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AFTER HOURS
編集後記

2023年10月04日 Vol.567

今週も最後までお付き合いありがとうございました。気に入ってもらえた記事、あったでしょうか。今週は連載34回目になる「ROADSIDE CHINA 中国珍奇遊園地紀行」で天津市後編をお届けしましたが、そのなかで関上さんが「煎餅菓子」について触れてました。「煎餅果子とはクレープのような作り方のベラボーに旨いファーストフードです!」と力強く語られてましたが、僕が去年から住んでいる大久保の、家から徒歩2分の大通り沿いにも「煎餅菓子研究室 みみ」という専門店があり、いつも賑わってます。中国では朝ご飯にもよく食べるということで朝8時半オープン、しかも夜遅くまで営業。そのそばには台湾おにぎりの店「東京巷口飯糰店」もあるし。大久保というと韓国、というイメージかもしれませんが、中国、ベトナム、ネパール・・・・・・すごく多様なアジア食文化が集まってます。本国に行くよりぜんぜん近いし!ぜひ遊びに来てください。

ロードサイダーズ・ウィークリーでは2017年に画家・近藤智美さんを紹介しました(「媚び」の構造)。近藤さんは自身がもともとマンバで、引退後はキャバ嬢から「軟禁経験」などの希有な体験を経て、独学で展覧会を開くまでになったというアーティストです。2018年にも篠原愛さんとの2人展を紹介しましたが、今回は久しぶりの個展お知らせが締切直前に届いたので、ここで紹介しますね。

ヤマンバだけでも特殊なモチーフなのに、それが大正アバンギャルドと合体するなんて・・・・・・。送ってもらった展示予定作品画像もすごいのですが、長文の解説が一緒に届いたので、絵と一緒に読んでみてください!


「ヤマンバギャルド」2023年
60.6cm × 72.7cm キャンバスに油彩、コラージュ

今展では、大正期新興美術運動と渋谷ヤマンバギャルの運動を、個人と時代を通して検証していく。
大正期新興美術運動が興った1920年は、芸術の革命を各々が模索し、大正のアヴァンギャルドが一気に花開く、美術の転換点とされる傾向がある。芸術を芸術に閉じ込めず、広く一般に開いていくという思想が、100年前にすでにあった事に驚いた。そこには、ヨーロッパの未来派への反省から、未来派を取り入れながら否定するような、日本独自のねじれたユーモアがあった。民衆運動を実践したアナーキスト達は労働を賛美し、プロレタリア芸術へやはり左傾化、そしてプロパガンダに向かい終息する。若さと熱量、時代に翻弄される中、革命をうたい思想を持ってしまう道筋は、定型のようでもある。しかしそのひとりひとりの行動を丁寧に見ると、そこに個人の表現を模索した軌跡や、切実な人物像が見えてくる。
この時代の絵画は実に多彩だ。近代絵画の持つ個人と時代に於ける葛藤に惹かれる。
ヨーロッパに於ける形と色の探求というよりは、人間がどう生きるべきかの葛藤が形状に直結しているような、成熟する手前の高揚がある。各々が生き方を探求している。未来しかないような若さと情熱のまま、疲弊していない体で描いた絵だ。失われる運命的なムードを強烈に湛えて。それは悲しくも激しい。


「ヤマンバの除菌漂白」2023年
60.6cm x 38cm キャンバスに油彩

日本独自の芸術を広い視野で追求し奔走した、日本のアヴァンギャルドの遺伝子は、およそ100年後、私が参加した渋谷のヤマンバ運動に引き継がれている。
その活動は、「両者共に5年間程度と非常に短命であった事と、あまりにもアウトサイダーであったために、その『大正期新興美術運動』の動きは中々、美術の正史には上がってこない。今ここで整理しておかなければ、もうこの動きをつかむことは困難になってしまうだろう」と美術評論家の本間正義氏によって記述されている。
1999年から発生したヤマンバブームも、テレビ的には一部で社会現象になったりはしたが、インターネットやSNSが発達していなかった事もあり、今では知らない人がほとんどだろう。


