では中野タコシェの中山亜弓さんに、デルニエ・クリと創設者であるパキート・ボニートが置かれている状況と、タコシェでの扱い作品を紹介していただいた。今回はタコシェとは異なるものも多いラインナップで111が扱う作品を、長くデルニエ・クリと関わってきたアート倉持さんに解説していただいた。

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死刑囚表現展 2022

毎年定例のお知らせとなっている「死刑囚表現展」が今年も10月14日から16日までの3日間、東京・入船の松本治一郎記念館で開催される。 このメルマガで最初に死刑囚の絵画作品を紹介したのは、広島市カフェ・テアトロ・アピエルトで開催された展覧会を取材した2012年10月17日配信号「死刑囚の絵展リポート」。それから何度も誌上で紹介する機会があったが、いまだに美術メディアで正当な扱いを受けているとは言いがたいのに、展示会場は毎年たくさんのひとで賑わっている。「アート」と思われていない場所でどんな創作が花開いているのか、専門家ではないひとたちのほうがちゃんとわかっているのだろう。

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妄想芸術劇場 #01 ぴんから体操 前編

2010年代の初め、ぴんから体操の投稿作品に震撼し『ニャン2倶楽部』や姉妹誌(兄弟誌か)『ニャン2Z倶楽部』を読み耽っていたころ、発行元のコアマガジンからWEBマガジンを立ち上げたので、なにか書かないかとお誘いいただいた。 その名も『VOBO』、「ECSTACY WEB MAGAZINE」とサブタイトルにあり、ニャン2本誌とは異なりそのスジの著名人(そしてもちろん愛読者のはず)であるひとたちのエッセイ中心で、じっくり熟読できる内容だった。みうらじゅん、ケロッピー前田、会田誠、根本敬、リリー・フランキー、丸尾末広、佐川一政などなど、創刊号からして豪華メンバーで、しかも毎週火曜日更新、しかも無料!

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小松葉月「あらいぐまと登る」

もう会期が終了してしまった展覧会で申し訳ないが、7月6日から16日まで渋谷のRoom_412 で開催された小松葉月個展「あらいぐまと登る」に行ってきた。いま再開発でぐちゃぐちゃになっている渋谷駅南口、桜丘町の奥まった古いビルにある小さなギャラリーでの短い個展。見逃してしまったひとが大半だと思うので、ここで報告しておきたい。 小松葉月(こまつ・はづき)と出会ったのは2014年の川崎市岡本太郎美術館。岡本太郎現代芸術賞で特別賞を受賞したインスタレーション《果たし状》だった。

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妄想芸術劇場 #07 政尾早和惠

政尾早和惠(まさお・さわえ)はニャン2創生期からの名物投稿者のひとりである。御本人が1993年に投稿された作品の裏に「・・通算45枚目の投稿です。'90年8月の初採用から93年7月までの3年間の投稿枚数は38枚、採用数は24枚。月1枚の投稿で6割強の採用率」と書いているとおり、90年代初期の投稿ページでは欠かせない存在であった。 その彼は、しかし94年ごろになって突然、投稿をストップしてしまう。そしてほとんど10年ぶり近い2002年ごろになって、また本格的な投稿が始まっている。そのあいだに、なにが起きていたのだろうか。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  02 蜘蛛 (画・文:新開のり子)

保育園のころ、祖母が私にプレゼントくれました。 たくさんの洋服です。 人形がアップリケされたスカート、花柄のワンピース、ヒラヒラ……どれを着ていこうか迷い、白いスカートに決まりました。 白い生地に蜘蛛がたくさん描かれています!

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  04 パンツ一丁の冬 (画・文:新開のり子)

4歳頃のこと、 昔は、パンツ一丁とタオルで簡単に健康が手に入ると言われていました。 寒い時にやるのが体に良いそうです。 先生の号令で一斉に体を擦ります。 「乾布摩擦」です。 女の子もパンツ一丁。 真っ赤になるまで乾いたタオルで体を擦ります。 せっせと慣れた様子の擦り上手がいます。 そういう子は、早く体も温まり、寒さ知らずです。 体を擦るのにも上手い下手があるようです。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  07 お泊まり会 (画・文:新開のり子)

児童館のイベントでお泊まり会がありました。 家族と離れて一人で泊まったことがないのでとても不安でした。 児童クラブの子供達がたくさん集まり、夜になりました。 皆、お気に入りのパジャマに着替えます。 布団は、少しすきまをを空けて並べられています。 真ん中がとても人気があり 私は、端っこを取りました。なんだかとても落ち着きます。 横になって眠るまで羊を数えます。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  10 食事会 (画・文:新開のり子)

保育園を卒業してから10年が経ち、食事会が開かれました。 保育園時代のメンバーとの懐かしい食事会です。 親子で参加しました。 当日は、ホテルで行われました。 豪華なロビーを通り抜け、エレベーターに乗ると高速でどんどん上へ。 耳がキューとなると、まもなく高層階に到着し、扉が開きます。 広い窓からの景色に思わず「わーきれいー」と声が出てしまいました。 母と会場に入ると大人と子供は、分かれて座ることになりました。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  12 お局さま (画・文:新開のり子)

都内の会社に入りました。 昼休憩になると、同じ部署の先輩が私を探しにきます。 「急いで急いで」と言って私の腕を引っ張り、下の階に連れていきます。 私は、バタバタと靴の音をたて、先輩は、ハイヒールの音をカツカツ鳴らしながら階段を走ります。 一階に着くと、女子が12名ほど並んで立っています。 お昼だというのに何事でしょうか。 周りを見渡すと、男性社員は一人残らず、外へ出て行ってしまいました。 集合したあと、着席と言われ、席に着くのですが、そこは男性社員の席です。 机がずらりと並んでいます。 その席でこれからお昼を食べる毎日が続きました。 お弁当を注文することもあり、自分勝手な行動はとれません。 窓近くの大きな机には、お局様とその隣には、お局様のお気に入りが座っています。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  13 コーヒーカップ (画・文:新開のり子)

まだまだ新人の頃のこと、仕事に慣れず、ベテランの先輩方に囲まれて仕事を習います。 度々、離れたところで、こそこそ何かを話しています。 何を話しているか、気にしないように仕事に集中します。 数日が経ち、先輩達との距離が縮まるどころか、どんどん離れていくように感じました。 たまに出かけた時にお菓子のお土産を配りました。 ある時、先輩の席の床に何か落ちていました。 先日渡したお菓子が、落ちているのです。 余計なこととは知らず、机に戻しました。 遠くから話し声が聞こえてきました。 席に戻り気にも留めないように一日も早く仕事に慣れるように、他のことは考えずに過ごすようにしました。 早くみんなと仲良くなりたかったのです。 遠くから先輩達の話し声がはっきり聞こえてきました。 「お菓子おばさん」どうやらお菓子おばさんというあだ名をつけられてしまったようです。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  15 味噌汁 (画・文:新開のり子)

新しい仕事場での出来事です。 その日は、天気も良く心地良い風が吹く春の日でした。 仕事場に着くと朝から女性の怒鳴り声が部屋の奥から聞こえてきます。 奥の部屋に近づくと、 ベテランのMさんとSさんが口喧嘩をしています。 普段は仲の良い2人です。 口論の内容は、物を勝手に持ち出したと言う事ですが、私には関係のないことなので、そっと部屋を出ました。 するとガッチャーン、バリバリとガラスの割れた音。 慌てて部屋に戻ると、 Mさんが、大騒ぎしています。 勝手に物を使われ、元に戻さないということが腹が立ったようです。 Sさんの反省のない態度にブチ切れて、怒りを物に ぶつけてしまったようです。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  16 恐怖のドライブ (画・文:新開のり子)

仕事のお休みは、ほっと一息。 そんなのも束の間、部屋探しをしなくてはなりません。 賃貸アパート、賃貸マンションを探すのは、この足で、この目で見て周ります。 物件探しキョロキョロしすぎてすれ違う人は、私を不審者だと思ったでしょう。 気にせず建物を見て周ります。 インターネットで探せば早いんでしょうが、何かと効率の悪い私は,足と目で確認したくて外をウロウロ歩き周ります。自分のペースでのんびりと。 ブルーの家が見えます。 沢山のベランダに可愛らしい花が並んでいます。 可愛い!こんな可愛いところに住んでみたい!

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  17 コイン落としゲーム (画・文:新開のり子)

仕事でのこと。 まだ入って間もない頃 毎日このように声が聞こえてきます。 「あんな人!!早く辞めさせてください!!」 毎日毎日、繰り返される言葉。 私は、心の中でひどいこと言うなー 誰の事を言ってるんだろうー まったく、ひどいったらありゃしない。 ちょっと待った・・・・ 見渡すと・・・ あらあら 私のことではないですか!

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  21話 怖いバレンタインデー (画・文:新開のり子)

バレンタインデーの日、 会社では、女性同士が話し合い、男性スタッフにチョコを配ります。 チョコ選びが得意な人が、有名パティシエから、老舗の洋菓子店、和菓子店とどんどん提案してきます。 最後は、多数決で決まったチョコが選ばれます。 チョコ選びには、かなり時間をかけます。 男性スタッフに配り終えると、先輩ABCの3人組が私を手招きして呼びます。 廊下まで出ると、3人から紙袋を渡されます。 こんな事初めてです。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  23話 ゴージャス弁当 (画・文:新開のり子)

午前中の仕事も終わり、 待ちに待ったお昼休憩がやってきました。 机に弁当箱を乗せ、風呂敷を一つずつほどいていきます。 なんと、今日のお弁当のおかずはステーキです。 実は、このステーキは昨晩夕食に食べていたものです。 お祝い事があり、松阪牛のお肉をおすそ分けしてもらったので、思い切ってステーキにしました。 でも、一口たべてハッと気が付きました。 「これ、明日のお弁当に持って行ったら…」 ゴクリと唾を飲み込み、夕食のステーキは一口でおあずけ。冷蔵庫にあった豆腐を食べて飢えを凌ぎました。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく 26話 寄り道 (画・文:新開のり子)

仕事帰りに寄り道をした時のこと。 日頃の心のモヤモヤを取り除くのは、やはり美味しいものをいただくのが一番! どこに寄り道しようか悩みます。 お寿司もいいしラーメンもいい!焼き鳥もいい! なんでも食べたい! 早速お店探しです。 歩いているとプーンと焼肉の匂いがしてきました。 ん~美味しそうな匂いに引き寄せられて焼肉屋さんに決めました! 2階にある大きな看板を目指して行きます! お肉ワクワク。

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湘南ミュージアム・トリップ

横なぐりに近い大雨の日曜日、横須賀線を降りて鎌倉駅に降り立つと、傘を握りしめた勇敢な観光客がひしめきあっていた。人力車の兄ちゃんも、びしょびしょになりながら客引きに声を嗄らしている。こんな日に人力車に乗るひとなんて、いるのだろうか。おばあちゃんの、とは言わないまでも、おばちゃんの原宿みたいな土産物屋街を抜けて、鶴岡八幡宮の脇を歩くこと約15分。まず右手に神奈川県立近代美術館・鎌倉館が見えて、それを過ぎてもう少し歩くと、反対側に鎌倉別館という小ぶりな建物に辿り着く。

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『つくることが生きること』の空虚

先週のメルマガで特集したワタノハスマイルの新作が展示されている、神田3331の東日本大震災復興支援『つくることが生きること』東京展に行ってきた。もともと錬成中学校という千代田区の公立中学校だった建物の、1階展示室の主なエリアを使った広い展示空間に、大震災で肉親を失った畠山直哉さんや、建築写真で知られる宮本隆司さんをはじめとする多数のアーティスト、研究者が参加した合同展である『つくることが生きること』。大きな期待を持って会場に足を踏み入れ、最初に感じたのは――静かすぎ! という抑えきれない苛立ちだった。

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スピリチュアルから最後のこんにちは

毎週のようにいろいろな展覧会を紹介してきて、なるべくなら毎回ちがう場所での企画を選びたいけれど、どうしても登場回数が多くなる美術館やギャラリーが出てきてしまう。本メルマガでは銀座ヴァニラ画廊と並んでヘヴィロテ度が高いかもしれない(笑)、福山県の鞆の津ミュージアム。このほど開館3周年を迎えて、いま開催中なのが『スピリチュアルからこんにちは』である。「ポニョの舞台になった町」といえば聞こえがいいが、なかなか訪れるのに気合いが必要なロケーション。しかも私立という立場でありながら、後述のように1年目から「死刑囚の絵」、2年目に「ヤンキー」と来て、今度は「スピリチュアル」・・・その企画力と実現力において、現在の日本でもっともエクストリームなミュージアムであることは間違いない。

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ラバーの炎にくるまれて

先週号の告知でお知らせしたラバー造形作家サエボーグの『HISSS』。2014年の岡本太郎現代芸術賞における岡本敏子賞・受賞展として、今週末まで青山の岡本太郎記念館で展覧会を開催中。日曜の会期末まで、これから毎日2回、着ぐるみならぬ「火ぐるみ」がインスタレーション内をうごめく予定だという。僕も先週見学に行ってみたら、予想以上にビザールかつパワフルな作品に仕上がっていたので、写真だけでもお見せしたく、もういちど紹介させていただく。

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おかんアートという時限爆弾

先週のメルマガで告知したように、21日の日曜から神戸ギャラリー4で待望の『おかんアート展』がスタート。今週土曜(27日)には僕もトークをやらせていただく。ご存知のように毎週、メルマガを配信したあと、「今週はこんな記事があります」というようなお知らせをFacebookページで掲載するのだが、6月17日にアップした「おかんアート展」情報は、なんといままでのリーチ数(読んだひとの数)が2万872人! これだけの人数がメルマガ購読してくれたら、どんだけ楽かと思うと・・・涙。でも、ここまで多くの興味がおかんアートに寄せられているというのは、書いているほうとしても完全に予想外。現代美術が行き詰まっているせいなのか、世の中が行き詰まっているせいなのか。ひたすら明るくハッピーなおかんアートは、もしかしたら思いもかけぬ起爆剤になってくれるのかもしれない。

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ずぼらなノンケの中年人形

今年4月8日配信号で「猫塊の衝撃」として紹介した、巨大な猫の球をロウ人形で作った横倉裕司さんは、2014年のヴァニラ大賞・大賞受賞者だった。「エロティック、フェティッシュ、サブカルチャーのアートに特化した」銀座ヴァニラ画廊の公募展には、かなり風変わりな作品が集まってくる。美術評論家の南嶌宏、美術史研究家の宮田徹也両氏とともに審査員をつとめる僕にとっても、毎年楽しみな仕事だが、来週8月31日から1週間だけ開催されるのが、『第三回ヴァニラ画廊大賞・審査員賞受賞者展』。今回は南嶌宏賞の松本潤一さん、宮田徹也賞のT.HAMAさん、ヴァニラ症の田村幸久さん、それに都築響一賞の柴田高志さんの4名による合同展覧会だ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 06 滝本淳助(写真・文:櫛野展正)

滝本淳助という名前に、すぐに反応できる人はどれほどいるだろう。カメラマンで、1988年から2年ほど出演した『タモリ倶楽部』のコーナー「東京トワイライトゾーン」では、『孤独のグルメ』の漫画原作者・久住昌之さんとともにレギュラー出演。当時「VOW」に先駆けて街中にある「トワイライトなモノ」を紹介し、話題となった。その後は、その独特の思考や言葉遣いを取り上げた久住さんとの共著『タキモトの世界』が復刊を果たす。そんな滝本さんも現在61歳。東京都渋谷区の甲州街道に面した立派な自宅マンションで静かに暮らしている。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 05 本木健

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。教室の参加者たちによる展覧会で、毎回ひときわ暗い色調の大きな画面で壁を埋める、本木健(もとき・たけし)の作品を研修は紹介する。水道の蛇口を止めたはずなのに、灰皿の吸い殻を捨ててはずなのに、ドアの鍵を締めたはずなのに、また確認せずにはいられない。だれにも多少はそういう経験があるかと思うが、本木さんはその不安と恐怖が日常生活に支障をきたすほど悪化した、重度の強迫性障害に長年苦しんできた。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 06 奥村欣央

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回はそのなかでも異色の作家、奥村欣央(おくむら・よしお)の作品を紹介する。奥村欣央は1965年生まれ、東京都立芸術高校の日本画科を卒業した、つまり専門のトレーニングを積んだアーティストである。そして実は、安彦さんの〈造形教室〉のメンバーでもない。足立区が主催する、区内の精神科病院や障害者施設を紹介する催しでの作品展示コーナーで安彦さんと奥村さんは1997年に出会い、それからは毎年の『“癒やし”としての自己表現展』での常連参加アーティストとなっている。

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アウトサイダー・キュレーター日記 08 飯島純子(写真・文:櫛野展正)

鮮やかな色彩の絵画に出会った。皮膚のしわが大胆にデフォルメされ、画面の端に大きく描かれた「JuNKO」のサイン。何より、アクリル絵の具と一緒にラメやシャドーが画面に塗りこめられている。ぼくは今まで、こんな風に直接化粧が絵に施された絵画を見たことが無い。この絵の作者に会うため、茨城に飛んだ。都心から約40キロに位置する茨城県つくばみらい市。江戸時代の探検家・間宮林蔵の出身地としても知られるこの場所は、ことし開業10周年を迎えた首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスの誕生に伴い開発が進んだニュータウンが広がっている。駅からほど近い住宅街の一角で、作者の飯島純子さんは父親と暮らしていた。1973年に茨城県筑波郡伊奈町小張(現在のつくばみらい市陽光台)で生まれた飯島さんは、現在41歳。これまで5箇所の病院を渡り歩き「強制退院になったこともあった」と語る。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 11 松本作和子

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。大詰めが近づいた今回は11人目の作家・松本作和子の作品を紹介する。松本さんの作品に出会ったのは、先週の石澤孝幸と同じく、今年6月に池袋の東京芸術劇場で開催された『第5回 心のアート展』だったが、「このひとはプロのイラストレーターか漫画家だったのが、たまたまこころを病んでここにいるのではないか?」と思わせてしまうような、達者な筆使いだった。

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大竹伸朗の壷中天

展覧会は作品が勝負である。広告費の大小は関係ない――と言うのは正論かもしれないが、半分しか正しくない。作品をつくるのはアーティストだが、作品を広めるのはキュレーターやスタッフたちの役目だ。予算の多い少ないとは別の次元で、「ひとりでも多くのひとに見てほしい!」という運営側のエモーションが、展覧会の成否を左右した例をこれまでたくさん見てきた。そして貧弱な広報が、せっかくの作品を暗闇に追いやってしまった例も、あまりにたくさん見てきた。三田の慶應義塾大学アート・センターではいま、『SHOW-CASE project No. 3 大竹伸朗 時憶/フィードバック Time Memory/Feedback』と題された展覧会が開催中である(2016年1月29日まで)。

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「えびすリアリズム」対談報告!

