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AFTER HOURS
編集後記

2018年11月07日 Vol.330

今週も最後までお付き合いありがとうございました。旧ソ連圏に苫小牧、韓国の田舎町までいろんな場所からお送りしましたが、行きたくなった!というところ、あったでしょうか。

ご承知のように、このメールマガジンでは近況を伝えるFacebookページをつくっていて、いろんなお知らせを書いています。ふだんのリーチ数は1,000〜3,000くらいのものなんですが、先週、渋谷のハロウィンについて思うところを書いてみたら、きょう火曜までの段階で4万7116リーチ、エンゲージメント数(コメントしたりシェアしたりと、なんらかの関わりをしてくれた数)が2万2952という、信じられない規模になりました。いままでずいぶん長いことFacebookを使ってきたけれど、これだけのリーチ数になったのは初めて。


Facebookを使っていない方のためにここに転載しておきます――

渋谷のハロウィンがひどすぎる件について、多くの人が怒りを爆発させている。
あそこで騒いで、自動車をひっくり返したり、痴漢したりしているのは、地元住民ではなく、騒ぎたくてどこかから電車で乗り込んできた子たちだろう。
彼らが最悪なことは言うまでもないが、その根本にはいまの渋谷という街のキャラクターがあるように思えてならない。

たとえば銀座に、歌舞伎町や池袋北口にさえ存在する、住んでなくても「オレらの街」という感覚が、渋谷には決定的に欠けてしまっている。
かつては渋谷を、ほかのどこともちがう「オレらの街」と思う人たちがたくさんいたはず。けれど、いま渋谷を急速度で変貌(整形手術)させている再開発は、渋谷から渋谷ならではの魅力を完全に消し去って、ただの巨大な集金装置にしてしまった。渋谷にひと晩だけ集合して、暴れて逃げ去る子たちは、それを本能的に見切ってしまっている。

そこにある混沌を尊ぶ慎ましさも、闇を理解する感性もないディベロッパーたちが、寄ってたかってつくりあげたハリボテの街。
There is a riot goin' on.
いま渋谷で起きていることは、そういうことだと僕は思う。

できればゴミだらけの道はきれいになってほしいし、ゲロは踏みたくないし、暴れる子たちの近くにいたくもないけれど、そういうすべてが警察だのボランティア・チームだのによって排除されて、「健全なハロウィン・ウォーク」とかが、お洒落ショップの並ぶ舗道で盛り上がる・・・そういう街には金輪際、足を向けたくない。

若者を財布としか見てなくて、「おとなしく買い物して家に帰んな」というオトナたちの魂胆を、彼らはちゃんと見抜いているんでしょうね。

多少の行き過ぎはあるだろうけど、本来はそれが「祭り」というものではないかと。ハロウィンの渋谷があれだけ荒れてしまうのには、東京から祭りらしい祭りの場所が、どんどん消えていっていることも原因にあるのではないでしょうか。

かつては新宿駅西口地下広場があったし、原宿のホコ天がそうだったこともあった。歌舞伎町にコマ劇場があったころのコマ前広場や、最近では夏の靖国神社の御霊祭りが若者たちの解放区のようになった時期があったけれど、屋台が全面禁止になってしまってすっかり精気が抜けてしまったし、三社祭も浅草寺が骨抜きにしようと画策中と噂されています。

どこから来たんだろう!と驚くぐらいのひとが集まって、最高に楽しいけれど、ちょっとスリルもあって、闇もある。そういう「祝祭空間」が都市にはぜったい必要なのに、カネのちからで消毒されて無菌化が進むいまの東京からは、本来的な祝祭が失われて、コントロールされたお祭りイベントしか残らなくなっていく。そういう灰色の世界に一瞬、口を開いたエネルギーの割れ目が、あの夜の渋谷だったのかもしれません。

Facebookの書き込みに寄せられたコメントには、それぞれの「良き時代の渋谷」の思い出がたくさん書かれていて、僕も渋谷で遊んでいた時代を思い出してしまいました。

現在の渋谷駅周辺では南側の、代官山方面につながる桜ヶ丘の大規模再開発が進行中で、あのあたりに昔からあった商店や飲食店が軒並み閉店しています。とりあえず2020年までこの勢いで東急と渋谷区役所は突っ走るんでしょうが、そのあとの渋谷はどうなっていくんだろう。森ビルが食い荒らした六本木みたいに、すっかり寂れてしまうのか。

長年かけて育まれてきた個性がとことん剥ぎ取られた街は、ありきたりの美人になろうとして(大金かけたあげく)失敗した成形手術のようでもあります。その成れの果てを見とどけたい気持ちもちょっとあり。たまの渋谷通いを、もう少しだけ続けてみようと思うので、また報告させてください。

今週は本メルマガの最長不倒連載、「案山子X」50回記念特別記事の前編をお送りしましたが、来週は後編の「私の好きなかかしベスト60」を発表! ほかにもすでにいろんな記事を準備中です。お楽しみにお待ちください!

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編集後記バックナンバー

FACEBOOK

BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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