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AFTER HOURS
編集後記

2016年04月27日 Vol.209

今週も最後までお付き合い、ありがとうございました! 気に入ってもらえた記事、ありましたか。

先週は京都国立近代美術館、奈良県立図書情報館と2日連続のトークがありました。ご参加いただいたみなさま、どうもありがとう! 特に奈良のほうは大阪スタンダードブックストアの中川和彦さんと一緒だったのですが、トータル4時間のセッション! 最後までつきあってくれるのは何人いるか・・・と心配したのですが、予想以上にたくさんの方が残ってくれて、感謝感激でした。

先週末にはプリンス死去という悲しいニュースもありました。個人的にはデヴィッド・ボウイよりもずっとショック・・・享年57歳というのは若すぎでしょう、いくらなんでも。

プリンスが音楽にもたらした革新については、ここで述べるまでもないですが、彼はまた巨大レコード会社に反旗を翻したパイオニアでもあったし、音楽ビジネスをCD販売からライブ中心へと移行させていった、先駆者でもありました。

プリンスが生まれ、最後まで本拠地としていたのがミネソタ州ミネアポリス。隣接する州都セントポールとあわせて、「ツインシティーズ」と呼ばれています。ちなみにミネソタ州は「アメリカの冷蔵庫」(The American Refrigerator)なんて別名があるくらい、冬の寒さが厳しいことで有名ですが(ちなみに「アメリカの冷凍庫」と呼ばれてるのはアラスカ州)、スコット・フィッツジェラルドも、スヌーピーの生みの親チャールズ・シュルツも、ボブ・ディランもミネソタ州出身。スコッチテープやポストイットやスノーモービルやローラーブレードが発明されたのもミネソタ(あとショッピングバッグも)。本物のプロレスラーであるジェシー・ヴェンチュラが州知事になったことがあるのもミネソタ。なかなかユニークな土地柄であります。

のちに『ROADSIDE USA』にまとまるアメリカ合衆国裏街道巡りをしていたころ、ミネソタを走り回ったのは2004年でした。いつものように田舎の町を巡ったあと、ミネアポリス/セントポールに辿り着き、てきとうに探してチェックインしたのが、セントポール地区のスタジアム(エクセル・エナジー・センター)そばのビジネスホテル。レンタカーを駐車場に入れて、荷物を部屋に放り込んで、ふと窓からスタジアムを眺めてみると、「プリンス・トゥナイト」と電光掲示板にあるではありませんか!

その年、プリンスは28枚目(!)となる『Musicology』をリリースし、全米ツアーを敢行。ホームタウンであるツインシティーズでは3日間のスタジアム・コンサートが開かれ、その一日に幸運にも当たったのでした。

むろんソールドアウトだったけれど、会場付近をうろつくダフ屋から運良くチケットを入手。ステージからめちゃくちゃ遠い席でしたが、それでも音響は悪くなかったし、なんといってもホームタウンならではの熱気。たしか3時間強に及んだパフォーマンスは、圧巻としかいいようのない体験でした。プリンスにからむ女性サックスがめちゃかっこいいので、よく見たらキャンディ・ダルファーだったのにもびっくり。


プリンスはコンサートのあとの「アフターパーティ」と称する長時間のセッションでも有名で、なにせホームタウンだけに「このあとペイズリーパークでアフターパーティやります!」というアナウンスが会場に流れたのですが、道順がよく聞き取れなかったのと、何時に帰れるかわからなかったので参加断念。ツアーTシャツだけを買ってホテルに帰ったのでしたが・・・あのとき、無理してでも行っておけばよかった! 考えてみれば、これが僕のアメリカ巡業時代の「捨てられないTシャツ」かも。

ご承知のようにプリンスはニューヨークでもハリウッドでもなく、最後までホームタウンのミネアポリスを本拠地に活動してきました。日本だって、売れっ子アーティストがみんな東京出身ではないけれど、とりあえず「売れたら東京生活」が当たり前。プリンスのように超スーパースターが、自分のホームタウンにこだわりつづける、そのローカル・プライドのような精神を、僕は8年あまりのアメリカ田舎巡りで教わった気がします。