昨年末のメルマガでお知らせしたように、ただいま渋谷パルコで『新春 えびすリアリズム 蛭子さんの展覧会』が開催中だ(18日まで)。いまや「バスに乗って旅行してるおじさん」という認識しかない人たちも少なくない蛭子能収の、実はきわめてシュールでポップなアーティストとしての側面を垣間見ることができる、これは貴重な東京初の展覧会である。1月2日には僕がお相手させてもらったトークもあって、満員御礼の盛況だった。予約開始から2日たたずに定員に達してしまい、「行きたかったのに予約できず!涙」という連絡をたくさんいただいたので、今週は展覧会を紹介しがてら、対談の模様を要約して誌上再現してみたい。

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アウトサイダー・キュレーター日記 11 田中拓治(写真・文:櫛野展正)

正直、こんなに寒いとは思ってもみなかった。人生で初めて訪れた北海道。「札幌時計台」や「旭山動物園」など名だたる観光名所をすっ飛ばしてやってきたのは、札幌市営地下鉄南北線の幌平橋駅。そこからビュウビュウと寒風の吹きすさぶ中、鼻水を垂らしながら向かった住宅はゴウゴウガラガラと大きな音を立てていた。風が通り抜けると、家の周囲を囲むように設置された色鮮やかな玩具が回りだす。これは、この家に住む田中拓治さんがつくったオブジェだ。昭和14年生まれの田中さんは現在76歳。十勝の河西郡芽室町で8人兄弟の4番目として生まれた。

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アウトサイダー・キュレーター日記 12 辻修平(写真・文:櫛野展正)

気になるWEBサイトを見つけてしまった。サイト内にはショッキングピンクを基調とした作品が多数掲載されているが、クリックすることを躊躇してしまうような良い意味で素人臭いデザインが、一層ビザールな雰囲気を醸し出している。後日、まるで何かに引き寄せられるかのように、僕はあのサイトの主に会いに東京へ向かっていた。東武鉄道伊勢崎線の竹ノ塚駅から徒歩15分。東京都足立区にある入り組んだ路地の一角に、周囲の集合住宅とは明らかに異彩を放つ建物「あさくら画廊」はある。入口にまで多数のオブジェが侵食し、入ることを誰もが躊躇する奇抜な外観。ここまでショッキングピンクが多用されるとファンタジーを通り越して、もはや狂気さえ感じてしまう。恐る恐る入口の扉を開けると、中から出てきたのは意外にも同年代の男性の姿だった。

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箱の中のアート・オペレッタ

パリ左岸、オデオンからセーヌ河にかけての界隈には、大小さまざまな画廊が集まっている。それも現代美術ばかりではなく、古典から特異なテイストで珍品を集めるギャラリーまでいろいろで、外から覗いて歩くだけで楽しい。そのなかでも比較的新顔ながら、いっぷう変わったテイストで、パリの変人たちの収集癖をうずかせているのが「Galerie Da-end」。パリ在住のファッション写真家として知られる七種諭(さいくさ・さとし)とパートナーのディエム・クインが、2010年から開いているギャラリーだ。ちなみに「Da-end」は日本語の「楕円」から採ったそう。画廊の常識である「ホワイトキューブ」の真逆を行く暗く塗った壁に、小さな開口部。画廊というよりも、どこかの国の驚異の部屋=キャビネット・オブ・キュリオシティーのような、秘密めいた雰囲気の空間で、「奇態」と「エロティシズム」と「グロテスク」の香りを漂わせる作品ばかりを展示している。

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ストレンジャー・ザン・ミュージアム――5月の特殊展覧会ガイド

連休中に、といってもすでに後半戦だけど、ゆっくり展覧会を巡ってみようと考えてるひともいらっしゃるだろう。先週のメルマガでは埼玉県立近代美術館の『ジャック=アンリ・ラルティーグ展』という、とびきりエレガントな写真展を紹介したが、今週はがらりと趣を変えて! エロだったりグロだったりファンキーだったり、とにかくふつうの美術館ではぜったい扱わないような、ビザールな展覧会を3つまとめてご紹介する。銀座のフェティッシュ専門ギャラリー、新宿二丁目のバー、京都の古書店・・・場所もさまざま、展示内容もさまざま。

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絶滅サイト 04「巨大ラジコン戦車」~「日本全国街並風景」(文:ハマザキカク)

8分の1から4分の1スケールの超巨大ラジコン戦車を扱ったサイト。4分の1のものは、実際の戦車と見間違えるほどのインパクト。実際に砲弾が発射されそうな勢いである。置き場所に困るが、これは金持ちだったら絶対欲しくなる。実際にトップページで「各著名人や中東の王族達も、当RC戦車を非常にインパクトがあり実際に力強く可動する、最高の嗜好品として購入している」と記載されている。値段は50万から160万ほど。「あらゆる戦車を再現させます。新モデルご希望の際はご相談下さい」とあり、オーダーメイドだったのだろうか。しかし会社名の「DOMUS INC」で検索すると、代金を振り込んだのに納品されないと訴える被害者による告発サイトもあり、現在行方不明のようだ。実際に購入した人のレポートもあるのでビジネスが行き詰まったのだろうか。一時期は『ホビージャパン』等の雑誌でも紹介されていただけに残念である。

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アウトサイダー・キュレーター日記 15 小林伸一(写真・文:櫛野展正)

横浜市の西区と保土ケ谷区をまたにかける洪福寺松原商店街。ダンボールを屋根に積み上げた光景が名物の外川商店をはじめ、あたたかい下町人情が漂い、「ハマのアメヨコ」としていつも賑わいをみせている。その商店街の中にある総菜店「京町屋」で、なぜかいつも自分のメガネを中性洗剤で洗ってもらっているという人に出逢った。この店の常連でもある小林伸一さんだ。そのメガネは、とても変わっている。レンズはセロハンテープで固定され、耳にかける部分は何重にもガムテープが巻かれていた。

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狂気の先にあるなにか――シリアルキラー展によせて

5月11日配信号では福山クシノテラスで開催中の死刑囚の絵画展を紹介したが、今週ご紹介するのはアメリカ・イギリスのシリアルキラーの作品ばかりを集めたという、恐ろしくも貴重な展覧会。本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊で6月9日にスタートする。セルフポートレートから手紙、資料など、200点以上が展示予定だという。『ROADSIDE USA』の取材でアメリカを走りはじめた1999~2000年ごろ、サンディエゴからハリウッドの片隅に移って間もない『ミュージアム・オブ・デス』に偶然出会った。ギロチンから電気椅子にいたる処刑道具や拷問道具、手術器具、事故の現場写真やビデオ・・といった「死」の匂いにまみれた展示物の中で、チャールズ・マンソンをはじめとする、アメリカのシリアルキラーたちの作品に対面したのが、僕にとっての「シリアルキラー作品体験」の初めだった。当時はスマホなんて便利なモノはなかったので、彼らがどんな大罪を犯したのか、ごく有名な数人をのぞいて、その場で知ることはできなかった。けれど、展示されている絵画が秘めた狂気の痕跡に――とりわけジョン・ゲイシーのピエロに――心臓がギュッとなったのをよく覚えている。

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アウトサイダー・キュレーター日記 18 鈴木敏美(写真・文:櫛野展正)

唐突だが、僕はテレビ番組やアニメに登場する「巨大ロボット」が苦手だ。現実離れしているからなのだろうか、自分でも理由はよく分からない。小さいころ見ていたテレビの戦隊ヒーロー物でも、巨大ロボットが出てくるとチャンネルを変える始末。だから、「新世紀エヴァンゲリオン」や「進撃の巨人」も未だにじっくり見たことがない。そんなロボット音痴な僕が今回訪ねたのは、1979年に誕生し、ロボットアニメ変革の先駆けとも評される、あの「機動戦士ガンダム」に登場するモビルスーツを自作している人だ。やってきたのは、青森県上北郡おいらせ町。太平洋に面し、町の東西には十和田湖を源流とする奥入瀬(おいらせ)川が流れている。レンタカーで国道338号線を走っていると、どう考えても見落としようのない外観が現れた。ガンダムに登場する10体ほどのモビルスーツが立ち並ぶのは、「スズキ理容」と看板を掲げる理容院の敷地だ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 19 熊澤直子(忍者ブキミ丸)(写真・文:櫛野展正)

高知県には、「藁工ミュージアム」というアール・ブリュット美術館がある。そのため高知を訪れる機会も多いのだが、市内を歩いていると自転車に乗った風変わりな「パンダ」をよく目にすることがあった。もちろん、それは動物ではなく、手製のパンダの被り物をした人間だ。その人は、ファンキーな見た目と、いつどこに現れるかわからない神出鬼没さから、「忍者ブキミ丸」と呼ばれている。すれ違った時の声の感じから、どうやら女性のようだ。どうしても彼女に会いたくなって、後日僕は再び高知にやってきた。高知駅から車を走らせること約10分、閑静な住宅街のなかに彼女の自宅はある。しばらく外で待っていると、派手にデコレーションされた自転車をこいで「忍者ブキミ丸」はやってきた。

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アウトサイダー・キュレーター日記 20 今井豊一(写真・文:櫛野展正)

勇気を出してインターホンを押すと、ドイツの模型メーカー「メルクリン」による機関車模型が陳列された玄関に、ひとりの小柄な男性が現れた。その人が案内してくれた部屋に入ると、天井からたくさんの模型飛行機が吊り下がっている。「21歳のころから、趣味で飛行機の模型を作っとった。ラジコンは10年くらい前からや。黄色のんは、材料から自分で作って、スイスで自分が乗った飛行機やねん。プロペラのついとるんが、好きやねんな。」そう語るのは、今井豊一(いまい・とよかず)さん。1930年生まれの86歳だ。大阪市中央区船場で4人兄弟の長男として生まれた今井さんは、小学校のころから木を削って船を作るなど、工作の得意な少年だった。

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アウトサイダー・キュレーター日記 21 野村一雄(写真・文:櫛野展正)

いまや3億2000万人が利用するソーシャルメディアのひとつTwitter。国内では3500万人が利用し、宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』がテレビ放映されると「バルス」とツイートすることが流行したり、地震や台風の際にはTwitterで救助を求めたりするなど、ライフラインツールとしても不可欠なメデイアのひとつになっている。そんなTwitterのタイムラインに、ある日こんな興味深いツイートが流れてきた。「30年前、父が7年と数ヶ月の歳月をかけて描いたA1サイズの迷路を、誰かゴールさせませんか。#娘として困惑してる #この才能を他の場面で活かせなかったのか――」

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アウトサイダー・キュレーター日記 22 金山勝茂(写真・文:櫛野展正)

地方の道路を走れば、よく目にするもののひとつに、道沿いに立つ交通安全人形がある。「飛び出し坊や」と呼ばれる既成の人形がお馴染みだが、田舎に行けば行くほど、個人レベルでそうした人形を手作りしている人たちは多い。今回は、そんな交通安全人形の作り手に会うため、広島県福山市から電車を乗り換えること5時間強(遠かった…)、長崎県平戸市を訪れた。歴史の教科書で、誰もが必ずその名前を目にしたことがある平戸市。16 世紀にはポルトガル船が来航し、キリスト教伝来の窓口にもなった異国文化が息づく港町だ。レンタカーで県道を走っていると、交差点に平戸の歴史や伝統とは無縁の奇妙なオブジェの乱立するスポットが現れた。敷地内には、「交通安全」と書かれた電波塔や、自転車に乗ったミッキーマウス、そして映画『スター・ウォーズ』に登場するC-3POとR2-D2など様々なキャラクターを模したオブジェが点在し、既にパラレルワールドと化している。

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アウトサイダー・キュレーター日記 23 北 浩子(「Hair & facial ciel」オーナー)(写真・文:櫛野展正)

やってきたのは、兵庫県西宮市にある阪急夙川駅。駅から程近い高級住宅街が立ち並ぶ住宅街の一角に、今回の取材先であるヘアサロン「Hair & facial ciel(シエル)」はある。この店は、外観からして凄い。とにかく目立ちまくっているのだ。まず、入り口には、懐かしいテレビ番組『ザ・ベストテン』を模した手書きの順位表が貼られ、開放的な大きな窓には、お立ち台ギャルの手書きイラストが大きく描かれている。柱の横についたスピーカーまで手作りだから驚きだ。「Hair & facial ciel」という看板がなければ、ここが美容室だとすぐに認識することは難しいかもしれない。

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アウトサイダー・キュレーター日記 24 唐崎歩美(写真・文:櫛野展正)

福岡のギャラリールーモで開催され、今年の夏に大きな話題を呼んだ展覧会『悶絶!! 桃色秘宝展』。入場無料ということもあって、SNSで評判となり、会期延長にもなったこの展覧会で展示されていたのは、エロ雑誌やエロ雑貨にピンク映画のポスターなど「昭和のエロス」だった。そうしたエログッズを収集・展示していたのが、奇書ハンターとして知られる唐崎歩美さんだ。唐崎さんは、昭和63年、北九州市小倉にある銀行員の両親の元で生まれた。

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上野と木場で展覧会めぐり

派手に宣伝されているわけではないけれど、見逃しておきたくない展覧会をふたつ、急いで紹介しておきたい。まずは来週27日から29日にかけての週末3日間だけ、上野の東京藝大キャンパスで開催される『LANDSCAPE』展。ランドスケープ=風景をテーマに、今日的なランドスケープのありようを探るグループ展として2016年から北九州のギャラリーSOAPを皮切りに、中国の合肥、上海、バンコクと巡回して開催された『ホテルアジアプロジェクト:ランドスケープ』展と連動した企画。もうひとつご案内したい展覧会は、東京都現代美術館に近い木場のアース+ギャラリーで開催中の『尾角典子展 The interpreter』。尾角典子(おかく・のりこ)は長くロンドンを拠点に活動するアーティスト。2015年にイギリス中部の都市ダービーに招待されて制作したシリーズが、今回展示されている『The interpreter』だ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 26 武装ラブライバー(写真・文:櫛野展正)

数年前からTwitterで目にするようになって、ずっと気になっていた。その姿は、画面の中で見るたびに進化し続け、どこか異国の民族衣装やRPGゲームのラスボスのようにも見えるし、そのファサード感は絢爛豪華な祭りの山車のようでもある。これは『ラブライブ! School idol project』のグッズを身にまとった男性の姿だ。2010年にゲーム雑誌の読者参加企画として始まった『ラブライブ!』は、9人の女子高生で構成されるスクールアイドルグループが学校統廃合の危機を救うために全国大会優勝を目指す物語で、メディアミックス作品として社会現象を巻き起こしている。そのファンは、「ラブライバー」と呼ばれており、中でも「武装」と称される好きなキャラのグッズで全身を囲った人たちは全体の1割ほど存在する。

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アウトサイダー・キュレーター日記 28 佐藤 和博(写真・文:櫛野展正)

クリスチャン・ラッセンの代名詞とも言えるイルカの絵が胴体に描かれた「こけし」。アンバランスな和洋折衷の雰囲気が、笑いを誘う。ユーモアたっぷりで、どこか批評性に富んだ本作の作り手は、著名な現代美術家ではなく、秋田県に暮らす佐藤和博さんの手によるものだ。日本有数の豪雪地帯のひとつ、秋田県横手市。冬になると「かまくら」で有名になるこの街で、佐藤さんは水道や給排水などの設備工事会社「佐藤施設工業」を営んでいる。社内に一歩足を踏み入れると、たくさんの絵が事務所に飾られていた。社長である佐藤さんが全て描いたものだ。奥から出てきた佐藤さんに「先に見るべさ」と案内されたのが、会社事務所と自宅の間に立つ建つ二階建ての大きな蔵だ。

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八潮秘宝館 春の一般公開!

