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AFTER HOURS
編集後記

2017年10月25日 Vol.281

今週も最後までお付き合いありがとうございました。いろんな意味でユニークな記事が揃いましたが、気に入ってもらえたでしょうか。

この後記を書いているのは10月23日の月曜夜。22日の日曜・・・そう、選挙と台風の日は神戸にいて、久しぶりに体験するものすごい暴風雨に直撃されました。泊まってたアパートから、ふだんなら徒歩1~2分のファミレスまで行くのに何度か突風に巻き込まれて、この重い身体が引きずられ、持ち上げられそうに! 写真撮りたかったけど、さすがにそれどころじゃない体験でした。

台風が来るとわかっていながら日曜朝、早起きして新幹線に乗ったのは、新長田にある神戸映画資料館で、どうしても見逃せない上映があったから。

コアな映画ファンにはおなじみの神戸映画資料館は、日本では非常に珍しい民営のフィルムアーカイブ。膨大な映画フィルムやポスター、資料を持ち、ほかのどこでも観られない作品群を上映してくれている、ほんとうに貴重な施設です。

今回は1970~80年代のエロ本メディアで、多くの雑誌に関わった伝説的編集者・池田俊秀さんの没後20年を記念した追悼出版『エロ本水滸伝ー極私的エロメディア懐古録ー巨乳とは思い出ならずや』(人間社文庫)にあわせた2日間の特別企画『映画史のミッシングリンクを追え! Part2』でした(プログラム詳細はこちらから:https://kobe-eiga.net/program/2017/10/)。


日本最強のピンク映画ポスター収集家・東舎利樹さんのコレクションから、『色じかけ』や『幻日』も展示されていた

70年代末から80年代初頭、幻の映画雑誌といわれた「ズームアップ」をめぐって展開するピンク映画のニューウエーブ伝説。元祖・桃色アイドル・原悦子主演作。秋山駿の名でマキノ映画ゆかりの名優・津崎公平が監督に挑戦した幻の傑作。あの巨乳アイドル女優・中村京子が出演していた幻の映画。
歌舞伎界の異端児にして日本映画界の異端児、危険人物とまでいわれた武智鉄二監督が夏目漱石『夢十夜』をエロチシズムで染め上げた未公開作品『幻日』。ストリッパーだった妻の面影を追い発掘された初期ピンク映画の異色作『色じかけ』。
どの作品も、一筋縄ではいかない迫力に充ち溢れ、数奇な運命を経て来たフィルムばかりだ。今見逃したら、今度はいつ観ることが出来るのかはわからない……。
猥褻裁判に発展した『黒い雪』の直後、映画界随一のスキャンダリスト・武智鉄二が挑んだシュールでエロチックな世界の真相とは? 伝説の名エロ本編集者・池田俊秀の軌跡を追いながら検証する幻のピンク映画の深層とは? 幻の映画伝説を追うとびきりスリリングな二日間。失われた映画が、いま甦る!!
(映画資料館サイトより)

できれば2日間、6本の上映作品をすべて観て、『エロ本水滸伝』の共著者であり、ピンク映画研究家としても知られる鈴木義昭さんのトークも拝聴したかったのですが、どうしても時間が取れず・・・やむをえず日曜日に上映された『色じかけ』だけを観に、神戸に急いだのでした。この日の上映のハイライトは武智鉄二の未公開作品『幻日』だったので、「え、これ観ないで帰るの!?」と資料館スタッフの方々に呆れられたのですが・・・涙。


「色じかけ」
(1965/75分/16mm)高千穂映画プロダクション
監督:南部泰三 脚本:糸文弘 撮影:塩田繁太郎
出演:田口勝則、細川直也、朝霧待子、芦原しのぶ、白井勉、天野良一、中島京子、松原加幸
人気ストリッパーで、成人映画数本に出演した芦原しのぶ。死後、亡き妻の面影を求めて夫が捜し当てた奇跡のフィルム。タクシー運転手を誘惑する未亡人(芦原しのぶ)、その顛末は……。大都映画、満映を経て戦後独立プロを立ち上げた南部泰三監督の現存する貴重な作品。脚本は、松竹演劇部出身の糸文弘。

この解説を読んでピンときた読者がいるかどうか・・・本メルマガで2014年2月19、26日号と2回にわたって掲載した『ハダカの純心――あるストリッパーと医者の恋物語』で語られた、芦原しのぶさんの出演作品のひとつが、この『色じかけ』だったのでした。

『ハダカの純心』は、裕福な開業医であり、ライフル射撃は世界選手権出場(麻生太郎と一緒に)、式場壮吉、生沢徹、福澤幸雄、ミッキー・カーチスらとレーシングカーのクラブをつくり、自転車のロードレースにも熱中、VANでファッションモデルもしていたというスーパーエリートの永山弓弦(ながやま・ゆづる)さんが、北の漁港のキャバレーで偶然出会ったストリップ嬢・芦原しのぶさんと結ばれ、生涯をともに生き、病に倒れ看取るまでを永山さんご本人の筆によって回想する感動的な愛の物語でした。ここに転載するにはあまりに長すぎるので、よろしければバックナンバーからぜひ全編をお読みください。

ハダカの純心・前編:https://roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=385
ハダカの純心・後編:https://roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=389

芦原しのぶさんは現役時代6本ほど、初期のピンク映画に出演しているのですが、そのほとんどはいまフィルムが現存しているかも不明で、観ることができません。生前、現役時代のことを深く語ることのなかったというしのぶさんの辿ってきた道を、永山さんはしのぶさんが亡くなってから探し回るようになります。その探求のなかで、僕も永山さんと知り合うことになったのでした。

愛だの恋だのというものは、すべて自己犠牲の上に成り立っているものだ。激しいほど、強いほど犠牲は大きく、重くなる。私より思い入れが強かったカメは、より大きく重い犠牲を強いられることになった。
相手が喜べば、そのぶん自分が辛くなる。ふたりが楽しんだアパートでの6年間、カメには辛い6年間でもあったと思う。カメはいつも自分のことを「三流の下のチンタラ踊り」と卑下した言い方をし、だれでも言い触らしたくなる映画出演も、自分から言い出すことはなかった。できるだけひっそりと、生活費だけ稼げればよいと考えていたようだ。そんなふうだからいまとなっては、その存在を示すものを探すのは難しいのだった。
(「ハダカの純心・後編」より)


ダンサー時代の芦原しのぶさん

永山弓弦さんは少し前に亡くなられたのですが、生前に芦原しのぶ出演作品を一本見つけ出し、フィルムを神戸映画資料館に届けたというのです。鈴木義昭さんがその経緯を書かれているので、こちらもよろしければお読みください。

芦原しのぶ『色じかけ』上映に至る経緯について:
https://kobe-eiga.net/webspecial/report/2017/10/549/

こうしたわけで僕は永山さんと出会ってから3年後に、映画がつくられてからは実に半世紀以上経って、芦原しのぶというダンサーとスクリーンで会うことができたのでした。見終わって資料館から外に出たら、すでにかなり激しい雨と風で街は閑散としていましたが、その有様すらもなんだか、いま観たばかりの映画にふさわしいような気持ちになりました。

『色じかけ』を映写して、芦原さんと永山さんのことを語り合う会が東京でもできたらと願わずにいられませんが、その前にこのメルマガで、発見された『色じかけ』と永山弓弦さんについて、もう少しなにかできないかと考えてもいます。どんな記事ができるかまだわからないけれど、楽しみにお待ちください!

神戸映画資料館:https://kobe-eiga.net/

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

特設販売サイトへ


ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

SHOPコーナーへ


ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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