「ケータイ付きストラップ付き絵画」2023年
54.5cm x 27cm キャンバスに油彩、コラージュ、ケータイ、充電器コード

ヤマンバの特徴は、限界まで焼いた黒い肌に、アフリカの仮面のような化粧と脱色した派手な髪色で、ファッションというには過激なビジュアルだった。ヤマンバと言われる第一次世代が2000年頃に衰退した後、私達第二世代が台頭する。
ヤマンバの「ヤ」が取れて「マンバ」という若干丸みを帯びた名称に変更し、区別化されている。ビジュアル面でも、タレ目パンダメイクを意識するなどの改変が見られるが、詳しくはいずれ書こうと思う。
当時40人ほどいた中で様々な団体が生まれ、離合集散を繰り返していた。パッと見同じ格好をして群れているようだが、各々が人と被らないよう自己表現に苦心し、マンバへの向き合い方はマンバの数だけあった。当時の子に話を聞くと“アフリカの仮面になりすぎないようハイライトは粉で施す”というこだわりがあったという。アフリカの仮面は、マンバの中で前提として共有されていた事はあまり知られていない。そんな祭りの狂騒のような日々の反面、心のバランスを壊している子も少なくなかった。私達は道を極めなければならなかった。気づけば素顔が分からなくなるほど化粧を施し、自分ではない何者かになる行為によって演劇性を獲得し、性別すら超越した世界はSFのようだった。ヤマンバ達は、不安感と焦りから宣言を出しまくった未来派の如く「一生ギャル宣言☆」を掲げながら、あっという間に絶滅してしまったが、絵画なら「一生ギャル宣言」という時間軸は可能になるのだ。都会的でもありプリミティブ、土着的なものも内包したヤマンバという奇妙な存在は、絵画としての魅力があると実感している。
そして同時に様々な疑問を投げかけてくる。


「お祈りしています」2023年
53cm x 45.5cm キャンバスに油彩、アクリル

アフリカの仮面を模した2次元のような化粧は、100年前のキュビスムからの絵画の問題と、日本の表面的な光の問題も繋げることのできるメディウムになるかもしれない。そして何か1つの信条を、熱狂的に信じて踊らされてしまう郷愁と危うさも同時に描きたい。
100年前のアヴァンギャルドとヤマンバ達に熱をお借りしつつ、明らかにオリジナルな日本独自の現象を、運動の中にいた1人として、美化してしまう前に改めて記録したい。
行為に意味を見出すこともなく、時代と寝ることもなく、個人に立脚してサヴァイブし、打ち上げ花火のように散っていった彼らに、今学ぶものは非常に多いと思う。そしてあの頃確かにヤマンバを生み出す体力とリアリティが日本にはあったのだ。
今回は、未来派(のような)や新即物主義(のような)1920年代の様々なタッチでヤマンバを描いた絵画8点と、木版画2点、カズオイシグロの小説「浮世の画家」(ウィットブレット賞受賞)の作中の一場面で、1920年に主人公が描いた設定の戦争画を、架空で創作した作品も併せて展示する。

アヴァンギャルド(avant-garde):
元来偵察行動を行う少人数の部隊をいう軍隊用語である。


「ドグマ式」2023年
112cm × 162cm キャンバスに油彩、アクリル

個人的にヤマンバの誕生は現代日本で初めて女性が男性に媚び、おもねることを主体的に放棄した革命的な瞬間だったのかと思っていて、久しぶりに近藤さんの作品を観るのがすごく楽しみです!


展覧会DMは大正時代の雑誌『マヴォ』のパロディ!

近藤智美「大正ヤマンバギャルド」
10月11日(水)~10月28日(土)
11:00~19:00 休廊 日・月
@銀座Gallery MUMON
https://mumon.artcafe.co.jp/

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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