「秘宝館が絶滅寸前」と嘆く諸氏は多いけれど、ならば自宅に秘宝館をつくればいいだけ!という、日本でおそらくただひとりの勇者・兵頭喜貴さん。すでに本メルマガではおなじみだが、自宅を開放する『八潮秘宝館』の4回目となる「春の一般公開」が今月末からの黄金週間に開催される。昨年、ロケーション撮影中に大規模な盗難に遭ったものの、同志の支援により別府秘宝館に展示されていた蝋人形3体が参加し、これまでとはまたひと味違ったインスタレーション空間に仕上がっている。

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アウトサイダー・キュレーター日記 29 一ツ柳 外史春(写真・文:櫛野展正)

改札に石像の模型が鎮座する駅にやってきた。岡本太郎が「こんな面白いもの見たことがない」と絶賛したその像は、『万治の石仏』という名で親しまれ、街の観光名所になっている。ここは長野県のほぼ中央に位置する下諏訪郡下諏訪町。かつては中山道と甲州街道の合流地で宿場町として栄えた温泉宿も多い。駅から国道沿いを少し歩いたところにあるのが、今回の目的地「ヘア・サロン ヒトツヤナギ」。すぐ下にあるのが「海のジオラマ ヒトツヤナギ」の看板だ。ここは、細密なジオラマを制作する店主が営む理容院として知られている。階段を上がり店の扉を開けると、さっそく大きなアクリルケースに入ったジオラマが迎えてくれた。3台ある散髪台のうち、ひとつは作業台となっている。待合いの席で、お客さんとコーヒーを飲みながら談笑しているのが店のオーナー、一ツ柳外史春(ひとつやなぎ・としはる)さんだ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 34 馬田亮一(写真・文:櫛野展正)

佐賀県大和町にある「巨石パーク」。静かな森に10m以上の巨石群が17基も点在し、いまや佐賀県を代表するパワースポットになっている。佐賀駅からその「巨石パーク」に向かう途中、国道263号線沿いで異彩を放つ建物に遭遇した。たくさんの廃材や廃物が幾重にも重なり構成されたその建築物は、一見すると廃墟のようでもあるし、どこか異国の要塞のようでもある。入り口にはコンクリートや茶器やガラスなどを組み合わせて制作されたシーサーがこちらを見据えている。その周りの黒板にはポップな社会風刺の言葉が書かれており、どうやらアートハウスのようだ。道路沿いに車を止め、中に入って呼びかけてみた。「こんにちは、どなたかいらっしゃいますか」。

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樹海の因果――根本敬ゲルニカ計画

先週日曜日(10月1日)、羽田空港に近い京浜島の須田鉄工所で、『鉄工島フェス』が開催された。石野卓球、七尾旅人などが演奏したステージの背景として掲げられていたのが根本敬の『樹海』、5月末から4ヶ月の時間をかけて描き上げられた349×777cmの大作だった。京浜島は東京都大田区に属する小さな人工島。羽田空港に向き合う「つばさ公園」は、旅客機の離着陸が間近に見られる聖地として飛行機マニアにはよく知られている。かつては鉄工所をはじめとする工場や物流基地として繁栄したが、近年では廃棄物処理場やリサイクルセンターが集まる地域となりつつあり、再活性化が望まれてきた。寺田倉庫が2016年に立ち上げたオープンアトリエ「BUCKLE KÔBÔ」(バックルコーボー)もその試みのひとつ。

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中華街に甦る衛生展覧会

かつて「衛生展覧会/博覧会」という見世物があったことを、ビザール系がお好きな方ならご存じだろう。あくまでも庶民啓蒙の体裁を取りながら、その実は人体解剖模型から病理標本に瓶詰め畸形児まで、おどろおどろしい雰囲気に満ちた猟奇的な見世物催事である。いまから半世紀以上前に消滅した衛生展覧会が、11月の2週間だけ、横浜中華街の小さなギャラリーに甦る。SNSによる相互監視密告システムが張り巡らされたこのご時世に、こんなに不穏な展覧会を企画したのは骨董屋でありオブジェアーティストでもあるマンタム。本メルマガ2013年5月15日号で厚木市内の魔窟を紹介した、フェティッシュ/ビザール界の怪人である。

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アウトサイダー・キュレーター日記 37 伊藤 保(写真・文:櫛野展正)

高架上を走ることから「ソラ鉄」の愛称で親しまれている「日暮里・舎人ライナー」。同じ無人運転の鉄道「ゆりかもめ」とは違って、下町の気取らない長閑な街並みを駆け抜けていく様は、自然と心が安らいでしまう。その停車駅のひとつ、赤土小学校前駅から商店街を歩いていると、一際異彩を放つ店舗が見えてくる。ティラノザウルスやトリケラトプスといった子どもたちに人気の恐竜がリアルなイラストで外壁一杯に描かれ、入り口には金網でつくられた恐竜のハリボテまである。よく見ると室外機まで彩色されており、制作者の並々ならぬこだわりが伺えて、何とも面白い。ここが今回の目的地「お好み焼き110(いとう)」だ。店内は、靴を脱いでゆったりくつろぐことの出来る座敷スペースが広がっているが、四方の壁に描かれた恐竜のイラストや壁に展示された恐竜の張り子とお好み焼き店とのアンバランスさに思わず笑みがこぼれてしまう。

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新連載! Freestyle China 即興中華

北京と東京を行き来しながら、中国でいま、まさに起きていることを本メルマガで書いてくれているライターの吉井忍さん。今年もたくさん報告できそう!ということなので、不定期連載にしていただくことに。題してフリースタイル・チャイナ=即興中華。ちなみに中国のヒップホップ・シーンではフリースタイルのことを「即興」と言うのだそう!

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Freestyle China 即興中華 庶民のチカラ:“不正経研究所”所長・徐騰(文/吉井忍 写真提供/徐騰、吉井忍)

中国で「面白いもの」を探してくるのは、今までは外国人が多かったが、最近は中国の人が自分で見つけてくることが増えた気がする。徐騰(シュー・タン)さんもその一人。清華大学建築科の博士課程に在籍する傍ら、中国各地の変わった建築物を観察し、その謎に迫る「不正経(=非正統派、まともでない)歴史研究所」なるものを立ち上げ、自ら所長を名乗っているという。早速、ぜひお目にかかりたい!と唐突な熱愛コールを徐さんに送ったところ、博士論文のご執筆でお忙しい中にもかかわらず取材を快諾してくださった。

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うろんな一族とお祭り人生

いつもたくさんのおもしろそうな展覧会のお知らせをいただいて、でも1週間とか10日間とかの会期で入れ替わってしまう展示を欠かさず見て回るのはすごく難しい。今週は急いで回った、小さな、でも見ないままスルーしてしまうにはもったいなさすぎる展覧会をふたつお知らせする。

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空山導師のメタリック・エクスタシー

空山基=Hajime Sorayamaという名前は知らなくても、あのメタリックな女たちのイメージをいちども見たことのないひとは少ないのではないか。本メルマガでも2012年8月12日号『軽金属の娼婦たち』で代表作とアトリエ訪問を特集したのを手始めに、何度か空山さんの作品を掲載してきた。いま渋谷のNANZUKAでは、同ギャラリーで3度目となる2年ぶりの個展『空山基 Sorayama explosion』が開かれている(8月11日まで)。ご承知のように空山さんには1978年に始まる「セクシーロボット」シリーズの大ブレイクに始まり、1999年のソニー「AIBO」コンセプトデザイン時代と2度の大きな波があり、クライアントからの依頼によるイラストレーション・ワークから、世界中のファンやコレクターに向けて自分の好きな絵を描いて発表するアーティスト的なスタンスに活動をシフトさせた現在が、3度目のビッグウェイブになっているのではないかという気がする。

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アウトサイダー・キュレーター日記 38 生亀光明(写真・文:櫛野展正)

何気なくSNSを眺めていた時、畸人研究学会のメンバーで“海老名ベテルギウス則雄”こと小久保則和さんの投稿に目が止まった。そこに写っていたのは、天高くそびえる銀色の不思議なオブジェで、相模鉄道本線の西谷駅から鶴ヶ峰駅間の車窓から見えるという。事前に何度か電話をしてみるものの全く繋がらない。そこで教えてもらった電車に乗り、車窓から見える場所を頼りに探し歩いていると、住宅街の中に異彩を放つ建物が現れた。一見すると電波塔のようにも見えるが、よく見るとそれは空き缶などで出来ており、太い柱の周囲には大きな龍が巻きついている。「昔から電話恐怖症だから、電話は出ねぇんだよね」と出迎えてくれたのが、このオブジェの作者・生亀光明(いきがめ・みつあき)さんだ。

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螺旋の冒険

最初に出会ったのが2012年10月3日号「黄昏どきの路上幻視者」。それから何度か登場してもらった仙台在住のグラフィティ・ライター/アーティスト、さらにオルタナティブなギャラリー「Holon」の運営も続けてきた朱のべん。新たな音源リリースを記念して、東京で作品展の開催が決定。オープニング前夜にはライブセッションも予定されている。

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アウトサイダー・キュレーター日記 vol.40 みゆき(写真・文:櫛野展正)

名古屋駅の新幹線口で待っていると、現れたのは「みゆき」と名乗る細身の女性だった。小雨のなか、駅からほど近い場所にある自宅マンションに招き入れてもらった。部屋の一室には、これまで描いてきた油彩画が広げられている。スナックの店員を描いたものや人形や仮面を描いたものまで様々だ。未だ自分の表現を手探りで模索している様子は伺えるものの、そのどこか暗鬱な表現はいつまでも僕の頭から離れてはくれなさそうだ。

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渡辺雅絵「魔改造」展@mograg

アウトサイダー・アートというよりもロウブロウ・アート、と世間的には認識されているのだろう。でも、mogragギャラリーにときどき立ち寄って、それまで名前も知らなかった若い作家たちの展覧会を見ていると、いわゆる現代美術でもなければ、むろん伝統美術でもなく、障害を背負ったからだやこころから生み出される表現でもない、ただ音楽をやりたかったから楽器を買って曲を作ったり歌ったりするように、ただ絵を描いたり立体物を作りたくて作ってるだけ、むしろこっちのが「ふつうのアート」なんじゃないかと思えてくる作品によく出会う。送られてきたDMの写真が妙に気になって、先週日曜に見に行ったのが渡辺雅絵個展『魔改造 MAKAIZO』。DMのコピーには、「ガンプラ×植物」「洗練された造形技巧により」「二つの異世界が亜空間融合!」「動植物をモチーフとしたモンスターたちを制作するアーティスト。生物のフォルムや、機能美に憧れ、アクリル画や立体作品で表現する。」とある。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第3回 夢と魔法の国

きょうも学校や会社行って、お友達と美味しいもの食べて楽しくお喋りして、ばっちりお化粧して可愛い洋服着て……落ち込むこともあるけど、金曜には彼氏に会えるからがんばっちゃうもんね! 今を生きる女の子たちには毎日楽しく健康に、できるだけ傷つかず過ごしてほしい。そんな願いを心に秘めつつ日々制作しているのですが、何年も前からずっと考えていたことがありまして。それは「日本で女の子がいちばん幸せな気持ちになれる場所はどこなのか」ということです。USJ、沖縄、京都、パンケーキ屋、ゴンチャ……SNSや実際に女の子たちがわらわらしている場所をさまざまな手段でそっと調べているのですが、やはり最終的に行き着く先は「東京ディズニーリゾート」なのでした。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第4回 貧乳と共に生きる

暖かくなって参りました、と言いたいところですがまだまだ寒い日が続きますね(4月中旬現在)。しかし、服を何層にも着重ねて防寒する必要は少しずつ無くなってきました。そんな季節が過ぎ去るとあっという間に梅雨が来て夏になります。夏までの季節の移り変わりは大変スピード感があり、ついていくのに毎度ヘトヘトですが、おんなのこ達の露出度も大変なスピード感を持って高まって行くので、ヘトヘトながらも彼女達の着こなしにいろんな意味で励まされつつ、自分は夏を迎えます。服装の露出が高まる季節が近づいてくると、ファッション雑誌などでは美しく肌見せをするためのダイエット特集ページや運動や食事、新作の下着の力を受けて胸やお尻をいかに良い形で夏本番までに維持し続けるか、なんて特集が組まれるわけです。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第5回 3年かけた答え合わせ、そして近況報告

6限の授業が終了し、やったね!明日は土日で休みだと内心浮かれていたら、後ろから18歳の同級生Rちゃんが「波磨さん…」と神妙な面持ちで声をかけてきて、どうしたと聞いたら「波磨さん、言いたいことわかりますよね……」いや、まったくわからないよ。どうしたんだい?「……波磨さんって本当に貧乳なんですね」と言われたのはつい先日のこと。へへ、まあ前回自分の貧乳のネタで1つ記事書いたし、絵も描いてるし、色々踏ん切りついて堂々と生きてますからね。そのときは「ま、貧乳で時々お金もらってるからね!」と即座によくわからない返事をしたのですがこれは18歳にはかなり誤解を与えているのではないか、いや、もう仕方ないか。これ以上考えるのはやめよう。

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アウトサイダー・キュレーター日記 vol.42 土屋 修(写真・文:櫛野展正)

日本列島のほぼ中央に位置し、「水の都」と呼ばれるほど、豊かな地下水に恵まれた土地として知られている岐阜県大垣市。市内の県道沿いには、カンガルーやキリン、孔雀などのオブジェが顔を並べる場所がある。この家に住む土屋修(つちや・おさむ)さんが、古いタイヤを利用して制作したもので、子どもたちに人気の名所となっている。

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アンドロイドの子に宿る夢

今年4月から5月にかけて開催された『サーカス博覧会』に続いて、埼玉県東松山市の「原爆の図 丸木美術館」では『管実花 個展 人形の中の幽霊 The Ghost in the Doll』が開催中だ。このあいだまで見世物小屋の絵看板がずらりと架けられていた広い展示室には、大判のモノクローム・プリントが11点、静かに並んでいる。「人形の中の幽霊」という不穏なタイトルをつけられたこのシリーズは、不幸にして幼子を亡くした母親や、不妊治療に苦しんだ女性たちのために、子どもの代わりとしてつくられた「リボーンドール」を、19世紀に欧米で流行した「死後記念写真」の様式に則って、当時と同じ湿板写真の手法で撮影した作品群である。心地よさそうにタオルにくるまれたり、おもちゃで遊びながらこっちを見ているつぶらな瞳の赤ちゃんたちは、実は「失われた/授かることのかなわなかった」子どもたちにこころ寄せる、母の哀しみが詰まった「ひとがた」なのだ。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第6回 とある専門学生の近状報告、ハスキーとモテ期は突然に