CNNの報道を見ていたら、プリンスは「エホバの証人」の熱心な信者だったそうで、地元の小さな教会に通い、「ブラザー・ネルソン」として布教活動にも従事していたとか。勧誘に家々を訪ね歩き、「あんた、プリンスに似てるわねえ」とか言われてたらしい。輸血を禁じるなど、いろいろな制約で知られるエホバの証人ですが、なにが直接の死因だったのかはいまのところ不明。わかってもしょうがないことだし。それよりも自分が信じた教えのままに、神のみもとで安らかに眠ってくれることを祈るのみです。

ちなみに前述のボブ・ディランの生誕地は、ミネソタ州北部の田舎町。そしてミネアポリスそばの観光地として知られるミネトンカ湖には、ローリングストーンズにまつわる裏話もあります。せっかくの機会なので、ふたつまとめて紹介しておきますね!

[ボブ・ディランが誕生した店]


ディランが幼稚園から高校生までを過ごしたヒビングの家(2425 Seventh Avenue East, Hibbing)

ミネソタ州北東部の田舎町ヒビングで、ロバート・ジンマーマンはロシア系ユダヤ人の息子として育った(生まれたのはドゥルース)。「荒れ果て、すでに死んでいる」("North Country Blues")町に愛想を尽かし、1959年に高校を卒業するやいなやロバートは州都ミネアポリスのミネソタ大学に進学して故郷を捨てた。

ディンキータウンと呼ばれるミネアポリス市東側に位置するエリアで、ロバートは学生生活を始める。まもなく地元のフォーク・クラブに出入りするようになり、14丁目にあった「テンノクロック・スカラー」という店で、初めてのライブを経験。敬愛する詩人ディラン・トーマスにならい、ロバートはステージ・ネームをボブ・ディロン(Bob Dillon)としたが、ディラン・トーマスは「Dylan」と綴ると指摘され、Bob Dylanに改名したという。ボブ・ディランが誕生した瞬間だった。

ロバートはしかしミネソタ大学の校風にも授業にもなじめず、2年生になると大学をドロップアウト。死の床にあったウディ・ガスリーに会いにニュージャージーに旅だち、そこからグリニッジ・ヴィレッジのフォーク・シーンに入り込む。テンノクロック・スカラーはすでになく、バーガーキングとなり、さらに現在ではレンタルビデオ店になっている。

"Ten O'Clock Scholar" 416 14th Avenue SE, Minneapolis

[ユーキャント・オーリーズ・ゲット・ホヮット・ユー・ウォント]

1964年、ローリング・ストーンズは初のアメリカ・ツアーを行った(もう半世紀前!)。ミネソタではエクセルシオールという、ミネアポリス/セントポールから西に1時間ほどのミネトンカ湖畔にあった町のダンスランドという会場で演奏したが、あまり受けはよくなく、ブーイングもあったという。

エクセルシオールで1泊した翌朝、ミック・ジャガーは買い物に出て、小さな商店街の角にあった「ベイコン・ドラッグストア」という店に入った。チェリー・コークを注文し、探しているものが見つからず店内をうろうろしていると、ミスター・ジミーという地元の名物男が、いっしょに探すのを手伝いはじめた。

ジミーは定職を持つわけでもなく、毎日町を歩きまわっては、人々と話し込んだり、その辺が傷んでないかチェックしたりと、いわばエクセルシオールの名誉町民というべき存在だった。ミックとミスター・ジミーはしばらく店内を回ったが、捜し物が見つからず、そのときジミーがミックに言ったのが、"I guess you can't always get what you want, but if you try, sometimes you can get what you need" (欲しいのが見つからないことだってあるさ。でもやってれば、これでいいってのが見つかることだってあるよ)。

そのときの思い出からあの名曲を書いたミックは、店名のベイコンをチェルシーに変えたが、ジミーの名前はそのまま詞の中に登場する。ベイコン・ドラッグストアはすでに廃業、現在では中華料理屋になっているし、ダンスランドのあったミネトンカ湖畔の遊園地は丸ごと姿を消し、高そうなヨットやクルーザーが停泊する桟橋になってしまった。しかしミスター・ジミーは健在で、いまも町を歩きまわっているという。
(2004年)

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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