Twitterのスクロールというのは良いものだなと最近つくづく思います。不意に女の子の画像が流れてくるから。専門学校帰りの京急線でつり革に掴まりながら池田エライザの投稿した画像を眺めながらそっとそんな事を考えてほくそ笑んでます。夏が来てしまいました。流れてきた池田エライザちゃんの画像、彼女本人の投稿でインコを頭に乗せてiPadを持ちながら考え事をしているとても可愛い1枚なのですが、見るべきところはそこではなく彼女が着ているシャツなんですね。彼女は胸がすんごく大きいのですがそれがシャツのうえからでもよく分かるんですよ。で、シャツのボタンのところをクローズアップするとですね、胸が大きいが故にボタンとボタンの間に少し隙間があるんです。

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詩にいたる病、ふたたび

2015年08月18日号「詩にいたる病 ――安彦講平と平川病院の作家たち」を起点に、東京・八王子市の平川病院〈造形教室〉とはこのメルマガで長くお付き合いをさせてもらってきた。安達さんたちは東京都内の精神科病院で構成される一般社団法人東京精神科病院協会(東精協)主催の「心のアート展」(池袋・東京藝術劇場内ギャラリー)のほか、平川病院の〈造形教室〉の作家たちが多数参加する「自己表現展」を地元八王子で定期的に開催していて、今年は地域活動支援センター「ひまわりアーティストクラブ」との共催で、「“癒し”拓くアート 二つの場による自己表現展」がすでに10月1日から開催中。さらに10月17日からは、〈造形教室〉のメンバーである古名和哉さんの個展も開かれるので、あわせて紹介させていただきたい。

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1万年の時を超えて――縄文タトゥーのプリミティブ・フューチャー

最近ではテレビ番組『クレイジージャーニー』や雑誌『BURST』の復刊でも知られるようになったケロッピー前田さんは、いつも興味深いことや恐ろしいことやおぞましいことをいろいろ教えてくれるのだが、ここ数年はトライバル・タトゥーの彫師・大島托さんと組んで「縄文族 JOMON TRIBE」なるアートプロジェクトを運営。2016年に開催された展覧会は本メルマガでも告知したが、来る11月15日から3年ぶりの個展が東京阿佐ヶ谷TAV GALLERYで開催される。最初に写真を見たときからこころをざわつかせる存在だったので、今回じっくりお話を聞かせてもらうことにした。

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アウトサイダー・キュレーター日記 vol.43 藤田孝士(写真・文:櫛野展正)

広島県福山市の北西部に位置する新市町。城田貞夫さんが経営する自作のカラクリ人形やエロオブジェが魅力のスナック「ジルバ」がある地域のため、僕にとっては頻繁に足を運ぶ場所のひとつになっている。そんな町に2019年10月、またひとつ魅力的なスポットが誕生した。スナック「ジルバ」からも程近いその場所は、テイッシュアート 喫茶「紙の城」という看板を掲げる喫茶店だ。扉を開けると、1000点以上のテッシュペーパーでつくられた多彩な作品群に思わず圧倒される。桜や城、松の盆栽など同じテーマで作品が量産され、ティッシュペーパーにこだわった執拗な創作に目眩すら感じてしまう。室内で新作の制作に取り組んでいたのが、この喫茶店の店主で、作者の藤田孝士さんだ。

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藤田淑子と渇望する少女たち

「銀色の背景に、ほとんど赤と青、みたいな単純な色合いの人物やカーテンのドレープ、つまりひだひだがべたっと描かれていて、でも人物には目も鼻も口もない。むしろ主役は赤や青のひだひだみたいだ。ユーモラス、というには不気味すぎるし、幻想的というにはシュールすぎる。ルネ・マグリットや、クロヴィス・トルイユの絵に対面したときのような、漠然とした不安感をかき立てられて、心地よいというよりムズムズさせる絵」――2018年6月20日号「カーテンの襞から覗く顔」で紹介した不思議な画家・藤田淑子の個展「Thirsty Girls ―渇望する少女たち―」が1月10日からスタートする。前回の取材時に見せてもらった作品の印象がすごく強烈で、小さな絵を購入したりしていたのだが、今回の個展ではメインに高さ175センチ、横幅が10メートルになる大作と、初挑戦の短編アニメーションもお披露目されるという。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第10回  知識は時にして残酷、28歳のココ最近

みなさま、明けましておめでとうございます。一富士、二鷹、三茄子っぽい夢、見れましたか。この連載が配信されるころには年が明けて2020年。というかもう正月云々どころか日常に戻っている時期でしょう。先は長いと思っていた東京五輪が直ぐそこに。去年の初めからこの連載を開始してやっと10回目。専門学校に通いながらなんだかんだ続けてこれましたが、2019年はとにかく「一難去ってまた一難」という言葉がぴったりな年でした、ゆえにボロボロの状態でなんとか文章・絵のデータをド深夜(3時とか4時とか)に都築さんに送り付ける日々だったのですが、そんな中でも自分なりに動き回り、さまざまな出会いがあった年でもありました。毎日フルで動いて知らない間に寝てる。これを繰り返してたら、あっという間に冬休み。

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アウトサイダー・キュレーター日記 vol.44 須田久三(写真・文:櫛野展正)

昨年、京都御所東の荒神口にあるギャラリー「art space co-jin」で興味深い展覧会が開かれていた。ここは障害のある人の作品や表現に出会える場として定期的に展示やイベントを開催しているが、そのとき行われていたのが『Emotional Drawing|須田久三 展』だった。小さなスペースの中には、絵画だけでなく印章技術や山水画などが展示されており、表現の多彩さに驚かされてしまう。特に、会場中央のテーブルに並べられていたのは、展覧会名にも使われている近作「Emotional Drawing」シリーズだ。大小さまざまなサイズのノートには、緻密なドローイングが繰り広げられており、作者が描き出す奇妙な世界と余白とのバランスが絶妙な絵画作品になっている。

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アウトサイダー・キュレーター日記 vol.45 丹 作造 (写真・文:櫛野展正)

蛇腹状に広げられた帳面の両面に描かれた絵画。手にとって広げると、苦悩の表情を浮かべる人々の顔がいくつも描かれている。片面は、1枚の壮大な絵巻になっており、つくり手の途方も無い情念のようなものさえ感じてしまう。本作は、今年1月、ニューヨークで開催されたアウトサイダー・アートフェアで、世界の人々から驚きを持って迎え入れられた。作者は、丹作造(たん・さくぞう)と名乗る人物だ。彼との出会いはフェアが始まる2ヶ月ほど前のこと。小雨の降るなか、東京・上野駅の公園改札前で、人混みの中から僕は彼の姿を探していた。前夜に電話した際、教えてくれたのは「携帯電話なんて持っていないんですけど、とにかく派手な格好をしているから」という情報だけ。しばらく待っていると、「どうも」と無精髭を貯えたニット帽の男性が話しかけてきた。首には廃材を組み合わせた自作のネックレスをぶら下げ、上下ともに自分でリメイクした服を着ている。上着は缶バッジや布などを貼り付けたブルゾンで、履いているジーンズにも自作のペイントが施されている。

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おかんアートの種明かし

先週号で告知した京都市立芸術大学ギャラリーの『おかんアートと現代アートをいっしょに展示する企画展』。ご覧になれたかたはいらっしゃるだろうか。“おかんアートと共におかんアート的な手法や雰囲気を持ち合わせる現代アートの作品をピックアップ、それらを区分けなしに展示します。 おかんアート・現代アートといった、それぞれの文脈や属性があいまいに溶け合う場で、見え隠れする表現そのものの面白さにご注目ください。”(展覧会サイトより) おかんと現代美術家の作品を「区分けなしに」展示するという、どちらかと言えばプロの現代美術家にとって厳しいグループ展だったかと思うが(「お料理大好き主婦xカリスマ料理人対決」みたいに)、展示会場の一角には今回の企画に協力した神戸・下町レトロに首っ丈の会による、「おかんアーチストの作業場」コーナーが設置されていた。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第14回 自粛の後遺症

色々ありましてもう明日で10月に突入ですよ。学校や実習の合間にちびちび書いては、アレも書こうコレも書こうとやってたらこんなに長引いてしまいました。9月末現在でもまだまだ例の新型との戦いは続きますし、「冬はマスクで顔半分隠れるからあったかいじゃん」とかポジティブに考えていかないとやってられませんよ。今年もあと少し、日々けっこう頑張ってるから、そろそろなにかしらで報われても良くない? あーあ道端に10万落ちてないかな、では改めて誰のためにもならない日記をどーぞ!

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ふたりの寿老人

本メルマガでおなじみのダダカンと秋山祐徳太子、ふたりの「独居老人王」の展覧会が、期せずして東京の高輪と銀座で開催中。年の瀬のひととき、ふたりの寿老人が辿ってきた人生を拝み、来る2021年への活力としていただきたい。 高輪のCafé GODARD galleryで開催中なのが「ダダカンの『殺すな』展」。11月11日配信号「祝・ダダカン師、百歳!」でお知らせしたとおり12月2日、無事に百歳の誕生日を迎えたダダカン=糸井寛二がたびたびテーマに取り上げてきた「殺すな」を中心とした作品展に、ダダカンを慕う作家たちのオマージュ作品を加えた展覧会。12月24日からは後期展示がスタートする。 カフェ・ゴダールは忠臣蔵で有名な高輪泉岳寺の境内、土産物屋が並ぶ仲見世にあるカフェ・ギャラリー。こんな立地の展示場所もなかなかないかもしれない。

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ゆびさきのこい

京都市内・河原町通りの荒神口にあるささやかな展示空間「art space co-jin」。2015年に立ち上げられた「きょうと障害者文化芸術推進機構」の活動拠点として2016年1月に稼動を始めた、アールブリュットに特化した展示スペースである(「art space co-jin アートスペースコージンの名称は、京都御苑に近接する荒神口の地名にあやかり、「共」の意味であるcoと、「人」の意味を込めたjinにより名付けています」とのこと)。 そのco-jinでは3月21日まで「ゆびさきのこい」と題された、4名の作家によるグループ展を開催中。ドローイングや立体のほかに写真も入って興味深かったので、ここで紹介させていただく。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第16回 復活のノロシ/ウェルカム・トゥー・ヘル

1年生の後半あたりから帰り道に毎日同級生の友人と「行けば終わる」と唱え続けていたことを思い出しました。 「行けば終わる」、実にシンプル。それを3年間繰り返し一つ一つ終わらせてきました、そしてとうとうこの日が来ました。卒業しましたよ皆さん! 何人この連載を読んでくれているかわかりませんが「皆さん」! 無事! 波磨茜也香は! 専門学校を卒業し、国家試験も受かり! 歯科衛生士の資格を手に入れましたよー! 祭りだ! 酒だ!

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DOMMUNE ダダカン特集、購読者限定アーカイブ!

去る8月30日に渋谷のDOMMUNEスタジオから生配信したばかりの東京ビエンナーレ関連企画「THE 100 JAPANESE COMTEMPORARY ARTISTS season 7 #054 糸井貫二/ダダカン/100歳」。DOMMUNEのご厚意により、さっそくメルマガ購読者限定のアーカイブ・リンクが届きました。宇川くん、いつもありがとう!  番組はなんと当日になってのアナウンスという非常事態で、いったいどれくらいのひとが見てくれたか気がかりでしたが、なんと1万5000人近くのビュワーに視聴いただけたとのこと。うれしいですね~。番組内では、いま仙台郊外の施設で穏やかな日々を送る100歳のダダカン師とスタジオを、オンラインでつないでの登場も実現しました!

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第27回 “癒し”としての自己表現展

毎年恒例の展覧会がコロナ禍で中止になってしまったことがずいぶんあったが、個人的に毎年楽しみにしている「“癒し”としての自己表現展」が、この年末には無事開催予定と聞いてうれしくなった。 「“癒し”としての自己表現展」は八王子市の平川病院が主催する展覧会。1960年代末から精神科病院やクリニックで、患者たちに自由に絵を描いてもらう〈造形教室〉を運営してきた安彦講平さんの長い活動から生まれた展覧会だ。1990年初頭に第1回が開かれて、今年が27回目となる。 安彦さんと〈造形教室〉の活動については、本メルマガ2015年8月18日号「詩にいたる病――安彦講平と平川病院の作家たち」から数回にわたって短期連載したので、未見の方はバックナンバーをご覧いただきたい。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第19回  青息吐息、女の敵は女

スケーラーを使ったスリップ(実技試験)も毎週月曜日と火曜日に集中するゆえ、金曜の放課後に教室で課題や次のスリップの練習などをダラダラと友人達と行うのが習慣となってきた。 別に誰かが「やろう」と言い出したものではない、自然と同じメンバーが最終下校のチャイムが鳴るまで居座ってできた集まりである。するとたまたま歩いていた教師達と遭遇、その場のノリで色々教わるチャンスが。 正直スケーリングは教科書を読んでも「???」な部分が8割なので、細かいところは実際に見て学ばないと納得できない部分がある。そういう時にこの時間は有難い。

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緊急特集 デルニエ・クリを失う前に

2014年11月12日号をはじめとして、本メルマガで何度か取り上げてきた南仏マルセイユに拠点を置く異端の版画工房/デザインスタジオ/マイクロパブリッシャー「デルニエ・クリ(Le Dernier Cri)」(以下DC)。「最新流行」という、まるで活動内容にそぐわない気がする名前を持つこのアトリエは、パキート・ボニートとカロリーヌ・スリーのふたりによって、1993年に生まれた(来年が30周年!)。 パキートとDCはこれまで根本敬、石川次郎ら日本のアヴァンギャルド・コミック・アーティストたちとも多くの作品集やポスターを共同制作してきた。いまや日本にもDCの少部数・手刷りにこだわったヘヴィな版画の質感を愛するファンがたくさんいるはず。しかしそのDCが大きなトラブルに巻き込まれていると聞いたのは数年前のことだった。詳しくはこのあとの中山亜弓さんのテキストでお読みいただくが、その問題は発生から数年経ったいまも、解決に向かうどころか日々悪化。いよいよ存続の危機に瀕しているとのことで、中野ブロードウェイのタコシェではいま緊急のDC作品フェアを開催中。その売上げがDC存続へのサポートへとつながることになる。

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ワールド・クラスルーム ―― 菊地智子@森美術館

六本木ヒルズの森美術館で開館20周年を祝う記念展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」が4月19日から始まっている。 教室と言われても、学校の授業も学校も嫌いだったし・・・・・・というわけで正直スルーしそうな展覧会だったけれど、ロードサイダーズでは2017年1月18日号「菊地智子が歩くチャイニーズ・ワイルドサイド vol.1 重慶と夜のクイーンたち」をはじめとして何度も紹介している写真作家・菊地智子の展示室があるということで、さっそく覗いてきた。

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妄想芸術劇場 #02 ぴんから体操 後編

1990年の『ニャン2倶楽部』、そして93年の『ニャン2倶楽部Z』創刊当初から設けられた投稿イラスト・ページ。その長い歴史が生み出した多数の常連、名物投稿者のなかでも、ニャン2史上に輝く伝説の投稿アーティスト。先週号では初期のフラットな漫画ふう、そしてモノクロームの点描によるダークなグロテスク・リアリズム作品に続いて、2001年から02年にかけてのある日、突然送りつけられるようになった予想を超えた新しい画風――「ぬるぴょん」の登場までをお伝えした。 2003年の短い休止期を経て、ニャン2編集部にぴんから体操からの封筒が、ふたたび届くようになる。しかしその中に入っていたものは、またもやがらりと作風を変えた、まったく新しいタッチの膨大な作品群だった。

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妄想芸術劇場 #05 MR. スパーク

これまでご紹介してきた伝説的な投稿イラスト職人と同じく、1990年代からおよそ10年近くにわたってハイ・レベルの作品を投稿しつづけてきた投稿イラスト初期のスター。それがMR.スパークである。 もしかしたらプロの挿絵画家ではないかと想像したくなってくるほどの、完璧なテクニック。そして技術に裏打ちされた、昭和の時代感覚を前面に表出した画面構成。エロ・イラストと言うよりも「艶笑漫画」、あるいは「きいちのぬりえ」のオトナ版と呼んでみたい、そんな古風なテイストがどの作品にも色濃く漂っている。いったいこのひとは、何歳ぐらいなのだろうか。昭和の、それも高度成長期に青春を送ったベテランなのか、それとも丸尾末広のごとく、アナクロニズムのうちに前衛を見るアーティストなのか。

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妄想芸術劇場 #06 ハリマオ

今週、来週の2回にわたってご紹介するのは「ハリマオ」氏。ニャン2創刊時代から20年間以上、途切れることなく作品を送りつづけてくれる、彼もまた伝説の投稿イラスト職人である。そのキャリアの長さから言えば、以前に紹介したクッピイと肩を並べる歴史的な存在だ。 ハリマオ作品の基調をなしているのはむろん露出・SMなのだが、そのフラットな画面構成と色彩感覚のせいか、陰湿さがなく、むしろほがらかな明るさが感じられるところに最大の特徴がある。ソフト・オン・デマンドの一連の露出スポーツもののような、と形容するのが当たっているかはわからないが、テーマはハードでありながら、そこに悲惨さはまったくない。それどころか、どこかプレイをエンジョイしているような、積極的な気配すら感じられる。

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LIFE ―― ある家族(と犬)の情景

2022年6月1日号、8日号の2週にわたって紹介した「クイーン・オブ・バッドアート降臨!」。そこで取り上げた衝撃の鉛筆画家・新開のり子さんは、すでにロードサイダーズのみなさまにはおなじみだろう。向島の大道芸術館にも彼女の作品がすでに2点展示されている(秋から増える予定!)。去年の記事ではその年の5月の連休に世田谷美術館の区民ギャラリーで開かれた「女系家族 パート3」の会場で、新開のり子さんに会えたことを書いたが、あれから1年ちょっと経った今年8月初めに同じ世田谷美術館区民ギャラリーで「女系家族 パート4」が開かれた。

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遅咲きのトップランナー大暴走の宴

ロードサイダーズ・ウィークリーで2015年から「アウトサイダー・キュレーター日記」を連載してくれている櫛野展正くん。知り合ったころは広島県福山市の鞆の津ミュージアムで挑発的な展覧会を連発していて、そのあと市内に自身の「クシノテラス」を開設。以来、ロードサイダーズにはおなじみのアウトサイダー・キュレーターとして、現在は静岡市のアーツカウンシルしずおかのチーフプログラム・ディレクターとなって活動を続けている。 周囲の雑音を一切気に掛けることなく我が道を歩む高齢者たちの、独自の(おもに奇想天外な)創作活動を、櫛野くんは「超老芸術」と呼んで長年追いかけてきた。今回、その集大成というかオールスター・キャスト、総勢22名の作品1500点以上を集めた展覧会が、10月3日から8日まで静岡市のグランシップで開催される。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  06 不良グループ (画・文:新開のり子)

児童館にまだ通っていた小学校低学年の頃、児童館の中にある体育室で遊んでいた時のことです。 今まで、そういうタイプの人達を見た事がありません。 児童館の体育室は、安全なところでした。 そこで遊んでいると、「どけーどけー」 と急に遊び場に割り込み、耳を塞ぐくらいの大きな声を出した3人組が現れました。 テレビで見る極悪レスラーそのものです。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  08 ジェットコースター (画・文:新開のり子)

公園での出来事です。 小学校がお休みの日に公園に行きました。 待ちに待ったお休みです。 夕方、人が居ないことを見計らって公園に行きます。 すると、公園のどこからか声がします。 「おいでーおいでー」 声の方に近づくと、滑り台の上から呼んでいます。 周りを見渡し、他の誰でもない私のことを呼んでいました。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  11 ファミレス (画・文:新開のり子)

土日は、特に繁盛するファミリーレストランでのお仕事です。 家からは、遠く離れた場所です。 20代になり、特に人に会うのが恥ずかしいころでした。 空いた時間にアルバイトをする為に求人誌を見て探します。 ファミリーレストランのホールスタッフ・洗い場スタッフ募集を見つけました。 家からは、電車とバスを使い1時間くらいの場所を選びます。 面接に行き、洗い場希望と伝えると、ホールスタッフの方が人員不足なのでお願いしますと言われ、せっかく働かしてもらえるならと、決めることにしました。

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Freestyle China 即興中華  ロードサイドの夢話  台湾アーティスト・丁柏晏さんインタビュー (画:丁柏晏 / 文:吉井忍)

台湾で活躍中のアーティスト、丁柏晏(ディン・ボーイェン)さんの個展「沿路的夢話」が現在、東京都中野区にある本屋「タコシェ」で開催中だ。会期は今月15日まで。台湾では10年近いキャリアがある人気作家でありながら、日本での個展はこれが初めてという丁さん。都築編集長からご本人が来日されているとの情報といただき、急遽インタビューをお願いした。 今回の個展のタイトルは、今年発売されたばかりの丁さんの画集『沿路的夢話:丁柏晏畫集』(Mangasick刊)から。先日大盛況のうちに終了したPABF=プアマンズ・アートブックフェアでも紹介されており、かっちりしたタイトルの文字と、ページをめくった時に広がる不思議な雰囲気の絵のギャップがとても印象的だった。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  14 透明人間 (画・文:新開のり子)

初めての仕事場、元気に挨拶をして周ります。 声が小さかったせいか、聞こえないみたいです。 次にまた挨拶するとおもむろに無視をされます。 話しかけても、スルッとすり抜けて行ってしまいます。 少しだけ考えました。 きっと、笑顔が足りなく声も小さかったせいだと反省し、また次の機会には、もっと頑張ろう!そう思い、 元気に挨拶すると、 嫌な顔をして、あっけなく行ってしまいました。 意味がよくわかりませんでした。 席に座り、横を見ると私の横に無視をした先輩Zがいます。私が見つめているせいか、何か聞いても嫌な顔をして話をしてくれません。 まさか私は、透明人間にでもなってしまったのでしょうか。

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妄想芸術劇場 25  サトニン

今週の妄想芸術劇場に登場するのは「サトニン」。一見、いまどきのアニメ・タッチだが、サトニンの特筆すべき点はその「物語性」にある。画面の中に長文の書き込みや台詞がちりばめられたり、あるときは裏面に、さらに長い「解説」が付されている。もちろん、こうしたテキストはもともと掲載された『ニャン2倶楽部』ではまったく反映されなかったものなので、今回初めて世に出ることになる。

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妄想芸術劇場 26  肉奴隷大好き少年

今週お見せするのは、選び抜かれたニャン2のアンダーグラウンド・アーティストのうちでも、ビザール度と完成度において頂点に君臨するひとりと言える特選投稿者「肉奴隷大好き少年」。その絵自体も充分に変態なのだが、ほとんどすべての作品にトレーシングペーパーがかけられ、そこに手書きでみっちりとテキストが乗せられている状態は、投稿された雑誌『ニャン2』の掲載ページではまったく反映されることがなかったために、原画を手にして初めて知る驚きだった。今回はそうしたトレペかけの状態と、トレペを取った原画を並列してお見せする。できれば画面を拡大して、丹念に書き込まれた変態度満点のテキスト読み込んでほしい。

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すすきの 夜のトリエンナーレ

先週号の「さっぽろ雪まつり」でもちょっと触れたが、ただいま札幌市内の数カ所を会場に札幌国際芸術祭SIAF2024が開催中。その関連企画というか、「展覧会が終わったあとの夜はこちらで!」という「すすきの夜のトリエンナーレ」が来週火曜から日曜までの6日間だけ開催される。 会場となるのはすすきののど真ん中にあるオークラビル。いま空き店舗となっている7階フロアを使用して開催されるが、ここの6階には2013年に閉店するまで43年間にわたって、北海道最大のグランドキャバレーとして君臨してきた「札幌クラブハイツ」があった。広さ1,000㎡、客席400、ホステス約130名。新宿歌舞伎町のクラブハイツが閉店したあとは、1,000㎡を超える日本唯一のグランドキャバレーとして生き残ってきたのだったが・・・・・・。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく 24話 種まきの悲劇 (画・文:新開のり子)

仕事場のお昼ご飯が終わり、3時のおやつの時間です。 おやつには柑橘系の果物や南国のフルーツの差し入れがあります。 食べた後は種を捨てずに集めるのが楽しみの一つです。 私はティッシュを広げ種を集めます。 隣の席のDさんはおもむろに気持ち悪そうな顔をしています。 私は種を洗いに席を立ちます。 席に戻るとテッシュを広げ綺麗になった種を一粒ずつ並べて眺めます。

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大竹伸朗展 ニューニュー:カタログ発表記念、プレゼント企画!

2013年7月から11月まで、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催された『大竹伸朗展 ニューニュー』。そのカタログが、なんと展覧会から1年以上たった今月、ようやく完成! デザイン・制作はもちろん、新潟・浦佐をベースにユニークなマイクロ・パブリッシング活動を続けるエディション・ノルトによるものだ。エディション・ノルトに関しては本メルマガの2012年11月7日号で詳しく紹介したが、端正なデザインと手づくり感覚をミックスさせた、独自の美学が際立つエディトリアルデザイン・スタジオである。今回のカタログも、さすがにノルトらしく、いくつかのサイズの紙束を二つ折りにして重ねたような、軽い印象でありながら、中を開いていくたびに驚きがあらわれる、これまで見たことのないような構造になっている。

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我らいまだ非現実の王国に

いまからちょうど8年前になる。ヘンリー・ダーガーの部屋の写真を相次いで見る機会があって、どうしても本にしたくて、友人の小出由紀子さんとインペリアルプレスという、ふたりだけの極小出版社を設立、『HENRY DARGER’S ROOM ― 851 WEBSTER』という写真集を自費出版した。「851WEBSTER」というのは、ダーガーが住んでいたシカゴのアパートの住所だった。その後のインペリアルプレスは、お互い忙しさにかまけているうちに新刊を出すこともないまま、ついに昨年末で会社を清算、いまは手元に残った在庫を細々と売っている状態で・・・溜息。その『HENRY DARGER’S ROOM』に写真を提供していただいた北島敬三さんの写真展『ヘンリー・ダーガーの部屋』が先週末から、西新宿のエプサイト・ギャラリーで開催中だ(3月12日まで)。

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たまにはアートフェアも

いまさら説明するまでもないが、展覧会とアートフェアのちがいは、展覧会がアートを展示する場所であるのに対して、フェアはアートの「見本市」、つまりアートを売り買いする場所ということ。アートを鑑賞するのではなくて、売ったり買ったりできるひとが集まるのがアートフェアだ。その最大のものであるスイスのアート・バーゼルなどは、いまやマイアミや香港でもフェアを開催。世界中からお金持ちと、お金持ちを探すお金持ち画廊が集結する。日本でも「アートフェア東京」という美術見本市が2005年から開かれていて、今年が10回目。好き嫌いとかではないけれど、売り買いの場という性格から、これまで本メルマガでは取り上げないでいたが、今年はメルマガでも紹介したアーティストの作品がいくつか出品されるので、この機会にさらりと紹介させていただく。

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アウトサイダー・キュレーター日記 04 三浦和香子(写真・文:櫛野展正)

北陸新幹線の開通によって、すっかり身近になった北陸地方。富山県の高岡駅から氷見線に乗り換えると、迎え入れてくれたのが「忍者ハットリくん列車」だ。外装から車内の内装にいたるまで「忍者ハットリくん」のラッピングで包まれた列車に、堂々と大人が乗りこむのはどこか恥ずかしく、ハットリくんの「次は~でござる」という観光アナウンスにそっと耳を傾けながら、美しい海岸線に沿って走ること約30分。たどり着いたのが、終点の氷見駅だ。漁業の町として知られる人口5万人ほどの富山県氷見市は、藤子不二雄A先生の出身地ということもあり、代表作の一つ「忍者ハットリくん」の登場キャラクターが街の至るところに(なんとタクシーにも!)点在し、街全体がA先生のワンダーランドと化している。

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開催中&まもなく開催の展覧会、一挙紹介

9月になると展覧会が集中するのは、やっぱり「芸術の秋」だからなのか・・こっちは「食欲」だけど。本メルマガで紹介してきた作家たちを中心に、今週は3本の展覧会をまとめて紹介します!/村上仁一『雲隠れ温泉行』@ガーディアン・ガーデン/三条友美 処女個展 少女裁判@カフェ百日紅/横倉裕司展「輪郭を描く」@ヴァニラ画廊

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 03 石原峯明

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載、先週の江中裕子に続いて、今週は石原峯明の作品を見ていただく(先週までは「平川病院の」と連載タイトルをつけていたが、これから東京足立病院でおもに制作する作家も紹介していく予定なので、今週から変更させていただいた)。まず、予備知識なしにこの絵を見ていただきたい。鮮やかな色彩と、ピカソやホアン・ミロを思わせるような画想が、100号(162x130センチ)の大画面に踊っている。これが76年間の人生のうち、のべ40年近くを精神病院で暮らした男の、死の4年前、72歳で描いた作品だと、だれが想像できようか。

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アウトサイダー・キュレーター日記 07 西川正之(写真・文:櫛野展正)

三重県伊勢市にある近鉄宇治山田駅。真向かいにある明倫商店街のすぐそばには、読売ジャイアンツ草創期に活躍した投手・沢村栄治の生家跡地がある。そんな名投手を生み出したこの地で、本物そっくりな立体凧を制作し続けている西川正之さんを訪ねた。西川正之さんは昭和20年、三重県多気郡明和町に生まれた。あるとき、次男だった父親の「田舎におったんではいかん」という一言で、伊勢市常磐町の呉服屋へ家族で丁稚奉公に。そこの呉服屋を間借りして暮らしていたが、西川さんが小学校5年生のころ父親が独立。宇治山田駅前にある明倫商店街の中に店を構えた。いまはシャッター商店街だが、当時は夜9時半まで商売するほど賑やかだったそうだ。両親が共働きで、4つ下の妹は祖母の家で暮らしていたため、小学校から帰ると自分で鍵を開けて帰宅する日々だったという。そんな西川さんの趣味は、絵を描くことだった。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 07 島崎敏司

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は島崎敏司(しまざき・さとし)の作品を紹介する。島崎敏司は1957年、八王子生まれ。1988年に丘の上病院に入院したというから、31歳のときだったろうか。しかし4年にわたる入院期間のうちに、「絵を描こう」とは思いもしなかった。初めて画用紙に向かうことになったのは、退院後にデイケアに通うようになって2年近くたってからのこと。いったい彼の内面に、そのときどんな衝動が生まれたのだろう。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 10 石澤孝幸

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は石澤孝幸の作品を紹介する。今年6月に池袋の東京芸術劇場で開催された『第5回 心のアート展』を取材させてもらったのが、この連載のきっかけになったことは前に書いたが、そのときに石澤さんの作品も見て、そのあと八王子の平川病院を訪れてみると、〈造形教室〉の片隅に立てたイーゼルの前で、展覧会で見たのとそっくりな絵に向かっている石澤さんがいた。不思議に思ってスタッフの方に聞いてみると、それはそっくりな新作ではなくて、展覧会に出した作品に、さらに手を入れているのだという。

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アウトサイダー・キュレーター日記 09 黒川 巌(写真・文:櫛野展正)

全国各地のアウトサイダー・アーティストたちを取材していると、取材を拒否されるケースも少なくない。今回ご紹介する黒川巌(くろかわ・がん)さんもそのひとりだ。かつて、彼の自宅兼アトリエが「2ちゃんねる」で「お化け屋敷」などと酷評を受け、それがきっかけで、2012年に「日刊SPA!」の取材を一度受けてしまった結果、若者たちが毎夜家の周りを取り囲み、自宅周辺にタバコの吸殻を撒き散らしたり庭に卵を投げ込んだり、ひどいときは二階の窓ガラスを投石で割られたこともあったという。黒川さんは、その後一切の取材を拒否。今回、何度かの交渉により特別に取材させていただくことができた。おそらく彼にとって最後の取材となる。

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上野都美館でプロ・アマ美術散歩

なにか展覧会を見に行って、そのまま帰ればいいのに、ふらふら常設展示コーナーに足を踏み入れて、そこで思わぬ作品と出会うことがよくある。サイトウケイスケという若い画家に教えられて先週、東京都美術館に行った。彼が参加する『東北画は可能か?』というグループ展が、2週間だけ開かれているという。東京都美術館=都美館は企画展と同時に、いつも大小たくさんの公募展や貸しギャラリー展が開催されている、言ってみれば東京最大級の貸し画廊でもある。久しぶりに上野公園を横切って都美館に着いてみたら、平日の午前中なのにものすごい人混みで驚いたが、それは東北画じゃなくてモネ展を見に来たひとたちだった。ついこのあいだ、印象派と娼婦の関係に焦点を当てたオルセー美術館の展覧会を記事にしたばかりなので、ちょっと好奇心が湧く。入場を待つ列に並んでいる善男善女は、どんなモネを期待しているのだろう。モネ展の雑踏をぐっと回りこみ、地下3階まで降りたギャラリーBで『東北画は可能か?』は静かに開いていた。

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えびすリアリズムの奇跡

もっとも新春にふさわしくないというべきか、ふさわしいというべきか、判断に迷う展覧会が元旦(!)1月1日から渋谷パルコで開催される。『新春 えびすリアリズム 蛭子さんの展覧会』――そう、蛭子能収の絵画作品展だ。いまや「バスに乗って(大した感動もないまま)旅行するひと」「使い勝手のいい変人おやじ」というテレビ的イメージが完全に定着してしまった蛭子さんだが、つい先日のNHK Eテレ「ニッポン戦後サブカルチャー史II」でも力説したように、私見では1970~80年代ヘタウマ・カルチャーを体現する最重要アーティストのひとりである。当時、『地獄に堕ちた教師ども』(1981年)を代表とする初期の蛭子漫画に計り知れない影響を受けた若者が、(僕を含め)どれほどいたろうか。

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アウトサイダー・キュレーター日記 13 爆弾さん(写真・文:櫛野展正)

全国各地の表現者を求めて取材を続けていると、拒否されることだってある。今回取り上げるのは岡山に暮らす路上生活者だ。彼はこれまでメディアの取材は一切断ってきた。自分の人生が一変するような高額報酬でもない限り、決して首を縦には降らない。考えてみれば無理もない。取材によって名が知れ渡ることは、路上生活者にとって、ともすると嘲笑の対象となり、自分の身に危険が及ぶことも想定されるからだ。今回は何度かお会いすることにより、特別に取材を受けていただくことができた。林央子の著書をもとに開催された展覧会『拡張するファッション』を香川県の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で見た帰りに、岡山駅でデザイナーズ・ブランドの変形服を着用したような出で立ちの路上生活者に遭遇した。それは展覧会で見たどの衣服よりも刺激的な風貌だった。本名や生年月日は非公開。通り名で「爆弾さん」と呼ばれている。以前、体験ノンフィクション漫談芸人・コラアゲンはいごうまんの漫談で紹介されたこともあり、岡山ではちょっとした有名人だ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 16 藤沢正広(写真・文:櫛野展正)

「本人がちょっと難しい人でね。恥ずかしがり屋というか、取材とか嫌みたいで、約束してもすっぽかしちゃうの。自分の個展のときも、オープニングにも出ずに、すぐ帰っちゃうくらいだからね」。電話口の相手は、「ギャラリー・マルヒ」のオーナー・鴻池綱孝さんだ。ここは東京都文京区。職人の町として知られる根津の路地に「ギャラリー・マルヒ」はある。東京芸大近くで20年以上営業を続けるアンティークショップ「EXPO」のオーナーでもある鴻池さんが代表を務めるギャラリーだ。大正時代の質屋をリノベーションしたこの場所で、ことしの4月23日から15日間だけ開催されていた展覧会があった。藤沢正広さんによる初めての個展『野良サイダー』だ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 17 橋本晁光(写真・文:櫛野展正)

高知市からレンタカーで北上すること約1時間、たどり着いたのは、高知県長岡郡本山町。ここは、高知県のほぼ中央に位置し、中心部を吉野川が流れる水と緑に恵まれた人口4000人ほどの小さな町だ。国道439号線沿いにあるブルースマン・藤島晃一さんが経営する『CAFE MISSY SIPPY』でお腹を満たしたあと、さらなるワインディングロードを突き進み、今回僕がやってきたのは高角集落の入り口にある「極楽入口」という黄色の大きな看板が掲げられた場所。いかにも怪しげな匂いがプンプンするが、何かに導かれるように矢印に沿って山肌の長いカーブを曲がると、深い緑と美しい田園風景に囲まれた山間の小さな集落の中に手作りのテーマパークが現れる。まず、目に飛び込んでくるのが道沿いに立ち並ぶ大きな巨石の数々だ。入口の大きな石の看板には「田園自然石アート ストーンロード」の文字が。その下には作者の「モイア橋本」という名前が刻まれているが、「極楽入口」とあっただけに、それはどこかの神様の名前にも思えてくる。

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死刑囚の絵展@宮城・にしぴりかの美術館

すでに何度か本メルマガで取り上げた宮城県黒川郡大和町の『にしぴりかの美術館』で、11月21日から死刑囚の絵展が開催されている。死刑囚の絵画作品については、もう何度も紹介してきた。今年の春から夏にかけては広島県福山市のクシノテラスで、また来年夏には『神は局部に宿る』の渋谷アツコバルーでも大規模な展覧会が予定されていて、これまでの死刑廃止運動の一環としての展示とは、また別の角度から光を当てる企画が増えているのは、すごく有意義な流れだと思う。『命みつめて ~描かずにいられない』と題された本展には、これまでどおり「FORUM90/死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」によってコレクションされてきた、2005年から15年までの作品から80点を選んで展示されている。キュレーションを担当したのは、こちらも本メルマガで連続掲載した高尾・平川病院〈造形教室〉の運営にあたる宇野学さん。これまでの死刑囚の絵展が、参加したすべての作家によるコレクションの全容を見せようとしてきたのに対して、今回は数人の作家に特に力点を置いた展示になっていて、そのアプローチも興味深い。

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アウトサイダー・キュレーター日記 27 中條狭槌(写真・文:櫛野展正)

群馬県西部にある甘楽郡。近くには工場見学などが楽しめる無料のテーマパーク「こんにゃくパーク」があり、少し足を伸ばせば世界文化遺産に登録された富岡製糸場にも近い。そんな小さな田舎町に、ひときわ異彩を放つ不思議な場所がある。「アートランド竹林の風」「ナニコレ珍庭園」「ふれあいセンター銘酒館」「名勝楽賛園」などいくつものサイケデリックな手書き看板が掲げられ、周囲にはたくさんの廃品が並べられたその場所は、見所満載で眺めているだけでも時間を忘れてしまうほどだ。道路を挟んだ向かいの家には、「中條家」と大きな文字で書かれた同様の装飾が施されており、ここが作者の家であることは明らかだ。

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シリアルキラー、ふたたび!

昨年6月に銀座ヴァニラ画廊で開催された『シリアルキラー展』は予想以上の観客を集め、アメリカのシリアルキラーが日本でこんなに人気とは!と驚かされたが、同じヴァニラで今年も第2回目の『シリアルキラー展』が、それも今回は前後期にわけて2ヶ月におよぶ展覧会となって還ってきた。タイトルにあるように、今回展示される作品群も日本国内の収集家「HN」氏によるコレクションである。

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福田尚代『海のプロセス――言葉をめぐる地図』

本メルマガ2015年5月20日号『銀河の中に仮名の歓喜』で紹介した、現代美術作家であり驚異の回文作家でもある福田尚代さん。いま、上野の東京都美術館で開催中のグループ展『海のプロセス――言葉をめぐる地』に、4人のアーティストのひとりとして参加しています。『エンドロール』と名づけられたその作品。ずっと以前に都美術館で使われていたという木枠の古風なショーケースを覗き込んでみると、内部には幾層にも重なる、極小の点が打たれた紙が。福田さんによればそれらは、亡くなってしまった大切なひとたちの手紙やメール、日誌などに記された言葉を書き写していったものだそう。

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アウトサイダー・キュレーター日記 32 スギノイチヲ(写真・文:櫛野展正)

2017年4月の時点で、全世界の月間アクティブ利用者数が7億人を突破したInstagram。プロではない人たちもスマートフォンで自分の表現を容易に発表できる手軽さから、ますます人気を集めている。膨大な量の写真がタイムラインの海をスクロールしていく中で、「おじコス」とハッシュタグの付いた投稿に目が止まった。よく見ると、タモリや会田誠など自らの顔を著名人に扮して投稿した写真で、つげ義春や浦沢直樹など随分マニアックな人たちの顔真似もある。それからしばらくして、クシノテラスに「フォローしてくれてありがとうございます」とやって来てくれたのが、作者のスギノイチヲさんだった。商業デザイン会社で常務取締役を務めるスギノさんは、現在51歳。職場がクシノテラスの近所だったこともあって会話が弾み、後日福山市内の高台が一望できるご自宅でお話を伺うことができた。

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極限芸術~死刑囚は描く~@アツコバルー

先日はオリエント工業40周年記念展で話題を集めた渋谷アツコバルーが、ラブドールに続いて開催する展覧会が『極限芸術~死刑囚は描く~』。昨年、広島県福山市クシノテラスで開かれた展示の東京バージョンで、作品の選択はアツコバルーのスタッフによる独自のものになるそう。しかしラブドールから死刑囚の絵・・・「生と死」ならぬ「性と死」、振り切ってるなあ。死刑囚の絵について、このメルマガで最初に取り上げたのは2012年、広島のアピエルトという小さな劇場で開かれた展示の紹介だった。いま、日本には125人の死刑囚がいるのだが(2017年7月現在)、その中には数十年も獄中で「その日」が来るのを待っているひともいれば、死刑確定から数年のうちに執行されてしまうひともいる。

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アウトサイダー・キュレーター日記 36 夜見陣八(写真・文:櫛野展正)

クシノテラスで18禁の『性欲スクランブル』展を開催している時、広島が誇る変態の「アキちゃん」など、これまで出会うことのなかった分野の人たちとたくさん出会うことが出来た。中でも印象的だったのが、緊縛ショーを撮影するカメラマンの夜見陣八(よみ・じんぱち)さんだ。ギャラリーでの立ち話に花が咲き、後日彼が独居生活を送る広島県尾道市南部にある向島を訪れた。向島にある夜見さんの借家は、どこにでもあるような普通の民家だ。ところが、一歩中に入ると作業場になっている1階のキッチン周りにたくさんの鞭が並んでいたり、2階の寝室には夜見さんの趣味で溢れた書庫があったりと、その外観とのギャップに思わず息を飲んでしまう。特に綺麗に整理整頓された書棚は、今では手に入れることの出来ない貴重な本も多いそうだ。

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篠原愛・近藤智美 2人展

2017年1月18日号『「媚び」の構造』で特集したアーティスト・近藤智美(こんどう・さとみ)。羅漢の足下にマンバギャルが戯れる『萬婆羅漢図』の異様な図像と、自身が「もともとマンバで、引退後はキャバ嬢から軟禁経験などを経て独学で展覧会を開くようになった」という異色すぎる経歴に、衝撃を受けた読者も多いのでは。その近藤さんと一見作風もたたずまいも対極にある、なのに親友だという篠原愛(しのはら・あい)、ふたりの画家による初のコラボレーション展『よい子?わるい子?自己主張?』が間もなくオープンする。「今回はヒールを演じきります!」という興味深い文面とともに近藤さんからお知らせをいただいたので、さっそく告知させていただく。

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ステイ・ロウ、ステイ・ベーシック――オールドスクール・タトゥーの教え(写真:モーリシー・ゴムリッキ)

行きたい展覧会が多すぎる。これが国内なら思い立って新幹線に飛び乗ればいいけれど、海外だとさすがに、いきなりパスポート握って羽田に直行、カウンターで正規料金チケット購入というわけにはいかない・・・メルマガ購読者があと千人くらい増えればなあ(涙)。ポーランド・ワルシャワのザヘンタ国立美術館では今週末(10月28日)まで、モーリシー・ゴムリッキによる写真展『DZIARY』を開催中である。DZIARYとはポーランド語でタトゥー/入れ墨のこと。ずっと前にメキシコで知り合ったゴムリッキくんは、メキシコシティに住むアーティストで、ポップ・カルチャーやアイコンの収集を得意とし、それをまた自分の作品に活かしてもいる。本メルマガでは2012年11月21日号『テキーラ飲んでゾンビになろう!』で、メキシコシティのゾンビ・ウォークをレポートしてもらった。

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絵筆の先のロング・アンド・ワインディング・ロード(文:臼井悠)

酒場で呑み散らかしていると、たまに、このひとが呑んでいるとなぜかその店にひとが集まりそう、というタイプのひとがいる。けっして騒々しく盛り上げるのではなく、誰かにこびるのでもなく、でもなんでかそこにいると、ちょうどいい。岡田成生くんは、そんなひとだ。でも、彼自身はなんか淡々としてるし、彼の描くイラストレーションも、その印象とは裏腹に緻密でクールだとも思った。いったいこのひとは、どんなひとなんだろう。気になったので、新宿の鄙びた居酒屋で揚げ焼売をつまみながら話を聞いてきました。

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マイ・バッドアート展、一夜かぎりの開催!

11月21日号で大特集した『バッドアート美術館展』、展示場所となっている東京ドームシティ内Gallery AaMoは、現代美術の展覧会ではありえない、笑い声の絶えない空間になっているようです。今週土曜日(15日)には、お知らせしているとおりトークも開催。ずっと前に訪れた本家ボストンのバッドアート・ミュージアムのことなど、いろいろお話しするつもりですが、せっかくの機会なので! ひそかに(でもないが)収集を続けてきた、ささやかなマイ・バッドアートをトークの夜だけお見せすることになりました! 自分の写真展すらめったにないのに、こんなに妙なコレクションの展示なんてまずありえないので、これを逃すと次にお見せできる機会はないかも・・・。よろしければぜひ、見物に来てください! 日本のバッドアート、アメリカにもぜんぜん負けてないので!

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ズベ公・チンピラ・タトゥーと熟女@新宿ビームス!

入墨師、漫画・劇画家、小説家、映画演劇俳優、演歌歌手、紙芝居屋、テキヤ、右翼団体顧問・・・1960年代から2008年に亡くなるまで、凡天太郎はとんでもなく広範なフィールドで、しかしどこにもどっぷり属することなく、というよりどこでも異端児として、ひとりだけの暗黒宇宙を形成してきた。79歳で亡くなってからも忠実なファンたちによる発掘作業や再評価が進み、昨年夏には中野タコシェで「混血児リカ 原画展」が開かれたばかりだが、今月18日からは新宿ビームス4階トーキョーカルチャートで「昭和のアヴァンギャルド・凡天太郎『ズベ公・チンピラ・タトゥー』展」がスタートする。ズベ公ともチンピラともタトゥーとも、一見もっとも縁遠そうなビームスというオシャレ空間に開陳される戦後昭和の特濃アンダーワールド美学、いったいどんなスパイシーな異臭が立ちこめるだろうか。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第1回 携帯をいじる女子高生

「お前らと俺は感性が違うんだよ! 俺は情緒派なの!」高校生時代、日本史講師兼、鉄道研究部顧問のT先生が授業中に放った一言。「バカなお前らに説明してやろう、鉄ヲタたるもの車両を写真で撮ったり、音録音したり、車両のつなぎ目どーのとかそれだけじゃねえんだよ。俺はな、たとえば地方の無人駅みたいなところに行って、その日の天気から現地の電車を取り囲む風景もその土地の歴史もひっくるめて俯瞰して電車を楽しむんだよ。それを情緒って言うの!」

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藤倉麻子@PHENOMENON: RGB

2018年8月22日号「デジタルな虹の彼方に」で紹介した映像作家・藤倉麻子。彼女が参加するグループ展『PHENOMENON: RGB』が3月11日までラフォーレ原宿で開催中だ。ファッションやグラフィック・デザインなど、現代美術の枠組みの外側を活動場所にする表現者も含め、「RGB」をテーマに作品を展開する。藤倉さんは「旧作と新作をつないだ作品」だそう。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第7回 地獄はまだ続く・・・・・・28歳の夏休み日記

あー、もう無理。専門学校の夏休みの課題がまったく進みません(現在深夜2時過ぎ)。こんなに集中力が無いのは久しぶり、何か理由があるはずなんだけどまったく見当がつかんのです。おかしいなおかしいなと考えながら、今年の夏コミで手に入れたエロ同人誌をめくっております。あ、これか、原因はこれか、作業机の横に大量に積まれるエロ同人という戦利品か。28にもなってエロ同人誌を挟まないとレポートも書けない脳ミソになってしまいました。

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酔っ払いの蝶々と僕

2017年04月19/26日号「アリス・イン・フューチャーランド」で特集し、なにかとヤミカワイイ系こじらせ女子(誉めてる!)の動向を教えてくれている画家・サイトウケイスケの、4年ぶりになる個展が今週金曜日から6日間だけ歌舞伎町・新宿眼科画廊で開催される。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第11回 変態に死角無し

1月は呑気に過ごしてたもんだなあ、とつくづく思います。皆さんもご存知のとおり、例の新型のお陰でここ数週間いろんなことが変わっていき感染拡大を防ぐ為に時間差通勤、臨時休校、ライブなどのイベントが中止・・・・・・そんでもってマスクはなんとか理解できますがトイレットペーパー、ティッシュ、ナプキンの買い占めとかよくわからん方向に行ってしまう、賑わっていた場所からそっと人間がいなくなるこの感じ、3月11日を思い出しますね。外出はできるだけしないように、とか言われても生きるには金を稼がんといけないし。なんとか経済回していかないと、例の新型にやられる前にくたばってしまいますよ。春が近づきこれから賑わうテーマパークや観光地、アートフェアにライブイベント・・・・・・どこまで奪われてしまうのか。そこで喰っている方々は大打撃ですよね、死活問題。一日も早く事態が終息することを願います。私もなにかしらの形で貢献できればと思っているのですが。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第13回  夜の手紙は今もなお続く

「生きている内にこんな事が起こるなんてねえ」と横で90年以上生きている祖母が言っているのだからこりゃすごいことが起きてるんだ、と「首相が緊急事態宣言を発令」「私たちの暮らしはどう変わるのか」というテレビのテロップを空っぽの脳味噌でただ見つめていた日からもうすぐふた月が経ちます。皆さんはどうお過ごしでしょうか。日々情報が更新されていってなにがなんだかな毎日ですが、私はひたすら実家にて引きこもっています。両親は医療系の仕事なので基本夜までおらず、祖母とこの連載で毎度お馴染みの愛猫ペコちゃんと私で元気に生きています。

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工房集「問いかけるアート」展、開催!

先週の告知で短くお伝えしたように、埼玉県の障害者支援施設・工房集が主催する大規模なグループ展「問いかけるアート」が今月22日から27日まで、浦和の埼玉会館で開催される。もともとはこの3月末から開催される予定だったのが、コロナ禍で延期。関係者の努力によって、ようやく開催されることになった。障害者施設という、三密回避などのウィルス感染対策がとりわけ難しい環境を運営維持しながらの展覧会準備、さぞかし大変だったかと思う。 「問いかけるアート」は工房集が属するみぬま福祉会に入所・通所する78名以上の作家が参加。ひとつの福祉団体でこれだけのアーティストを抱えるのも珍しいだろうし、それがこんなふうに一同にまとまって展示されるのも、見る側にとって貴重な機会になるはずだ。

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吉岡里奈のマル秘・茶封筒!

作家と作品のギャップに驚くことは珍しくないけれど、それにしてもこれほど!とだれもが驚く筆頭格が吉岡里奈。ご存じ昭和のお色気宇宙を描いて、いま人気沸騰中のアーティストである。 その吉岡さんの、毎年恒例となった吉原カストリ書房での個展が10月31日からスタートする。前回は「民芸と風俗」という意表を突いたテーマだったが、今回はなんと「かつての繁華街や温泉場の路地裏でこっそり売買された怪しい茶封筒エロ写真」! 茶封筒エロ写真って・・・・・・僕ですらリアルタイムでは知らない、戦後場末風俗のあだ花なのに。もちろん、吉岡さんのお色気ムードには完璧にフィットしているけれど、それにしてもどうしてこんなに渋いテーマを選んだんだろう。さっそくお話を聞いてみた――。

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「ドラマチック!」吉岡里奈個展@VINYLE GALLERY

もはやメルマガではおなじみ、寝苦しい夜のお色気ムンムンといえばこのひとしか!という吉岡里奈さん。馬飼野元宏さんの新刊『にっぽんセクシー歌謡史』表紙画も評判ですが(近々メルマガで特集予定!)、来週からは東京駅構内のVINYLE GALLERYで個展が始まります。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第20回 ヘンリー・ダーガー・フィルター

今年も3月初旬に歯科衛生士国家試験がありました。 もうあれから1年経ったのか、としみじみしてしまいます。今年は簡単な年だったそう。そうか…なるほどね…そうなるよね…。去年の国家試験は人生の中でもトップクラスを争うレベルで最悪な日でして、削除問題が過去最高、(合格率が低く帳尻を合わすために)追加合格者も…という荒れた年の受験者でした。こういう運は強いんですよね、まったく嬉しくありません。 私達の代は数名が落ちてしまい(or卒業試験に受からず留年)、去年再び専門学校で受験対策をして今年再受験。数日後インスタにて合格(自己採点)・無事卒業の投稿を見て春が来たなあと思いつつ全力で「いいね」を押しまくるのでありました。

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不断ノ表現展@にしぴりかの美術館

先週号の告知でお伝えしたように、いま宮城県のにしぴりかの美術館で、「不断ノ表現」展が開催中だ。7月6日号で特集したばかりの「心のアート展」の、運営の中心となっている八王子・平川病院の〈造形教室〉で長く活動を続ける作家のなかから江中裕子、島崎敏司、長谷川亮介の3人をフィーチャーした展覧会である。仙台市中心部から1時間ほど、黒川郡大和町にあるにしぴりかの美術館は、これまで本メルマガで何度も紹介してきたが、平川病院の〈造形教室〉で活動するアーティストたちの展示を連続して開いていて、なんだかサテライト・ギャラリーのようでもある。ふだん、なかなかまとめて実作を見ることができないノン・プロフェッショナルのアーティストたちによる作品を、こうして展示し続けてくれるのはほんとうにありがたい。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第21回 明日から頑張る

4月3日(水) 本日は新1年生の入学式。 2年生へと進級する我々は本来ならば休みのはずだったのだが、なぜか「2年生代表」という枠に選抜され式に出席することになった。メンバーは私、K子などを含む4、5人。式中は特に出番はなくただ椅子に座り立ってお辞儀して拍手してを繰り返すのであった。 1年生入場時、事前に入場から着席まで通しで練習しているはずだが、一人の生徒がテンパり一部グダグダな入場になっていた。焦る教員たち、空洞な眼でその光景を見つめる我々、彼らに思う事はただ一つ「これから地獄ぞ」。

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BABU個展「TRASH IMPROV」@銀座蔦屋書店

最近は本屋だかアートギャラリーだかよくわからなくなってる観のある銀座蔦屋書店。もともと松坂屋デパートがあった銀座中央通り沿いにできたGINZA SIXはヨーロッパのハイブランドがずらりと並ぶ複合商業施設。能楽堂まで入っているし、6階の蔦屋書店もいまどきのポップなアーティストの作品や、高価な大型豪華作品集がずらずら。その一角にあるFOAM CONTEMPORARYで、ロードサイダーズではおなじみ小倉のスケーター&彫師&グラフィティライター&アーティストのBABUによる個展「TRASH IMPROV」が始まった。まさか銀座でBABUの展覧会が実現するとは!

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吉岡里奈『カストリ名所十景』@吉原カストリ書房

すでに熱心なファンはチェック済みだろう、いま吉原のカストリ書房で吉岡里奈の個展『カストリ名所十景』が開催中だ(7月16日まで)。そして今回の展覧会が、カストリ書房の現店舗での最後の展示となる。 カストリ書房はもともと店主の渡辺豪さんが(ロードサイダーズではフリート横田さんとの連載「赤線酒場x闇市酒場」でもおなじみ)、かつて国内全域に偏在した娼街(遊廓、赤線など)の歴史取材で得た成果を発表するべく設立された個人出版社。

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妄想芸術劇場 #04 TOSHI

「ぴんから体操」「クッピィ」に続いてお送りする投稿イラスト・シリーズは、「TOSHI」をお送りする。 やはり創刊当初の1990年代初期からの常連投稿者であるTOSHI。ぴんから体操やクッピィほど投稿量は多くないが、しかしコンスタントに質の高い作品を、現在にいたるまで送りつづけてくれている。 最初期の数年はフラットな漫画ふうのタッチだったが、90年代なかごろから急に、めきめきとTOSHIは絵画的な技術を上達させてきたようだ。さまざまな責めに耐え、苦痛に涙する巨乳少女たちのクリアーな表情と、ぼかされた背景。それはソフトフォーカスの美人画を見るようでもある。

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妄想芸術劇場 #08 るのわーる

投稿作品の数こそ他の常連投稿者のように多くはないのだが、その特異な画風でニャン2創刊当時から知られてきたのが「るのわーる」。1990年のニャン2倶楽部創刊年から投稿が掲載されているので、そのキャリアは20年以上に及んできた。 読んで字のごとく、という比喩がこれほどぴったり当てはまる投稿作家もいないだろう。るのわーる氏の描くのは、つねに豊満な女性である。その多くに登場するヒロインは「L(エルちゃん」、または年増の「ババLちゃん」である。

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妄想芸術劇場 #09 強金長交

ニャン2倶楽部最初期から、コンスタントに投稿を続けてきた常連のひとり「強金長交」。しかも彼の作品こそは、ふだんのニャン2の誌面を眺めているだけでは真価を推し量ることができない、秘密兵器的な存在として歴代担当編集者に知られてきた。 ほとんどが葉書サイズほどの、比較的小さなサイズに描きこまれた繊細な線画。淡い色彩とあいまって、それは画面だけ見ていてもおもしろいのだが、実は強金長交のほとんどの投稿の裏面には、小さな文字でびっしりと絵柄の解説が書き込まれている。ときにそのバランスは、「挿絵のついた短編エロ小説」と呼びたいほどになっていて、彼の投稿作品は絵と文章が一体となって、はじめてその真価を発揮できることを実感する。

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妄想芸術劇場 11 カツ丼小僧

ニャン2倶楽部の歴代常連投稿者のうちで、もっとも多作なアーティストのひとりだったのが「カツ丼小僧」である。 ニャン2のウェブマガジンVOBOでの連載を始めるにあたって、僕にはふたつの思いがあった。ひとつは、それまで月ごとにバラバラに見ているだけだった投稿作品を、アーティストごとにまとめて見直してみたかったこと。それからもうひとつ、このような作品を、それも数年から20年あまりにわたって、しかも返却されないまま投稿しつづけるとは、いったいどんなひとたちなのか、できるならば作者に会い、そのパーソナリティに触れてみたいという強烈な思いだった。 投稿作品のウェブ上での再掲載は、どの投稿作家もこころよく承諾してくれたが、インタビューのほうは予想外に難しかった。

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妄想芸術劇場 12 かずゆき

ニャン2創刊期の投稿イラスト・ぺージに頻繁に登場しながら、その後ぱったり投稿が途切れてしまった常連投稿作家が『かずゆき』。ニャン2創刊以前の1980年代後期に白夜書房から創刊された『Crash』にも、ずいぶん作品が送られていたようだが、いまはいったいどうしているのだろう。どこかほかに発表の舞台を見つけたのだろうか。それとも、イラスト投稿を卒業してしまったのだろうか。

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妄想芸術劇場 13 恥丘人

「恥丘人」と書いて、「ちきゅうじん」と読ませるのだろう。彼もまた、ニャン2読者にはおなじみの投稿アーティストのひとりである。 誌面では掲載される作品のサイズが小さいために、なかなかその”味”が伝わりにくいのだが、きちんと輪郭を描いて彩色され、時に文字をプリントアウトして貼ってあるその画面を、こうしてあらためてじっくり見てみると、その丹念な仕事ぶりがきわだってくる。 丹念に仕上げられた恥丘人の作品を貫くもの、それが極端にアナクロな画風であることにすぐさま気がつく。

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妄想芸術劇場 16 山本一夫

山本一夫はオムツ・マニアである。『おむつ倶楽部』のような専門誌ならともかく、『ニャン2』のようにノーマルな(?)エロ投稿誌では、稀少な投稿者だ。 山本一夫が一貫して描くのは、オムツを当てられた女性。それもバレリーナ、フィギュアスケーター、新体操選手、花嫁など、若く可憐な娘たちが、舞台で、スケートリンクで、結婚式場でと、ありえない空間でオムツ姿をさらし、おもらしを目撃されるというシチュエーションに、激しくこだわりつづけてきた。

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死刑囚表現展 2023

毎年定例のお知らせとなっている「死刑囚表現展」が今年も11月3日から5日までの3日間、東京・入船の松本治一郎記念館で開催される。 このメルマガで最初に死刑囚の絵画作品を紹介したのは、広島市カフェ・テアトロ・アピエルトで開催された小さな展示を取材した2012年10月17日配信号「死刑囚の絵展リポート」。それから何度も誌上で紹介する機会があり、2022年にはパリのアウトサイダー/ロウブロウ・アートに特化した美術館アル・サンピエールでの展示もお伝えできた。僕が出会ってからでも10年以上、いまだ美術メディアで正当な扱いを受けているとはまったく言いがたいが、手作り感あふれる展示会場は毎年たくさんのひとで賑わっている。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  09 可愛い制服 (画・文:新開のり子)

10代の頃、学校の休みに出来るアルバイトを探していたところ、制服がとても可愛いアイスクリーム屋さんの応募を見つけました。 早速、面接に行くことになりました。 知り合いに見られたら恥ずかしいので、家から遠くて不便なところを選びました。 面接へは、電車で45分、徒歩で30分です。ようやく辿り着きました。 店内は、パステルカラーの模様でピンクと白の可愛い制服を来た女性スタッフが見えます。可愛い制服、絶対に着たい!面接に受かりたい!と強く思いました。

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妄想芸術劇場 19  リッキー

ベテランのニャン2ファンにはおなじみの投稿者だったリッキー。彼の絵を見るたびに「このひと、いったいいくつなんだろう」と思わずにいられない。いま手元にあるもっとも古い作品の消印は昭和62年! ニャン2創刊前の『熱烈投稿』時代にさかのぼる。そうとう年季が入った投稿職人であることはまちがいないだろう。

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妄想芸術劇場 24  夢男

ニャン2倶楽部、ニャン2Z倶楽部のベテラン名物投稿者「夢男」。ニャン2が誕生する以前から、その前身である『クラッシュ』を主な投稿の場としてきた。ここに紹介するのはいずれもいまから30年以上前の投稿作品である。 日本のSM雑誌が全盛期を迎えたのは1970年代末期から80年代初期かと思うが、夢男の画風にはそんな時代を思わせる、なんとも言えない渋みが漂っている。SMだけど、いまのサーカスみたいにハードなSMじゃない。苦痛よりも羞恥を尊ぶ、古き良きSM道がそこにあると見えてしまうのは、読み過ぎだろうか。

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根本敬+濱口健 二人展「カラトリヲ」

昨年9月には「蛭子能収 最後の展覧会」(9/13)のディレクションでも話題になって、あいかわらず飛ばしている根本敬が、14歳下のアーティスト濱口健と組んだ、ビザールなコラボレーション展「カラトリヲ」が1月20日から東京・北区田端のWISH LESS gallery で開催される。 東京のアート好きには「え、田端?」と訝るひともいるかと思うが、田端は戦前に「池袋モンパルナス」に対抗する「田端モンマルトル」と称された時代があり、明治の終わりに陶芸家・板谷波山がこの地に窯を作ったり、小杉放庵(画家)が移り住んだのをきっかけに、多くの芸術家が集まるようになった。

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暗黒絵日記 のり子の夢は夜ひらく  20話 追いかけてくる! (画・文:新開のり子)

広告で求人募集がありました。 応募要項に正社員・未経験者・やる気があれば誰でもOK!・昇給有り・賞与有りなど…… 早速、応募の電話をしました。 数日後、履歴書を持って面接場所に行くことになりました。 電車にゆらゆら揺られながら面接場所に向かいます。 頭の中では面接風景を想像しながら電車、バスと乗り継ぎ、ようやく到着します。 そこはマンションでした。

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妄想芸術劇場 28 最終回  散歩人

多くの読者の当惑と、ごく一部の熱烈支持のもと去年6月から続けてきた「妄想芸術劇場」、最終回を飾るのが「散歩人」。長いニャン2の歴史で、創刊当時からの最長不倒投稿者のひとりであるのに加え、もっとも多作のひとりでもあった。 ご覧いただければ一目瞭然、散歩人の筆力にはシロウト離れしたレベルが見てとれるので、もしかしたらイラストを仕事にするひとなのかもしれない。そしてもうひとつ驚くのが、20年余の長い投稿の歴史で、まったく作品のクオリティに変化がないという、恐るべき安定感だ。それでいて、その時々の時事ネタが盛り込まれてみたり、意図を超えて?シュールな味が滲み出たり・・・・・・。

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DOMMIUNEスナック芸術丸「セルフィー・レボリューション」、読者限定再配信!

DOMMUNEの開局以来、もう6年半にわたって続けさせてもらってるご長寿番組『スナック芸術丸』。5月12日に生配信したばかりの「第三十七夜~セルフィー・レボリューション」を、ロードサイダーズ・ウィークリー購読者限定で、早くも再配信してもらえることになりました。宇川くん、ありがとう!当夜ご覧いただいたみなさまはすでにご存じでしょうが、このところメルマガで集中的に紹介してきた、自撮りアマチュア・フォトグラファーの奥深き世界を、一挙紹介した異例のプログラム。2月10日号のホタテビキニの主・田岡まきえ(現在はマキエマキと改名・・・ホタテビキニ持参!)、4月13日号の露光零の二大巨頭がそろい踏み。さらに87歳の西本喜美子さんを紹介してくれた、福山市クシノテラスの櫛野展正さんも新発見の自撮り作品を携えて遠路参加という豪華版...

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アンドロイドとスケーター

今月から来月にかけてロードサイダーズにはおなじみの顔ぶれによる展覧会が続けて開催されるので、ここでまとめて紹介させていただく。先週土曜日(5月20日)から渋谷アツコバルーで始まったのが、『オリエント工業40周年記念展「今と昔の愛人形」』。僕は初日が開館してすぐの時間に寄ったのだけど、すでに大盛況。初日でこれだから、会期末が近づいてきたらいったいどれだけ混雑するのか・・・くれぐれも早めのご来場をオススメします。去年の『神は局部に宿る』展でもおなじみの会場には、1982年製の「面影」から2010年代のシリコン製新作までの新旧ラブドールが勢揃いして壮観。知っているひとがみればそれは「ラブドール」だけど、知らないひとにとっては異様な趣の現代彫刻展覧会に見えるかもしれない。

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『BABU展覧会 愛』、無事開幕!

先週告知した新宿ビームスギャラリーでの『BABU展覧会 愛』、先週金曜日に無事開幕、日曜日には僕とのトークもあり、おかげさまで満員の盛況でした。本メルマガ読者ならとうにおなじみでしょうが、BABUは北九州小倉をベースに活動するストリートアーティスト/スケーター/彫り師。東京ではスケーター仲間など、一部のひとにしか知られていないのではと思いましたが、展覧会場は終始たくさんのお客さんで賑わい、うれしい驚きでした。BEAMSという東京有数のお洒落スポットに、こんなキナ臭い空間ができてしまったというのが、なんたって最高ですよね。

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創作仮面館クラウドファンディング始動!

もう長期連載になった『アウトサイダー・キュレーター日記』の第1回、2015年6月3日だからちょうど3年前に紹介した、那須塩原の創作仮面館がいま危機を迎えているという連絡を、櫛野展正くんからもらった。「ストレンジナイト」を名乗り、他人に素顔を見せることなくマスクマンとして生きてきた館主がつくりあげた創作仮面館は「年中休業中」。櫛野くんによって紹介されるまで、その活動はほとんど謎に包まれたままだったが、最近では展覧会にも参加するようになり、今年11月にはスイス・ローザンヌのアール・ブリュット・コレクションで開催される『JAPAN: ANOTHER LOOK』展への出展も決まったが、その矢先での病気発覚。

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アウトサイダー・キュレーター日記 vol.39 泥沼毒生(写真・文:櫛野展正)

激しい水しぶきをあげるモーターボートに乗った男性が、モンキーターンのときにSM調教をする様子を描いたデジタルアート。その背後には、体に大きく「原発反対」と落書きされた女性たちが水車責めを受け、苦悩の表情を浮かべている。別の作品に目をやっても、おそらく作者であろうと思しき色黒で坊主頭の男性が加虐を行なっている場面が描かれている。作者の激しい性的な欲望が前面に押し出されたその構図とポップでフラットなデジタルアートとの落差に、僕の脳内はまるで平衡感覚を失ったようにクラクラした。こんな風に絵を見て酔ってしまったような経験は初めてのことだ。作者の泥沼毒生(どろぬま・どくお)さんは、1974年に奈良県で2人きょうだいの長男として生まれた。これまで本格的に絵を学んだ経験はなく、むしろ絵を描くことを避けて生きてきたようだ。

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江中裕子・長谷川亮介2人展@にしぴりかの美術館

仙台から東北自動車道経由で1時間ほど、黒川郡大和町の「にしぴりかの美術館」で、いま江中裕子・長谷川亮介による2人展が開催中である。障害者支援のグループホーム内に設けられたプライベート・ミュージアムでありながら、宮城県で唯一のアウトサイダー・アート/アールブリュット展示空間として、本メルマガではすでに何度か展覧会を紹介している「にしぴりか」。今回は2015年に『詩にいたる病――安彦講平と平川病院の作家たち』と題した連続記事のなかで紹介した、江中裕子(えなか・ゆうこ)と長谷川亮介(はせがわ・りょうすけ)というふたりのエネルギッシュな作家による、注目の展覧会だ。

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DOMMUNEスナック芸術丸「アウトサイド・ジャパン」購読者限定アーカイブ公開!

10月16日にDOMMUNEスタジオから生配信したばかりの「スナック芸術丸/第五十一夜 アウトサイド・ジャパン」が、メルマガ購読者限定でアーカイブ公開になりました。以下からご視聴いただけます。メインゲストに本メルマガの連載でもおなじみ、アウトサイダー・キュレーター櫛野展正を迎え、新著『アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート』刊行を記念した特別番組。総勢135名の「アウトサイダー・アーティスト大辞典」ともいえるコレクションのなかから、スペシャルゲストとして遠藤文裕、けうけげんの両名をスタジオに向かえてのパフォーマンスも完全収録! かなりの神回になったプログラムです。

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柿本英雄展@東京銀座!

今年の最初を飾る1月2日号「座禅と写経とフレディ・マーキュリーから生まれた絵」で特集、東京ドームシティでの「バッドアート展」都築響一コレクション・コーナーでも観客を震撼させた、名古屋のバッドアート・キング柿本英雄さん。なんと昨日(3月26日)から銀座・長谷川画廊にて初の東京展を開催中です! 会期、わずか6日間。これは万難を排して観に行っていただかないと!

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「障害者らしいアート」ってなんだろう――埼玉県障害者アート企画展 Coming Art 2022

本メルマガではもうおなじみ、埼玉県川口市の障害者支援施設・工房集が参加する「第13回埼玉県障害者アート企画展 Coming Art 2022」が12月7日(本日!)から11日までの5日間、埼玉県立近代美術館で開催される。2019年の12月に開催された「第10回埼玉県障害者アート企画展 knock art 10 ―芸術は無差別級―」を2020年1月1日号で紹介しているが、今年も「埼玉県障害者アートネットワークTAMAP±〇(タマップ・プラマイゼロ)に参画する県内各地の30以上の福祉施設から、111名の作家による600点を超える作品が集められた。

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暇と創造の宮殿、UPPALACE

大阪市の最南東に位置する平野区。静かな住宅地の奥にあるアトリエひこは、知的障害を持つメンバーたちが集う自主運営アトリエ。ロードサイダーズではおなじみのアーティスト、松本国三が長く通い、制作を続けてきた場所でもあり、僕も何度も遊びに行かせてもらってきた。 アトリエひこは平野の長屋を拠点に1994年から、もう29年間も続いてきたが、突然立ち退きの危機が訪れる。アトリエを運営する石崎史子さんに経緯を伺うと――「2020年に代替りした大家さんから、アトリエひこ含め四軒長屋すべての立ち退きもしくは買取りの話がきました。障害福祉サービスの事業所ではなく、自主運営の零細アトリエなので、資金もマンパワーもなく、ひこくん(大江正彦)にとっては家の前のあの場所でないと通えないという、背に腹はかえられない事情もありました。そこで、ひこくんの弟さんの英明さんが「ぼくがなんとかする」と、四軒とも買ってくれたのでした。とりあえず立ち退き危機は免れましたが、この先のことはなにも決まっていません。

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妄想芸術劇場 #03 クッピイ

1990年の『ニャン2倶楽部』、そして93年の『ニャン2倶楽部Z』創刊当初から設けられてきた投稿イラスト・ページ。先週まで前後編で紹介した「ぴんから体操」をはじめとして、これまで数々の名物投稿者を生み出してきた。そのなかでも「クッピイ」氏は1990年のニャン2創刊時から投稿を開始し、現在は追い切れていないけれど2010年代前半までは確実に継続していた常連投稿者である。20年以上にわたって、ほとんど途切れることなく毎月複数枚の作品を送りつづけてきたという、その驚異的な継続性と投稿量。「伝説」と呼ぶに、これほどふさわしい投稿アーティストがいるだろうか。

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妄想芸術劇場 #10 アポロ

アポロがニャン2倶楽部の誌面に初登場するのは1993年。掲載された作品は単色のラフなスケッチだったが、それから数年のうちにめきめきと腕を上げ、通算20年間以上投稿を続けてきた大ベテラン投稿者である。 アポロの作品の楽しさは、ひとコマ漫画ふうのテイストにある。一枚の中にツッコミからオチまでが組み込まれたその作風は、夕刊紙か実話雑誌のページが似合いそうな独特の雰囲気だ。そして題材がほとんどテレビ番組やタレントであることから、かなりのテレビっ子であることが察せられるし、それはまた彼のライフスタイルを暗示するものでもあろう(投稿の裏に「実は、障害者でもあって…」とある)。

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妄想芸術劇場 14 伊藤魔耶

悪魔がいる、貴婦人がいる、両性具有がいる・・・・・・伊藤魔耶の描く世界は、ほとんど文学的と言えるほどに、ストーリー性に満ちている。画面の中で生け贄になるのはむろん女性(あるいは巨大な男根を持った両性具有)だが、それは彼女たちが一方的に肉欲の犠牲となり、男たち(あるいは悪魔たち)に蹂躙されているわけではない。むしろ、彼ら、彼女らはそれぞれの役割を守りながら、無言の、エロスに満ちた演劇の舞台を演じているように見える。1960年代末の日本映画界に、毒々しい花を咲かせた石井輝男の、一連の異常性愛路線映画のように。

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DOMMUNE スナック芸術丸・大竹伸朗回アーカイブ!

先日、富山県美術館で巡回を終えた大竹伸朗展。スナック芸術丸では出発点となった東京国立近代美術館での展示にあわせて、2022年11月12日に「大竹伸朗展・特番」をお送りしましたが、その録画アーカイブをロードサイダーズ・ウィークリー読者限定でいただいたので、さっそくお届けします。宇川くん、ありがとう! 後半の「DJ景」を含め、全5時間半以上を一気に公開! まあとにかく大竹くんのDJプレイを動画で観られるのもたぶんここだけだと思うので! たっぷりお楽しみください。 そしてDOMMUNEを率いる宇川くんはいま「D.O. & 練マザファッカーのお膝元」(本人談)練馬区立美術館で展覧会「宇川直宏展|FINAL MEDIA THERAPIST @DOMMUNE」を開催中。もうとっくに行ったし!というかたもいらっしゃるでしょう。

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妄想芸術劇場 17  ぷりりん

投稿の数こそ多くないが、「ぷりりん」の画面には不思議な魅力がある。漫画的でフラットな画面。ところが、スキャンされた画像では判別できないが、原画をよく見ると、そこに微妙な凹凸があることに気がつく。実は塗り込められた背景の上に、丹念に切り抜かれた主人公=全裸女性を貼り重ねて、ぷりりんの絵はつくられているのだ。

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妄想芸術劇場 21 西田ひろし

2000年代に入ってからの新世代投稿者のひとり、西田ひろし。投稿作品の数こそ少ないが、非常に特徴的な画風で気になっていたアーティストのひとりだった。画のテーマというか、設定のシュールさ、ギャグっぽさも入れ込まれ、しかもタッチがときとしてかなり絵画的。そのアンバランスさが奇妙な魅力を醸し出している。 しかもこの西田ひろしは多くの場合、官製葉書の裏にこんな画を直接描いて、編集部にそのまま送ってくるのだから気合いが入っているというか、男らしいというか・・・・・・。

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妄想芸術劇場 23 蘭裸乱

ニャン2のベテラン投稿イラスト職人である「蘭裸乱」。「蘭裸♡乱」と書かれることもあるが、いずれにしても「らんららん」と読ませるのだろう。 蘭裸乱のおもしろさは、オヤジ・ギャグ的な艶笑ストーリーと、色鉛筆で塗りつぶされた素朴な画風、そしてときにかなり長いテキストの楽しいマッチングにある。ふだんのニャン2本誌投稿コーナーでは、掲載されることのなかったテキストとあわせて、今回は蘭裸乱のおもしろエロ・ワールドをお楽しみいただきたい。

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妄想芸術劇場 27  KUROノリオ

本連載「妄想芸術劇場」も、いよいよ大団円に近づいてきた。今週お送りするのは「散歩人」「カツ丼小僧」「ぴんから体操」などと並んで、ニャン2最初期からの超ベテラン投稿者である「KUROノリオ」である。 イラストレーターというよりは、本職のアニメーターのように、しばしば透明なセルに描かれた作品群。すばらしく明るく、クリアーな色彩で、よく見ればものすごく猟奇的なモチーフが描かれている、その奇妙すぎるアンバランス。

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私たちは消された展2024

2019年の第1回から毎年開催を続けている「私たちは消された展」。6回目となる今年も2月12日から1週間の日程で開催されます! SNSで消されてきた表現者の作品展示。そして来場者は展示された作品を撮影することが許され、しかし「かならず“#私たちは消された”を付けSNSへ投稿することで、来場者の投稿も削除、警告を受けてしまう」という……期せずして削除、警告体験まで味わえる粋な展覧会。今年も「これはまあ消されてもしかたないかも……」と納得のツワモノ・アーティストたちが集まってます。

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妄想芸術劇場 15 セーラーマン

1990年から92年あたりのニャン2初期に、独特なタッチの投稿を繰りかえしていたイラスト職人のひとりが「セーラーマン」である。 一見しておわかりのようにセーラーマンの画風には当時、そして現在でも主流を占める漫画ふうのタッチとは正反対の、正統的なデッサンを思わせる描線や、「挿画」と呼びたい古風な雅味が認められる。フラットな画面、どろどろな陵辱シーンとは無縁のユーモアあふれたモチーフ。そして特に単純な背景の前でポーズを取る全裸女性たちに見られる、ただただ描くことの純粋な悦び。

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妄想芸術劇場 18  五月セブン

今週ご紹介するのは「五月セブン」・・よく見ると不思議な名前だ。1997年に初登場した五月セブンは、長くコンスタントな投稿を続けたベテランである。その画風は一見、淡いタッチでありながら、内容のほうはなかなかハード。しかもしばしば画中に書き入れられる文章が、またユーモラス。見れば見るほど年齢不詳な感覚に惑わされるようだ。

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妄想芸術劇場 20  ショーボート

この連載で取り上げたイラスト職人はベテラン勢が多かったが、今週紹介する「ショーボート」は、2000年代になってからニャン2に投稿を開始した新世代である。 作品はすべて葉書サイズ。それも、人物を別の紙に描いたものを切り抜いて葉書サイズの背景に貼りつけ、さらに全体をパウチッコするという念の入りよう。人物が浮き上がり、ピカピカのレリーフのようになって送られてくる作品は、そのたたずまいからしてポップだ。

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妄想芸術劇場 22 ぼん正月

手元にはたった8枚の作品しかない。でも、その作風が非常に気になる投稿作家、それが「ぼん正月」である(ボン・ショーゲツと読ませるらしい)。 漫画的でありながら、躍動感あふれるその画面。ユーモアに満ちたモチーフ。ぼん正月の魅力はいろいろ挙げられるけれど、個人的にいちばんユニークだと思うのは、その画角だ。投稿イラストでは、カメラで言えば標準から望遠レンズで場面を覗く距離感がほとんどなのだが、ぼん正月の画は超広角レンズで被写体に迫っている感じがすごく強い。どこから出てくるのだろう、その特異な画面構成の感覚は。

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さっぽろ雪まつり2024!

この記事を書いている2月5日、月曜夜は関東地方をはじめとする各地に大雪警報発令。場所によってはかなりの混乱が起きているようですが、ここ北海道札幌市では……ただいま恒例の「雪まつり」が始まったばかり! しかも第74回となる今年はコロナ禍を挟んで4年ぶりの全面開催! 雪が迷惑なところもあれば、雪がおまつりになっちゃう場所もあるんですねえ。

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波磨茜也香のおんなのこ散歩 第22回 「人生は理不尽のかたまり」

皆さんお久しぶりです。 元気しているでしょうか、毎度この始まり方で大変恐縮です。 波磨はなんとか生きております。前回からかなりの月日が経ちまして年を越えてしまいました。今年も宜しくお願いします。 亀更新のこの連載ですが、今回はより期間があいてしまい申し訳ありません。歯科衛生士学校話もようやくあと1年とちょいくらいになりました。こっから実習編~国試対策編と怒涛の展開になりようやく終わります。しかしそこに辿り着くまでまた長いことかかりそうですが…どうかお付き合い下さい。

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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